上 下
26 / 28

第26話 不一致 ※フェリベール王子視点

しおりを挟む
「お久しぶりです、フィリベール殿下」
「お、おう。久しぶりだなレティシア」

 最初は、和やかに挨拶することが出来た。久しぶりに再会したが、レティシアとは普通に話せている。

 婚約を破棄したことや辺境に送ったことは気にしていない様子だった。何の問題もないようで安心する。これなら、ちゃんと話し合えば元通りに出来そうだな。

 そう思って話しているうちに、衝撃の事実が発覚した。

「私達、結婚しましたから」

 レティシアは、そう言った。聞き間違いじゃない。だけど、信じられない。彼女が他の誰かと結婚したなんて。そんなの嘘だろう。受け入れられない。

 だって彼女は、俺の婚約相手だったのに。

 レティシアとの婚約を破棄して、新しい婚約相手に勧めたのは俺だ。けれど、それには理由があった。彼女よりも自分の方が立場が上であることを理解させるために、やったこと。今考えたら、本当に馬鹿だった。もう分かっている。でも、こんな事になるなんて。酷すぎるだろう。

「こんな男より、俺の方が良いに決まっている。そうだろう?」

 肯定してくれることを信じて、レティシアに問いかけた。だが、返ってきた言葉は俺の求めているものじゃなかった。

「もちろん、彼を選ぶに決まっています」
「なっ!?」

 レティシアは、横に立っていた男に抱きついて笑った。俺が初めて見る、心からの笑顔だった。俺に対しては絶対に見せなかった表情。それを、見せつけられた。

「そんな男の、どこが良いんだ!? 周りから、酷い目で見られているのを感じないのか。お前まで、同じように見られるんだぞ!」

 思わず言っていた。そうだ。そんな男と一緒に居たら、レティシアが不幸になってしまうから。彼女のことを思って、俺は忠告しているのに。

「私の事を心配してくださるんですか? ありがとうございます。ですが、心配無用ですわ。どんな視線を向けられても、私にはブレイク様がいらっしゃいますもの」
「……っ! 本当に、その男が好きなのか?」
「ええ、私はブレイク様を愛しています」

 そう言われて、理解した。彼女は本気で言っている。もう手遅れだった。

 あまりの悔しさに、唇を噛んだ。強く噛み続けた。口の中に血の味が広がる。悔しい。悲しい。辛い。どうしてこうなったのか。あの時に俺が、彼女との婚約を破棄してしまったからだろう。

「お前が……、そこまで言うのなら……」

 彼女の返事も聞かないで、急いでその場を離れた。気付いた時には、自室に居た。全身の力が抜けて、ベッドに倒れ込む。そして俺は、考え続けた。

 もしかして俺は、今まで勘違いしていたのか。レティシアに、嫌われていたのか。どうして嫌われたのか、本気で分からない。

 どこで嫌われたのか。いつから嫌われていたのか。おそらく、彼女との婚約を破棄してしまったのがダメだった。

 もう元通りにはならないことだけは、理解した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】妹に婚約者を奪われた傷あり令嬢は、化け物伯爵と幸せを掴む

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
伯爵令嬢リューディアは侯爵家次男アルヴィと婚約が決まり友人に祝福されていた。親同士が決めたとはいえ、美しく人気のあるアルヴィとの婚約はリューディアにとっても嬉しいことだった。 しかし腹違いの妹カイヤはそれを妬み、母親と共謀してリューディアの顔に傷をつけた。赤く醜い跡が残り、口元も歪んでしまったリューディア。婚約は解消され、新たにカイヤと結び直された。 もう私の人生は終わったと、部屋に閉じこもっていたリューディア。その時、化け物のように醜い容姿の辺境伯から縁談が持ちかけられる。このままカイヤたちと一緒に暮らすぐらいならと、その縁談を受けることにした。 見合い当日、辺境伯は大きな傷があるリューディアに驚くが、お互いの利害が一致したことで二人は結婚を決意する。 顔と心に大きな傷を負ったヒロインが、優しいヒーローに溺愛されて癒されていくお話です。 ※傷やあざの描写があります。苦手な方はご遠慮ください。 ※溺愛タグは初めてなので、上手く表現できていないかもしれません。ゆるっと見守ってください。

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。

蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。 しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。 自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。 そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。 一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。 ※カクヨムさまにも掲載しています。

前世を思い出した我儘王女は心を入れ替える。人は見た目だけではありませんわよ(おまいう)

多賀 はるみ
恋愛
 私、ミリアリア・フォン・シュツットはミターメ王国の第一王女として生を受けた。この国の外見の美しい基準は、存在感があるかないか。外見が主張しなければしないほど美しいとされる世界。  そんな世界で絶世の美少女として、我儘し放題過ごしていたある日、ある事件をきっかけに日本人として生きていた前世を思い出す。あれ?今まで私より容姿が劣っていると思っていたお兄様と、お兄様のお友達の公爵子息のエドワルド・エイガさま、めちゃめちゃ整った顔してない?  今まで我儘ばっかり、最悪な態度をとって、ごめんなさい(泣)エドワルドさま、まじで私の理想のお顔。あなたに好きになってもらえるように頑張ります! -------だいぶふわふわ設定です。

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

婚約破棄でも構いませんが国が滅びますよ?

亜綺羅もも
恋愛
シルビア・マックイーナは神によって選ばれた聖女であった。 ソルディッチという国は、代々国王が聖女を娶ることによって存続を約束された国だ。 だがシェイク・ソルディッチはシルビアという婚約者を捨て、ヒメラルダという美女と結婚すると言い出した。 シルビアは別段気にするような素振りも見せず、シェイクの婚約破棄を受け入れる。 それはソルディッチの終わりの始まりであった。 それを知っているシルビアはソルディッチを離れ、アールモンドという国に流れ着く。 そこで出会った、アレン・アールモンドと恋に落ちる。 ※完結保証

王太子に婚約破棄され奈落に落とされた伯爵令嬢は、実は聖女で聖獣に溺愛され奈落を開拓することになりました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...