転生人生ごっちゃまぜ~数多の世界に転生を繰り返す、とある旅人のお話~

キョウキョウ

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13周目(現代風あべこべ:野球監督)

第266-1話 ガチ泣き

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 飛んでいったボールの行方を見届ける。おそらく、ホームランという距離だろう。本当に遠くまで飛んだ。あんなに飛ばすつもりはなかった。軽く当てた感じなのに、あそこまで飛ぶのか。

 こちらに背を向けていた楓が振り返る。涙目になっていた。まさか、泣いてしまうなんて。今まで何度も勝負を繰り返してきたけど、悔し泣きする彼女を見るのなんて初めての事だった。泣かせるつもりは一切なかったから、焦ってしまう。

「ご、ごめん。あんなに飛ぶなんて」
「いい。これは、真剣勝負だから」

 思わず謝る。楓は勝負だから仕方ないと言うけど、彼女の声は震えていた。相当なショックだったみたい。

 さっきの結果は、本当に偶然だった。タイミングが上手く噛み合ってしまい、実力以上の結果が出たに過ぎない。同じ結果を出せと言われても、おそらく無理だろう。それぐらい、自分でも予想外の一打だった。それを2投目で出してしまうなんて。

 飛んでいったボールを回収する。落ちた地点にボールを取りに行くまでの距離で、本当に飛んだことを実感した。力を込めなくても、ここまで飛ぶのか。これは、金属バットの性能もあるだろ。

 そもそも俺は、球技のスポーツが特別上手いというわけではない。むしろ、苦手なジャンルかもしれない。ボールを扱う経験が少ないから。

 サッカーボールを蹴ったり、バスケットボールを投げる時、イメージ通りにはいかない事のほうが多い。経験を積めば上達すると思うけれど。

 バットを振る感覚も、剣と比べたら少し違ったな。振ると斬るは、似ているようで違うみたい。

「次は、私が打つ。理人が投げて」
「いいよ。今度は俺がピッチャーね。真琴は、次もキャッチャーお願いしていい?」
「オッケー。任せて」
「じゃあ、お願い」
「来い!」

 楓がバットを持って構える。打つ気満々で、俺にボールを投げろと要求してきた。今度は俺がグラブをはめて、真琴にキャッチャーを任せる。同じ役割が続くのに真琴は、笑顔で了承してくれた。

 投球の練習でキャッチボールをする。ボールを握り、振りかぶって、キャッチャーのミットを狙って投げる。楓と比べたらボールは遅いし、コントロールも悪いかも。もうちょっと、投げる体の動かし方を考えて、イメージを作る。こういう感じかな。

 もう一度投げてみると、今度は狙った所に投げることが出来たな。真琴の胸元に。これはストライクのはず。

 楓が、キャッチャーの前に立つ。今度は俺がピッチャーで、楓がバッターの真剣勝負が始まる。しゃがんで構える真琴のミットを狙って、投げる。

「ッ!」

 大きなスイング。1球目は空振りだった。真琴の返球を受け取ってから、2球目を投げる。再び、空振り。力が入っているのかスイングは力強いけれど、タイミングが合っていない。そして、3球目。これを振れば、アウト。

「お」
「くっ!」

 カン、という音が聞こえた。

 今度はバットに当たった。だが、上には飛ばずに転がってくる。正面から転がってきたので、すくい上げるようにキャッチ。上手くボールを取れたな。試合だったら、これを一塁という場所に投げてアウトかな。この勝負は、俺の勝ちということか。

 顔をあげると、楓がぽろぽろと大粒の涙を零して泣いていた。そりゃ、そうだよな。

「あっ!? ご、ごめん! また泣かせちゃって」
「泣いてない!」
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