追放された聖女のお話~私はもう貴方達のことは護りません~

キョウキョウ

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第22話 帝国から見た王国の状況 ※とある人達の視点

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 窓もない薄暗い部屋の中で、男達が会議を行っていた。議題は、隣国のエルメノン王国について。

「これは酷い。まさか、こんな状況になるまで放置し続けるとは」
「国境付近の街が魔物に襲われて、難民も発生しているようです。一部が帝国に押し寄せてきています。受け入れ対応が必要になります」
「すぐに兵を派遣して、混乱が起きないように対処させろ。帝国民には食料の支援も行うように」

 こういう事態になるだろうと予想していた彼らは、既にいくつか対策を用意していた。緊急時に備えて確保していた食料なども放出することを決めた。これで、被害を最小限に抑えられるだろうと考えている。だが、まだ油断しない。いろいろな状況を考えながら、他にも様々な策を用意していく。

「まさか、今になって王国の教会に仕掛けていた策略の効果が発揮されるなんて」

 実のところ帝国は、何十年も前から動き続けていた。王国にある教会内部に工作員を送り込んで、聖女や聖域に関する情報を集めさせていた。

 エルメノン王国の要は、聖域であると彼らは考えていた。戦争のない平和な時代が続いて、聖域というものがあるから王国は他の国と比べて余裕があった。それを崩す事が出来れば、王国は簡単に崩壊するだろうと予想して。

 戦争なんて仕掛けたりせずに、余計な被害を出さないようにしながら、楽に領土を手に入れることが帝国の狙いだった。

 焦らずにゆっくりと、内政をしっかり整えて他国からの侵略にも備えつつ、時機をうかがっていた。虎視眈々と狙い続けてきた。決して無理せず、じっくりと。

 工作員が集めた情報によって、聖域の維持は聖女達が担っていることが判明した。それから、実力のある聖女を教会から引き抜いて、秘密裏に帝国まで連れてくると、彼女たちを保護した。今も、帝国が用意した施設で聖女達は静かに暮らしている。

 何人か帝国に連れてきた時、教会の人間にバレて対処されるだろうと思っていた。しかし、金を使って黙らせることに成功していた。むしろ積極的に、実力ある聖女を連れ出すことに教会の人間が協力してくれた。

 あまりにも簡単すぎて、逆に不安になるぐらい。嘘の情報を掴まされて、欺瞞工作を仕掛けられているのではないかと疑ったほど。

 聖域を維持するために聖女は必要不可欠なのに、そんなに警戒が薄くて大丈夫なのかと王国や教会の対応が心配になった。でも、おかげで帝国の計画通りに進めることが出来ていた。

 聖域を失わせて、王国を弱体化させる。

 だが、その後から帝国の策略はそう簡単にはいかなかった。非常に強力な力を持つ聖女が現れて、1人だけで王国の聖域を維持し続けてしまったから。それで、計画が狂ってしまった。

 その頃、エルメノン王国は魔物の討伐を次第に手を抜くようになっていった。王国には聖域があるから、魔物を討伐しなくても安全に暮らせるだろうという考えが蔓延して、兵士たちは怠けるようになっていた。

 これも、帝国の工作によるものだ。しかし、想像していた以上に効果を発揮して、思わぬ結果を招いてしまった。

 王国の兵力を減らすことには成功したけれども、増えてしまった魔物が想像以上に多くて、行き場を失った大量の魔物たちが帝国に流れ込んできた。

 帝国は兵士を派遣して、被害も少なく対処することが出来た。結果的には、兵士に経験を積ませて実力を底上げすることにもなった。

 そんな事もありながら、今まで帝国は常に動き続けてきた。他にも、王国の貴族と秘密裏に繋がりを持ったり、商人を使って物価を操作したり、王国の力を削ぐために様々な策謀を繰り広げてきた。

 エルメノン王国の王は政治から離れて引きこもったり、王子が問題を起こしたりして、王家の力は勝手に弱まっていった。もしかしたら、何もしなくても王国は勝手に崩壊していたんじゃないかと思ってしまうぐらい、愚かで脆かった。

 そして先日、非常に強力な力を持つ聖女が追放されたという情報が、彼らのもとに届いていた。その後に、王国の街が魔物に襲われたという情報も。

 王国から聖域が失われたという事実を掴んでいた。

「聖女の行方は、まだ判明していないか?」
「国境付近の森で解放されたようですが、そこから先の足取りが分かりません」
「捜索を続けるんだ。そして、発見したら手厚く保護するように。敵対したくない。なるべく友好的な関係を築けるように努力するんだ」
「了解しました」

 帝国にとって非常に厄介だった、何十年も聖域を維持し続けてきた例の聖女。王国の王子自ら追放するなんていう結末は、予想外だった。

 非常に貴重な存在である彼女を放り出すのなら、帝国に迎え入れたい。そのために対話を試みて、友好関係を築きたい。彼女が非常に強力な力を持っていることを把握しているので、敵対するのは絶対に避けたいと帝国側は考えていた。
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