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第1話 婚約破棄の衝撃
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とある日の午後、私は婚約相手であるアルフレッド王子から呼び出された。
『大事な話がある。すぐに来てほしい』
侍女を通して伝えられた王子の言葉は、いつになくそっけなかった。不安を胸に抱えつつ、私は早足で彼の部屋へ向かった。
理由は聞いていない。でも普段は穏やかな王子から不意の呼び出しに、嫌な予感がよぎった。おそらく、いい話ではないでしょう。
このところ、彼は私の前で表情を曇らせたり、気まずそうな反応が多くなっていたから。そして、今回の突然の呼び出し。何か、良くないことが起きるのではないか。胸騒ぎを覚えずにはいられなかった。
アルフレッド王子の部屋の前にたどり着くと、ここまで案内してくれた侍女がドアをノックした。部屋の中から、いつもより低く沈んだ声で「入りなさい」と聞こえてきた。
返事を確認してから侍女が部屋の扉を開ける。彼は窓際に佇み、冷ややかな表情で私を見つめていた。その目は冷たく、私の知る優しい王子の面影はない。部屋の隅で侍女たちが控えめに立ち、気配を消していた。
「座ってくれ」
「失礼します」
アルフレッド王子はソファに座ったまま、私に合図した。向かい合って席に着くと、彼は言葉を探るように視線を彷徨わせた。何かを切り出しづらそうにしている。やっぱり、嫌な予感は的中してしまうのでしょうか。
彼の反応を見て、なんとなく察してしまった。
「……」
「……」
しばらく沈黙する時間が続く。ようやく、私の表情を伺っていた王子が口を開く。ようやく話してくれるのね。
「エレノア、早速だが伝えたいことがある」
「伝えたいこと? 一体何でしょうか」
問いかけると、彼は深く息を吸い込み、真剣な面持ちで告げた。
「正直に言う。俺は、お前よりもヴァネッサという女性を愛している」
「え……」
突然のことだった。悪い知らせだと予想していたけれど、それは想定外。頭の中が真っ白になった。今、なんと言ったのだろうか。信じられない。彼を見つめ返すと、アルフレッド王子は申し訳なさそうに言葉を継いだ。
「しばらく前から、君に隠れてヴァネッサと会っていたんだ。俺は彼女と結ばれたいと思っている。だから……、悪いが、お前から婚約破棄を申し出てくれないか」
「は……?」
上擦った声しか出なかった。幼い頃に将来は一緒になることを決められて、いつか結婚するものだと信じて疑わなかった相手からの、あまりに唐突な裏切り。
アルフレッド王子は私に隠れて、他の女性と会っていたというのか。そして、私を差し置いてその女を選んだと。胸の奥が引き裂かれるような痛みに襲われる。
「アルフレッド様は、本気で、その方を愛しているのですか?」
「ああ、もちろん本気だ。嘘などつくものか」
彼は真っ直ぐに私を見据えて言い切った。嘘の気配はない。それが却って、残酷に私の心を締め付けた。私ではなく、別の女が選ばれた。
「父上にはもう話してある。それにヴァネッサは、非常に優秀な魔法使いなんだよ。王家にとっても大事にするべき才能を持っているんだ。君にも理解してほしい」
ヴァネッサの才覚が素晴らしいと何度も褒めるアルフレッド王子。それは遠回しに、私に価値がないと言われているような気がした。私より、その女性の方が価値がある。アルフレッド王子は、そう判断した。
「どうして、私から婚約の破棄を切り出さねばならないのですか……?」
それも納得できない。婚約破棄を切り出したのは貴方のほうなのに。面倒くさげにため息をつくアルフレッド王子。私の心中などお構いなしなのだ。
「それは察してくれ。こうしないと俺の評判に傷がつくだろう。それだけじゃない。ヴァネッサが、権力欲しさに肉体関係を持ったなんて噂されたら堪ったものではないから。彼女にそんな意図はない。だから噂を回避するために、頼む」
「……」
愛しているという女性を大事にする一方で、邪魔者扱いする彼の酷い態度。私への想いは欠片もないことを思い知らされた。こんなにも薄情な人だったなんて。
わずかな時間で、アルフレッドへの好意は冷め切っていった。誠実で優しい人だと信じていたが、その愛情は私以外の相手にだけ向けられるものだったのだ。
私は、人を見る目がなかったのね。こんな男を愛していたなんて。でも、結婚する前に発覚してよかった。そう考えて自分を落ち着かせないと、どうにかなりそうだと思った。
「慰謝料は惜しまない。この通り、俺の願いを聞き入れてくれ」
「……っ!」
要するに、金で解決するつもりらしい。それで済むと。そんな彼の心無い言葉に、私の中の何かが砕け散った。もういい。
王国のため、アルフレッド王子の妻となるために、私は彼を愛そうと努めてきた。だけど王子は私の愛を拒絶し、都合のいい道具のように扱ったのだ。他の女に興味が向いたら、私は用無し。捨てられる。
もう二度と、そんな男に心を預けるものか。 自分を押し殺して、私は感情を込めずに言った。せめてもの抵抗。
「承知しました。私から破談を申し入れましょう」
「そうしてくれ」
そんな答えを聞いて、嬉しそうな表情になる彼。その表情が不快で仕方なかった。
こうして私は、アルフレッド王子との婚約を終わらせることになった。それと同時に新たな決意も固めた。
いつかきっと、彼にこの判断が間違いだったと思い知らせてやる――。
私は、そう心に誓った。
『大事な話がある。すぐに来てほしい』
侍女を通して伝えられた王子の言葉は、いつになくそっけなかった。不安を胸に抱えつつ、私は早足で彼の部屋へ向かった。
理由は聞いていない。でも普段は穏やかな王子から不意の呼び出しに、嫌な予感がよぎった。おそらく、いい話ではないでしょう。
このところ、彼は私の前で表情を曇らせたり、気まずそうな反応が多くなっていたから。そして、今回の突然の呼び出し。何か、良くないことが起きるのではないか。胸騒ぎを覚えずにはいられなかった。
アルフレッド王子の部屋の前にたどり着くと、ここまで案内してくれた侍女がドアをノックした。部屋の中から、いつもより低く沈んだ声で「入りなさい」と聞こえてきた。
返事を確認してから侍女が部屋の扉を開ける。彼は窓際に佇み、冷ややかな表情で私を見つめていた。その目は冷たく、私の知る優しい王子の面影はない。部屋の隅で侍女たちが控えめに立ち、気配を消していた。
「座ってくれ」
「失礼します」
アルフレッド王子はソファに座ったまま、私に合図した。向かい合って席に着くと、彼は言葉を探るように視線を彷徨わせた。何かを切り出しづらそうにしている。やっぱり、嫌な予感は的中してしまうのでしょうか。
彼の反応を見て、なんとなく察してしまった。
「……」
「……」
しばらく沈黙する時間が続く。ようやく、私の表情を伺っていた王子が口を開く。ようやく話してくれるのね。
「エレノア、早速だが伝えたいことがある」
「伝えたいこと? 一体何でしょうか」
問いかけると、彼は深く息を吸い込み、真剣な面持ちで告げた。
「正直に言う。俺は、お前よりもヴァネッサという女性を愛している」
「え……」
突然のことだった。悪い知らせだと予想していたけれど、それは想定外。頭の中が真っ白になった。今、なんと言ったのだろうか。信じられない。彼を見つめ返すと、アルフレッド王子は申し訳なさそうに言葉を継いだ。
「しばらく前から、君に隠れてヴァネッサと会っていたんだ。俺は彼女と結ばれたいと思っている。だから……、悪いが、お前から婚約破棄を申し出てくれないか」
「は……?」
上擦った声しか出なかった。幼い頃に将来は一緒になることを決められて、いつか結婚するものだと信じて疑わなかった相手からの、あまりに唐突な裏切り。
アルフレッド王子は私に隠れて、他の女性と会っていたというのか。そして、私を差し置いてその女を選んだと。胸の奥が引き裂かれるような痛みに襲われる。
「アルフレッド様は、本気で、その方を愛しているのですか?」
「ああ、もちろん本気だ。嘘などつくものか」
彼は真っ直ぐに私を見据えて言い切った。嘘の気配はない。それが却って、残酷に私の心を締め付けた。私ではなく、別の女が選ばれた。
「父上にはもう話してある。それにヴァネッサは、非常に優秀な魔法使いなんだよ。王家にとっても大事にするべき才能を持っているんだ。君にも理解してほしい」
ヴァネッサの才覚が素晴らしいと何度も褒めるアルフレッド王子。それは遠回しに、私に価値がないと言われているような気がした。私より、その女性の方が価値がある。アルフレッド王子は、そう判断した。
「どうして、私から婚約の破棄を切り出さねばならないのですか……?」
それも納得できない。婚約破棄を切り出したのは貴方のほうなのに。面倒くさげにため息をつくアルフレッド王子。私の心中などお構いなしなのだ。
「それは察してくれ。こうしないと俺の評判に傷がつくだろう。それだけじゃない。ヴァネッサが、権力欲しさに肉体関係を持ったなんて噂されたら堪ったものではないから。彼女にそんな意図はない。だから噂を回避するために、頼む」
「……」
愛しているという女性を大事にする一方で、邪魔者扱いする彼の酷い態度。私への想いは欠片もないことを思い知らされた。こんなにも薄情な人だったなんて。
わずかな時間で、アルフレッドへの好意は冷め切っていった。誠実で優しい人だと信じていたが、その愛情は私以外の相手にだけ向けられるものだったのだ。
私は、人を見る目がなかったのね。こんな男を愛していたなんて。でも、結婚する前に発覚してよかった。そう考えて自分を落ち着かせないと、どうにかなりそうだと思った。
「慰謝料は惜しまない。この通り、俺の願いを聞き入れてくれ」
「……っ!」
要するに、金で解決するつもりらしい。それで済むと。そんな彼の心無い言葉に、私の中の何かが砕け散った。もういい。
王国のため、アルフレッド王子の妻となるために、私は彼を愛そうと努めてきた。だけど王子は私の愛を拒絶し、都合のいい道具のように扱ったのだ。他の女に興味が向いたら、私は用無し。捨てられる。
もう二度と、そんな男に心を預けるものか。 自分を押し殺して、私は感情を込めずに言った。せめてもの抵抗。
「承知しました。私から破談を申し入れましょう」
「そうしてくれ」
そんな答えを聞いて、嬉しそうな表情になる彼。その表情が不快で仕方なかった。
こうして私は、アルフレッド王子との婚約を終わらせることになった。それと同時に新たな決意も固めた。
いつかきっと、彼にこの判断が間違いだったと思い知らせてやる――。
私は、そう心に誓った。
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