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第31話 衝突寸前
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進行方向の草原に、黒いものが見えた。あれは何だろうと思って見ていたら、鋭く大きな声が聞こえてきた。
「お前たち、止まれッ!」
黒いものは、人だった。武装して鎧を着た集団。もしかして盗賊団かと思ったが、見た目は薄汚れていなくて、盗賊や反乱軍には見えない。ならば、帝国の軍隊か。
目的地に向かって進んでいた私達は、一斉に止まる。私が乗っている馬車も御者のタデウスが止めた。草原に砂埃が舞い上がった。
行く手をさえぎるように立つ彼らは、どうして私達を止めたのか。国境を超えて、隣国から攻めてきたラクログダム王国の軍隊だと勘違いされたのかもしれない。
「これより先に、進むことは許さん!」
視線を向けられただけで心の底から恐ろしいと感じる、威圧感。だけど、もうすぐ目的地に辿り着くという場所まで来たのに、今から王国に戻るなんて出来ない。
このまま私達は、討伐されて終わるのかしら。
私が恐怖を感じていた時、ラインヴァルトが前に出ていった。
彼が、事情を説明してくれるのかしら。ファルスノ帝国の皇子だという彼ならば、無事にここを通してもらえるかもしれない。
私は、離れた場所から彼を見守った。他の人達も、ラインヴァルトの背中に視線が集中する。
「ラザフォード兄さん!」
「ん? なんだ、ラインヴァルトだったのか」
ラインヴァルトが嬉しそうな声で呼びかけた。どうやら、知り合いだったらしい。私は安心して、一気に緊張が解けた。
二人は、親しげに会話しているようだった。親しげに肩にポンと手を置いて、仲も良さそう。会話の内容は聞こえない。
先程、兄さんと呼んでいたので、もしかしたら彼も皇子の一人なのかしら。
遠く離れた場所に止まった馬車の荷台から、そんな二人の様子を眺めていた。
しばらくして、ラインヴァルトが戻ってきた。そのまま、私の馬車が止まっている所に近付いてきた。その横に、背が高くて逞しい男性が並んで歩いている。先程までラインヴァルトと会話していた人だ。
「彼女が、今話していた子だよ」
「ふむ。君が、そうなのか」
声が聞こえる距離まで近くに来た時に、私は顔をジッと見つめられた。その男性が何者なのか、まだ分からない。だけど、とりあえず服の端を掴んで丁寧に挨拶する。
「ごきげんよう。カトリーヌと申します」
「ラザフォード。ファルスノ帝国の皇子の一人で、この子の兄だ」
彼は名乗って、ラインヴァルトの頭をポンポンと軽く触った。少し迷惑そうな顔をしたラインヴァルトだったが、何も言わない。
「ファルスノ帝国にようこそ。ここに辿り着くまで大変だったらしいな。でもまぁ、帝国は安全だ。ゆっくりしていくといい、幸運の女神の加護を得た者よ」
「は、はい。ありがとうございます」
そう言って、ラザフォードは黒色の鎧を着た集団の方へ戻っていった。その背中を見送る。
幸運の女神の加護を得た者って、ラインヴァルトにも言われていた。それは一体、何なのか。気になったので聞きたかったけれど、聞くことは出来なかった。
「お前たち、止まれッ!」
黒いものは、人だった。武装して鎧を着た集団。もしかして盗賊団かと思ったが、見た目は薄汚れていなくて、盗賊や反乱軍には見えない。ならば、帝国の軍隊か。
目的地に向かって進んでいた私達は、一斉に止まる。私が乗っている馬車も御者のタデウスが止めた。草原に砂埃が舞い上がった。
行く手をさえぎるように立つ彼らは、どうして私達を止めたのか。国境を超えて、隣国から攻めてきたラクログダム王国の軍隊だと勘違いされたのかもしれない。
「これより先に、進むことは許さん!」
視線を向けられただけで心の底から恐ろしいと感じる、威圧感。だけど、もうすぐ目的地に辿り着くという場所まで来たのに、今から王国に戻るなんて出来ない。
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私が恐怖を感じていた時、ラインヴァルトが前に出ていった。
彼が、事情を説明してくれるのかしら。ファルスノ帝国の皇子だという彼ならば、無事にここを通してもらえるかもしれない。
私は、離れた場所から彼を見守った。他の人達も、ラインヴァルトの背中に視線が集中する。
「ラザフォード兄さん!」
「ん? なんだ、ラインヴァルトだったのか」
ラインヴァルトが嬉しそうな声で呼びかけた。どうやら、知り合いだったらしい。私は安心して、一気に緊張が解けた。
二人は、親しげに会話しているようだった。親しげに肩にポンと手を置いて、仲も良さそう。会話の内容は聞こえない。
先程、兄さんと呼んでいたので、もしかしたら彼も皇子の一人なのかしら。
遠く離れた場所に止まった馬車の荷台から、そんな二人の様子を眺めていた。
しばらくして、ラインヴァルトが戻ってきた。そのまま、私の馬車が止まっている所に近付いてきた。その横に、背が高くて逞しい男性が並んで歩いている。先程までラインヴァルトと会話していた人だ。
「彼女が、今話していた子だよ」
「ふむ。君が、そうなのか」
声が聞こえる距離まで近くに来た時に、私は顔をジッと見つめられた。その男性が何者なのか、まだ分からない。だけど、とりあえず服の端を掴んで丁寧に挨拶する。
「ごきげんよう。カトリーヌと申します」
「ラザフォード。ファルスノ帝国の皇子の一人で、この子の兄だ」
彼は名乗って、ラインヴァルトの頭をポンポンと軽く触った。少し迷惑そうな顔をしたラインヴァルトだったが、何も言わない。
「ファルスノ帝国にようこそ。ここに辿り着くまで大変だったらしいな。でもまぁ、帝国は安全だ。ゆっくりしていくといい、幸運の女神の加護を得た者よ」
「は、はい。ありがとうございます」
そう言って、ラザフォードは黒色の鎧を着た集団の方へ戻っていった。その背中を見送る。
幸運の女神の加護を得た者って、ラインヴァルトにも言われていた。それは一体、何なのか。気になったので聞きたかったけれど、聞くことは出来なかった。
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