【試作】聖女の記憶は消し去った~婚約を破棄されたので、私は去ることを決めました~

キョウキョウ

文字の大きさ
上 下
18 / 37

第18話 乗り換え ※エリック王子視点

しおりを挟む
「お前まで、そんなことを言うのか!?」
「ちが、違うのよエリック! これは、神殿の連中が伝えろって言ってたから……。私が代わりに言わされただけなのよ! 信じて、エリック!」

 エリーゼが慌てて言い訳するけれど、俺のイライラは収まらなかった。せっかくの楽しい時間が台無しだ。

「……」
「聞いてエリック。神殿の連中って酷いのよ! 仕事を押し付けてきて、自分たちは何もしないで、贅沢な暮らしをしてる!? 私、もう我慢できない! 貴方も、そう思うでしょ?」

 神殿に対する文句を言って、俺の同情を引こうとしている。それで、さっきの言葉を無かったことにするつもりなのだろう。神殿に資金を援助しろというお願いを。

 だけど、それは逆効果だな。

「……」
「それに、最近の女神官って酷いのよ。修行をサボって実力も衰えてるし、そのせいで任務の成功率も下がってるみたい。酷いと思うでしょ?」

 どうにか神殿の評価を下げようと必死だ。しかし、それではエリーゼに対する評価も下がることを理解しているのか。なんせ彼女は、その神殿のトップである聖女なのだから。

「……」
「ね、ねえ? エリック?」

 今まで見えていた美しいものが、一気に薄汚いものに変わってしまったな。どこで変わってしまったのか。こんな未来は想像していなかったし、残念だ。けど、切り捨てるしかない。

 この女と結婚したら、神殿の連中はつけあがるだろう。それが嫌だった。

 せっかくの資金援助を無駄にして、最近どんどん神殿の評判を下げていく。それなのに、追加で資金の援助をしつこく求めてくる。一方的に負担だけ押し付けてくる。そんな相手、付き合う価値がない。

 俺は無言で立ち上がると、部屋を出ようとする。それを見て、エリーゼは慌てて俺に縋り付いてきた。

「ま、待ってエリック! ねぇ、私が悪かったわ。謝るわ。だから話を聞いて!」
「離してくれよ」

「……っ、あ、あの……あのね? 私たち、婚約してるでしょ……? もうすぐ、夫婦になるんでしょ?」
「ああ、俺たちは婚約相手だよ。だからこそ、これ以上失望させないでくれないか?」

 俺がそう言うと、エリーゼは目を見開いて固まった。そして、すぐに涙を流し始める。それを見て、少しだけ心が痛む。

「ご、ごめんなさい……!」
「……」

 涙で濡れた顔で謝罪される。そこまでされると、めんどくさい。泣いたら許してもらえると思ってるのかな。

「泣くなよ、みっともないぞ」
「うぐっ……! だって、エリックぅぅ……」
「はぁ……」

 嫌だけど、もう少しだけ我慢して付き合うしかないか。向こうの方が絶対に悪いが、ここで厳しく接したら俺の方が印象を悪くしてしまいそうだし。見捨てるのも心苦しい。甘いな、俺は。

 エリーゼの近くに戻って座り、彼女を抱きしめた。すると、彼女も嬉しそうに俺の背中に手を回す。

「やっぱり、エリックって優しい……! 好きッ!」

 近いうちに、この面倒な問題を解決しないと。神殿に代わる、新しく付き合うべき相手を探すか。この国を導くために、いずれ国王となる俺には力が必要だから。衰退していく神殿は、早めに見切りをつけたいのだが。

 そういえば、最近は冒険者たちの評判が良いみたいだ。神殿の失敗を尻拭いして、新人の冒険者たちも頑張っているみたいだ。そっちに協力を要請するというのもアリかもしれない。

 そんなことを考えながらしばらく、エリーゼの謝罪と泣き言、しょうもない言い訳を聞き続けた。
しおりを挟む
◆◆◆ 更新中の作品 ◆◆◆

【完結】婚約者を妹に取られましたが、社交パーティーの評価で見返してやるつもりです
https://www.alphapolis.co.jp/novel/88950443/595922033

【完結】欲しいというなら、あげましょう。婚約破棄したら返品は受け付けません。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/88950443/82917838
感想 3

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

【完結済】婚約破棄された元公爵令嬢は教会で歌う

curosu
恋愛
【書きたい場面だけシリーズ】 婚約破棄された元公爵令嬢は、静かな教会で好き勝手に歌う。 それを見ていた神は... ※書きたい部分だけ書いた4話だけの短編。 他の作品より人物も名前も設定も全て適当に書いてる為、誤字脱字ありましたらご報告ください。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

私を愛すると言った婚約者は、私の全てを奪えると思い込んでいる

迷い人
恋愛
 お爺様は何時も私に言っていた。 「女侯爵としての人生は大変なものだ。 だから愛する人と人生を共にしなさい」  そう語っていた祖父が亡くなって半年が経過した頃……。  祖父が定めた婚約者だと言う男がやってきた。  シラキス公爵家の三男カール。  外交官としての実績も積み、背も高く、細身の男性。  シラキス公爵家を守護する神により、社交性の加護を与えられている。  そんなカールとの婚約は、渡りに船……と言う者は多いだろう。  でも、私に愛を語る彼は私を知らない。  でも、彼を拒絶する私は彼を知っている。  だからその婚約を受け入れるつもりはなかった。  なのに気が付けば、婚約を??  婚約者なのだからと屋敷に入り込み。  婚約者なのだからと、恩人(隣国の姫)を連れ込む。  そして……私を脅した。  私の全てを奪えると思い込んでいるなんて甘いのよ!!

何でも欲しがる妹を持つ姉が3人寄れば文殊の知恵~姉を辞めます。侯爵令嬢3大美女が国を捨て聖女になり、幸せを掴む

青の雀
恋愛
婚約破棄から玉の輿39話、40話、71話スピンオフ  王宮でのパーティがあった時のこと、今宵もあちらこちらで婚約破棄宣言が行われているが、同じ日に同じような状況で、何でも欲しがる妹が原因で婚約破棄にあった令嬢が3人いたのである。その3人は国内三大美女と呼ばわれる令嬢だったことから、物語は始まる。

前世の記憶を持つ守護聖女は婚約破棄されました。

さざれ石みだれ
恋愛
「カテリーナ。お前との婚約を破棄する!」 王子殿下に婚約破棄を突きつけられたのは、伯爵家次女、薄幸のカテリーナ。 前世で伝説の聖女であった彼女は、王都に対する闇の軍団の攻撃を防いでいた。 侵入しようとする悪霊は、聖女の力によって浄化されているのだ。 王国にとってなくてはならない存在のカテリーナであったが、とある理由で正体を明かすことができない。 政略的に決められた結婚にも納得し、静かに守護の祈りを捧げる日々を送っていたのだ。 ところが、王子殿下は婚約破棄したその場で巷で聖女と噂される女性、シャイナを侍らせ婚約を宣言する。 カテリーナは婚約者にふさわしくなく、本物の聖女であるシャイナが正に王家の正室として適格だと口にしたのだ。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります

柚木ゆず
恋愛
 婚約者様へ。  昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。  そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?

処理中です...