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第19話 彼の目的は
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1人でお店を訪れて、カウンター席に座って、コーヒーを飲んでいる。そんな彼の様子をバレないように観察し続ける。彼の目的が何なのかを探るために。
店内には他のお客様もいるので、その対応をしながら。怪しくならないように気をつける。向こうは、私のことを把握しているのか。それも、わからない。
何も動きがないのが不安だった。公爵家の人間であることをアピールするような様子もない。むしろ、庶民の店に馴染む仕草が自然だった。
私の警戒しすぎ、なのかしら。疑いすぎているのかも。彼は、ただのお客様なのかもしれない。
だが、何か事件が起きてからだと遅いのよ。警戒は必要。
他家の貴族が、しかも公爵家の人が、バロウクリフ家の領地に足を踏み入れている状況は普通じゃない。きっと何か目的があるはず。そう思ってしまう。
なので私は、ルニュルス公爵家のユーグ様の動きを観察し続ける。見逃さないように。でも、怪しまれない程度に。
店内に、のんびりとした時間が流れる。
「……美味しかった」
空気に溶け込むような、静かな声だった。観察して注目していなかったら聞き逃していたような声。こんな盗み聞きのようなこと、失礼かしら。だんだん、申し訳なくなってくる。彼は、純粋にコーヒーを楽しんでくれている様子なのに。
彼はコーヒーを飲み終えて、席から立ち上がる。
「支払いを」
「ありがとうございます」
代金を受け取る。きちんと支払ってもらえた。
「ごちそうさま。また来るよ」
「お待ちしております」
ユーグ様は満足した様子で、お店を出ていく。そんな彼を、私は見送る。最後まで普通にカフェを楽しんでくれただけだった。一つも怪しい様子はなかった。
しかも、また来ると言ってくれた。彼は、この町に滞在するつもりなのか。ということは、目的は他にあるということ? 私じゃなく、バロウクリフ家の領地に。
除籍された私は、バロウクリフ家に報告するべきか。これは絶対に伝えておくべきだろう。私の手に負えない。ということで、その日のお店が終了した後に、報告しに行った。
貴族だった頃からお世話になっていた執事を経由して、当主である父に伝えてもらった。その後、特に動きはなかった。これで良かったのかしら。
それから、ユーグ様は再びお店に来てくれた。それが何度か続いて、常連になってくれた。どうやら、このカフェのことを気に入ってくれたらしい。
お店に来てくれた時は主に私が対応して、普通のお客様として接した。今のところ怪しい点は一つもない。
店内には他のお客様もいるので、その対応をしながら。怪しくならないように気をつける。向こうは、私のことを把握しているのか。それも、わからない。
何も動きがないのが不安だった。公爵家の人間であることをアピールするような様子もない。むしろ、庶民の店に馴染む仕草が自然だった。
私の警戒しすぎ、なのかしら。疑いすぎているのかも。彼は、ただのお客様なのかもしれない。
だが、何か事件が起きてからだと遅いのよ。警戒は必要。
他家の貴族が、しかも公爵家の人が、バロウクリフ家の領地に足を踏み入れている状況は普通じゃない。きっと何か目的があるはず。そう思ってしまう。
なので私は、ルニュルス公爵家のユーグ様の動きを観察し続ける。見逃さないように。でも、怪しまれない程度に。
店内に、のんびりとした時間が流れる。
「……美味しかった」
空気に溶け込むような、静かな声だった。観察して注目していなかったら聞き逃していたような声。こんな盗み聞きのようなこと、失礼かしら。だんだん、申し訳なくなってくる。彼は、純粋にコーヒーを楽しんでくれている様子なのに。
彼はコーヒーを飲み終えて、席から立ち上がる。
「支払いを」
「ありがとうございます」
代金を受け取る。きちんと支払ってもらえた。
「ごちそうさま。また来るよ」
「お待ちしております」
ユーグ様は満足した様子で、お店を出ていく。そんな彼を、私は見送る。最後まで普通にカフェを楽しんでくれただけだった。一つも怪しい様子はなかった。
しかも、また来ると言ってくれた。彼は、この町に滞在するつもりなのか。ということは、目的は他にあるということ? 私じゃなく、バロウクリフ家の領地に。
除籍された私は、バロウクリフ家に報告するべきか。これは絶対に伝えておくべきだろう。私の手に負えない。ということで、その日のお店が終了した後に、報告しに行った。
貴族だった頃からお世話になっていた執事を経由して、当主である父に伝えてもらった。その後、特に動きはなかった。これで良かったのかしら。
それから、ユーグ様は再びお店に来てくれた。それが何度か続いて、常連になってくれた。どうやら、このカフェのことを気に入ってくれたらしい。
お店に来てくれた時は主に私が対応して、普通のお客様として接した。今のところ怪しい点は一つもない。
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