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第23話 経緯
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「改めて自己紹介させてもらう。俺の名はユーグ。ルニュルス公爵家から除籍されて、今は商人をしている」
「あ、はい。ご存じのようですが、私はアンリエッタ。このカフェを経営しています。どうぞ、よろしくお願いますユーグ様」
彼と出会ってからしばらく経過していたが、改めて自己紹介する私たち。
「俺も君と同じ身分。平民だから、呼び捨てでいいよ。敬語もなし」
「わかったわ、ユーグ」
口調を丁寧にする必要は、なかったようだ。むしろ、普通に話してほしいとお願いされたので、そうする。
「それで、どうして精霊の契約を交わした証がユーグの腕に? 私の真似をしたって、どういうこと?」
ユーグの左手首にある金色の輪っかを見つめながら、私は彼に問いかけた。すると、それについて詳しく教えてくれた。
「君が精霊の契約を交わした会場に、実は俺も居たんだ。その場面を目撃していた」
「なるほど」
あの場面にユーグも居たらしい。そして、婚約破棄された瞬間に行った精霊の契約を目撃したという。
パーティー会場の中央で、あれだけ多くの人たちに見られている中で精霊の契約を交わしてしまったのだから当然、見ている人もいたわよね。
「俺も婚約相手と精霊の契約を交わして、婚約を解消した」
「そんなッ!?」
私と同じような方法で、彼も婚約を解消したらしい。まさか、真似する人が居るなんて想像していなかった。つまり私は、ユーグが婚約を破棄する切っ掛けを与えてしまった。そんな大きな影響を与えたということ。
「お互いに納得してのことだから、君が気にする必要はないよ」
「そう……」
そうだとしても、何だか申し訳ない気持ちになる。私が発端であることは間違い無い事実。でもユーグ様は本心からそう言ってくれているようで、穏やかな表情を浮かべている。なので私は、それ以上は気にしないようにする。
さらに詳しい事情を説明してくれたユーグ。
「俺は貴族社会に馴染めなかったし、外の世界に興味津々だった。そして婚約相手との相性も良くなかった。彼女は、俺の弟の方に恋心を抱いていたから」
「それは、何というか……」
気まずい話である。何と言えばいいのか悩む。ユーグは、続けて言った。
「元婚約者の彼女とはちゃんと話し合って、お互いに納得してやった事だ。何度も言うが、君が気にする必要はないよ」
そう語るユーグの表情に嘘はなさそうで、本当に気にしてないように見える。それなら私も、これ以上は気にしないことにした方が良いかもしれない。
「むしろ、都合が良かったと考えている。幼い頃から、俺はずっと考えていた。家の外へ出ていく理由を。精霊の契約を交わしてから両親を納得させたよ。勝手なことをしてかなり怒られたけれど、認めてもらったよ」
「無茶をしますね」
「君も人のことは言えないと思うよ」
そう言われてしまえば、何も言い返せない。確かに私も同じように、勝手に行動した身だ。お互い様ということでしょう。
「あ、はい。ご存じのようですが、私はアンリエッタ。このカフェを経営しています。どうぞ、よろしくお願いますユーグ様」
彼と出会ってからしばらく経過していたが、改めて自己紹介する私たち。
「俺も君と同じ身分。平民だから、呼び捨てでいいよ。敬語もなし」
「わかったわ、ユーグ」
口調を丁寧にする必要は、なかったようだ。むしろ、普通に話してほしいとお願いされたので、そうする。
「それで、どうして精霊の契約を交わした証がユーグの腕に? 私の真似をしたって、どういうこと?」
ユーグの左手首にある金色の輪っかを見つめながら、私は彼に問いかけた。すると、それについて詳しく教えてくれた。
「君が精霊の契約を交わした会場に、実は俺も居たんだ。その場面を目撃していた」
「なるほど」
あの場面にユーグも居たらしい。そして、婚約破棄された瞬間に行った精霊の契約を目撃したという。
パーティー会場の中央で、あれだけ多くの人たちに見られている中で精霊の契約を交わしてしまったのだから当然、見ている人もいたわよね。
「俺も婚約相手と精霊の契約を交わして、婚約を解消した」
「そんなッ!?」
私と同じような方法で、彼も婚約を解消したらしい。まさか、真似する人が居るなんて想像していなかった。つまり私は、ユーグが婚約を破棄する切っ掛けを与えてしまった。そんな大きな影響を与えたということ。
「お互いに納得してのことだから、君が気にする必要はないよ」
「そう……」
そうだとしても、何だか申し訳ない気持ちになる。私が発端であることは間違い無い事実。でもユーグ様は本心からそう言ってくれているようで、穏やかな表情を浮かべている。なので私は、それ以上は気にしないようにする。
さらに詳しい事情を説明してくれたユーグ。
「俺は貴族社会に馴染めなかったし、外の世界に興味津々だった。そして婚約相手との相性も良くなかった。彼女は、俺の弟の方に恋心を抱いていたから」
「それは、何というか……」
気まずい話である。何と言えばいいのか悩む。ユーグは、続けて言った。
「元婚約者の彼女とはちゃんと話し合って、お互いに納得してやった事だ。何度も言うが、君が気にする必要はないよ」
そう語るユーグの表情に嘘はなさそうで、本当に気にしてないように見える。それなら私も、これ以上は気にしないことにした方が良いかもしれない。
「むしろ、都合が良かったと考えている。幼い頃から、俺はずっと考えていた。家の外へ出ていく理由を。精霊の契約を交わしてから両親を納得させたよ。勝手なことをしてかなり怒られたけれど、認めてもらったよ」
「無茶をしますね」
「君も人のことは言えないと思うよ」
そう言われてしまえば、何も言い返せない。確かに私も同じように、勝手に行動した身だ。お互い様ということでしょう。
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