9 / 37
第9話 商人の友人と
しおりを挟む
「ようこそ、マティアス」
「おはよう、クリスティーナ」
親しげに挨拶を交わしたのは、商人のマティアス。まだまだ年若い青年の彼だが、ヴィーダー商会という大規模な商業上の組織を束ねている長である。
多数の部下を抱えている彼が、今日は一人で私の部屋に訪れた。部下達は、屋敷の外で待機させているのでしょうか。
その部屋には、私とマティアス。それから、メイドが数名だけ待機している。他に誰もいない。マティアスは一人で、私の関係者が多数。
おそらく、私のことを信用してくれている、ということなのでしょう。
彼は私に商売の基本を教えてくれた先生であり、色々と語り合って気を許している友人でもあり、成果を競い合うライバルというような関係だった。
テーブルを間に挟んで、彼と向かい合うようにして座った。
「昨晩、アーヴァイン王子に婚約を破棄されたと聞いたが。意外と元気そうだね」
まず最初にマティアスが口を開いた。彼は私の顔をじっくりと観察した後に、そう言った。どうやら、その件について心配してくれたらしい。
「えぇ、そうね。むしろ、今のタイミングで婚約破棄を告げられて良かったと思っているわ。王子と結婚した後だと、色々と面倒そうだから」
「なるほど、ね」
私が結婚したら、すぐにアーヴァイン王子が即位するという計画があった。結婚の予定は、まだ正式には決まっていなかったけれど。婚約は破棄されてしまったので、その計画も再検討することになるでしょう。
ワイルデン子爵家の令嬢であるエステルという名の子がアーヴァイン王子の新たな婚約相手になり、王妃候補となったようだけど。これから、どうなるのかしら。
まぁ今は、そんなことよりも。
「マティアスは、どうやって私がこっちの屋敷に移っているのを知ったの?」
「君の元実家であるミントン伯爵家で働いている使用人が、知らせてくれたんだよ」
「なるほど。そういえば、あの屋敷にはマティアスの商会から派遣されてきた人達が多かったわね」
彼の話を聞いて、納得した。使用人から情報を得ていたらしい。ミントン伯爵家を追い出されたことも、マティアスは知っていた。やはり、情報を得るのが早い。
「それで昨晩のうちに君の行き先を探って、この屋敷に居ることがすぐに判明した。この物件を保有しているのは、君だったからね。だから、すぐに行き先は分かった」
「そうね。貴方に紹介してもらった商人と取引して、この物件を買ったのよね」
マティアスに紹介してもらって、知り合うことになった商人から、この物件を購入した。それは、よく覚えていた。
「ところで、あの事業はどうする? 君の立場が変わって、今までの計画を修正する必要があるだろう?」
「そうね。私も、それを考えていたのよ」
やはり、彼も気になっていたらしい。私達の計画について、話し合う必要がある。
「君の立場が変わってしまったから、あの計画は――」
「なるほど。それじゃあ、あの部分を――」
「それだと、不足するね。それだけじゃなくて――」
「そうね。それも考える必要が――」
そこから私達は、今後について色々と議論した。修正する必要のある予定と計画。今後の展開と予想。ロアリルダ王国が、どう変化していくのか。
時間をかけて、じっくりと打ち合わせをした。
「おはよう、クリスティーナ」
親しげに挨拶を交わしたのは、商人のマティアス。まだまだ年若い青年の彼だが、ヴィーダー商会という大規模な商業上の組織を束ねている長である。
多数の部下を抱えている彼が、今日は一人で私の部屋に訪れた。部下達は、屋敷の外で待機させているのでしょうか。
その部屋には、私とマティアス。それから、メイドが数名だけ待機している。他に誰もいない。マティアスは一人で、私の関係者が多数。
おそらく、私のことを信用してくれている、ということなのでしょう。
彼は私に商売の基本を教えてくれた先生であり、色々と語り合って気を許している友人でもあり、成果を競い合うライバルというような関係だった。
テーブルを間に挟んで、彼と向かい合うようにして座った。
「昨晩、アーヴァイン王子に婚約を破棄されたと聞いたが。意外と元気そうだね」
まず最初にマティアスが口を開いた。彼は私の顔をじっくりと観察した後に、そう言った。どうやら、その件について心配してくれたらしい。
「えぇ、そうね。むしろ、今のタイミングで婚約破棄を告げられて良かったと思っているわ。王子と結婚した後だと、色々と面倒そうだから」
「なるほど、ね」
私が結婚したら、すぐにアーヴァイン王子が即位するという計画があった。結婚の予定は、まだ正式には決まっていなかったけれど。婚約は破棄されてしまったので、その計画も再検討することになるでしょう。
ワイルデン子爵家の令嬢であるエステルという名の子がアーヴァイン王子の新たな婚約相手になり、王妃候補となったようだけど。これから、どうなるのかしら。
まぁ今は、そんなことよりも。
「マティアスは、どうやって私がこっちの屋敷に移っているのを知ったの?」
「君の元実家であるミントン伯爵家で働いている使用人が、知らせてくれたんだよ」
「なるほど。そういえば、あの屋敷にはマティアスの商会から派遣されてきた人達が多かったわね」
彼の話を聞いて、納得した。使用人から情報を得ていたらしい。ミントン伯爵家を追い出されたことも、マティアスは知っていた。やはり、情報を得るのが早い。
「それで昨晩のうちに君の行き先を探って、この屋敷に居ることがすぐに判明した。この物件を保有しているのは、君だったからね。だから、すぐに行き先は分かった」
「そうね。貴方に紹介してもらった商人と取引して、この物件を買ったのよね」
マティアスに紹介してもらって、知り合うことになった商人から、この物件を購入した。それは、よく覚えていた。
「ところで、あの事業はどうする? 君の立場が変わって、今までの計画を修正する必要があるだろう?」
「そうね。私も、それを考えていたのよ」
やはり、彼も気になっていたらしい。私達の計画について、話し合う必要がある。
「君の立場が変わってしまったから、あの計画は――」
「なるほど。それじゃあ、あの部分を――」
「それだと、不足するね。それだけじゃなくて――」
「そうね。それも考える必要が――」
そこから私達は、今後について色々と議論した。修正する必要のある予定と計画。今後の展開と予想。ロアリルダ王国が、どう変化していくのか。
時間をかけて、じっくりと打ち合わせをした。
27
お気に入りに追加
1,289
あなたにおすすめの小説
ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
魔力ゼロと判明した途端、婚約破棄されて両親から勘当を言い渡されました。でも実は世界最高レベルの魔力総量だったみたいです
ひじり
恋愛
生まれつき、ノアは魔力がゼロだった。
侯爵位を授かるアルゴール家の長女として厳しく育てられてきた。
アルゴールの血筋の者は、誰もが高い魔力量を持っていたが、何故かノアだけは歳を重ねても魔力量がゼロから増えることは無く、故にノアの両親はそれをひた隠しにしてきた。
同じく侯爵位のホルストン家の嫡男モルドアとの婚約が決まるが、両親から魔力ゼロのことは絶対に伏せておくように命じられた。
しかし婚約相手に嘘を吐くことが出来なかったノアは、自分の魔力量がゼロであることをモルドアに打ち明け、受け入れてもらおうと考えた。
だが、秘密を打ち明けた途端、モルドアは冷酷に言い捨てる。
「悪いけど、きみとの婚約は破棄させてもらう」
元々、これは政略的な婚約であった。
アルゴール家は、王家との繋がりを持つホルストン家との関係を強固とする為に。
逆にホルストン家は、高い魔力を持つアルゴール家の血を欲し、地位を盤石のものとする為に。
だからこれは当然の結果だ。魔力がゼロのノアには、何の価値もない。
婚約を破棄されたことを両親に伝えると、モルドアの時と同じように冷たい視線をぶつけられ、一言。
「失せろ、この出来損ないが」
両親から勘当を言い渡されたノアだが、己の境遇に悲観はしなかった。
魔力ゼロのノアが両親にも秘密にしていた将来の夢、それは賢者になることだった。
政略結婚の呪縛から解き放たれたことに感謝し、ノアは単身、王都へと乗り込むことに。
だが、冒険者になってからも差別が続く。
魔力ゼロと知れると、誰もパーティーに入れてはくれない。ようやく入れてもらえたパーティーでは、荷物持ちとしてこき使われる始末だ。
そして冒険者になってから僅か半年、ノアはクビを宣告される。
心を折られて涙を流すノアのもとに、冒険者登録を終えたばかりのロイルが手を差し伸べ、仲間になってほしいと告げられる。
ロイルの話によると、ノアは魔力がゼロなのではなく、眠っているだけらしい。
魔力に触れることが出来るロイルの力で、ノアは自分の体の奥底に眠っていた魔力を呼び覚ます。
その日、ノアは初めて魔法を使うことが出来た。しかもその威力は通常の比ではない。
何故ならば、ノアの体に眠っている魔力の総量は、世界最高レベルのものだったから。
これは、魔力ゼロの出来損ないと呼ばれた女賢者ノアと、元王族の魔眼使いロイルが紡ぐ、少し過激な恋物語である。
婚約破棄されたので、聖女になりました。けど、こんな国の為には働けません。自分の王国を建設します。
ぽっちゃりおっさん
恋愛
公爵であるアルフォンス家一人息子ボクリアと婚約していた貴族の娘サラ。
しかし公爵から一方的に婚約破棄を告げられる。
屈辱の日々を送っていたサラは、15歳の洗礼を受ける日に【聖女】としての啓示を受けた。
【聖女】としてのスタートを切るが、幸運を祈る相手が、あの憎っくきアルフォンス家であった。
差別主義者のアルフォンス家の為には、祈る気にはなれず、サラは国を飛び出してしまう。
そこでサラが取った決断は?
妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした
水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」
子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。
彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。
彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。
こんなこと、許されることではない。
そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。
完全に、シルビアの味方なのだ。
しかも……。
「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」
私はお父様から追放を宣言された。
必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。
「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」
お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。
その目は、娘を見る目ではなかった。
「惨めね、お姉さま……」
シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。
そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。
途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。
一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。
婚約者に冤罪をかけられ島流しされたのでスローライフを楽しみます!
ユウ
恋愛
侯爵令嬢であるアーデルハイドは妹を苛めた罪により婚約者に捨てられ流罪にされた。
全ては仕組まれたことだったが、幼少期からお姫様のように愛された妹のことしか耳を貸さない母に、母に言いなりだった父に弁解することもなかった。
言われるがまま島流しの刑を受けるも、その先は隣国の南の島だった。
食料が豊作で誰の目を気にすることなく自由に過ごせる島はまさにパラダイス。
アーデルハイドは家族の事も国も忘れて悠々自適な生活を送る中、一人の少年に出会う。
その一方でアーデルハイドを追い出し本当のお姫様になったつもりでいたアイシャは、真面な淑女教育を受けてこなかったので、社交界で四面楚歌になってしまう。
幸せのはずが不幸のドン底に落ちたアイシャは姉の不幸を願いながら南国に向かうが…
聖女として全力を尽くしてまいりました。しかし、好色王子に婚約破棄された挙句に国を追放されました。国がどうなるか分かっていますか?
宮城 晟峰
ファンタジー
代々、受け継がれてきた聖女の力。
それは、神との誓約のもと、決して誰にも漏らしてはいけない秘密だった。
そんな事とは知らないバカな王子に、聖女アティアは追放されてしまう。
アティアは葛藤の中、国を去り、不毛の地と言われた隣国を豊穣な地へと変えていく。
その話を聞きつけ、王子、もといい王となっていた青年は、彼女のもとを訪れるのだが……。
※完結いたしました。お読みいただきありがとうございました。
辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜
津ヶ谷
恋愛
ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。
次期公爵との婚約も決まっていた。
しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。
次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。
そう、妹に婚約者を奪われたのである。
そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。
そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。
次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。
これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。
仕事ができないと王宮を追放されましたが、実は豊穣の加護で王国の財政を回していた私。王国の破滅が残念でなりません
新野乃花(大舟)
恋愛
ミリアは王国の財政を一任されていたものの、国王の無茶な要求を叶えられないことを理由に無能の烙印を押され、挙句王宮を追放されてしまう。…しかし、彼女は豊穣の加護を有しており、その力でかろうじて王国は財政的破綻を免れていた。…しかし彼女が王宮を去った今、ついに王国崩壊の時が着々と訪れつつあった…。
※カクヨムにも投稿しています!
※アルファポリスには以前、短いSSとして投稿していたものです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる