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第08話 不運と幸運
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「幸運? でも私は、周りから不運を振りまく存在、って言われ続けて……」
「一部では、そういう風に噂されているようですね。ですが、我々はその噂が間違いだと思っています。ただ、自分の失敗を都合の良いように押し付けているだけかと」
ゲオルグは、そう言ってくれた。今まで、不運なのはお前が原因と言われ続けて、納得できなかった。彼の言う通りだとしたら、私は救われる。だけど、私の周りには悪い結果を引き起こす人が多いのも事実。
不運なのは本当なのではないか。そう、信じてしまいそうになる。ゲオルグの言葉を素直に認めることが出来なかった。
そもそも、不運じゃないのだとしたら幸運だってありえない。運が良かったのは、結果的にそうなっただけ。私は関係なさそう。そう考えてしまう。
だけど、ここに集まった四人は私のおかげだと言ってくれた。
「カトリーヌ様が誕生して、私は筆頭執事に任命されました。すると、ラフォン家の業績がどんどん良くなっていったのです。それで、私の執事としての仕事ぶりが評価されました。全て、カトリーヌ様が生まれてきてくれたお陰です」
「私は、カトリーヌお嬢様の専従御者として今まで馬車を運転してきました。お嬢様を乗せているときは、一度も馬車の事故を起こしませんでしたよ」
「カトリーヌお嬢様の身の回りのお世話をするようになってから、奥様や旦那様から叱られることが少なくなりました」
「私も同じです。それで、評価もどんどん上がっていったんですから」
「それは……」
四人が語ってくれた話を聞いてみると、やはり私は関係ないように思える。彼らや彼女たちは自分の実力で、評価されてきたようにしか感じない。
ゲオルグは筆頭執事に任命されるほどの実力があって真面目に仕事に取り組んだから、しっかり評価されただけ。
御者のタデウスが事故を起こさなかったというのも、馬車の運転する実力があったから。そして、自分の腕に慢心せず丁寧に運転してくれたから。
メイド二人が叱られなかったのも、お父様やお母様のターゲットが私に向いていたから。それで、彼女たちは叱られないようになって仕事に集中することが出来た。
今までの四人の活躍に、私の存在は影響を与えていないように思える。幸運なんて関係ない。ちゃんと実力があったから、そうなったのよ。
「とりあえず、今は急いで出発したほうが良いでしょう。タデウス、出してくれ」
「おう、了解した!」
馬車が動き出してしまう。本当に、行ってしまうのか。私の幸運に助けられたと、勘違いした四人を連れて。
私の幸運なんて関係ないと、本当のことを言って彼らには屋敷に戻ってもらうべきだろう。そうしないと、私なんかのために仕事を辞めることになったという、本当の不幸になる。
でも私は、彼らに助けてもらわないと生きていけそうにない。
「……ッ!」
だから私は、何も言わずに黙り込む。彼らの人生を駄目にしてしまった、罪悪感を胸に抱きながら。
「一部では、そういう風に噂されているようですね。ですが、我々はその噂が間違いだと思っています。ただ、自分の失敗を都合の良いように押し付けているだけかと」
ゲオルグは、そう言ってくれた。今まで、不運なのはお前が原因と言われ続けて、納得できなかった。彼の言う通りだとしたら、私は救われる。だけど、私の周りには悪い結果を引き起こす人が多いのも事実。
不運なのは本当なのではないか。そう、信じてしまいそうになる。ゲオルグの言葉を素直に認めることが出来なかった。
そもそも、不運じゃないのだとしたら幸運だってありえない。運が良かったのは、結果的にそうなっただけ。私は関係なさそう。そう考えてしまう。
だけど、ここに集まった四人は私のおかげだと言ってくれた。
「カトリーヌ様が誕生して、私は筆頭執事に任命されました。すると、ラフォン家の業績がどんどん良くなっていったのです。それで、私の執事としての仕事ぶりが評価されました。全て、カトリーヌ様が生まれてきてくれたお陰です」
「私は、カトリーヌお嬢様の専従御者として今まで馬車を運転してきました。お嬢様を乗せているときは、一度も馬車の事故を起こしませんでしたよ」
「カトリーヌお嬢様の身の回りのお世話をするようになってから、奥様や旦那様から叱られることが少なくなりました」
「私も同じです。それで、評価もどんどん上がっていったんですから」
「それは……」
四人が語ってくれた話を聞いてみると、やはり私は関係ないように思える。彼らや彼女たちは自分の実力で、評価されてきたようにしか感じない。
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御者のタデウスが事故を起こさなかったというのも、馬車の運転する実力があったから。そして、自分の腕に慢心せず丁寧に運転してくれたから。
メイド二人が叱られなかったのも、お父様やお母様のターゲットが私に向いていたから。それで、彼女たちは叱られないようになって仕事に集中することが出来た。
今までの四人の活躍に、私の存在は影響を与えていないように思える。幸運なんて関係ない。ちゃんと実力があったから、そうなったのよ。
「とりあえず、今は急いで出発したほうが良いでしょう。タデウス、出してくれ」
「おう、了解した!」
馬車が動き出してしまう。本当に、行ってしまうのか。私の幸運に助けられたと、勘違いした四人を連れて。
私の幸運なんて関係ないと、本当のことを言って彼らには屋敷に戻ってもらうべきだろう。そうしないと、私なんかのために仕事を辞めることになったという、本当の不幸になる。
でも私は、彼らに助けてもらわないと生きていけそうにない。
「……ッ!」
だから私は、何も言わずに黙り込む。彼らの人生を駄目にしてしまった、罪悪感を胸に抱きながら。
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