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第9話 襲い来る影
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私が婚約を破棄した後、続くように次々と婚約破棄ラッシュが起きた。どうやら、レイモンドと関係を持った女性たちが軒並み婚約を破棄することになったらしい。
「ウィンザー家の令嬢も婚約を破棄されたそうだ」
「グランディール家の娘は屋敷に軟禁されているらしいぞ」
そんな噂が、貴族の間で広まっている。手を出したレイモンドには慰謝料の請求が殺到しているとか。うちの娘を傷物にした責任を取ってもらう。お金で。そういうことらしい。
浮気相手の女性たちは外に出るのを禁じられて、問題が解決するまでは屋敷の中で反省させられているらしい。学園にも来ていない。
もしもまだ、私が彼と婚約関係だったなら巻き込まれていたかもしれない。婚約を破棄して、本当に良かった。
お父様は、収集した情報を他家へ提供したそうだ。それで、批判が集まらないようにしてくれたらしい。ブラックウェル家の娘も被害者である、と認識されている。
手回ししてくれたおかげで、非難は免れた。お父様の判断は正しかった。改めて、お父様の行動に感謝する。
それから、婚約を破棄してから新しい婚約相手が決まっていない私に、縁談の申し込みが殺到していた。
私の場合、婚約を破棄したのは相手に問題があったから。例の件があったので、同世代の男性が余っている状況だとか。なので、一度は婚約を破棄することになった男爵令嬢の私でも需要があるらしい。
相手を選ぶのは、お父様。だけど今度こそ、良い人に巡り会えるようにと祈った。チャンスはあるけど、また失敗してしまったらどうしよう。期待と不安が交錯する。
今度こそ失敗しないように、慎重に選ぶみたい。何人か厳選し、実際に会ってお話する機会を設けてもらうことになった。前の時は、実際に顔を合わせないまま数年も過ぎてからの初対面で、アレだったから。
そんな折、婚約者候補の一人と面会する機会があった。彼は伯爵家の次男らしい。爽やかな笑顔で、丁寧に挨拶をしてくれる青年だった。第一印象は悪くない。
お茶を飲みながら、和やかに会話が弾む。この人なら、きっと良い伴侶になってくれそう。そんな初対面の彼に対する私の印象は、後でお父様に報告しよう。
もしかしたら、彼が私の新しい婚約相手になるてくれるかも。やっぱり、顔合わせって大事ね。この先どうなるか、わからない。けれど、希望はある。
昨日に続いて、今日も別の婚約者候補の方に会いに行った。時間がかかってしまうので、学園に通う時間も削られてしまう。なるべく早く新しい相手が決まってほしいわね。そう思いながら、屋敷に戻る途中の出来事だった。
「エレノア! 君と話がしたい。出てきてくれないか?」
「また?」
聞き覚えのある、男性の声が届いた。前と同じように呼び止められた。暗い夜道で、馬車の前に立ち邪魔をする。前と同じパターンだった。前は馬車を出て話をしたけれど、今回は出ていく必要もないわね。婚約破棄を撤回してくれ、元の状態にしてくれ、ラザフォード家への支援をどうにかしてくれと頼まれるだけでしょう。
「止まらないで。無視して行きなさい」
「ハッ!」
そう思って、御者に馬車を止めないようにと命じる。一緒に乗っている侍女たちが、安堵の表情を浮かべていた。心配させてしまい、申し訳ない。
後でお父様に報告して、ラザフォード家にも抗議してもらいましょう。
彼を無視して、横を通り過ぎる。それで終わると思っていたのに。
「ぐあっ!?」
「え?」
「「「きゃあっ!?」」」
「止まれ! 婚約相手である俺を、無視するなッ!」
御者の苦しそうな声が聞こえてきて、それと同時に何かが馬車に当たる音がした。次の瞬間、御者の態勢が崩れ、馬車が急停止した。何かされた。攻撃されたの?
馬車が大きく揺れて、悲鳴が上がった。私と侍女たちの声。レイモンドの怒号が、車内に響き渡る。
「おい! 出てこい、エレノア! 早く出てこないと、その御者を狙い続けるぞ!」
外から聞こえてくる攻撃的な声。彼以外に、怪しい人影が多数見えた。囲まれた。とても危険な状況。馬車に乗っている侍女たちも頭を抱えて震えている。巻き込んでしまった。このまま隠れていても、あの男は諦めないでしょう。
私が馬車から出ていき、レイモンドの相手をしないと、みんなが危険にさらされてしまう。私が、この状況を収拾しなければ。
「はぁ。あなた達は、隠れていなさい」
「で、でも……!」
「大丈夫。助けが来るまで、時間を稼ぐだけだから」
話し合っている間に、時間を稼ぐ。助けはきっと来てくれる。お父様が気づいて、助けを送ってくれるはず。それまで、私がレイモンドの相手をして、なんとか時間を稼ぐしかない。覚悟を決めて、私は馬車の扉に手をかけた。
「ウィンザー家の令嬢も婚約を破棄されたそうだ」
「グランディール家の娘は屋敷に軟禁されているらしいぞ」
そんな噂が、貴族の間で広まっている。手を出したレイモンドには慰謝料の請求が殺到しているとか。うちの娘を傷物にした責任を取ってもらう。お金で。そういうことらしい。
浮気相手の女性たちは外に出るのを禁じられて、問題が解決するまでは屋敷の中で反省させられているらしい。学園にも来ていない。
もしもまだ、私が彼と婚約関係だったなら巻き込まれていたかもしれない。婚約を破棄して、本当に良かった。
お父様は、収集した情報を他家へ提供したそうだ。それで、批判が集まらないようにしてくれたらしい。ブラックウェル家の娘も被害者である、と認識されている。
手回ししてくれたおかげで、非難は免れた。お父様の判断は正しかった。改めて、お父様の行動に感謝する。
それから、婚約を破棄してから新しい婚約相手が決まっていない私に、縁談の申し込みが殺到していた。
私の場合、婚約を破棄したのは相手に問題があったから。例の件があったので、同世代の男性が余っている状況だとか。なので、一度は婚約を破棄することになった男爵令嬢の私でも需要があるらしい。
相手を選ぶのは、お父様。だけど今度こそ、良い人に巡り会えるようにと祈った。チャンスはあるけど、また失敗してしまったらどうしよう。期待と不安が交錯する。
今度こそ失敗しないように、慎重に選ぶみたい。何人か厳選し、実際に会ってお話する機会を設けてもらうことになった。前の時は、実際に顔を合わせないまま数年も過ぎてからの初対面で、アレだったから。
そんな折、婚約者候補の一人と面会する機会があった。彼は伯爵家の次男らしい。爽やかな笑顔で、丁寧に挨拶をしてくれる青年だった。第一印象は悪くない。
お茶を飲みながら、和やかに会話が弾む。この人なら、きっと良い伴侶になってくれそう。そんな初対面の彼に対する私の印象は、後でお父様に報告しよう。
もしかしたら、彼が私の新しい婚約相手になるてくれるかも。やっぱり、顔合わせって大事ね。この先どうなるか、わからない。けれど、希望はある。
昨日に続いて、今日も別の婚約者候補の方に会いに行った。時間がかかってしまうので、学園に通う時間も削られてしまう。なるべく早く新しい相手が決まってほしいわね。そう思いながら、屋敷に戻る途中の出来事だった。
「エレノア! 君と話がしたい。出てきてくれないか?」
「また?」
聞き覚えのある、男性の声が届いた。前と同じように呼び止められた。暗い夜道で、馬車の前に立ち邪魔をする。前と同じパターンだった。前は馬車を出て話をしたけれど、今回は出ていく必要もないわね。婚約破棄を撤回してくれ、元の状態にしてくれ、ラザフォード家への支援をどうにかしてくれと頼まれるだけでしょう。
「止まらないで。無視して行きなさい」
「ハッ!」
そう思って、御者に馬車を止めないようにと命じる。一緒に乗っている侍女たちが、安堵の表情を浮かべていた。心配させてしまい、申し訳ない。
後でお父様に報告して、ラザフォード家にも抗議してもらいましょう。
彼を無視して、横を通り過ぎる。それで終わると思っていたのに。
「ぐあっ!?」
「え?」
「「「きゃあっ!?」」」
「止まれ! 婚約相手である俺を、無視するなッ!」
御者の苦しそうな声が聞こえてきて、それと同時に何かが馬車に当たる音がした。次の瞬間、御者の態勢が崩れ、馬車が急停止した。何かされた。攻撃されたの?
馬車が大きく揺れて、悲鳴が上がった。私と侍女たちの声。レイモンドの怒号が、車内に響き渡る。
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「大丈夫。助けが来るまで、時間を稼ぐだけだから」
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