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第4話 真摯な眼差し
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数日後、ヴィクトリアは父に指示されてハーウッド家を訪れていた。
「どうぞ、こちらです」
「ありがとう」
ハーウッド家の執事に案内されて、応接室に通される。そこには、大柄な男性が待ち構えていた。
ヴィクトリアは男性を観察する。短く刈り上げた金髪に、鋭い緑色の瞳。引き締まった顔立ちで、厳しい表情が印象的だった。軍事貴族の後継者にふさわしい、凛とした佇まい。
一見すると、かなり怖そうな顔をしている。冷たい雰囲気を漂わせるその姿に、本当に彼が話をしたいと望んでいるのだろうかと疑問を抱く。もしかしたら、他に目的があるのではないか――。
「よく来てくれた。どうぞ、座ってくれ」
「はい」
向かい合ってソファーに座ると、間近で見る彼の顔立ちには厳しさの中にも美しさが宿っていた。その印象に気を取られながらも、ヴィクトリアは警戒を解かない。
「……」
「……」
重苦しい沈黙が流れる。恐る恐る、ヴィクトリアは口を開いた。
「えーっと……?」
「……あぁ、すまない。女性と話すのに慣れていないもので。不快に思われたなら、申し訳ない」
「いえ、大丈夫です。緊張ししていますが、不快だとは思わなかったです」
「そうか、ありがとう。安心した」
「……」
「……」
その言葉とともに、エドワードの表情が柔らかくなる。本当に慣れていないんだと感じるヴィクトリア。気を遣ってくれているその様子に、彼女は少し心を和ませる。見た目の印象とは違い、意外と優しい人なのかもしれない。
会話が弾まず、少し居心地が悪いと感じていたけれど、それは慣れていないからなのね。理由を把握したら、ヴィクトリアは落ち着いてきた。ニコっと笑う。その表情に、ドキッとするエドワード。
「私の名前は、ヴィクトリアです」
「エドワードだ。よろしく頼む」
改めて交わした挨拶を機に、二人の間の空気が少しずつ和らいでいく。
「えっと、それで。君と話したいことが2つある」
「伺います」
「一つは、婚約破棄されたという情報を聞いたが本当なのか?」
「えぇ。本当ですよ」
「なるほど」
まだ正式に公表されていないものの、既に貴族社会では噂になっている。なので、知っている人は知っている。それは、ダミアンとイザベラが広めていたから。彼女の悪評と共に。隠す必要もない話なので、ヴィクトリアは正直に答える。
ただ、エドワードの情報源に興味があった。そういう話は社交パーティーで広まるのは早いけれど、社交嫌いで知られている彼が把握していることに驚いた。
噂ではなく、情報と彼は言っていた。社交パーティーとは違う独自の情報網が彼にあるのかもしれない。そう推察するヴィクトリア。その情報源について、深く探ろうとは思わなかった。
「君のような優秀な女性を、なぜ?」
「私が優秀、ですか?」
エドワードは、とても真剣な表情でそう問いかけてきた。ヴィクトリアが婚約を破棄されたことを、心から疑問に思っていた。
「世間では、妹の功績とアイデアを盗んだ酷い女だという噂もありますが」
ヴィクトリアの身近な人物は、それを否定してくれる。だけど、一部ではダミアンたちが広めている情報も信じられていた。残念ながらヴィクトリアには、拡散する噂を止めることは出来なかった。
「君のことを少し調べた。社交界やパーティーについて知識と経験が豊富のようだ。その結果、数々のパーティーを成功に導いてきた」
「ありがとうございます」
「それで、君の妹のことも調査した。つまり、その世間の評価とは逆なんだろう」
集めた情報から、ヴィクトリアのことを評価するエドワード。その評価を聞いて、彼に話しても大丈夫だと判断して、彼女は婚約を破棄された経緯についてを話した。
情報を抜き取られ、婚約相手が疑うように仕向けて、陥れられたことを包み隠さず全てを話す。出会ったばかりの人に話すべきかどうか少し迷ったけれど、彼なら信じられるとヴィクトリアは直感に従った。
「なるほどな。君は優秀だというのに、君の妹は酷いようだ。……それに、ちゃんと話を整理せずに婚約破棄を突きつけたダミアン殿も話を聞いた限りでは、かなり酷いようだな」
「ありがとうございます」
「いや、君の話を聞いた限りで私の意見を述べたまでのことだ」
嘘偽りなく本心で言っていることが分かったので、ヴィクトリアは喜んだ。
「それで、もう一つ聞きたいこととは何でしょうか?」
「あ、ああ」
そうヴィクトリアが尋ねると、エドワードは緊張しながら真っ直ぐに彼女の視線に合わせる。深く透き通るような美しい目に、ヴィクトリアは見惚れた。なんて綺麗な瞳だろうか。
そんなことを考えていたヴィクトリアの耳に、エドワードの言葉が届いた。
「もし、新しい婚約相手を探しているのなら、私と婚約してくれないか?」
「え」
思いがけない言葉。真っ直ぐ見つめられて、それを言われた。エドワードから告白されたヴィクトリアの頬が赤くなる。体も熱くなって、ボーッとした。そんな彼女の様子を見つめつつ、答えを待つエドワード。彼も緊張していた。どんな答えが返ってくるのかと。
「どうぞ、こちらです」
「ありがとう」
ハーウッド家の執事に案内されて、応接室に通される。そこには、大柄な男性が待ち構えていた。
ヴィクトリアは男性を観察する。短く刈り上げた金髪に、鋭い緑色の瞳。引き締まった顔立ちで、厳しい表情が印象的だった。軍事貴族の後継者にふさわしい、凛とした佇まい。
一見すると、かなり怖そうな顔をしている。冷たい雰囲気を漂わせるその姿に、本当に彼が話をしたいと望んでいるのだろうかと疑問を抱く。もしかしたら、他に目的があるのではないか――。
「よく来てくれた。どうぞ、座ってくれ」
「はい」
向かい合ってソファーに座ると、間近で見る彼の顔立ちには厳しさの中にも美しさが宿っていた。その印象に気を取られながらも、ヴィクトリアは警戒を解かない。
「……」
「……」
重苦しい沈黙が流れる。恐る恐る、ヴィクトリアは口を開いた。
「えーっと……?」
「……あぁ、すまない。女性と話すのに慣れていないもので。不快に思われたなら、申し訳ない」
「いえ、大丈夫です。緊張ししていますが、不快だとは思わなかったです」
「そうか、ありがとう。安心した」
「……」
「……」
その言葉とともに、エドワードの表情が柔らかくなる。本当に慣れていないんだと感じるヴィクトリア。気を遣ってくれているその様子に、彼女は少し心を和ませる。見た目の印象とは違い、意外と優しい人なのかもしれない。
会話が弾まず、少し居心地が悪いと感じていたけれど、それは慣れていないからなのね。理由を把握したら、ヴィクトリアは落ち着いてきた。ニコっと笑う。その表情に、ドキッとするエドワード。
「私の名前は、ヴィクトリアです」
「エドワードだ。よろしく頼む」
改めて交わした挨拶を機に、二人の間の空気が少しずつ和らいでいく。
「えっと、それで。君と話したいことが2つある」
「伺います」
「一つは、婚約破棄されたという情報を聞いたが本当なのか?」
「えぇ。本当ですよ」
「なるほど」
まだ正式に公表されていないものの、既に貴族社会では噂になっている。なので、知っている人は知っている。それは、ダミアンとイザベラが広めていたから。彼女の悪評と共に。隠す必要もない話なので、ヴィクトリアは正直に答える。
ただ、エドワードの情報源に興味があった。そういう話は社交パーティーで広まるのは早いけれど、社交嫌いで知られている彼が把握していることに驚いた。
噂ではなく、情報と彼は言っていた。社交パーティーとは違う独自の情報網が彼にあるのかもしれない。そう推察するヴィクトリア。その情報源について、深く探ろうとは思わなかった。
「君のような優秀な女性を、なぜ?」
「私が優秀、ですか?」
エドワードは、とても真剣な表情でそう問いかけてきた。ヴィクトリアが婚約を破棄されたことを、心から疑問に思っていた。
「世間では、妹の功績とアイデアを盗んだ酷い女だという噂もありますが」
ヴィクトリアの身近な人物は、それを否定してくれる。だけど、一部ではダミアンたちが広めている情報も信じられていた。残念ながらヴィクトリアには、拡散する噂を止めることは出来なかった。
「君のことを少し調べた。社交界やパーティーについて知識と経験が豊富のようだ。その結果、数々のパーティーを成功に導いてきた」
「ありがとうございます」
「それで、君の妹のことも調査した。つまり、その世間の評価とは逆なんだろう」
集めた情報から、ヴィクトリアのことを評価するエドワード。その評価を聞いて、彼に話しても大丈夫だと判断して、彼女は婚約を破棄された経緯についてを話した。
情報を抜き取られ、婚約相手が疑うように仕向けて、陥れられたことを包み隠さず全てを話す。出会ったばかりの人に話すべきかどうか少し迷ったけれど、彼なら信じられるとヴィクトリアは直感に従った。
「なるほどな。君は優秀だというのに、君の妹は酷いようだ。……それに、ちゃんと話を整理せずに婚約破棄を突きつけたダミアン殿も話を聞いた限りでは、かなり酷いようだな」
「ありがとうございます」
「いや、君の話を聞いた限りで私の意見を述べたまでのことだ」
嘘偽りなく本心で言っていることが分かったので、ヴィクトリアは喜んだ。
「それで、もう一つ聞きたいこととは何でしょうか?」
「あ、ああ」
そうヴィクトリアが尋ねると、エドワードは緊張しながら真っ直ぐに彼女の視線に合わせる。深く透き通るような美しい目に、ヴィクトリアは見惚れた。なんて綺麗な瞳だろうか。
そんなことを考えていたヴィクトリアの耳に、エドワードの言葉が届いた。
「もし、新しい婚約相手を探しているのなら、私と婚約してくれないか?」
「え」
思いがけない言葉。真っ直ぐ見つめられて、それを言われた。エドワードから告白されたヴィクトリアの頬が赤くなる。体も熱くなって、ボーッとした。そんな彼女の様子を見つめつつ、答えを待つエドワード。彼も緊張していた。どんな答えが返ってくるのかと。
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