31 / 36
第31話 彼女の最期 ※ヴァネッサ視点
しおりを挟む
目を覚ますと、私は冷たい部屋にいた。頭が痛い。ここはどこ。周りを見渡せば、むき出しの岩壁に囲まれた薄暗い部屋だった。まるで牢屋のようだ。
私は粗末なベッドから立ち上がり、扉を開けようとした。びくともしない。これは間違いなく、閉じ込められている。
「なんなのよ、これ」
イライラしたが、しばらくして落ち着いた。きっと、アルフレッド様が助けに来てくれるはず。私はそれを信じて、ただ待つことにした。
私は幸運だから、最終的には助かるはず。そう思っていた。
「きゃっ!?」
不意に扉が開く音がした。私は慌てて部屋の隅に移動して、警戒しながらその方向を見つめる。
「目を覚ましたか」
鎧を着た男が、私を見下ろしながら言った。腰には剣が下げられている。逃げ出すには、彼を突破するしかなさそうだ。無理はしない。
「あなたは、誰? ここはどこなの?」
私は静かに問いかけた。けれども、男は答えようとしない。代わりに、私に質問を投げかけてくる。
「お前は、自分のしたことを覚えているか?」
「はぁ? そんなこと、どうでもいいから。早く、アルフレッド様のところへ連れて行ってよ!」
男は王国の兵士のようだ。なら、私の命令に従うべきよ。私は、アルフレッド様に愛されている。このことをアルフレッド様に伝えたら、彼が怒って兵士は大変なことになるはずだ。
だが、男は一向に動こうとしない。続けて言った。
「質問に答えようとしないとは、面倒だな。うーん。そうだな」
「何をブツブツ言ってるの? 早くここから、出しなさいよ!」
「情報は期待しないと言っていたし、処刑も決まっているんだ。なら、さっさと始めてしまおうか」
「何を言って……? な、なに?」
混乱する私の前で、さらに兵士たちが部屋へと入ってくる。
「ちょ、ちょっと! いやっ! ンッ――」
彼らは容赦なく私を拘束し、薄暗い廊下へ引きずり出されれる。口には布を詰められ、声を上げることもできない。
なんなの、この扱い! 私は、これから貴族の養子に迎えてもらって貴族の立場を得て、アルフレッド様の婚約相手になり、王妃になるような女なのに。
「んっ――! んんっ!」
連れて行かれた先は、鳥肌が立つほど血なまぐさい部屋だった。
「まだ若いのに、可愛そうだ」
「でも仕方ないだろ。公爵家の令嬢に危害を加えたそうだから」
「さっさと終わらせて忘れようぜ」
「そうだな」
兵士たちのぞんざいな会話が聞こえる。
私は鉄の箱に押し込められ、身動きが取れなくなった。蓋が閉じられる音がして、暗闇に包まれる。その瞬間、体中に熱さと激痛が走った。そのせいで集中することが出来ず、魔法も発動することが出来ない。
「っ! ンンッ――!」
まさか、本当にこんなところであっさりと死んでしまうの? そんなの絶対に嫌。誰か助けて。アルフレッド様!
心の中で、アルフレッド様の名を呼ぶ。どうか助けに来てと、私はただひたすらに祈った。だけど、誰も助けには来てくれなかった。
こうして、平民の女ヴァネッサは、公爵令嬢への危害を理由に人知れず処刑されるのだった。
自分は幸運で、アルフレッド王子に愛されていると信じていた。だからこそ、取り返しのつかない過ちをしてしまった。
自分の命を引き換えにするなんて、そんな大きな代償になるとは予想していなかった。
私は粗末なベッドから立ち上がり、扉を開けようとした。びくともしない。これは間違いなく、閉じ込められている。
「なんなのよ、これ」
イライラしたが、しばらくして落ち着いた。きっと、アルフレッド様が助けに来てくれるはず。私はそれを信じて、ただ待つことにした。
私は幸運だから、最終的には助かるはず。そう思っていた。
「きゃっ!?」
不意に扉が開く音がした。私は慌てて部屋の隅に移動して、警戒しながらその方向を見つめる。
「目を覚ましたか」
鎧を着た男が、私を見下ろしながら言った。腰には剣が下げられている。逃げ出すには、彼を突破するしかなさそうだ。無理はしない。
「あなたは、誰? ここはどこなの?」
私は静かに問いかけた。けれども、男は答えようとしない。代わりに、私に質問を投げかけてくる。
「お前は、自分のしたことを覚えているか?」
「はぁ? そんなこと、どうでもいいから。早く、アルフレッド様のところへ連れて行ってよ!」
男は王国の兵士のようだ。なら、私の命令に従うべきよ。私は、アルフレッド様に愛されている。このことをアルフレッド様に伝えたら、彼が怒って兵士は大変なことになるはずだ。
だが、男は一向に動こうとしない。続けて言った。
「質問に答えようとしないとは、面倒だな。うーん。そうだな」
「何をブツブツ言ってるの? 早くここから、出しなさいよ!」
「情報は期待しないと言っていたし、処刑も決まっているんだ。なら、さっさと始めてしまおうか」
「何を言って……? な、なに?」
混乱する私の前で、さらに兵士たちが部屋へと入ってくる。
「ちょ、ちょっと! いやっ! ンッ――」
彼らは容赦なく私を拘束し、薄暗い廊下へ引きずり出されれる。口には布を詰められ、声を上げることもできない。
なんなの、この扱い! 私は、これから貴族の養子に迎えてもらって貴族の立場を得て、アルフレッド様の婚約相手になり、王妃になるような女なのに。
「んっ――! んんっ!」
連れて行かれた先は、鳥肌が立つほど血なまぐさい部屋だった。
「まだ若いのに、可愛そうだ」
「でも仕方ないだろ。公爵家の令嬢に危害を加えたそうだから」
「さっさと終わらせて忘れようぜ」
「そうだな」
兵士たちのぞんざいな会話が聞こえる。
私は鉄の箱に押し込められ、身動きが取れなくなった。蓋が閉じられる音がして、暗闇に包まれる。その瞬間、体中に熱さと激痛が走った。そのせいで集中することが出来ず、魔法も発動することが出来ない。
「っ! ンンッ――!」
まさか、本当にこんなところであっさりと死んでしまうの? そんなの絶対に嫌。誰か助けて。アルフレッド様!
心の中で、アルフレッド様の名を呼ぶ。どうか助けに来てと、私はただひたすらに祈った。だけど、誰も助けには来てくれなかった。
こうして、平民の女ヴァネッサは、公爵令嬢への危害を理由に人知れず処刑されるのだった。
自分は幸運で、アルフレッド王子に愛されていると信じていた。だからこそ、取り返しのつかない過ちをしてしまった。
自分の命を引き換えにするなんて、そんな大きな代償になるとは予想していなかった。
1,369
お気に入りに追加
2,155
あなたにおすすめの小説

婚約を解消してくれないと、毒を飲んで死ぬ? どうぞご自由に
柚木ゆず
恋愛
※7月25日、本編完結いたしました。後日、補完編と番外編の投稿を予定しております。
伯爵令嬢ソフィアの幼馴染である、ソフィアの婚約者イーサンと伯爵令嬢アヴリーヌ。二人はソフィアに内緒で恋仲となっており、最愛の人と結婚できるように今の関係を解消したいと考えていました。
ですがこの婚約は少々特殊な意味を持つものとなっており、解消するにはソフィアの協力が必要不可欠。ソフィアが関係の解消を快諾し、幼馴染三人で両家の当主に訴えなければ実現できないものでした。
そしてそんなソフィアは『家の都合』を優先するため、素直に力を貸してくれはしないと考えていました。
そこで二人は毒を用意し、一緒になれないなら飲んで死ぬとソフィアに宣言。大切な幼馴染が死ぬのは嫌だから、必ず言うことを聞く――。と二人はほくそ笑んでいましたが、そんなイーサンとアヴリーヌに返ってきたのは予想外の言葉でした。
「そう。どうぞご自由に」
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

婚約者が選んだのは私から魔力を盗んだ妹でした
今川幸乃
恋愛
バートン伯爵家のミアの婚約者、パーシーはいつも「魔法が使える人がいい」とばかり言っていた。
実はミアは幼いころに水の精霊と親しくなり、魔法も得意だった。
妹のリリーが怪我した時に母親に「リリーが可哀想だから魔法ぐらい譲ってあげなさい」と言われ、精霊を譲っていたのだった。
リリーはとっくに怪我が治っているというのにずっと仮病を使っていて一向に精霊を返すつもりはない。
それでもミアはずっと我慢していたが、ある日パーシーとリリーが仲良くしているのを見かける。
パーシーによると「怪我しているのに頑張っていてすごい」ということらしく、リリーも満更ではなさそうだった。
そのためミアはついに彼女から精霊を取り戻すことを決意する。

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。
藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。
学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。
そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。
それなら、婚約を解消いたしましょう。
そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?
柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。
婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。
そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――
ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる