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第29話 事件解決
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向かい合うアルフレッド王子とエドガー王子。その間には、見えない緊張感が張り詰めていた。
「邪魔だ。どけ、エドガー」
そう言ってエドガー王子を睨むアルフレッド王子。その眼差しは弟を蔑むようで、敵意に満ちていた。
「退くわけにはいきません、兄上」
それに対し、エドガー王子は冷静に答える。どっしりとした佇まいで、動じる様子はない。
「俺は、その女に用があるんだ。さっさと退け!」
アルフレッド王子は、私を指さしながら言った。まるで物のように扱うその態度に、思わず眉をひそめてしまう。
「残念ながら、それは出来ません」
きっぱりと言い切るエドガー王子。その言葉には、揺るぎない意志が感じられた。
「なぜだ! そいつは、ヴァネッサをイジメていたんだ! その罪を償わせないと」
感情を爆発させるアルフレッド王子。その声に、恨みと憎しみに染まっている。私は彼女をイジメていないんだけど。彼は、本気でそう思っているみたい。
「……はぁ」
そんなアルフレッド王子を見て、エドガー王子はため息を漏らした。それは、兄の幼稚さに呆れたような、失望したようなため息だった。
「さぁ、退け!」
「……」
しばらく兄を見つめていたエドガー王子だったが、やがて背後にいる兵士たちに向かって命令を下した。
「アルフレッド王子を拘束してください。そこに倒れている女性も一緒に連行します」
その言葉は、穏やかながらも強い口調で発せられた。まるで、絶対的な権力者のように。
「はぁ? 何を言っている。そんなこと許されるはずが――」
「兄上は、やりすぎました」
動揺を隠せないアルフレッド王子に、エドガー王子が言い放つ。その眼差しは真剣そのもので、笑みの欠片もない。
「な、なにを言っている!? やめろっ! 離せっ!」
取り押さえられながら、なおも抵抗するアルフレッド王子。必死に魔法を発動させようと集中するが、兵士たちの速さには敵わない。あっという間に両手を抑えられ、身動きが取れなくなってしまった。
その間、アルフレッド王子の仲間たちは、ただ呆然と立ち尽くしていた。誰一人として、王子を助けようとはしない。おそらく、エドガー王子の威圧感に怖気づいているのだろう。
「俺を誰だと思っている! 俺は、王子だぞ!」
捕らわれの身となっても、なお威勢のいい台詞を吐くアルフレッド王子。その声は、哀れにすら聞こえた。
「無視していいです。扱いは、ならず者を連行するのと同じ感覚でいいですよ」
しかし、エドガー王子はそれを一蹴する。まるで、目の前にいるのが王子ではなく、ただの犯罪者であるかのように扱った。
「な、ならず者だと!? 俺を、そんな扱いなんて許すわけ――」
騒ぎ続けるアルフレッド王子は、兵士たちに引きずられるようにして連れて行かれた。それを見送るエドガー王子の表情は、一切感情を漏らさない無表情だった。
やがて、広場は静寂に包まれた。アルフレッド王子に従っていた仲間たちも、彼に続いて連行されていく。ただし、仲間たちの方は素直に言うことを聞いているようで、乱暴に扱われる様子はない。
広場に残ったのは、私とエドガー王子、それと彼の数名の部下だけ。
そんな中、エドガー王子が私に歩み寄ってきた。その優しげな表情に、私の緊張がほぐれていくのを感じる。
「助けに来るのが遅くなって、申し訳ない」
そう言って、エドガー王子は頭を下げた。王子ともあろう人が、公爵家の令嬢とはいえ、私に頭を下げるなんて。なんだか、申し訳ない気持ちになってしまう。
「エドガー様! 頭を上げてください! 私は大丈夫です。怪我していないので」
慌てて答える私。確かに、遅れはしたものの、エドガー王子のおかげで難を逃れられた。十分に助かった。感謝の気持ちでいっぱいだ。
「実は、あの2人には監視をつけていた。何か問題を起こしたらすぐ連絡が来るようにしていたんだ」
そう打ち明けるエドガー王子。私は驚きを隠せない。
「そうだったんですか」
どうやら、彼らは何か問題を起こすかもしれないと監視されていたようだ。それは知らなかった。
あ、そういえば。思い出したことがあった。ここに来る前の彼女について。
「ここに来るように伝えに来てくれた生徒が居るんです。彼女のことも助けないと」
そう言って、私はエドガー王子に頼んだ。アルフレッド王子から脅されていたあの子が心配だった。
「大丈夫だ。その子なら、こちらで保護している」
エドガー王子の言葉に、安堵の息をつく。
「そうなのですか?」
「彼女は、俺にも知らせてくれた。事情を教えてくれて、君が危ないかもしれないと伝えに来てくれたんだ」
あの子は別れた後、私のためにそこまでしてくれたのね。
「そうだったのですか」
彼女が無事で本当に良かった。アルフレッド王子に脅されている様子だったので、心配になった。エドガー王子が保護しているというのなら、もう安心でしょう。
「彼女にも今回の件を証言してもらうつもりだ。だから、何も問題ないと思う」
「それを聞いて、安心しました」
力強く宣言するエドガー王子。私が広場に来るキッカケになった子。でも、犯人の一人には含まないよう考慮してもらえそうなので、良かった。
「今回の件は、こちらで処理する。もしかしたら事情を聞きに行くかもしれないから、その時は正直に証言してくれ」
「わかりました。後は、お願いします」
私は頷いた。事件のいきさつは、隅々まで話すつもりだ。真実を、ありのままに。
「それから、おそらく兄上とヴァネッサの嫌がらせは今後ないと思う。それも安心してくれ」
「はい」
エドガー王子の言葉を聞いて、思わず笑顔になってしまう。彼らの嫌がらせの日々が終わり、平和な学園生活が送れそうだ。
こうして、広場での魔法襲撃事件は幕を閉じた。事件の後に私の心に残ったのは、ほっとした安堵感と、エドガー王子への感謝の気持ちだけ。
「邪魔だ。どけ、エドガー」
そう言ってエドガー王子を睨むアルフレッド王子。その眼差しは弟を蔑むようで、敵意に満ちていた。
「退くわけにはいきません、兄上」
それに対し、エドガー王子は冷静に答える。どっしりとした佇まいで、動じる様子はない。
「俺は、その女に用があるんだ。さっさと退け!」
アルフレッド王子は、私を指さしながら言った。まるで物のように扱うその態度に、思わず眉をひそめてしまう。
「残念ながら、それは出来ません」
きっぱりと言い切るエドガー王子。その言葉には、揺るぎない意志が感じられた。
「なぜだ! そいつは、ヴァネッサをイジメていたんだ! その罪を償わせないと」
感情を爆発させるアルフレッド王子。その声に、恨みと憎しみに染まっている。私は彼女をイジメていないんだけど。彼は、本気でそう思っているみたい。
「……はぁ」
そんなアルフレッド王子を見て、エドガー王子はため息を漏らした。それは、兄の幼稚さに呆れたような、失望したようなため息だった。
「さぁ、退け!」
「……」
しばらく兄を見つめていたエドガー王子だったが、やがて背後にいる兵士たちに向かって命令を下した。
「アルフレッド王子を拘束してください。そこに倒れている女性も一緒に連行します」
その言葉は、穏やかながらも強い口調で発せられた。まるで、絶対的な権力者のように。
「はぁ? 何を言っている。そんなこと許されるはずが――」
「兄上は、やりすぎました」
動揺を隠せないアルフレッド王子に、エドガー王子が言い放つ。その眼差しは真剣そのもので、笑みの欠片もない。
「な、なにを言っている!? やめろっ! 離せっ!」
取り押さえられながら、なおも抵抗するアルフレッド王子。必死に魔法を発動させようと集中するが、兵士たちの速さには敵わない。あっという間に両手を抑えられ、身動きが取れなくなってしまった。
その間、アルフレッド王子の仲間たちは、ただ呆然と立ち尽くしていた。誰一人として、王子を助けようとはしない。おそらく、エドガー王子の威圧感に怖気づいているのだろう。
「俺を誰だと思っている! 俺は、王子だぞ!」
捕らわれの身となっても、なお威勢のいい台詞を吐くアルフレッド王子。その声は、哀れにすら聞こえた。
「無視していいです。扱いは、ならず者を連行するのと同じ感覚でいいですよ」
しかし、エドガー王子はそれを一蹴する。まるで、目の前にいるのが王子ではなく、ただの犯罪者であるかのように扱った。
「な、ならず者だと!? 俺を、そんな扱いなんて許すわけ――」
騒ぎ続けるアルフレッド王子は、兵士たちに引きずられるようにして連れて行かれた。それを見送るエドガー王子の表情は、一切感情を漏らさない無表情だった。
やがて、広場は静寂に包まれた。アルフレッド王子に従っていた仲間たちも、彼に続いて連行されていく。ただし、仲間たちの方は素直に言うことを聞いているようで、乱暴に扱われる様子はない。
広場に残ったのは、私とエドガー王子、それと彼の数名の部下だけ。
そんな中、エドガー王子が私に歩み寄ってきた。その優しげな表情に、私の緊張がほぐれていくのを感じる。
「助けに来るのが遅くなって、申し訳ない」
そう言って、エドガー王子は頭を下げた。王子ともあろう人が、公爵家の令嬢とはいえ、私に頭を下げるなんて。なんだか、申し訳ない気持ちになってしまう。
「エドガー様! 頭を上げてください! 私は大丈夫です。怪我していないので」
慌てて答える私。確かに、遅れはしたものの、エドガー王子のおかげで難を逃れられた。十分に助かった。感謝の気持ちでいっぱいだ。
「実は、あの2人には監視をつけていた。何か問題を起こしたらすぐ連絡が来るようにしていたんだ」
そう打ち明けるエドガー王子。私は驚きを隠せない。
「そうだったんですか」
どうやら、彼らは何か問題を起こすかもしれないと監視されていたようだ。それは知らなかった。
あ、そういえば。思い出したことがあった。ここに来る前の彼女について。
「ここに来るように伝えに来てくれた生徒が居るんです。彼女のことも助けないと」
そう言って、私はエドガー王子に頼んだ。アルフレッド王子から脅されていたあの子が心配だった。
「大丈夫だ。その子なら、こちらで保護している」
エドガー王子の言葉に、安堵の息をつく。
「そうなのですか?」
「彼女は、俺にも知らせてくれた。事情を教えてくれて、君が危ないかもしれないと伝えに来てくれたんだ」
あの子は別れた後、私のためにそこまでしてくれたのね。
「そうだったのですか」
彼女が無事で本当に良かった。アルフレッド王子に脅されている様子だったので、心配になった。エドガー王子が保護しているというのなら、もう安心でしょう。
「彼女にも今回の件を証言してもらうつもりだ。だから、何も問題ないと思う」
「それを聞いて、安心しました」
力強く宣言するエドガー王子。私が広場に来るキッカケになった子。でも、犯人の一人には含まないよう考慮してもらえそうなので、良かった。
「今回の件は、こちらで処理する。もしかしたら事情を聞きに行くかもしれないから、その時は正直に証言してくれ」
「わかりました。後は、お願いします」
私は頷いた。事件のいきさつは、隅々まで話すつもりだ。真実を、ありのままに。
「それから、おそらく兄上とヴァネッサの嫌がらせは今後ないと思う。それも安心してくれ」
「はい」
エドガー王子の言葉を聞いて、思わず笑顔になってしまう。彼らの嫌がらせの日々が終わり、平和な学園生活が送れそうだ。
こうして、広場での魔法襲撃事件は幕を閉じた。事件の後に私の心に残ったのは、ほっとした安堵感と、エドガー王子への感謝の気持ちだけ。
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