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第6話 味方の存在
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唐突な婚約破棄の発表に、イジメの冤罪を擦り付けようとしてくる。そんなことは聞いていない。アルフレッド王子の好き勝手な行動。信じられない。どこまでも私を貶めるつもりなの?
「ちょっと待って」
「何だ?」
声を出した私の顔をアルフレッド王子がギロリと睨む。その目は、私を見下すような、冷たい眼差しだった。お前は口を挟まずに黙っていろ、というような視線。でもこれは、流石に黙っていられない。
「私は、イジメなんてしていないわよ」
「証拠があるんだ。言い訳するなんてみっともない。もう解決したことだから、これ以上は言わないが。早く認めるんだ」
やっていないのに、解決したと言われる。周りの貴族たちの視線が痛かった。噂話のネタを探すような、興味津々な目線を感じる。
「だから私は、イジメなんて――」
「認めるんだ!」
有無を言わせない態度だった。そんなとき、周囲に居た男性の一人が声を上げる。
「ちょっと待ってくれ」
「お前は、エドガー?口を挟むなんて、どういうつもりだ?」
前に出てきたのは、第二王子のエドガー様だった。彼は真剣な表情で私の前に立ちつと、アルフレッド王子と向き合う。会場が静まり返る中、私は彼の逞しい背中に、私は安心感を覚えていた。
「兄上、それは本当のことなのですか? エレノアがイジメをしていたという証拠は?」
「あるに決まっているだろう。こんな場所で嘘を言うわけがない」
「でしたら、その証拠を皆の前で示していただけますか?」
「そ、それは……」
ここまで追求してくるなんて予想外だったのか、アルフレッド王子が言葉を詰まらせる。そんな彼の額には、汗が浮かんでいた。
「もしその証拠がないのなら、兄上がエレノアを陥れようとしているようにしか思えません」
エドガー様の言葉に、会場がざわつき始める。あちこちから、囁き声が聞こえる。アルフレッド王子の顔が、さらに歪む。
「エドガー、お前はイジメをするような女の味方をするのか?」
「私は真実の味方をするだけです。イジメが実際に行われたのかどうか、ハッキリとしないうちから責めるなんて馬鹿なことはしません」
「そんな女の味方をするなんて、愚かな」
「兄上こそ、自分の愚かな行いを恥じるべきではないですか」
エドガー様の真っ直ぐな言葉が、アルフレッド王子を追い詰めていく。彼は証拠を示すことができない。それどころか、嘘をついてまで私を貶めようとしたのだ。貴族たちの視線が、徐々にアルフレッド王子へと向けられていく。
「恥じる? 俺が? なぜ」
「エレノアに罪を着せ、嘘をついてまで彼女を貶めるのは卑怯というものです。真の王子たる者、そのような行いは恥ずべきことですよ」
「……ふん。嘘ではないぞ」
「なら、その証拠を見せてください」
「イジメはあった。それを信じないというのなら、話し合っても無駄のようだな」
「それは、こちらのセリフです」
エドガー様の言葉に、会場が水を打ったように静まり返る。アルフレッド王子は歯噛みしながら、憤然とその場を後にした。取り残されたヴァネッサに、嫌悪の眼差しが向けられる。
オロオロしながら状況を見ていたヴァネッサも、その視線に耐えかねたのか、慌ててアルフレッド王子の後を追っていった。
私はただ、その場に立ち尽くすことしかできなかった。黙って様子を見守ることしか出来なかった。
「エレノア、大丈夫か?」
エドガー様が優しく声をかけてくる。
「あ。エドガー様……。ありがとうございます。あなたが庇ってくださらなければ私は……」
「気にすることはない。無実の君を守るのは当然のこと。何も悪くない君が責められて、正直かなりイライラしたんだ。口を出さずにはいられなかった」
エドガー様は私を信じてくれている。真っ直ぐな彼の瞳に宿る強さに、込み上げてくるものがあった。涙が頬を伝う。
「エレノア、君は強く生きていける。自分を信じるんだ」
彼の言葉が、心に深く沁みていく。私は何度も頷き、涙を拭った。
「……はい。ありがとうございます。エドガー様」
エドガー様の励ましの言葉に、私は晴れやかな気持ちで会場を後にした。悔しさは残るけれど、心強い味方がいてくれたことに、心からの喜びを感じていた。
「ちょっと待って」
「何だ?」
声を出した私の顔をアルフレッド王子がギロリと睨む。その目は、私を見下すような、冷たい眼差しだった。お前は口を挟まずに黙っていろ、というような視線。でもこれは、流石に黙っていられない。
「私は、イジメなんてしていないわよ」
「証拠があるんだ。言い訳するなんてみっともない。もう解決したことだから、これ以上は言わないが。早く認めるんだ」
やっていないのに、解決したと言われる。周りの貴族たちの視線が痛かった。噂話のネタを探すような、興味津々な目線を感じる。
「だから私は、イジメなんて――」
「認めるんだ!」
有無を言わせない態度だった。そんなとき、周囲に居た男性の一人が声を上げる。
「ちょっと待ってくれ」
「お前は、エドガー?口を挟むなんて、どういうつもりだ?」
前に出てきたのは、第二王子のエドガー様だった。彼は真剣な表情で私の前に立ちつと、アルフレッド王子と向き合う。会場が静まり返る中、私は彼の逞しい背中に、私は安心感を覚えていた。
「兄上、それは本当のことなのですか? エレノアがイジメをしていたという証拠は?」
「あるに決まっているだろう。こんな場所で嘘を言うわけがない」
「でしたら、その証拠を皆の前で示していただけますか?」
「そ、それは……」
ここまで追求してくるなんて予想外だったのか、アルフレッド王子が言葉を詰まらせる。そんな彼の額には、汗が浮かんでいた。
「もしその証拠がないのなら、兄上がエレノアを陥れようとしているようにしか思えません」
エドガー様の言葉に、会場がざわつき始める。あちこちから、囁き声が聞こえる。アルフレッド王子の顔が、さらに歪む。
「エドガー、お前はイジメをするような女の味方をするのか?」
「私は真実の味方をするだけです。イジメが実際に行われたのかどうか、ハッキリとしないうちから責めるなんて馬鹿なことはしません」
「そんな女の味方をするなんて、愚かな」
「兄上こそ、自分の愚かな行いを恥じるべきではないですか」
エドガー様の真っ直ぐな言葉が、アルフレッド王子を追い詰めていく。彼は証拠を示すことができない。それどころか、嘘をついてまで私を貶めようとしたのだ。貴族たちの視線が、徐々にアルフレッド王子へと向けられていく。
「恥じる? 俺が? なぜ」
「エレノアに罪を着せ、嘘をついてまで彼女を貶めるのは卑怯というものです。真の王子たる者、そのような行いは恥ずべきことですよ」
「……ふん。嘘ではないぞ」
「なら、その証拠を見せてください」
「イジメはあった。それを信じないというのなら、話し合っても無駄のようだな」
「それは、こちらのセリフです」
エドガー様の言葉に、会場が水を打ったように静まり返る。アルフレッド王子は歯噛みしながら、憤然とその場を後にした。取り残されたヴァネッサに、嫌悪の眼差しが向けられる。
オロオロしながら状況を見ていたヴァネッサも、その視線に耐えかねたのか、慌ててアルフレッド王子の後を追っていった。
私はただ、その場に立ち尽くすことしかできなかった。黙って様子を見守ることしか出来なかった。
「エレノア、大丈夫か?」
エドガー様が優しく声をかけてくる。
「あ。エドガー様……。ありがとうございます。あなたが庇ってくださらなければ私は……」
「気にすることはない。無実の君を守るのは当然のこと。何も悪くない君が責められて、正直かなりイライラしたんだ。口を出さずにはいられなかった」
エドガー様は私を信じてくれている。真っ直ぐな彼の瞳に宿る強さに、込み上げてくるものがあった。涙が頬を伝う。
「エレノア、君は強く生きていける。自分を信じるんだ」
彼の言葉が、心に深く沁みていく。私は何度も頷き、涙を拭った。
「……はい。ありがとうございます。エドガー様」
エドガー様の励ましの言葉に、私は晴れやかな気持ちで会場を後にした。悔しさは残るけれど、心強い味方がいてくれたことに、心からの喜びを感じていた。
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