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第7話 解放された元聖女
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「おい、降りろ」
「はい」
「早くしろ」
「えぇ、わかっていますよ」
高圧的な口調で命令された私は、素直に指示に従って馬車から降りる。ようやく、外に出られるのだ。今の状態で、外の景色をじっくり見たかった。どんな場所なのか気になっていたし、心の底からワクワクしていた。こんなに気持ちが晴れやかなのは久しぶりね。
そこは、森の中だった。周りは木と草しか生えていない。それに、かなり薄暗い。まだ日は高いはずなのに、背の高い木々のせいで日光が遮られている。それで森全体が、より一層暗く感じた。
ここに来るまでに、小さな村を通り過ぎた。その村に歩いて戻るまで、1日ぐらい必要になりそう。王都に戻るのなら、歩いて行くのは無理だろう。それほどまで遠く離れた場所まで連れて来られた。
「この道を真っ直ぐ突き進めば、隣国に辿り着くだろう」
「そうですか」
兵士の男が森の奥を指差して説明した。彼が言う道とは獣道のような、普通の人は歩くのすら難しそうな道だった。
国境にある森には魔物が生息している。聖域の範囲外なので、とても危険な場所。だから、私みたいな女を1人で歩かせるような場所ではない。武装した男でも危ないでしょう。そんな道を歩いて行けと、男は無慈悲に言う。
「王国に戻ってくることは許されない。これは、パトリック様の命令である。もしも貴様の姿が見つかった場合、拘束されて死刑が執行される。肝に銘じておけ。貴様は二度と、王国に戻ることは許されない」
「わかりましたわ」
エルメノン王国には絶対に戻ってくるなと、念を押すように言われた。何の文句も言わずに返事すると、男は不気味なモノを見るような目つきで私の顔を凝視する。
貴方達が行けと命令しているというのに、なんでそんな目で見るのか。私のほうが不思議だわ。
もしかすると、私が泣いて命乞いをするとでも思ったのかもしれない。普通の貴族令嬢や聖女ならば、そうするのかもしれないけどね。残念ながら私は普通じゃない。
しかも今は、解放されて自由の身となった。今の私なら、何でも出来そうなぐらい自由自在だった。だから、何の問題もないのよ。もちろん、そんな事を彼らに教えるつもりはない。今は余計なことなど言わず、素直に彼らの命令に従うだけ。
「……理解したなら、さっさと行け」
「えぇ。それでは皆様、ごきげんよう!」
「……」
最後なので元気よく挨拶すると、男たちは憐れむような表情で私を見た。この道を行けば、隣国に辿り着く前に魔物に襲われて死ぬだろうなんて、彼らは思っているのかしら。
そんな顔をするぐらいなら、助けてくれても良かったのにね。でも今の私は、誰の助けも必要ない。
私は振り返ると、森の奥を目指して歩き始めた。足に感じる地面の感触が、とても新鮮だった。草を踏みしめている感覚が心地よい。今まで私が感じていたものとは、ぜんぜん違う。なんだか、歩くだけでも楽しくなってきた。
背中に兵士達の視線を感じながら、立ち止まらず振り返ることもなく、私は前だけ見据えて突き進む。
歩きにくいけれど、身体の奥底から力がみなぎってくるので前へ進むのは余裕よ。聖女の力で、身体能力を向上させた。体力も増えて、こんな道を歩き続けても疲れを全く感じない。いつまでも、歩き続けることが出来そうね。
聖女の力を使って全身を保護した。草花や木の枝などで素肌が傷つくこともなく、何も気にせずに森の奥へと進んでいける。
背中に視線を感じなくなった。あっという間に、かなりの距離を歩いてきたのか。振り返ると、もちろん彼らの姿は見えない。
私は解放されて、ようやく1人になれたのね。完全に自由だった。これで、やっと落ち着けるかしら。
さて、どうしようかと木の根元に腰を下ろして私は悩む。
エルメノン王国に戻って見つかったら死刑だと言われた。聖女の力が解放された今なら、誰かに捕まる気がしない。この力を駆使すれば、敵を蹴散らすことも簡単だと思う。あの兵士達も、どんなに数が集まっても圧倒できる気がした。
だけど、ずっと追われる生活は面倒ね。
命令された通り、隣の国へ行きましょう。そこで、生きていく方法を考えることにする。それが駄目なら、その時になってからまた別の方法を考えればいいわ。かなり気軽に考えることが出来た。きっと大丈夫だから。
希望が沢山ある。今の私は、絶望なんて全く感じなかった。
「よぉし、頑張るぞー!」
今後の予定を簡単に決めた私は、木の根元から元気よく立ち上がる。そして、前を向いて歩き始めた。まずは、この先へ進む。とても簡単なこと。
これから私が目指す場所は、エルメノン王国の隣りにあるソレズテリエ帝国だ。
「はい」
「早くしろ」
「えぇ、わかっていますよ」
高圧的な口調で命令された私は、素直に指示に従って馬車から降りる。ようやく、外に出られるのだ。今の状態で、外の景色をじっくり見たかった。どんな場所なのか気になっていたし、心の底からワクワクしていた。こんなに気持ちが晴れやかなのは久しぶりね。
そこは、森の中だった。周りは木と草しか生えていない。それに、かなり薄暗い。まだ日は高いはずなのに、背の高い木々のせいで日光が遮られている。それで森全体が、より一層暗く感じた。
ここに来るまでに、小さな村を通り過ぎた。その村に歩いて戻るまで、1日ぐらい必要になりそう。王都に戻るのなら、歩いて行くのは無理だろう。それほどまで遠く離れた場所まで連れて来られた。
「この道を真っ直ぐ突き進めば、隣国に辿り着くだろう」
「そうですか」
兵士の男が森の奥を指差して説明した。彼が言う道とは獣道のような、普通の人は歩くのすら難しそうな道だった。
国境にある森には魔物が生息している。聖域の範囲外なので、とても危険な場所。だから、私みたいな女を1人で歩かせるような場所ではない。武装した男でも危ないでしょう。そんな道を歩いて行けと、男は無慈悲に言う。
「王国に戻ってくることは許されない。これは、パトリック様の命令である。もしも貴様の姿が見つかった場合、拘束されて死刑が執行される。肝に銘じておけ。貴様は二度と、王国に戻ることは許されない」
「わかりましたわ」
エルメノン王国には絶対に戻ってくるなと、念を押すように言われた。何の文句も言わずに返事すると、男は不気味なモノを見るような目つきで私の顔を凝視する。
貴方達が行けと命令しているというのに、なんでそんな目で見るのか。私のほうが不思議だわ。
もしかすると、私が泣いて命乞いをするとでも思ったのかもしれない。普通の貴族令嬢や聖女ならば、そうするのかもしれないけどね。残念ながら私は普通じゃない。
しかも今は、解放されて自由の身となった。今の私なら、何でも出来そうなぐらい自由自在だった。だから、何の問題もないのよ。もちろん、そんな事を彼らに教えるつもりはない。今は余計なことなど言わず、素直に彼らの命令に従うだけ。
「……理解したなら、さっさと行け」
「えぇ。それでは皆様、ごきげんよう!」
「……」
最後なので元気よく挨拶すると、男たちは憐れむような表情で私を見た。この道を行けば、隣国に辿り着く前に魔物に襲われて死ぬだろうなんて、彼らは思っているのかしら。
そんな顔をするぐらいなら、助けてくれても良かったのにね。でも今の私は、誰の助けも必要ない。
私は振り返ると、森の奥を目指して歩き始めた。足に感じる地面の感触が、とても新鮮だった。草を踏みしめている感覚が心地よい。今まで私が感じていたものとは、ぜんぜん違う。なんだか、歩くだけでも楽しくなってきた。
背中に兵士達の視線を感じながら、立ち止まらず振り返ることもなく、私は前だけ見据えて突き進む。
歩きにくいけれど、身体の奥底から力がみなぎってくるので前へ進むのは余裕よ。聖女の力で、身体能力を向上させた。体力も増えて、こんな道を歩き続けても疲れを全く感じない。いつまでも、歩き続けることが出来そうね。
聖女の力を使って全身を保護した。草花や木の枝などで素肌が傷つくこともなく、何も気にせずに森の奥へと進んでいける。
背中に視線を感じなくなった。あっという間に、かなりの距離を歩いてきたのか。振り返ると、もちろん彼らの姿は見えない。
私は解放されて、ようやく1人になれたのね。完全に自由だった。これで、やっと落ち着けるかしら。
さて、どうしようかと木の根元に腰を下ろして私は悩む。
エルメノン王国に戻って見つかったら死刑だと言われた。聖女の力が解放された今なら、誰かに捕まる気がしない。この力を駆使すれば、敵を蹴散らすことも簡単だと思う。あの兵士達も、どんなに数が集まっても圧倒できる気がした。
だけど、ずっと追われる生活は面倒ね。
命令された通り、隣の国へ行きましょう。そこで、生きていく方法を考えることにする。それが駄目なら、その時になってからまた別の方法を考えればいいわ。かなり気軽に考えることが出来た。きっと大丈夫だから。
希望が沢山ある。今の私は、絶望なんて全く感じなかった。
「よぉし、頑張るぞー!」
今後の予定を簡単に決めた私は、木の根元から元気よく立ち上がる。そして、前を向いて歩き始めた。まずは、この先へ進む。とても簡単なこと。
これから私が目指す場所は、エルメノン王国の隣りにあるソレズテリエ帝国だ。
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