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第2話
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周りに人が集まってきた。最初から様子を見ていた人たちは、とても冷たい視線でマレイラとリカルドの二人を睨みつけている。助けに入ってこようとする人も居た。
だが、無関係な人が割り込んできたら事も大きくなるし色々と面倒なので、来ないように視線で止める。もう少し待てば、あの人が助けに来てくれるだろうから。
何かあれば、いつも駆けつけて助けてくれる頼もしい人。彼が来たら、すぐに全て終わるはず。それまで、少しの間だけ辛抱すれば良い。
「私には、あなたをイジメる理由がありませんよシャイト子爵令嬢」
「ルシャード様の寵愛を受けている私を憎んでいる、って言ったじゃないですかッ! それで嫉妬して、私の教科書を破いたり、わざとドレスを汚したり、挙げ句の果てに階段から突き落として……!」
話を聞いても、やっぱり記憶にない。全て彼女の嘘なのか、誰かと勘違いしているとか。
「最初は、ルシャード様から愛されているから仕方ない、婚約者として嫉妬するのもしょうがないって我慢して、大人しくしていたのに。まさか殺そうとするなんて。私、とても怖くて……! 階段から突き落とされた時の記憶はトラウマになってぇ」
そう言って、隣に立っていたテスタ伯爵令息に抱きつく。涙をポロポロと流して。そんな姿を見ても、頑張って演技しているなぁ、という感想しか思い浮かばない。
というか、ルシャード様に愛されていると言っていた貴方が別の男に抱きついてもいいのかしら。はしたない女と思われるだろうに。
それから、急に抱きつかれたリカルド。顔を真っ赤にしながら、鼻の下を伸ばしてみっともない表情を浮かべている。
私のことを駄目だと言っていたのに、そんな姿を観衆に見られたら一気に説得力がなくなるのに。もともと、なかったけど。
「……私は、貴女がルシャード様に寵愛されているなんて思った事もございません。確かに、貴女と殿下が会話をしているところを何度かお見かけしたことはあります。ですが、それが寵愛を受けているという勘違いではないですよね? だから私には、貴女をイジメる理由は一つもございませんのよ」
「いいえ! ルシャード様は、私のことを可愛いと言ってくれます! 君との会話は楽しいと、とっても温かい言葉で包んでくれるのよ! 嫌われている貴女は、そんな素敵なルシャード様を知らないでしょうけど!」
これでもかというぐらい、婚約者である私に対して仲の良さをアピールしてくる。そしてマレイラ嬢は、私の顔から視線を逸らさずに話し続けた。
「クリスティーナ様のことをお尋ねすると、彼はいつも言葉を濁し、嫌そうな表情を浮かべます。ルシャード様にあんな顔をさせる貴女は、愛されていないんです。国の為と思って嫌いな女と結婚させられるなんて、あの人が可哀想よ……!」
マレイラ嬢の言葉は止まることなく、ペチャクチャと口を開き続ける。
「憎しみに駆られて階段から突き落とすような人が、王妃になってはいけないと思います! 貴女のような酷い人は、ルシャード様の相手に相応しくありませんッ!」
あまりにも鬱陶しい。彼が来てくれるのを待っていた。だが、もう我慢できそうにない。
もしかしたら、何か用事があって助けに来られないのかもしれない。とても忙しい人だから。だったら、さっさと自分でここから離れたほうが良さそう。
後で、こんなことがあったと彼に知らせればいいわ。
「それで、私と殿下が婚約を破棄するべきだと主張するのですね? では、私でなく直接殿下に報告してみれば? 私に、階段から突き落とされたと報告して。教科書を破られ、ドレスを汚されて、イジメられたと勝手に言いなさい。私からは王家に婚約破棄など言えませんので。それでは、失礼しますわ」
午後の大切な時間が台無しだわ。嫌な気分になって、ここから早く離れようと席を立つ。その時。
「待て、貴様! 土下座して、マレイラ嬢に謝罪しろと言ってるだろ!!」
「キャッ!?」
肩を突き飛ばされた。突き飛ばしてきたのは、リカルド。
まさかという行動だった。私は驚きながらバランスを崩して、足を挫いたみたい。そして、背中から地面に倒れ込む。
テーブルに手を伸ばすが、間に合わない。危ない。口元を歪めて、嬉しそうにするマレイラ嬢の顔が見えた。
あぁ、駄目だわ。衝撃に備えて身体を固くし、目を閉じる。
「っと! 大丈夫か!?」
地面にぶつかる衝撃の代わりに、あの人の温かくて力強い腕の感触があった。目を開けると、彼の心配そうな表情。私は、ルシャード殿下に抱きしめられていた。
だが、無関係な人が割り込んできたら事も大きくなるし色々と面倒なので、来ないように視線で止める。もう少し待てば、あの人が助けに来てくれるだろうから。
何かあれば、いつも駆けつけて助けてくれる頼もしい人。彼が来たら、すぐに全て終わるはず。それまで、少しの間だけ辛抱すれば良い。
「私には、あなたをイジメる理由がありませんよシャイト子爵令嬢」
「ルシャード様の寵愛を受けている私を憎んでいる、って言ったじゃないですかッ! それで嫉妬して、私の教科書を破いたり、わざとドレスを汚したり、挙げ句の果てに階段から突き落として……!」
話を聞いても、やっぱり記憶にない。全て彼女の嘘なのか、誰かと勘違いしているとか。
「最初は、ルシャード様から愛されているから仕方ない、婚約者として嫉妬するのもしょうがないって我慢して、大人しくしていたのに。まさか殺そうとするなんて。私、とても怖くて……! 階段から突き落とされた時の記憶はトラウマになってぇ」
そう言って、隣に立っていたテスタ伯爵令息に抱きつく。涙をポロポロと流して。そんな姿を見ても、頑張って演技しているなぁ、という感想しか思い浮かばない。
というか、ルシャード様に愛されていると言っていた貴方が別の男に抱きついてもいいのかしら。はしたない女と思われるだろうに。
それから、急に抱きつかれたリカルド。顔を真っ赤にしながら、鼻の下を伸ばしてみっともない表情を浮かべている。
私のことを駄目だと言っていたのに、そんな姿を観衆に見られたら一気に説得力がなくなるのに。もともと、なかったけど。
「……私は、貴女がルシャード様に寵愛されているなんて思った事もございません。確かに、貴女と殿下が会話をしているところを何度かお見かけしたことはあります。ですが、それが寵愛を受けているという勘違いではないですよね? だから私には、貴女をイジメる理由は一つもございませんのよ」
「いいえ! ルシャード様は、私のことを可愛いと言ってくれます! 君との会話は楽しいと、とっても温かい言葉で包んでくれるのよ! 嫌われている貴女は、そんな素敵なルシャード様を知らないでしょうけど!」
これでもかというぐらい、婚約者である私に対して仲の良さをアピールしてくる。そしてマレイラ嬢は、私の顔から視線を逸らさずに話し続けた。
「クリスティーナ様のことをお尋ねすると、彼はいつも言葉を濁し、嫌そうな表情を浮かべます。ルシャード様にあんな顔をさせる貴女は、愛されていないんです。国の為と思って嫌いな女と結婚させられるなんて、あの人が可哀想よ……!」
マレイラ嬢の言葉は止まることなく、ペチャクチャと口を開き続ける。
「憎しみに駆られて階段から突き落とすような人が、王妃になってはいけないと思います! 貴女のような酷い人は、ルシャード様の相手に相応しくありませんッ!」
あまりにも鬱陶しい。彼が来てくれるのを待っていた。だが、もう我慢できそうにない。
もしかしたら、何か用事があって助けに来られないのかもしれない。とても忙しい人だから。だったら、さっさと自分でここから離れたほうが良さそう。
後で、こんなことがあったと彼に知らせればいいわ。
「それで、私と殿下が婚約を破棄するべきだと主張するのですね? では、私でなく直接殿下に報告してみれば? 私に、階段から突き落とされたと報告して。教科書を破られ、ドレスを汚されて、イジメられたと勝手に言いなさい。私からは王家に婚約破棄など言えませんので。それでは、失礼しますわ」
午後の大切な時間が台無しだわ。嫌な気分になって、ここから早く離れようと席を立つ。その時。
「待て、貴様! 土下座して、マレイラ嬢に謝罪しろと言ってるだろ!!」
「キャッ!?」
肩を突き飛ばされた。突き飛ばしてきたのは、リカルド。
まさかという行動だった。私は驚きながらバランスを崩して、足を挫いたみたい。そして、背中から地面に倒れ込む。
テーブルに手を伸ばすが、間に合わない。危ない。口元を歪めて、嬉しそうにするマレイラ嬢の顔が見えた。
あぁ、駄目だわ。衝撃に備えて身体を固くし、目を閉じる。
「っと! 大丈夫か!?」
地面にぶつかる衝撃の代わりに、あの人の温かくて力強い腕の感触があった。目を開けると、彼の心配そうな表情。私は、ルシャード殿下に抱きしめられていた。
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