上 下
264 / 310
12周目(異世界ファンタジー:錬金術師)

第248-2話 ノルニシスまで一人旅

しおりを挟む
「あの山を超えたら王都までは、もうすぐだぁよ」

 旅の間に仲良くなった、乗合馬車を操作する御者が山を指差して説明してくれる。特徴的な話し方をする、俺よりも年上のおじさんだ。

 彼から色々と教えてもらい、王国についての理解を深めた。そのおじさんは王都で生まれ育ったそうだ。そして、御者として色々な土地を行き来してきた。ユノヘルの村しか知らない俺と違って、豊富な知識を持っている。

 他愛もない話をしているだけでも、旅の退屈しのぎになった。俺が聞いて、彼が話してくれる。それで盛り上がる。

 そんな彼の話によると王都のノルニシスまでは、もうすぐ到着するらしい。聞いた話では、あと1週間ぐらいかかると思っていたけど。

「え? もうすぐ?」
「そうだぁよ。あと、1週間ぐらいだぁよ」

 と思ったら、まだまだだった。記憶していた通り、到着するまで1週間ぐらいあるそうだ。1週間を、もうすぐとは言わないかな。彼と俺とは、時間感覚に大きな違いがあるようだ。

 そういう感覚の違いも、彼と楽しく会話が出来る理由なのかも。

「そんなに急いでも、損するだけだぁよ」
「損するかな?」
「うんうん。せっかくだから、馬車の旅は楽しまないといけないよぉ」
「うーん。なるほど」

 急いでいる、というつもりはなかったけど。彼から見ると、先を急いでいるように見えたのかな。そうかもしれない。最初は馬車にも乗らずに、自分の足で目的地まで行こうと考えていたから。

 おじさんの言う事は、もっともかもしれない。余裕を持って行動するのも、旅では大事かもね。そして、楽しむことも。

「王都で騎士になるんだぁろ? もうちょっと、余裕を持たないとぉ」
「いや、違いますよ。何度も説明しましたが、俺は錬金術師を目指して」
「ノルニシスにある学校は、とーっても厳しいんだよぉ。僕も昔、騎士を目指して色々と勉強したけどダメだったんだぁ」
「あ、はい」

 彼には何度か繰り返し説明をしたのに、何故か俺は騎士になるために王都へ行くと思われていた。そして始まる御者のおじさんの自分語り。最初に聞いた時は面白いと思った。けれど、何度か繰り返し聞かされると少し面倒になってくる。

 他の乗客たちは無視して、自由に過ごしたり休んでいる。誰も彼の話など聞いていない。その様子がなんだか、おかしかった。

「こう見えて、剣の腕はそこそこあったんだぁよ。でも、筆記試験がダメだったぁ」
「へぇ、そうなんだ。もう、その話は何度も聞いたけどね」

 それでもお構いなしに、自分の過去について楽しそうに語る御者のおじさん。

 誰の反応も無いとかわいそうだから、俺が相槌を打つ。まぁ、他にやることもないぐらい暇だから仕方がないのかな。御者は、こうやって長い距離を馬車を操りながら人を運んでいるのか。だとすると、とても大変な仕事だろう。

「あ、おじさん。ちょっと急いだほうがいいかも。モンスターが近づいてきてる」
「そりゃ、本当かい? それなら、急ぐよぉ」

 今のままのスピードで進むと、ちょうど森から通り道にまで出てくるモンスターと遭遇してしまいそうな位置だった。事前に察知した情報をおじさんに伝えると、俺の言葉を信じて馬車のスピードを上げる。

「これでぇ、どうだぁ?」
「うん。今回も大丈夫そう。モンスターは、あそこに居るな」
「居る? 僕には見えないなぁ。でも、リヒトが言うならぁ間違いない!」

 これまでに、モンスターとは何度も遭遇しそうになっていた。厄介だから、何とか避けて通りたい。そう思った俺のアドバイスによって、今のところ難なく逃げ切ることが出来ていた。御者のおじさんは、俺のことを信頼してくれていた。報告と助言を聞いて、モンスターと遭遇せずに切り抜ける。

 おじさんも手綱を巧みにさばき馬をコントロールして、上手くモンスターとの遭遇を避けながら、安全なルートを選んで前へ進むことが出来ていた。

「やっぱぁりリヒトは、腕の良い騎士になれるよぉ。僕が保証するぅよ!」
「いや、だから俺は錬金術師を目指しているんだって」
「応援しているぅよ。立派な騎士になれるよう、頑張ってねぇ」
「いや、俺の話ちゃんと聞いてる?」
「そろそろ、馬を休めてあげよぉう。馬車のスピードを落とすねぇ」
「あー、うん。それでいいよ」

 やはり御者のおじさんは緊急時以外、あまり人の話を聞いていないようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。

克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

覇者となった少年 ~ありがちな異世界のありがちなお話~

中村月彦
ファンタジー
よくある剣と魔法の異世界でのお話…… 雷鳴轟く嵐の日、一人の赤子が老人によって救われた。 その老人と古代龍を親代わりに成長した子供は、 やがて人外の能力を持つに至った。 父と慕う老人の死後、世界を初めて感じたその子供は、 運命の人と出会い、生涯の友と出会う。 予言にいう「覇者」となり、 世界に安寧をもたらしたその子の人生は……。 転生要素は後半からです。 あまり詳細にこだわらず軽く書いてみました。 ------------------  最初に……。  とりあえず考えてみたのは、ありがちな異世界での王道的なお話でした。  まぁ出尽くしているだろうけど一度書いてみたいなと思い気楽に書き始めました。  作者はタイトルも決めないまま一気に書き続け、気がつけば完結させておりました。  汗顔の至りであります。  ですが、折角書いたので公開してみることに致しました。  全108話、約31万字くらいです。    ほんの少しでも楽しんで頂ければ幸いです。  よろしくお願いいたします。

処理中です...