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第3話 謹んでお受けいたします

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「婚約破棄、謹んでお受けいたします!」
「えっ!?」

 未来から現実に戻ってきた時、私は即座に答えた。婚約破棄を喜んで受け入れる。ユウコという女性と、私は関わり合いたくないから。

 力強い私の返答に、驚くヘルベルト王子。

 先程見た光景が、本当なのかどうか私には分からない。だけど、処刑に至る可能性があるというだけで怖くなった。逃げ出したくなった。

 見えた光景の中には、ユウコという存在が必ず居た。

 ユウコという女性に対して、私は嫉妬して変になっていた。なぜ、彼女を殺そうと暗殺者を仕向けるのか。それが理解不能だった。嫉妬する気持ちは理解できるけど、それがなぜ殺意になるのか。あんな杜撰な計画で、簡単にバレてしまうのか。

 まるで、誰か別人に操られているかのように正気でない行動をしていた。だけど、指示していたのは私だった。だから、私は怖くなった。もしかしたら、私も変わってしまうかも。

 とにかく、ユウコという女性と関わらないほうが良い。そんな結論に至ったので、婚約破棄を受け入れるのだ。


「本当に、いいんだな?」
「はい。もちろんです」

 何故か、再度確認してくるヘルベルト王子。処刑されてしまうかもしれない恐怖によって、彼に対する愛情は消え去っていた。突然、変わってしまった私に驚いているのでしょうね。

 両親も少し離れた場所から心配そうに見ているが、介入してこない。どうやら私に任せてくれているようだ。

 夜会に参加していた人達も、驚いている。彼らは、私が婚約破棄を受け入れたことで驚いたというよりも、こんな場所で婚約破棄を告げるなんてと、ヘルベルト王子の行動に仰天しているようだけど。

 あの最悪な光景を見たことで、私は恐怖した。だが同時に、落ち着くことが出来たようだ。周囲の様子を冷静に見れている。

「ねぇねぇ、ヘルベルト様。用事は済んだし、もう帰ろうよ」
「え? あ、あぁ。うん。そうだな」

 ヘルベルト王子に密着しているユウコが猫なで声で、もう帰ろうよと話しかける。彼はユウコの顔を見て、それから私の顔を見て、交互に視線を向ける。なぜ動揺しているのかしら。

 ここから早く、目の前に居る女が立ち去ってくれることを願う。ヘルベルト王子を一緒に連れて行って構わないから。もう、私と彼は婚約関係じゃないから。

 そして、ようやく2人は会場から去っていった。

「皆様、お騒がせして申し訳ありません。引き続き、夜会をお楽しみ下さい!」

 様子を伺っていた参加者の皆に、そう伝える。彼らは戸惑っていたが、あんな事で夜会を終わらせてしまうのは勿体ない。せっかく時間を割いて、参加してくれたのだから。最後まで楽しんでから、帰ってもらいたい。だから、夜会は続ける。

 その後、私は参加者達と順番に会って話をした。優しい皆様は、婚約破棄の件については一度も触れず、普通に楽しい会話をしてくれた。

 こうして私の誕生日を祝う夜会は、表面上は無事に終了した。
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