残念ながら、契約したので婚約破棄は絶対です~前の関係に戻るべきだと喚いても、戻すことは不可能ですよ~

キョウキョウ

文字の大きさ
上 下
10 / 31

第10話 近くで見ていた者 ※とある公爵家の子息

しおりを挟む
 自分の居場所は、ここではない。幼い頃からずっとそう思っていた。貴族の世界は息苦しい。どうにかして、ここから旅立ちたい。身分を捨てて生きていきたい。

 幸いなことに、俺には優秀な弟がいる。ルニュルス公爵家は、彼に継いでもらった方がきっと上手くいくだろう。やる気のない俺が継ぐよりも、よほど良い結果になるはずだ。

 俺は心から弟に期待しているし、信頼もしていた。

 親が決めた婚約相手との相性も良くない。あの子は俺よりも弟を好んでいる。俺に居なくなってほしいと願っているに違いない。彼女のことも、弟に任せた方がいい。

 とにかく俺がルニュルス公爵家を去った方が、家のためになるだろうと本気で考えていた。だけど、それは簡単な事じゃない。俺は長男で、公爵家の跡取りに選ばれてしまったから。

 どうやってルニュルス公爵家を出ていくのか。なるべく穏便に済ませる方法を考え続けた。



 事故に見せかけて、死んだと思わせる。うまくいけば、弟が家を継いで婚約相手も幸せになれるかも。そういう計画を準備していた。

 バレないよう慎重に。家の者は頼れないので、外に協力者を作った。個人的に信頼できる商人と関係を築いていき、資金を増やしながら人脈を広げて、事故死の準備を整えていく。

 計画を成功させて、俺は貴族じゃなくなった人生を満喫する。

 そんな時だった。あの場面に遭遇したのは。



 今夜もパーティーに参加する。貴族の付き合いは面倒だけど、招待されたので仕方なく顔を出す。

 婚約相手の彼女は、連れてきていない。彼女も、こんなパーティーに参加して俺と一緒の時間を過ごすのは苦痛だろう。だから、誘わなかった。

 適当に関わりのある貴族たちと挨拶したら、さっさと帰ろうか。その予定で会場に入ったのだが。

「アンリエッタ、お前との婚約を破棄する」

 婚約を破棄する、という言葉が聞こえてきて興味を引かれる。声が聞こえてきた方に注目した。

 パーティーの最中。突然、そんな事を言ったのはメディチ公爵家の長男。次期当主だと言われている人物。今夜のパーティーで結婚日を発表する予定だと聞いていた。そんな男が、このタイミングで婚約を破棄するのか。しかも、多くの貴族たちが見ている前で告げるなんて。

 俺もあんな感じで、気軽に婚約破棄を告げたいな。いや、大勢の前で告げるなんて絶対しないが。婚約を破棄したい、という考えは同じだな。

 ちゃんと正式な手順を踏んで、手続きとか済ませているのだろうか。していないのなら、ただの馬鹿だが。思い付きで、婚約破棄など認められない。現当主が許すはずがない。

 婚約破棄を告げられた女性は驚いている様子だった。あれは、事前に話を聞いていなかったのか。結婚日を発表するためのパーティーをぶち壊しにした。予定外の行動なのか。

 これは、大変なことになるだろうな。メディチ公爵家の名に傷がつく行為。最悪の場合、廃嫡という事になるかもしれない。なるほど、それが狙いか?

 メディチ公爵家の長男は、俺と似たようなことを考えているのかもしれない。騒動の様子を見ながら、そう思った。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

聖女の力を失ったと言われて王太子様から婚約破棄の上国外追放を命じられましたが、恐ろしい魔獣の国だと聞かされていた隣国で溺愛されています

綾森れん
恋愛
「力を失った聖女などいらない。お前との婚約は破棄する!」 代々、聖女が王太子と結婚してきた聖ラピースラ王国。 現在の聖女レイチェルの祈りが役に立たないから聖騎士たちが勝てないのだと責められ、レイチェルは国外追放を命じられてしまった。 聖堂を出ると王都の民衆に石を投げられる。 「お願い、やめて!」 レイチェルが懇願したとき不思議な光が彼女を取り巻き、レイチェルは転移魔法で隣国に移動してしまう。 恐ろしい魔獣の国だと聞かされていた隣国で、レイチェルはなぜか竜人の盟主から溺愛される。 (本作は小説家になろう様に掲載中の別作品『精霊王の末裔』と同一世界観ですが、200年前の物語なので未読でも一切問題ありません!)

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

まったく心当たりのない理由で婚約破棄されるのはいいのですが、私は『精霊のいとし子』ですよ……?

空月
恋愛
精霊信仰の盛んなクレセント王国。 その王立学園の一大イベント・舞踏会の場で、アリシアは突然婚約破棄を言い渡された。 まったく心当たりのない理由をつらつらと言い連ねられる中、アリシアはとある理由で激しく動揺するが、そこに現れたのは──。

前世の記憶がある伯爵令嬢は、妹に籠絡される王太子からの婚約破棄追放を覚悟して体を鍛える。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?

ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。 レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。 アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。 ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。 そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。 上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。 「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

義妹が聖女を引き継ぎましたが無理だと思います

成行任世
恋愛
稀少な聖属性を持つ義妹が聖女の役も婚約者も引き継ぐ(奪う)というので聖女の祈りを義妹に託したら王都が壊滅の危機だそうですが、私はもう聖女ではないので知りません。

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜

星里有乃
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」 「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」  公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。 * エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。

処理中です...