婚約相手と一緒についてきた幼馴染が、我が物顔で人の屋敷で暮らし、勝手に婚約破棄を告げてきた件について

キョウキョウ

文字の大きさ
上 下
12 / 31

第12話 平穏な日々

しおりを挟む
 屋敷が落ち着きを取り戻してから、しばらくの月日が経過していた。

 私はカナリニッジ侯爵家の当主として、仕事に追われる日々を送っている。領内の食料供給を安定させ、治安を維持する。反乱が起きないように法を整備して、不安の芽を摘み取り、犯罪者には厳しい処罰を行う。

 領地の経営は、かなり順調。領民の生活は安定して、税収も上がった。面倒な連中が屋敷から居なくなったのが大きいだろう。集中して、自分の仕事に取り組めた。

 そんな忙しい日々を過ごしていると、あっという間に時間は過ぎていく。



 ライトナム侯爵家から婚約破棄の件について謝罪があり、その謝罪を受け入れると返答。一旦の和解が成立した。だが、関係が改善されたわけではない。

 表面上は友好的な関係を装っているものの、水面下では相手の出方を探り合っている状態だった。貴族社会とは、そんな世界。

 ライトナム侯爵家の当主は、デーヴィスを使ってカナリニッジ侯爵家の乗っ取りを計画していた可能性が高い。なので、警戒を続けている。向こうは、なんとか婚約関係を元通りにしたいという思惑があるようだが、断固として拒否している。

 私とデーヴィスの関係が元に戻る可能性は一切ない。

 ただ問題なのは、新しい婚約相手の候補が見つからないことだ。条件に合うような男性がなかなか見つからなかった。早く決めないと、跡継ぎ問題で困ることになる。既に困っているけれど、もっと困ることになる。

 そんな私の状況を把握しているのか、元婚約者となったデーヴィスが最近しつこく復縁を迫ってくる。馬鹿馬鹿しい手紙を、何度も繰り返し送りつけてくる。無視しても、全く諦める様子がない。もちろん、絶対に受け入れない。前の関係に戻ることは絶対にないだろう。

 屋敷から居なくなった後も、面倒な男だと思った。こんな男が婚約相手だったなんて。そして、将来結婚する予定だったなんて……。改めて考えてみると、ゾッとする。もう過去の話だけれど、嫌悪感が込み上げてきた。

 気分を変えるために、椅子から立ち上がって窓の外を眺める。いい天気ね。

「はぁ……」

 ここ最近ずっと私の頭を悩ませている跡継ぎ問題については、しばらく解決するのが難しそう。候補の相手が見つからない。どうにかしないといけないと、常に考えていた。だが、そんな都合の良い相手が残っているはずもなく。やっぱりデーヴィスと復縁して、子供を作るまで我慢しないといけないのかしら。

 じっくり考えてみるが絶対にダメ。それを受け入れてしまうと、カナリニッジ侯爵家の当主が軽く見られてしまう。威厳を保つために、それだけはできないわ。

 でも他に方法がないのよね……。本当に困ったものだわ。

 私本人の気持ちとしても、嫌だから。なんとしても、他の方法を考えないと。

「ん? あれは」

 窓の外に視線を向けると、こちらに向かってくる馬車が視界に入った。

 馬車についている紋章は、ノルイン公爵家のはず。つまり、あの馬車に乗っているのは公爵家の関係者? 何の用事かしら?

 ノルイン公爵って、うちと何か関係があったかしら。記憶を遡っても、特に思い当たらない。心当たりがなかった。考えても分からないので、直接確認するしかないわね。とりあえず出迎えましょう。

 私は疑問に思いながら、急に屋敷にやって来た客人の出迎えを準備するために動き出した。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」

ゆる
恋愛
平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる 婚約者を平民との恋のために捨てた王子が見た、輝く未来。 それは、自分を裏切ったはずの侯爵令嬢の背中だった――。 グランシェル侯爵令嬢マイラは、次期国王の弟であるラウル王子の婚約者。 将来を約束された華やかな日々が待っている――はずだった。 しかしある日、ラウルは「愛する平民の女性」と結婚するため、婚約破棄を一方的に宣言する。 婚約破棄の衝撃、社交界での嘲笑、周囲からの冷たい視線……。 一時は心が折れそうになったマイラだが、父である侯爵や信頼できる仲間たちとともに、自らの人生を切り拓いていく決意をする。 一方、ラウルは平民女性リリアとの恋を選ぶものの、周囲からの反発や王家からの追放に直面。 「息苦しい」と捨てた婚約者が、王都で輝かしい成功を収めていく様子を知り、彼が抱えるのは後悔と挫折だった。

結婚を先延ばしにされたのは婚約者が妹のことを好きだったからでした。妹は既婚者なので波乱の予感しかしません。

田太 優
恋愛
結婚を先延ばしにされ続け、私は我慢の限界だった。 曖昧な態度を取り続ける婚約者に婚約破棄する覚悟で結婚する気があるのか訊いたところ、妹のことが好きだったと言われ、婚約を解消したいと言われた。 妹は既婚者で夫婦関係も良好。 もし妹の幸せを壊そうとするなら私は容赦しない。

殿下に裏切られたことを感謝しています。だから妹と一緒に幸せになってください。なれるのであれば。

田太 優
恋愛
王子の誕生日パーティーは私を婚約者として正式に発表する場のはずだった。 しかし、事もあろうか王子は妹の嘘を信じて冤罪で私を断罪したのだ。 追い出された私は王家との関係を優先した親からも追い出される。 でも…面倒なことから解放され、私はやっと自分らしく生きられるようになった。

お前を愛することはないと言われたので、愛人を作りましょうか

碧桜 汐香
恋愛
結婚初夜に“お前を愛することはない”と言われたシャーリー。 いや、おたくの子爵家の負債事業を買い取る契約に基づく結婚なのですが、と言うこともなく、結婚生活についての契約条項を詰めていく。 どんな契約よりも強いという誓約魔法を使って、全てを取り決めた5年後……。

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?

ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。 レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。 アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。 ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。 そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。 上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。 「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

結婚式間近に発覚した隠し子の存在。裏切っただけでも問題なのに、何が悪いのか理解できないような人とは結婚できません!

田太 優
恋愛
結婚して幸せになれるはずだったのに婚約者には隠し子がいた。 しかもそのことを何ら悪いとは思っていない様子。 そんな人とは結婚できるはずもなく、婚約破棄するのも当然のこと。

【完結】婚約破棄させた本当の黒幕は?

山葵
恋愛
「お前との婚約は破棄させて貰うっ!!」 「お義姉樣、ごめんなさい。ミアがいけないの…。お義姉様の婚約者と知りながらカイン様を好きになる気持ちが抑えられなくて…ごめんなさい。」 「そう、貴方達…」 「お義姉様は、どうか泣かないで下さい。激怒しているのも分かりますが、怒鳴らないで。こんな所で泣き喚けばお姉様の立場が悪くなりますよ?」 あぁわざわざパーティー会場で婚約破棄したのは、私の立場を貶める為だったのね。 悪いと言いながら、怯えた様に私の元婚約者に縋り付き、カインが見えない様に私を蔑み嘲笑う義妹。 本当に強かな悪女だ。 けれどね、私は貴女の期待通りにならないのよ♪

完璧な妹に全てを奪われた私に微笑んでくれたのは

今川幸乃
恋愛
ファーレン王国の大貴族、エルガルド公爵家には二人の姉妹がいた。 長女セシルは真面目だったが、何をやっても人並ぐらいの出来にしかならなかった。 次女リリーは逆に学問も手習いも容姿も図抜けていた。 リリー、両親、学問の先生などセシルに関わる人たちは皆彼女を「出来損ない」と蔑み、いじめを行う。 そんな時、王太子のクリストフと公爵家の縁談が持ち上がる。 父はリリーを推薦するが、クリストフは「二人に会って判断したい」と言った。 「どうせ会ってもリリーが選ばれる」と思ったセシルだったが、思わぬ方法でクリストフはリリーの本性を見抜くのだった。

処理中です...