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第2話 真実の在処
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ダミアンは、社交界のパーティーで評判を呼んだ数々のアイデアや、その準備から実行に至るまでの功績を、ヴィクトリアが妹のイザベラから奪ったと主張した。
社交界のパーティーとは、貴族や上流階級の名家などの人々を集めて交流をする場だ。参加者に楽しんでもらうために計画して、色々なアイデアを駆使してパーティーを盛り上げてきた。参加者の評判も、かなり良かった。
もちろん、実際に計画を立てて段取りし、アイデアはヴィクトリアが考えたものであり、妹から奪ったという事実はない。
けれどダミアンは信じている。これまでパーティーが成功してきたのは、イザベラのアイデアがあったからこそ。その事実をヴィクトリアは隠していた。全て、自分の功績にしたと。
「イザベラが取り仕切り、温めていた斬新なアイデアを、お前は自分が考え出したと言っていた。妹のアイデアも無断で使って、評価を得るなんて酷い女だ」
「ですから、それは――」
「私が、お姉様よりも先にダミアン様に提案をしていたんですよ! それを、私からアイデアを奪って先に披露してしまった! これじゃあ私が、お姉様からアイデアを盗んだって言われちゃう……」
ヴィクトリアの言葉を遮って、イザベラは主張する。
妹が温めていた斬新なアイデアとは、どれのことを言っているのか。ヴィクトリアにはわからなかった。
音楽家、ダンサー、詩人などを招き、パーティーを彩ったこと? 一流シェフとのコラボレーションにより、独創的なメニューを考案したこと? 各地の名産品や希少な食材を取り寄せ、贅沢な食事を提供したこと? テーマに合わせた装飾や照明により、会場を華やかに演出したこと?
それは全部、ヴィクトリアが苦労して考え出したアイデアだった。一つ一つ計画を立て、準備し、実行に移してきた。それを盗んだと言われては、たまったものではない。
自分よりも先に提案したという妹の言葉に、ヴィクトリアは思い当たることがあった。日頃から考えを整理するために書き出していたアイデアノートやパーティーの計画書、請求書などをイザベラが盗み見たのではないか。
まさか、そこまでするなんて。盗み見られることを想定して、実家でも計画書は隠しておくべきだった。でも、他人の書類を盗み見た方が絶対に悪い。それは明白な事実だ。
自信満々に「アイデアを盗んだ」と突きつけてくるイザベラ。その態度が、ダミアンの心を完全に掴んでいる。二人でヴィクトリアを責めることに、どこか陶酔しているような様子さえ見える。そんな醜い光景を目の当たりにするうちに、ヴィクトリアの心は冷めていった。
「貴様のやったことは、許されざる行為! 妹の功績や評価を盗むなんて最低だ!」
「……ダミアン様、一旦冷静になってから私の行動とイザベラの行動について考えてみて」
「見苦しいぞ! 今まで優秀だと思っていたが、私のことを騙していたとはな!」
説明しようとしても無駄だった。ダミアンは顔を真っ赤にして怒り、話を聞こうとしない。これではもう、説得など不可能だとヴィクトリアは完全に悟った。
何を言っても無駄。聞いてくれないのだから。
「ようやく、真実が明らかになりましたわね。私の真似事をするばかりのお姉様は、見ていて滑稽でしたわ!」
「……」
高笑いを上げ、優越感に浸るイザベラ。事実を知るヴィクトリアには、その光景こそが滑稽に映った。大声で嘘を主張する妹の姿は醜かったが、こうしてハメられた自分も愚かだったのかもしれない。
もっと警戒するべきだった――そう、静かに反省する。
そして、ヴィクトリアは最終確認する。
「私との婚約破棄は、まだ正式に発表してませんよね?」
「あぁ、まだだ。しかし、すぐに全国の貴族たちが知ることになる」
「そうなれば、私がダミアン様の婚約者に戻ることはありませんが、よろしいのですか?」
ヴィクトリアの問いかけに、ダミアンは嫌悪感を露わにして答えた。
「ふん! 必死だなヴィクトリア。お前は、自分が無能だというのに公爵夫人の立場を奪われるのが気に入らないらしい。真実を知った今、誰も婚約してくれないと不安になっているようだな!」
そうじゃないのに。最後の忠告をしようとしたのに。ダミアンは一切耳を貸そうとしない。そこまで言われるのなら、もう何を言っても無駄だろう。せめて別れた後の混乱を少なくしようと考えたけれど、それすら余計なお世話のようだ。
それなら、もういいわよね。ヴィクトリアは、ようやく二人を完全に見限った。
「そうですか、わかりました。ダミアン様、イザベラと幸せに過ごせるように祈っております」
妹に婚約者を奪われた。けれど、不思議なほど心は穏やかだった。これまでの貢献も忘れ、婚約相手の言葉より妹の嘘を信じるような男なのだから。ここまで雑に扱われては、諦めるしかない。むしろ、向こうから婚約破棄を切り出してくれたことが好都合とさえ思えた。
今はただ、知識も経験もない妹が、パーティーの準備を任された時にどうするのか興味があった。嘘をついてダミアンを騙した結果が、どう転ぶのか。
嘘をついて、ダミアンを騙した。その結果がどうなるのか、ヴィクトリアは想像する。おそらく、失敗するだろう。
アイデアを盗んだと主張するだけでは、社交パーティーを成功に導くことはできない。必ず何か問題が起きる――その時、巻き込まれないように距離を置いておこう。
席を立ち、一人で部屋を出る。ヴィクトリアは、嘘と傲慢で塗り固めた二人の姿を意識の外へと追いやった。もう、関わる必要はない。
社交界のパーティーとは、貴族や上流階級の名家などの人々を集めて交流をする場だ。参加者に楽しんでもらうために計画して、色々なアイデアを駆使してパーティーを盛り上げてきた。参加者の評判も、かなり良かった。
もちろん、実際に計画を立てて段取りし、アイデアはヴィクトリアが考えたものであり、妹から奪ったという事実はない。
けれどダミアンは信じている。これまでパーティーが成功してきたのは、イザベラのアイデアがあったからこそ。その事実をヴィクトリアは隠していた。全て、自分の功績にしたと。
「イザベラが取り仕切り、温めていた斬新なアイデアを、お前は自分が考え出したと言っていた。妹のアイデアも無断で使って、評価を得るなんて酷い女だ」
「ですから、それは――」
「私が、お姉様よりも先にダミアン様に提案をしていたんですよ! それを、私からアイデアを奪って先に披露してしまった! これじゃあ私が、お姉様からアイデアを盗んだって言われちゃう……」
ヴィクトリアの言葉を遮って、イザベラは主張する。
妹が温めていた斬新なアイデアとは、どれのことを言っているのか。ヴィクトリアにはわからなかった。
音楽家、ダンサー、詩人などを招き、パーティーを彩ったこと? 一流シェフとのコラボレーションにより、独創的なメニューを考案したこと? 各地の名産品や希少な食材を取り寄せ、贅沢な食事を提供したこと? テーマに合わせた装飾や照明により、会場を華やかに演出したこと?
それは全部、ヴィクトリアが苦労して考え出したアイデアだった。一つ一つ計画を立て、準備し、実行に移してきた。それを盗んだと言われては、たまったものではない。
自分よりも先に提案したという妹の言葉に、ヴィクトリアは思い当たることがあった。日頃から考えを整理するために書き出していたアイデアノートやパーティーの計画書、請求書などをイザベラが盗み見たのではないか。
まさか、そこまでするなんて。盗み見られることを想定して、実家でも計画書は隠しておくべきだった。でも、他人の書類を盗み見た方が絶対に悪い。それは明白な事実だ。
自信満々に「アイデアを盗んだ」と突きつけてくるイザベラ。その態度が、ダミアンの心を完全に掴んでいる。二人でヴィクトリアを責めることに、どこか陶酔しているような様子さえ見える。そんな醜い光景を目の当たりにするうちに、ヴィクトリアの心は冷めていった。
「貴様のやったことは、許されざる行為! 妹の功績や評価を盗むなんて最低だ!」
「……ダミアン様、一旦冷静になってから私の行動とイザベラの行動について考えてみて」
「見苦しいぞ! 今まで優秀だと思っていたが、私のことを騙していたとはな!」
説明しようとしても無駄だった。ダミアンは顔を真っ赤にして怒り、話を聞こうとしない。これではもう、説得など不可能だとヴィクトリアは完全に悟った。
何を言っても無駄。聞いてくれないのだから。
「ようやく、真実が明らかになりましたわね。私の真似事をするばかりのお姉様は、見ていて滑稽でしたわ!」
「……」
高笑いを上げ、優越感に浸るイザベラ。事実を知るヴィクトリアには、その光景こそが滑稽に映った。大声で嘘を主張する妹の姿は醜かったが、こうしてハメられた自分も愚かだったのかもしれない。
もっと警戒するべきだった――そう、静かに反省する。
そして、ヴィクトリアは最終確認する。
「私との婚約破棄は、まだ正式に発表してませんよね?」
「あぁ、まだだ。しかし、すぐに全国の貴族たちが知ることになる」
「そうなれば、私がダミアン様の婚約者に戻ることはありませんが、よろしいのですか?」
ヴィクトリアの問いかけに、ダミアンは嫌悪感を露わにして答えた。
「ふん! 必死だなヴィクトリア。お前は、自分が無能だというのに公爵夫人の立場を奪われるのが気に入らないらしい。真実を知った今、誰も婚約してくれないと不安になっているようだな!」
そうじゃないのに。最後の忠告をしようとしたのに。ダミアンは一切耳を貸そうとしない。そこまで言われるのなら、もう何を言っても無駄だろう。せめて別れた後の混乱を少なくしようと考えたけれど、それすら余計なお世話のようだ。
それなら、もういいわよね。ヴィクトリアは、ようやく二人を完全に見限った。
「そうですか、わかりました。ダミアン様、イザベラと幸せに過ごせるように祈っております」
妹に婚約者を奪われた。けれど、不思議なほど心は穏やかだった。これまでの貢献も忘れ、婚約相手の言葉より妹の嘘を信じるような男なのだから。ここまで雑に扱われては、諦めるしかない。むしろ、向こうから婚約破棄を切り出してくれたことが好都合とさえ思えた。
今はただ、知識も経験もない妹が、パーティーの準備を任された時にどうするのか興味があった。嘘をついてダミアンを騙した結果が、どう転ぶのか。
嘘をついて、ダミアンを騙した。その結果がどうなるのか、ヴィクトリアは想像する。おそらく、失敗するだろう。
アイデアを盗んだと主張するだけでは、社交パーティーを成功に導くことはできない。必ず何か問題が起きる――その時、巻き込まれないように距離を置いておこう。
席を立ち、一人で部屋を出る。ヴィクトリアは、嘘と傲慢で塗り固めた二人の姿を意識の外へと追いやった。もう、関わる必要はない。
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