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第2話 当主に報告
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あの後、急いで学園から自宅へ戻ってきた私。大広間の重厚な扉を押し開けると、お父様がいつもの場所に座っていた。椅子に腰掛けて、何やら書類に目を通している真っ最中。
お仕事中だったなら、邪魔したかもしれない。出直したほうが良いかしら。そんなことを考えていた私の足音に気付いたお父様が、スッと顔を上げる。
「エレノア、何か用かね?」
「はい、お父様。重要なご報告がございます。お時間よろしいでしょうか?」
「ああ、いいぞ。その、重要という報告について聞かせてくれ」
私はお父様の前に進み出て、深々と頭を下げました。そうしてから、-簡潔に説明した。
「レイモンド・ラザフォード様との婚約を破棄いたしました」
「ふむ」
その言葉に、お父様の眉が大きく動く。驚きと、何かを察するような複雑な表情を浮かべていた。
「婚約を破棄、か。一体何があったのだ。詳しく話してみなさい」
「はい」
お父様は書類を脇に置くと、席から立ち上がってテーブルに移動する。目の前の席に、私も座るようにと指示される。長い話になるのを察しているみたい。
目の前に座るお父様の眼差しは、娘の言葉を聞き逃すまいとするかのように真剣だ。私は深呼吸をして、切り出した。
「レイモンド様は、私という婚約者がおりますのに、他の女性方と不適切な関係を持っておられました。幾度となく諌めましたが、聞き入れていただけません。挙げ句の果てには、私に暴力をふるうようなこともありました」
背後から急に襟を掴まれた時のことを思い出して、怖くなる。
「そこまでされたのか。だが、なぜすぐ連絡してこなかった?」
「申し訳ございません、お父様。お手を煩われてしまうかと考えて、なるべく自分で対処しようと思っていたのです。ですが、思っていた以上に酷い状況のようで。それで、私は……」
「婚約の破棄に踏み切った、というわけだな」
お父様が言葉を引き取る。そのとおりだと、私は小さく頷いた。あんな男と一緒になる未来なんて考えたくない。
「書類にもサインを頂いております。お互いの合意の上でございます。ですが、勝手な判断でご迷惑をおかけしたかもしれません。申し訳ございませんでした」
私は再び頭を下げた。自分の非を認める気持ちと、それでも正しい判断だったという確信が入り混じっている。
「エレノア、顔を上げなさい」
言われるままに顔を上げる。お父様の表情は怒っていない。
しばらくの沈黙した後、お父様が口を開いた。
「いや、よくやった。お前の判断は正しいだろう」
その言葉に、安堵のため息が漏れた。義憤に駆られて動いたけど、やはりお父様の意向を無視したのではないか、という不安があった。
「そのまま放置すれば、ブラックウェル家も巻き込まれて危うかったかもな。それに私も、娘の不幸を看過するわけにはいかない」
お父様のご理解を得られて、本当に良かった。これで、第2段階だった父への報告は無事に終わった。
「ありがとうございます、お父様。この先、アッシュフォード家との関係はどうなるのでしょうか?」
「その辺りの処理は、私に任せておきなさい。アッシュフォード家とはしっかりと話をつけよう。今後、お前に変なちょっかいを出すようなことがあれば、私が許さん」
力強いお父様の言葉に、私は安堵のため息をついた。この後は任せても大丈夫だと思う。
「わかりました。後を、よろしくお願いします」
婚約破棄に同意した、というサインがある書類。レイモンドの動向を調べた情報や、今回の出来事についてまとめた資料をお父様に渡す。これを、役立ててほしいと思うから。
お父様に一任できるのは何よりも心強い。これで早々に、あの男との一件に決着がつけられそう。でも、この婚約破棄で両家の関係に亀裂が入るのは必至でしょうね。そう考えると、今後が少し不安になった。
お仕事中だったなら、邪魔したかもしれない。出直したほうが良いかしら。そんなことを考えていた私の足音に気付いたお父様が、スッと顔を上げる。
「エレノア、何か用かね?」
「はい、お父様。重要なご報告がございます。お時間よろしいでしょうか?」
「ああ、いいぞ。その、重要という報告について聞かせてくれ」
私はお父様の前に進み出て、深々と頭を下げました。そうしてから、-簡潔に説明した。
「レイモンド・ラザフォード様との婚約を破棄いたしました」
「ふむ」
その言葉に、お父様の眉が大きく動く。驚きと、何かを察するような複雑な表情を浮かべていた。
「婚約を破棄、か。一体何があったのだ。詳しく話してみなさい」
「はい」
お父様は書類を脇に置くと、席から立ち上がってテーブルに移動する。目の前の席に、私も座るようにと指示される。長い話になるのを察しているみたい。
目の前に座るお父様の眼差しは、娘の言葉を聞き逃すまいとするかのように真剣だ。私は深呼吸をして、切り出した。
「レイモンド様は、私という婚約者がおりますのに、他の女性方と不適切な関係を持っておられました。幾度となく諌めましたが、聞き入れていただけません。挙げ句の果てには、私に暴力をふるうようなこともありました」
背後から急に襟を掴まれた時のことを思い出して、怖くなる。
「そこまでされたのか。だが、なぜすぐ連絡してこなかった?」
「申し訳ございません、お父様。お手を煩われてしまうかと考えて、なるべく自分で対処しようと思っていたのです。ですが、思っていた以上に酷い状況のようで。それで、私は……」
「婚約の破棄に踏み切った、というわけだな」
お父様が言葉を引き取る。そのとおりだと、私は小さく頷いた。あんな男と一緒になる未来なんて考えたくない。
「書類にもサインを頂いております。お互いの合意の上でございます。ですが、勝手な判断でご迷惑をおかけしたかもしれません。申し訳ございませんでした」
私は再び頭を下げた。自分の非を認める気持ちと、それでも正しい判断だったという確信が入り混じっている。
「エレノア、顔を上げなさい」
言われるままに顔を上げる。お父様の表情は怒っていない。
しばらくの沈黙した後、お父様が口を開いた。
「いや、よくやった。お前の判断は正しいだろう」
その言葉に、安堵のため息が漏れた。義憤に駆られて動いたけど、やはりお父様の意向を無視したのではないか、という不安があった。
「そのまま放置すれば、ブラックウェル家も巻き込まれて危うかったかもな。それに私も、娘の不幸を看過するわけにはいかない」
お父様のご理解を得られて、本当に良かった。これで、第2段階だった父への報告は無事に終わった。
「ありがとうございます、お父様。この先、アッシュフォード家との関係はどうなるのでしょうか?」
「その辺りの処理は、私に任せておきなさい。アッシュフォード家とはしっかりと話をつけよう。今後、お前に変なちょっかいを出すようなことがあれば、私が許さん」
力強いお父様の言葉に、私は安堵のため息をついた。この後は任せても大丈夫だと思う。
「わかりました。後を、よろしくお願いします」
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お父様に一任できるのは何よりも心強い。これで早々に、あの男との一件に決着がつけられそう。でも、この婚約破棄で両家の関係に亀裂が入るのは必至でしょうね。そう考えると、今後が少し不安になった。
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