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第9話 商人の友人と

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「ようこそ、マティアス」
「おはよう、クリスティーナ」

 親しげに挨拶を交わしたのは、商人のマティアス。まだまだ年若い青年の彼だが、ヴィーダー商会という大規模な商業上の組織を束ねている長である。

 多数の部下を抱えている彼が、今日は一人で私の部屋に訪れた。部下達は、屋敷の外で待機させているのでしょうか。

 その部屋には、私とマティアス。それから、メイドが数名だけ待機している。他に誰もいない。マティアスは一人で、私の関係者が多数。

 おそらく、私のことを信用してくれている、ということなのでしょう。

 彼は私に商売の基本を教えてくれた先生であり、色々と語り合って気を許している友人でもあり、成果を競い合うライバルというような関係だった。

 テーブルを間に挟んで、彼と向かい合うようにして座った。

「昨晩、アーヴァイン王子に婚約を破棄されたと聞いたが。意外と元気そうだね」

 まず最初にマティアスが口を開いた。彼は私の顔をじっくりと観察した後に、そう言った。どうやら、その件について心配してくれたらしい。

「えぇ、そうね。むしろ、今のタイミングで婚約破棄を告げられて良かったと思っているわ。王子と結婚した後だと、色々と面倒そうだから」
「なるほど、ね」

 私が結婚したら、すぐにアーヴァイン王子が即位するという計画があった。結婚の予定は、まだ正式には決まっていなかったけれど。婚約は破棄されてしまったので、その計画も再検討することになるでしょう。

 ワイルデン子爵家の令嬢であるエステルという名の子がアーヴァイン王子の新たな婚約相手になり、王妃候補となったようだけど。これから、どうなるのかしら。

 まぁ今は、そんなことよりも。

「マティアスは、どうやって私がこっちの屋敷に移っているのを知ったの?」
「君の元実家であるミントン伯爵家で働いている使用人が、知らせてくれたんだよ」
「なるほど。そういえば、あの屋敷にはマティアスの商会から派遣されてきた人達が多かったわね」

 彼の話を聞いて、納得した。使用人から情報を得ていたらしい。ミントン伯爵家を追い出されたことも、マティアスは知っていた。やはり、情報を得るのが早い。

「それで昨晩のうちに君の行き先を探って、この屋敷に居ることがすぐに判明した。この物件を保有しているのは、君だったからね。だから、すぐに行き先は分かった」
「そうね。貴方に紹介してもらった商人と取引して、この物件を買ったのよね」

 マティアスに紹介してもらって、知り合うことになった商人から、この物件を購入した。それは、よく覚えていた。

「ところで、あの事業はどうする? 君の立場が変わって、今までの計画を修正する必要があるだろう?」
「そうね。私も、それを考えていたのよ」

 やはり、彼も気になっていたらしい。私達の計画について、話し合う必要がある。

「君の立場が変わってしまったから、あの計画は――」
「なるほど。それじゃあ、あの部分を――」
「それだと、不足するね。それだけじゃなくて――」
「そうね。それも考える必要が――」

 そこから私達は、今後について色々と議論した。修正する必要のある予定と計画。今後の展開と予想。ロアリルダ王国が、どう変化していくのか。

 時間をかけて、じっくりと打ち合わせをした。
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