『お前よりも好きな娘がいる』と婚約を破棄させられた令嬢は、最強の魔法使いだった～捨てた王子と解放した令嬢の結末～

第14話 実力の差 ※ヴァネッサ視点

　アルフレッド王子の元婚約相手であるエレノアを実力で叩きのめしてやる。これは私の望んでいたこと。いいタイミングだった。そう思って、彼女に声をかけた。魔法授業の相手をしてもらう。

　エレノアを誘って、私たちは向かい合った。さて、お手並み拝見ね。

　最初に放ってきたエレノアの魔法は、小さいくせに衝撃が凄まじかった。まるで爆風に襲われたような感覚。きっと彼女は全力で魔法を放ったのだろう。これが彼女の精一杯の力なのね。でも、私はそれを防ぐことが出来たので、焦る必要はない。

　次は私の番だ。エレノアに向けて、自信を持って魔法を放つ。ところが、彼女は余裕でそれを防いでしまう。まるで、私の魔法が子供だましであるかのように。

　ちょっと！　聞いていた話と全然違うじゃない。実力は平凡だったんじゃないの？　エレノアの実力は平凡で、私には遠く及ばないはずだったのに。

　いや、落ち着け。エレノアの防御魔法も、おそらく全力のはず。それが彼女の限界なんだと思う。もしかしたら、今日は私の調子が悪いだけかもしれない。

　深呼吸をして、もう一度気合を入れてやってみよう。

　再び、エレノアの魔法を防ぐ。さっきと同じ大きさの炎。私は余裕を持って、同じように防御魔法で防ごうとした。

　その時、予想外のことが起こった。

「きゃっ！？」

　魔法が当たって、私の防御魔法が弾け飛んだ。無防備になってしまい、思わず悲鳴を上げ、情けない声が周囲に響き渡る。恥ずかしい。

　って、どういうことなのよ！？

「大丈夫？」
「だ、大丈夫よ！」

　慌てて答える。そんなはずないわ。私は油断していただけ。ちょっと気を抜いた隙に、こんな恥ずかしいミスをしてしまうなんて。

　これがアルフレッド王子に知られたら、恥をかくことになる。次は失敗しないように、全身全霊で魔法に打ち込まなければ。

　今度は私が魔法を放つ順番だ。お返しに、全身全霊を込めて魔法を放ってやる。

　魔力を炎に集中させ、炎の大きさをどんどん大きくしていく。人の身長ほどもある巨大な炎の塊ができあがった。人の身長ほどまで膨れ上がった炎の大玉を放つ。

「これでどうかしら！」

　炎の大玉は、エレノアに向かって一直線に飛んでいく。防御魔法ごと炎の渦に包まれるエレノア。これだけやれば、焦るでしょう。

　そう思ったのに、目の前の女は簡単に防いだ。炎が晴れると、さっきと変わらない表情でエレノアは普通に立っていた。まるで何事もなかったかのように、平然とした表情で。

「そんな……、ありえない……」

　私の口から声が漏れる。そんなの認められない。認めるわけにはいかない。

「じゃあ、次」
「ちょ、ちょっと待って！」

　私は慌てて制止する。さっきの魔法で魔力を使い果たしてしまったのだ。このままでは、防御魔法すら満足に発動できない。集中し直して、防御魔法を発動するための時間が必要。

「魔力の制御が甘くなっているから。それだと危ないわよ」
「わかってるわよ！」

　くっ、わざわざ言われなくてもわかってる。こうして指摘されるなんて屈辱的だ。きっと心の中で、私のことを笑っているのだろう。
　
　エレノアも凡人なりに無理をしているだけ。これからは我慢比べよ。

　そう思っていたのに。



　それからの魔法の応酬は、まるで地獄のようだった。交互に魔法を放ち、防いだ。その繰り返しの中で、私の魔力はみるみる底をつきはじめる。呼吸は荒く、体中から汗が噴き出してくる。

　それなのに、エレノアは一向に動じた様子がない。淡々と、でも強力に魔法を操っている。

「はぁ、はぁ……」
「ふぅ」

　私の防御は、あっけなく破られてしまう。一方、エレノアの防御は微動だにしない。もはや、実力の差は歴然としていた。

　私は混乱した。どうしてこんなことが起こるのか。私は才能ある実力者のはずだ。エレノアなんて、ただの平凡な魔法使いのはずなのに。私と競えるような実力なんてないはずなのに！

「これで最後よ」
「っ！」

　目の前にエレノアの魔法が迫ってくる。防ぎきれない。命の危険を感じた。魔法は少し外れて、私の周りの地面がえぐり取られる。呆然と立ち尽くす私。

　とんでもなく強力な魔法。それが当たっていたら、大怪我だった。

「防御魔法をちゃんと発動させないと、危ないわよ」
「……」

　私は、エレノアの変わらない表情を見てゾッとした。自分の足が震えていることも、私は気付かなかった。

　結局、私はエレノアに完敗したのだ。