上 下
11 / 22

第11話 崩れゆく仮面

しおりを挟む
 イザベラが準備を指揮するパーティーは当初、順調に進んでいた。上品な装飾と洗練された料理、そして適度な余興の選択は、ヴィクトリアのメモと彼女が教育してきたスタッフたちの頑張りによる成果だった。

 参加者の中には、パーティーの仕上がりを褒める人や、イザベラの支援を名乗り出る人たちもいた。自分の手腕が認められたと感じ、イザベラは優越感に浸っていた。姉のヴィクトリアを超えられると確信し、その思いは日に日に強くなっていった。

 しかし、回を重ねるごとにパーティーの参加者が減少していく。同じような料理、似たような装飾、変化のない余興に、参加者たちは物足りなさを感じ始めていた。

 イザベラは焦りを感じ、参加者を増やすために様々な策を試みる。より華やかな装飾を施し、高価な食材を使った料理を提供し、派手な余興を用意した。だが、思ったような効果はなかった。むしろ、過度な演出は品格を損ない、パーティーの質の低下が噂になり、イザベラの評判は急速に悪化していった。

 イザベラは、自分の能力不足を認めたくない一方で、現状を打開する方法が見つからなかった。ヴィクトリアのメモに頼り切っていた彼女には、独自のアイデアを生み出す力が不足していた。そんな自分を認めたくない彼女は、失敗の責任を他人や環境のせいにし始めた。

 全部、スタッフが指示通りに動いてくれないから! 私が悪いわけじゃないわ! もっと気を利かせて動くべきでしょう!

 イザベラは、怒りに任せてスタッフを非難した。会場の装飾が期待通りでないのは装飾係の責任、料理の評判が下がったのは料理人の腕が落ちたせい、余興の不評は演者の実力不足だと決めつけた。けれども、その高圧的な態度はスタッフの反発を招くだけだった。密かに、「ヴィクトリア様とは大違い」という声が囁かれ始めていた。

 追い詰められたイザベラは、婚約者のダミアンに責任を押し付けようとした。自分を支えるべき相手が動いてくれないことへの不満が、彼女の中で膨らんでいた。

「ダミアン、あなたも協力してくれないから失敗するのよ! もっと私のことを考えてくれてもいいじゃない!」

 ダミアンは冷ややかな表情で知らんぷりを決め込んだ。イザベラへの失望が日増しに大きくなっていたのだ

「パーティーの指揮はお前に任せたんだから、お前がなんとかしろ。私は関係ない」

 ダミアンの無責任な発言に、イザベラは激しく怒った。その表情には、これまでの余裕や優雅さは微塵も感じられない。

「そんな! 私ばかりが苦労して、あなたは何もしないのね! 私たちは婚約者同士なのに! なんで私だけ頑張らないといけないの!」

 こうして二人の仲は、どんどん険悪になっていった。以前のような甘い雰囲気は消え失せ、代わりに冷たい空気が漂うようになっていた。

 イザベラは、自分が苦労していることを過剰にアピールし、同情を引こうとした。

「私は一生懸命頑張っているのに、誰も理解してくれないのッ! こんなに苦労しているのに、誰も助けてくれない!」

 しかし、周囲の人々は、イザベラの被害者意識に呆れ、彼女から離れていった。自分の非を認めず、すべてを他人のせいにする態度に、同情の余地を見出せなかったのだ。

 失敗の原因の大部分は、マンネリだった。新しいアイデアを生み出すことなく、同じパターンを繰り返すだけでは、参加者の興味を引くことはできない。イザベラは、ヴィクトリアのメモの存在に頼り切って、効果的なアイデアを出すことができなかった。そんな時、イザベラの脳裏に、ヴィクトリアの顔が浮かんだ。

「そうだ、お姉様に助けを求めれば……! お姉様なら、きっと私を助けてくれるはず!」

 イザベラは、自分が婚約相手を奪い取ったことや、情報を盗み見たことを忘れて、ヴィクトリアの不誠実さを責め始めた。

 妹としての甘えと、姉への依存が、彼女の判断を歪めていた。

「こうなったのも全部、完璧な情報を与えてくれなかったから。お姉様が本当のことを教えてくれていれば、こんなことにはならなかったのに!」

 イザベラの心は、嫉妬と恨みで満たされていった。姉への反発と嫉妬が入り混じり、複雑な感情となって彼女を苦しめる。彼女は、自分の失敗の責任をヴィクトリアに押し付けることで、自分を正当化しようとしていた。

 そんな自分を助けることが、姉の責任だと本気で信じていた。姉妹なのだから、助けてくれて当然だと。こうして彼女は、姉を頼ることにした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

私がいなくなっても、あなたは探しにも来ないのでしょうね

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族家の生まれではありながらも、父の素行の悪さによって貧しい立場にあったエリス。そんな彼女は気づいた時、周囲から強引に決められる形で婚約をすることとなった。その相手は大金持ちの御曹司、リーウェル。エリスの母は貧しい暮らしと別れを告げられることに喜び、エリスが内心では快く思っていない婚約を受け入れるよう、大いに圧力をかける。さらには相手からの圧力もあり、断ることなどできなくなったエリスは嫌々リーウェルとの婚約を受け入れることとしたが、リーウェルは非常にプライドが高く自分勝手な性格で、エリスは婚約を結んでしまったことを心から後悔する…。何一つ輝きのない婚約生活を送る中、次第に鬱の海に沈んでいくエリスは、ある日その身を屋敷の最上階から投げてしまうのだった…。

【完結】私と婚約破棄して恋人と結婚する? ならば即刻我が家から出ていって頂きます

水月 潮
恋愛
ソフィア・リシャール侯爵令嬢にはビクター・ダリオ子爵令息という婚約者がいる。 ビクターは両親が亡くなっており、ダリオ子爵家は早々にビクターの叔父に乗っ取られていた。 ソフィアの母とビクターの母は友人で、彼女が生前書いた”ビクターのことを託す”手紙が届き、亡き友人の願いによりソフィアの母はビクターを引き取り、ソフィアの婚約者にすることにした。 しかし、ソフィアとビクターの結婚式の三ヶ月前、ビクターはブリジット・サルー男爵令嬢をリシャール侯爵邸に連れてきて、彼女と結婚するからソフィアと婚約破棄すると告げる。 ※設定は緩いです。物語としてお楽しみ頂けたらと思います。 *HOTランキング1位到達(2021.8.17) ありがとうございます(*≧∀≦*)

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

もふきゅな
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

濡れ衣を着せてきた公爵令嬢は私の婚約者が欲しかったみたいですが、その人は婚約者ではありません……

もるだ
恋愛
パトリシア公爵令嬢はみんなから慕われる人気者。その裏の顔はとんでもないものだった。ブランシュの評価を落とすために周りを巻き込み、ついには流血騒ぎに……。そんなパトリシアの目的はブランシュの婚約者だった。だが、パトリシアが想いを寄せている男はブランシュの婚約者ではなく、同姓同名の別人で──。

婚約は破棄なんですよね?

もるだ
恋愛
義理の妹ティナはナターシャの婚約者にいじめられていたと嘘をつき、信じた婚約者に婚約破棄を言い渡される。昔からナターシャをいじめて物を奪っていたのはティナなのに、得意の演技でナターシャを悪者に仕立て上げてきた。我慢の限界を迎えたナターシャは、ティナにされたように濡れ衣を着せかえす!

婚約破棄?何を言ってるの?

榎夜
恋愛
「アリア・ヴィッカーナ!貴様のティアに対する非道な行いはもう耐えられん!よって、婚約を破棄する!!」 あらまぁ...何を言ってるのやら ー全7話ー

【完結】婚約破棄の明と暗

仲村 嘉高
恋愛
題名通りのお話。 婚約破棄によって、幸せになる者、不幸になる者。 その対比のお話。 「お前との婚約を破棄する!」 馬鹿みたいに公の場で宣言した婚約者を見て、ローズは溜め息を吐き出す。 婚約者の隣には、ローズの実妹のリリーが居た。 「家に持ち帰って、前向きに検討させていただきます」 ローズは、婚約者の前から辞した。 ※HOT最高3位!ありがとうございます!

処理中です...