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第1章 姉妹編
閑話05 翌日の香織、会社での昼食
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「失礼します。社長、資料まとめておいたので、後で目を通しておいて下さい」
「ありがとう、助かったわ」
秘書の道重あゆむが、頼んでおいた資料を私のデスクの上に置きながら言った。彼女は頼んだ仕事を素早く処理してくれる、素晴らしくて頼りになる女性秘書だ。
「あれ? 社長。手作りお弁当ですか?」
道重が目ざとく、私の手元にあるお弁当に気付いた。そうなのだ、これは優くんの手作り弁当だった。
「えぇ、私の息子が作ってくれたの」
「え? 息子さんが作ってくれたのですか? 社長の手作りじゃなくて?」
「そうなのよ。私の”自慢の息子”が作ってくれて持たせてくれたのよね。それに私、料理はダメなのよ」
秘書に対して軽く自慢しながら、楽しみにしていた弁当をつつく。羨ましそうに、弁当を見てくる彼女。
「素晴らしい息子さんをお持ちですね。私の息子なんて、ずっと反抗期で弁当なんかとても作ってくれはしませんよ。そもそも、話をすることさえ、ここ何年かしていませんし……」
「あら、そうなの?」
私も以前まで、道重と同じような境遇だった。お弁当を作ってくれることなんか、ましてや普通に会話することさえ、最近はしてくれなかった。それなのに突然、弁当を作ってくれるようになったのだ。
「手作り弁当を作ってくれるなんて、本当に羨ましいです。親子の関係を良くする、何か秘訣なんてあったりするんですか?」
道重は、すがりつくような目で私を見ている。それほど、秘訣が知りたいようだ。
どうやら彼女も、息子との関係がうまくいっておらず、本当に困っているらしい。たしかに息子を持った女親ならば、是が非でも息子と仲良くしたいと思うだろう。
「うーん、秘訣なんてわからないわ。私も最近息子との関係が改善されて、向こうの方から歩み寄ってくれた感じだから」
「……そうですか」
こうなった原因は、優が倒れたからだろう。
急に倒れて、目覚めたら記憶喪失になっていた。その後、別人のように変わった。だけど、それはあまり参考にならないと思って説明はしなかった。
道重は本当に残念そうに、そう返す。仕方ないので、元気づけるようにする。
「それよりも、道重。このお弁当、一口食べてみる?」
「……良いんですか?」
内心を隠そうとしているが、かなり食いついているのはバレバレだ。男性の手作り料理を食べる機会なんて、殆ど無いだろうから。
「一口だけね。ほら」
弁当の中から、とても美味しそうな玉子焼きを箸でつまみ道重に食べさせる。幸せのおすそ分け。
「あっ、とても甘いです。それに、ふわふわの食感ですね。お店の玉子焼きとかでもここまで上手なのは、中々出会えないですよ。息子さん、料理上手なんですね」
一気に道重のテンションが上がる。どうやら、元気づける事には成功したが……。
「あの、他のおかずも一口……」
「ダメッ、これは私の弁当です。道重は、弁当屋の弁当でも食ってなさい」
残り少ないおかずを、彼女に取られる訳にはいかない。私は、お弁当を奪われないように、急いで食べ始める。
(本当に美味しい。ユウくん、こんなに料理上手かったんだ)
「社長はお弁当をお楽しみのようですし、失礼しますね」
「資料ありがとうね」
「また、食べさせて下さいね。絶対ですよ!」
デスクの上に置かれた資料を確認して、道重にお礼を言う。そして、部屋から出ていった彼女の背中を見送り、私はユウくんのお弁当を食べるのを再開した。
(サラダ、お弁当なのにシャキシャキで新鮮だわ)
(ウインナーもしっかり味付けされていて、とても美味しい)
(ご飯って、ウチの炊飯器で炊いたのかしら。こんなに美味しいなんて……)
(うわっ、なんて美味しい唐揚げなのかしら……。これ冷凍じゃないわよね)
一つ一つ、味わいながら食事していく。
全て食べ終わる頃には、とても至福な時間を過ごしていた。ユウくんが、こんなに料理が上手だったなんて知らなかった。
昨日の夕食も素晴らしかったけど、時間が経ってなおも美味さを保っている弁当の美味しさに感動してしまった。午後からの仕事も気合が入って、取り組めそうだ。
「ありがとう、助かったわ」
秘書の道重あゆむが、頼んでおいた資料を私のデスクの上に置きながら言った。彼女は頼んだ仕事を素早く処理してくれる、素晴らしくて頼りになる女性秘書だ。
「あれ? 社長。手作りお弁当ですか?」
道重が目ざとく、私の手元にあるお弁当に気付いた。そうなのだ、これは優くんの手作り弁当だった。
「えぇ、私の息子が作ってくれたの」
「え? 息子さんが作ってくれたのですか? 社長の手作りじゃなくて?」
「そうなのよ。私の”自慢の息子”が作ってくれて持たせてくれたのよね。それに私、料理はダメなのよ」
秘書に対して軽く自慢しながら、楽しみにしていた弁当をつつく。羨ましそうに、弁当を見てくる彼女。
「素晴らしい息子さんをお持ちですね。私の息子なんて、ずっと反抗期で弁当なんかとても作ってくれはしませんよ。そもそも、話をすることさえ、ここ何年かしていませんし……」
「あら、そうなの?」
私も以前まで、道重と同じような境遇だった。お弁当を作ってくれることなんか、ましてや普通に会話することさえ、最近はしてくれなかった。それなのに突然、弁当を作ってくれるようになったのだ。
「手作り弁当を作ってくれるなんて、本当に羨ましいです。親子の関係を良くする、何か秘訣なんてあったりするんですか?」
道重は、すがりつくような目で私を見ている。それほど、秘訣が知りたいようだ。
どうやら彼女も、息子との関係がうまくいっておらず、本当に困っているらしい。たしかに息子を持った女親ならば、是が非でも息子と仲良くしたいと思うだろう。
「うーん、秘訣なんてわからないわ。私も最近息子との関係が改善されて、向こうの方から歩み寄ってくれた感じだから」
「……そうですか」
こうなった原因は、優が倒れたからだろう。
急に倒れて、目覚めたら記憶喪失になっていた。その後、別人のように変わった。だけど、それはあまり参考にならないと思って説明はしなかった。
道重は本当に残念そうに、そう返す。仕方ないので、元気づけるようにする。
「それよりも、道重。このお弁当、一口食べてみる?」
「……良いんですか?」
内心を隠そうとしているが、かなり食いついているのはバレバレだ。男性の手作り料理を食べる機会なんて、殆ど無いだろうから。
「一口だけね。ほら」
弁当の中から、とても美味しそうな玉子焼きを箸でつまみ道重に食べさせる。幸せのおすそ分け。
「あっ、とても甘いです。それに、ふわふわの食感ですね。お店の玉子焼きとかでもここまで上手なのは、中々出会えないですよ。息子さん、料理上手なんですね」
一気に道重のテンションが上がる。どうやら、元気づける事には成功したが……。
「あの、他のおかずも一口……」
「ダメッ、これは私の弁当です。道重は、弁当屋の弁当でも食ってなさい」
残り少ないおかずを、彼女に取られる訳にはいかない。私は、お弁当を奪われないように、急いで食べ始める。
(本当に美味しい。ユウくん、こんなに料理上手かったんだ)
「社長はお弁当をお楽しみのようですし、失礼しますね」
「資料ありがとうね」
「また、食べさせて下さいね。絶対ですよ!」
デスクの上に置かれた資料を確認して、道重にお礼を言う。そして、部屋から出ていった彼女の背中を見送り、私はユウくんのお弁当を食べるのを再開した。
(サラダ、お弁当なのにシャキシャキで新鮮だわ)
(ウインナーもしっかり味付けされていて、とても美味しい)
(ご飯って、ウチの炊飯器で炊いたのかしら。こんなに美味しいなんて……)
(うわっ、なんて美味しい唐揚げなのかしら……。これ冷凍じゃないわよね)
一つ一つ、味わいながら食事していく。
全て食べ終わる頃には、とても至福な時間を過ごしていた。ユウくんが、こんなに料理が上手だったなんて知らなかった。
昨日の夕食も素晴らしかったけど、時間が経ってなおも美味さを保っている弁当の美味しさに感動してしまった。午後からの仕事も気合が入って、取り組めそうだ。
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