上 下
38 / 39

第38話 新たな聖女として

しおりを挟む
 かつて知り合いだったらしい聖女達と、帝国で再会した私。やはり、それで終わりというわけにもいかなかった。

 彼女達と再会した後に再び、皇帝陛下に呼び出された。そこで、こんな事を言われてしまう。

「君に、新たな教会の最高責任者を任せたいと考えている。どうかな?」
「それは……」

 また私は、教会に束縛されてしまうのかと悲観的な考えに支配されそうになった。逃げることは出来ないのか。一生、私は苦しみながら生きていくのか。

 そうじゃない。私は、考え方を変える。むしろ積極的に関わって、自分のやりたいようにする。逃げるんじゃなくて立ち向かう。そして、自分の人生を謳歌するんだ。

「引き受けるには、条件があります」
「何かな? 言ってみてくれ」

 私は皇帝陛下と交渉して、新たな帝国の教会と聖女達の立場を確立した。

 聖域は常に展開しない。危険な状況に陥った場合にのみ、緊急策として使うことを約束してもらう。
 
 教会の聖女達にも、帝国での自由を認めること。しかし、犯罪を犯した場合には、しっかり罰を受けさせる。

 孤児を教会に所属させて、育成する。教会は、聖女が帝国で活躍できるようになるまで支援することをメインに、活動していくことを認めてもらう。

 それから、定期的に私が村に帰ることも認めてもらう。

「わかった。その条件を飲もう」
「ありがとうございます」

 皇帝陛下との最初の交渉は上手くいき、色々と認めてもらえた。これからも私は、アメリアさんとテリーさんに会いに行くことが出来る。離れ離れになることもない。それが、私にとって大きかった。

 これから、教会に所属することになっても思い通りに行動することが出来そうだ。仲間だった聖女の皆も、私は見捨てない。大変な目に遭わないように、気をつける。

 私のような人間を二度と生み出さないように見張っておく。そのための立場を手に入れることが出来たと思う。



 その後、聖女は帝国内でそれなりに活躍して認められるようになっていく。王国の聖女だった存在は記憶から忘れ去られて、帝国の聖女として認知されるように。

 いつの間にか、エルメノン王国は滅んでいた。そして、新たな国が誕生していた。

 婚約者だった彼が処刑されたと聞いた時に私は、悲しんだりすることはなかった。そうなのかと、思っただけ。特に感じることもない。

 もしかしたら、私は薄情な人間なのかもしれないわ。いや、彼から結構酷い扱いをされたから仕方ないのかしら。追放されたからね。でも、恨んだりすることもない。とにかく、感情を揺さぶられるようなことは一切なかった。

 そしてすぐに、私の記憶から消えていく。そんな事よりも今は、教会のことの方が重要だったから。

 皇帝陛下とは、それから何度も議論した。新たな要望を伝えて認めてもらったり、向こうからの提案も聞いたりした。お互いに納得できるまで話し合った。とても良い関係を築けていると思う。これなら、教会での生活も苦しくない。教会に所属している聖女達も、大変じゃないはず。


 たまに、アメリアさんとテリーさんの2人がいる村に帰っている。お土産を買って持ち帰り、しばらく滞在して帝都に戻る。その村が、私にとって心が休まる帰るべき場所になっていた。

 最近、聖女の村として有名になってしまったのが申し訳なかったりする。村長は、何も気にしなくて大丈夫だと言ってくれたけれど、やっぱり気になるのよね。

 今までは特に問題も起きていない。でも何か、対策を考えないといけないかしら。そんな事を悩みながら、今日も私は帝都に戻っていく。



 じっくりと修行した聖女は、厳しい訓練を積んできた帝国の兵士よりも強かった。聖女の力を駆使すれば、兵士より機敏に動けて女性とは思えないほど強力なパワーも出せる。戦いに向いているのかもしれない。

 だけど、聖女が戦争に参加することは禁じた。

 帝国から要請があったとしても断る。私達が動くのは、人を助けたりする時だけ。人と戦うことになりそうであれば、必ず逃げるように言ってあった。

 聖女達は、主に救援活動をメインに行なっている。帝国内では次第に、聖域の聖女ではなく救助の聖女として認識されるように変わっていった。

 認識の変化に順応して、無理し過ぎないように気をつけながら、教会の皆で新たな聖女の形を模索していく。そして再び、皇帝陛下と話し合う。どうするべきか考え、常に変化させていく。

 まさか教会に戻るなんて、私は考えてなかった。聖女としての役目を果たすなんて二度と無いだろうと思っていた。なのに今では、帝国にある教会の最高責任者として活動している。それが、今の私の新たな生活になっていた。

 毎日なかなか大変だけど、それなりに幸せだった。王国の教会に居た頃のような、辛くて苦しいだけの人生ではなくなったから。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

お妃様に魔力を奪われ城から追い出された魔法使いですが…愚か者達と縁が切れて幸せです。

coco
恋愛
妃に逆恨みされ、魔力を奪われ城から追い出された魔法使いの私。 でも…それによって愚か者達と縁が切れ、私は清々してます─!

妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜

雪島 由
恋愛
聖女として国を守ってきたマリア。 だが、突然妹ミアとともに現れた婚約者である第一王子に婚約を破棄され、ミアに聖女の座まで譲れと言われてしまう。 国を頑張って守ってきたことが馬鹿馬鹿しくなったマリアは潔くミアに聖女の座を譲って国を離れることを決意した。 「あ、そういえばミアの魔力量じゃ国を守護するの難しそうだけど……まぁなんとかするよね、きっと」 *この作品はなろうでも連載しています。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

「 この国を出て行け!」と婚約者に怒鳴られました。さっさと出て行きますわ喜んで。

十条沙良
恋愛
この国の幸せの為に頑張ってきた私ですが、もう我慢しません。

婚約破棄から聖女~今さら戻れと言われても後の祭りです

青の雀
恋愛
第1話 婚約破棄された伯爵令嬢は、領地に帰り聖女の力を発揮する。聖女を嫁に欲しい破棄した侯爵、王家が縁談を申し込むも拒否される。地団太を踏むも後の祭りです。

処理中です...