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第1章 姉妹編
閑話01 日野原時雨の場合
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日野原時雨は、オタクである。
仕事の合間のほんのひとときや就業後に、好きなライトノベルを読んだり録画しておいたアニメ視聴に時間を費やす。
最近のお気に入りは、日曜朝8時30分からやっている魔法少年のアニメだ。
代々医者の家系で、子供時代は勉強に大半を費やしたため男性との思い出は皆無。兄弟や従兄弟にも男の子はおらず、男性とほとんど初めて直接会話を交わしたのも、患者として担当した時だった。
初めての男性患者とは、あまりいい思い出ではない。
初めて喋るという緊張とちょっとした期待が漏れ出てしまったのか、それが相手の男性に伝わっていた。そして、セクハラで相手に訴えられる直前まで行った。
なんとか示談に持ち込んで事なきを得たが、それが二次元へとのめり込むきっかけとなったのだろう。
好きなキャラはツンデレで、ドジっ子もとってもいい。クーデレにも萌えながら、ヤンデレに夢を見る。
佐藤優が病院で運び込まれた時、数少ない男性医師は全員出払っていた。そのため看護師を伴って、私が彼を担当することになった。
嫌な記憶が蘇る。なるべく男性患者と関わりあいになりたくないと思いながらも、緊急だから仕方ないかと諦めて患者を迎えた。
佐藤優を見た時雨は、心を奪われるという事を初めて知った。今時はめずらしい、真っ黒な髪の毛。髪はきめ細かく、傷んだところも見当たらない。
黒の長い睫毛に、弓型に整った眉、真っ白な肌にほんのりと朱色に染まった頬だ。ちっちゃな鼻に、ぷっくりと魅力的な唇。ずっと見ていたい、美しい顔。
身長150cm程の体から伸びた可愛らしい手足。ゆっくりと上下に動く胸に、思わずにはいられなかった。
(この子の遺伝子で、子供を産みたい)
「あの、処置は?」
「ッ! 見たところ、危険な症状は出てないわね。見た目では分からないから、すぐCT検査が必要よ」
「はいッ!」
数十秒も硬直した時雨を不審に思い、声を掛ける看護師。夢の世界へ旅立っていた時雨は、現実へ戻ると優の診察を開始した。
視診の結果、特に異常が見られずただ眠っているように見えた。触診や医療機器を使った診察は、両親との相談と了承が必要なため佐藤優はひとまず男性患者専用室に運び込まれることになった。
相談の結果視診は男性看護師立ち会いのもと、医療機器を使った診察は優の母親を伴って行うことになった。
更に診察を進めても、体には何の異常が見つからなかった。ただ、よっぽどの深い眠りに入っているのか、声を掛けても反応がない。優の母が何度も体を揺すったが、起きる気配は全くなかった。
佐藤優が運ばれた初日は、原因が分からないまま過ぎた。原因が分からないので、治療の施しようもなくただ経過観察するより他はなかった。
他の担当の患者の診察を終え、いつもは休憩部屋でライトノベルを読もうかという時間だった。しかし、そんな気分になれない。
男性患者との不必要な接触は禁じられている。だけど、時雨はなんとなく佐藤優の病室へと足を運んでしまった。中に入ると、彼が眠っている。やはり、起きる気配はない。
男性と女性、どちらも一人ずつだ。ひとつの部屋に、ふたりきり。セクハラとして訴えられたら、疑いの余地なく捕まってしまうだろう状況。
ただ時雨は、その危険を犯してでも優の美しい顔を見ていたいと思った。
(なんて可愛い子なんだろうか)
***
佐藤優が病院に運ばれてきて、数日経った。時雨は、佐藤優の病室へ足を運ぶのが日課になっていた。
時雨は、処女特有の想像力を遺憾なく発揮して、患者である優とのあらゆる妄想をした。朝起きた時、通勤の時間、診察の合間、食事をしている時、寝る前などなど、様々な時間で。
彼の妖美な口からは、どんな声を出すのだろうか。性格はどうかな。女性に優しい男の子だといいなぁ。
でも、ツンツンしているのも可愛らしくて素晴らしい。趣味はなんだろう。好きな食べ物はなにかな。嫌いな食べ物はなんだろう。趣味は。どんな本を読むのだろう。どんな映画が好きなのか。よく聞く音楽はなんだろう。
佐藤優に出会ってから、時雨のオナネタは彼ただひとりきりだった。毎日、ずっと彼の妄想した蠱惑的な声で、吸い込まれそうな瞳を見つめ続けながら、美しい身体を抱きしめてみたい。
「んっ……! ふぅ」
三度オーガズムに達したら、次の日に疲れを残さないように寝てしまう。
佐藤優が目覚めたと看護師から報告された時、時雨は少しだけ落胆してしまった。不謹慎にも、ずっと目覚めないまま永遠にあの病室へ閉じ込めてしまっていたいとも考えていたからだ。
病室へ入ると、彼はベットの上で座っていた。確かに目覚めたようだ。まだ寝ぼけているのか、美しい顔はぽけっとした表情をしている。
「起きたか、佐藤優くん」
「あっ、えーっと……。はい」
(想像していた、何万倍も良い声だな。って、駄目だ駄目だ!)
時雨は彼の声にうっとりとしたが、気を取り直し診察を始めた。
佐藤優は記憶喪失だった。しかも珍しい症状のようで、自分の年齢を33歳と答えたり、状況を正しく把握しきれておらず知識にも混乱が見られた。
母親を呼び出し、さてどうやって男性医師に引き渡すか頭を悩ませた。
母親が到着した後に説明を少し行ってから、先に病室へ向かってもらう。引渡しを任せられる男性医師を確認してから、私は病室へ戻った。
「お話は、できたか?」
「あ、はい。先生」
(無理をしていないだろうか)
少しトーンが低い彼の返事する声を聞いて、そう思った。
「お母様も現状を把握出来ましたか?」
「えぇ、……少し」
少し泣いたのだろう。目が赤くなっている。泣いてしまうのも無理もないだろう。特に、息子さんに何かあったら心配と不安で心がいっぱいになるだろう。
母親が落ち着くまで、しばらく待っておく。
(はぁ……。これで、優君とはお別れかな)
母親が落ち着いたのを見計らって、口を開く。時雨は残念に思いながら、いつものセリフを患者に言った。
「それじゃあ、この後は男性医師に担当をお願いするが、それでいいだろうか」
「え? 日野原先生がいいです」
(えっ!?)
九割以上の男性は、異性である女性を担当させるのを嫌がる。優も、そうだろうと考えていた時雨は思わぬ答えに不意を突かた。優が言った言葉が聞き間違いないじゃないか、再度確認する。
「男性医師を希望しないのか?」
「あの、日野原先生がいいのですが…… ダメですか?」
優は長い睫毛を震えさせながら、頬を少し赤くさせた。
(あぁ! なんて可愛い生き物なんだ、私を萌え死させる気なのか!!)
時雨は内心の動揺を優に悟られないよう、少し早口になりながら言った。
「では、これからよろしく頼む。早速、検診の準備をしてくる。待っていてくれ」
「はい! よろしくお願いします」
にぱっと純真無垢な笑顔を向けられた時雨は、これ以上は理性が保てないと感じて名残惜しくも優から視線を外し、急いで部屋を出た。
「くはっ……はぁ、……ふぅ」
部屋を出てはふっと一呼吸する時雨。
(世の中には、あんなに笑顔が可愛い生き物がいるのか。……もう私は、彼の色気に狂わされて、ダメにされてしまったのかもしれない)
言葉使いは、女の時雨に対しても丁寧だった。礼儀正しくて、優しい性格。礼儀をわきまえた穏やかな物腰、しかも愛嬌のある男の子。
「……いひひっ」
今まで、生きてきた中で一番の出会いに幸福を感じる。思わず変な笑いが漏れ出てしまう時雨だった。
仕事の合間のほんのひとときや就業後に、好きなライトノベルを読んだり録画しておいたアニメ視聴に時間を費やす。
最近のお気に入りは、日曜朝8時30分からやっている魔法少年のアニメだ。
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初めての男性患者とは、あまりいい思い出ではない。
初めて喋るという緊張とちょっとした期待が漏れ出てしまったのか、それが相手の男性に伝わっていた。そして、セクハラで相手に訴えられる直前まで行った。
なんとか示談に持ち込んで事なきを得たが、それが二次元へとのめり込むきっかけとなったのだろう。
好きなキャラはツンデレで、ドジっ子もとってもいい。クーデレにも萌えながら、ヤンデレに夢を見る。
佐藤優が病院で運び込まれた時、数少ない男性医師は全員出払っていた。そのため看護師を伴って、私が彼を担当することになった。
嫌な記憶が蘇る。なるべく男性患者と関わりあいになりたくないと思いながらも、緊急だから仕方ないかと諦めて患者を迎えた。
佐藤優を見た時雨は、心を奪われるという事を初めて知った。今時はめずらしい、真っ黒な髪の毛。髪はきめ細かく、傷んだところも見当たらない。
黒の長い睫毛に、弓型に整った眉、真っ白な肌にほんのりと朱色に染まった頬だ。ちっちゃな鼻に、ぷっくりと魅力的な唇。ずっと見ていたい、美しい顔。
身長150cm程の体から伸びた可愛らしい手足。ゆっくりと上下に動く胸に、思わずにはいられなかった。
(この子の遺伝子で、子供を産みたい)
「あの、処置は?」
「ッ! 見たところ、危険な症状は出てないわね。見た目では分からないから、すぐCT検査が必要よ」
「はいッ!」
数十秒も硬直した時雨を不審に思い、声を掛ける看護師。夢の世界へ旅立っていた時雨は、現実へ戻ると優の診察を開始した。
視診の結果、特に異常が見られずただ眠っているように見えた。触診や医療機器を使った診察は、両親との相談と了承が必要なため佐藤優はひとまず男性患者専用室に運び込まれることになった。
相談の結果視診は男性看護師立ち会いのもと、医療機器を使った診察は優の母親を伴って行うことになった。
更に診察を進めても、体には何の異常が見つからなかった。ただ、よっぽどの深い眠りに入っているのか、声を掛けても反応がない。優の母が何度も体を揺すったが、起きる気配は全くなかった。
佐藤優が運ばれた初日は、原因が分からないまま過ぎた。原因が分からないので、治療の施しようもなくただ経過観察するより他はなかった。
他の担当の患者の診察を終え、いつもは休憩部屋でライトノベルを読もうかという時間だった。しかし、そんな気分になれない。
男性患者との不必要な接触は禁じられている。だけど、時雨はなんとなく佐藤優の病室へと足を運んでしまった。中に入ると、彼が眠っている。やはり、起きる気配はない。
男性と女性、どちらも一人ずつだ。ひとつの部屋に、ふたりきり。セクハラとして訴えられたら、疑いの余地なく捕まってしまうだろう状況。
ただ時雨は、その危険を犯してでも優の美しい顔を見ていたいと思った。
(なんて可愛い子なんだろうか)
***
佐藤優が病院に運ばれてきて、数日経った。時雨は、佐藤優の病室へ足を運ぶのが日課になっていた。
時雨は、処女特有の想像力を遺憾なく発揮して、患者である優とのあらゆる妄想をした。朝起きた時、通勤の時間、診察の合間、食事をしている時、寝る前などなど、様々な時間で。
彼の妖美な口からは、どんな声を出すのだろうか。性格はどうかな。女性に優しい男の子だといいなぁ。
でも、ツンツンしているのも可愛らしくて素晴らしい。趣味はなんだろう。好きな食べ物はなにかな。嫌いな食べ物はなんだろう。趣味は。どんな本を読むのだろう。どんな映画が好きなのか。よく聞く音楽はなんだろう。
佐藤優に出会ってから、時雨のオナネタは彼ただひとりきりだった。毎日、ずっと彼の妄想した蠱惑的な声で、吸い込まれそうな瞳を見つめ続けながら、美しい身体を抱きしめてみたい。
「んっ……! ふぅ」
三度オーガズムに達したら、次の日に疲れを残さないように寝てしまう。
佐藤優が目覚めたと看護師から報告された時、時雨は少しだけ落胆してしまった。不謹慎にも、ずっと目覚めないまま永遠にあの病室へ閉じ込めてしまっていたいとも考えていたからだ。
病室へ入ると、彼はベットの上で座っていた。確かに目覚めたようだ。まだ寝ぼけているのか、美しい顔はぽけっとした表情をしている。
「起きたか、佐藤優くん」
「あっ、えーっと……。はい」
(想像していた、何万倍も良い声だな。って、駄目だ駄目だ!)
時雨は彼の声にうっとりとしたが、気を取り直し診察を始めた。
佐藤優は記憶喪失だった。しかも珍しい症状のようで、自分の年齢を33歳と答えたり、状況を正しく把握しきれておらず知識にも混乱が見られた。
母親を呼び出し、さてどうやって男性医師に引き渡すか頭を悩ませた。
母親が到着した後に説明を少し行ってから、先に病室へ向かってもらう。引渡しを任せられる男性医師を確認してから、私は病室へ戻った。
「お話は、できたか?」
「あ、はい。先生」
(無理をしていないだろうか)
少しトーンが低い彼の返事する声を聞いて、そう思った。
「お母様も現状を把握出来ましたか?」
「えぇ、……少し」
少し泣いたのだろう。目が赤くなっている。泣いてしまうのも無理もないだろう。特に、息子さんに何かあったら心配と不安で心がいっぱいになるだろう。
母親が落ち着くまで、しばらく待っておく。
(はぁ……。これで、優君とはお別れかな)
母親が落ち着いたのを見計らって、口を開く。時雨は残念に思いながら、いつものセリフを患者に言った。
「それじゃあ、この後は男性医師に担当をお願いするが、それでいいだろうか」
「え? 日野原先生がいいです」
(えっ!?)
九割以上の男性は、異性である女性を担当させるのを嫌がる。優も、そうだろうと考えていた時雨は思わぬ答えに不意を突かた。優が言った言葉が聞き間違いないじゃないか、再度確認する。
「男性医師を希望しないのか?」
「あの、日野原先生がいいのですが…… ダメですか?」
優は長い睫毛を震えさせながら、頬を少し赤くさせた。
(あぁ! なんて可愛い生き物なんだ、私を萌え死させる気なのか!!)
時雨は内心の動揺を優に悟られないよう、少し早口になりながら言った。
「では、これからよろしく頼む。早速、検診の準備をしてくる。待っていてくれ」
「はい! よろしくお願いします」
にぱっと純真無垢な笑顔を向けられた時雨は、これ以上は理性が保てないと感じて名残惜しくも優から視線を外し、急いで部屋を出た。
「くはっ……はぁ、……ふぅ」
部屋を出てはふっと一呼吸する時雨。
(世の中には、あんなに笑顔が可愛い生き物がいるのか。……もう私は、彼の色気に狂わされて、ダメにされてしまったのかもしれない)
言葉使いは、女の時雨に対しても丁寧だった。礼儀正しくて、優しい性格。礼儀をわきまえた穏やかな物腰、しかも愛嬌のある男の子。
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