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11周目★(現代風:作家)
第213話 後遺症
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周りの人たちからも認められて、薫さん、望未さん夫婦の正式な一人娘として家族の一員になった俺。
とても大事に育てられていると感じる。特に母親である望未さんと、家政婦の池城ゆき乃さんから溺愛されていた。
「よしよし、麗羅ちゃん。かわいいねぇ」
ベビーベッドの上で寝転んでいる俺の顔を覗き込み、声のトーンを上げて話しかけてくる母親。表情も柔らかくて、温かい笑顔を俺に向けてくれている。
「麗羅様。本当に、かわいい……」
ゆき乃さんは、母親の横でしみじみと染み渡るような感じで呟く。優しい微笑みを俺に向けてくれた。
「こんばんは、麗羅。だけど、子供はもう寝る時間だよ。さぁ、おやすみ」
それから父親も、ほぼ毎日1度は必ず顔を見に来る。仕事が忙しいようで、合間を縫ってなんとか時間を作って会いに来てくれているようだ。
仕事が終わった夜に見に来ることが多いので、夜遅くまで俺が目を覚ましていると頭を撫でて、早く寝るように”おやすみ”と言ってくれた。
1年が過ぎて身体が育ってくると、立つことが出来るようになって、自由に歩けるようになった。走ったり、シャンプすることも出来るように。他の子と比べて早熟な幼児である。
しかし、ちょっとした問題が発覚する。どうやら俺は、声を出せないようだ。
路地裏で拾われて病院に連れて行ってもらった後、大体の怪我は治った。けれど、回復の見込めない部分もあった。声帯と肺に、完治できないほどの大きなダメージが残ってしまった。前にも、似たような症状があったな。
同じようなシチュエーションで、声が出せなくなった。体験済みの症状だったので、そんなに深刻には考えていない。だけど、周りはそうじゃないみたい。どうにかして治せないか、必死になって考えてくれた。医者に診てもらったり、治療法を調べてくれたり。
「先生、この子は治りませんか?」
「……残念ですが、かなり難しいと思います」
母親が、俺の身体について不安そうな顔で医者に問いかける。だが、医者の答えは望み薄だった。
診断によると、俺の声帯はボロボロに壊れて上手く振動しなくなっているらしい。だから言葉を話そうとしても、コントロールして音を発することが出来ない。
それから、肺のダメージも治癒は望めないとのこと。もっと身体が育ってきたら、身体の状態などと相談しながら鍛えたりすることは可能かもしれない。だけど現状は、激しい運動など極力控えるようにと言われた。運動もダメなのか。
「……そうですか」
母親が悲しそうな表情を浮かべ、医者の話をメモを取りながら聞き逃さないように耳を傾けている。
身体に障害があったとしても、俺はそれほど気にしなかった。生き残れただけで、ありがたいと思っていたから。
けれど、周りの人たちを心配させてしまうのは非常に申し訳ないと感じていた。
もしも、魔力を察知して操ることが出来たなら、回復魔法など使って自分の身体を治せたかもしれないのに。残念ながら、この世界には魔力が存在していない。魔法を使うことは出来ない。
魔力は存在しないが、アイテムボックスは使えるようだった。しかし、この能力も今回は不調のようである。
何回か前の人生で行った、勇者の儀式というもので習得した特殊能力だ。頭の中でアイテムボックスと念じてみると、どこかの空間に繋がって物を出し入れすることが出来る。
今まで繰り返してきた人生。その最中に手に入れたアイテムの数々を、中に入れることで転生した先にまでアイテムを持ち越すことが出来る能力だった。一度死んだとしても、空間の中に収納していたアイテムはリセットされない。
何度も転生を繰り返している俺にとって、とてつもなく便利な能力だった。
だが今回の人生では、この能力が使えないみたい。異空間に繋がることは出来る。異空間に保管していたアイテムも残っている、という感覚がある。しかし、中の物を取り出すことが出来なかった。
たくさんの食料や調味料、冒険で愛用していた武器や防具、アクセサリー、様々な場所で集めた貴金属類などなど。全て、取り出すことが不可能。
アイテムボックスの中には収納されているようだけれども、それを取り出せない。こうなった原因は不明。何故か、収納することは可能だった。物に触れ、収納すると念じればアイテムボックスの中に入る。
「……」
試しに、おもちゃの1つを収納してみた。手元にあったおもちゃがパッと消えて、異空間に入った感覚があった。
「……? ……!」
ちゃんと、アイテムボックスの中に物を入れることが出来るのを確認する。だが、中に入れると二度と取り出せなくなってしまった。何度か取り出そうと試してみたが、不可能だった。
アイテムボックスの能力を習得してから、初めての出来事。これは、どういうことなのか。
この世界に魔力が存在していないからなのか。俺の身体が不調だから、特殊能力も上手く発動させることが出来ないのか。それとも他に、なにか原因があるのか。
まぁでも今の所、アイテムボックスの能力を使えなくても困るようなことはない。両親にも恵まれて、裕福に生活することが出来ているから心配なかった。
将来、ちょっとだけ職業選択するのに困るぐらいかな。
激しい運動が出来ないとなると、スポーツ選手を目指すのは無理だろう。話せないとなると、接客業とかは難しいだろうし。他にも色々と制限がありそうだ。
料理の知識と腕には自信がある。けれども、何回か前の人生で料理人として生きたことがあったから、同じように生きるのは飽きてしまいそう。なるべくなら、新たな世界に飛び込んで経験したい。せっかく転生して、新しい人生を歩んでいるから。
とはいえ、他の人に負けないぐらい自信のある能力が既にあるのなら、上手く活用していきたい。
いつか、横大路家を出されることになるらしい。だけどそれは、まだまだ先のことのようなので、悩む時間は十分にある。
この先、どうやって生きていくのか。自分の進むべき道はどこか。焦らずゆっくり考えていこうと思う。
とても大事に育てられていると感じる。特に母親である望未さんと、家政婦の池城ゆき乃さんから溺愛されていた。
「よしよし、麗羅ちゃん。かわいいねぇ」
ベビーベッドの上で寝転んでいる俺の顔を覗き込み、声のトーンを上げて話しかけてくる母親。表情も柔らかくて、温かい笑顔を俺に向けてくれている。
「麗羅様。本当に、かわいい……」
ゆき乃さんは、母親の横でしみじみと染み渡るような感じで呟く。優しい微笑みを俺に向けてくれた。
「こんばんは、麗羅。だけど、子供はもう寝る時間だよ。さぁ、おやすみ」
それから父親も、ほぼ毎日1度は必ず顔を見に来る。仕事が忙しいようで、合間を縫ってなんとか時間を作って会いに来てくれているようだ。
仕事が終わった夜に見に来ることが多いので、夜遅くまで俺が目を覚ましていると頭を撫でて、早く寝るように”おやすみ”と言ってくれた。
1年が過ぎて身体が育ってくると、立つことが出来るようになって、自由に歩けるようになった。走ったり、シャンプすることも出来るように。他の子と比べて早熟な幼児である。
しかし、ちょっとした問題が発覚する。どうやら俺は、声を出せないようだ。
路地裏で拾われて病院に連れて行ってもらった後、大体の怪我は治った。けれど、回復の見込めない部分もあった。声帯と肺に、完治できないほどの大きなダメージが残ってしまった。前にも、似たような症状があったな。
同じようなシチュエーションで、声が出せなくなった。体験済みの症状だったので、そんなに深刻には考えていない。だけど、周りはそうじゃないみたい。どうにかして治せないか、必死になって考えてくれた。医者に診てもらったり、治療法を調べてくれたり。
「先生、この子は治りませんか?」
「……残念ですが、かなり難しいと思います」
母親が、俺の身体について不安そうな顔で医者に問いかける。だが、医者の答えは望み薄だった。
診断によると、俺の声帯はボロボロに壊れて上手く振動しなくなっているらしい。だから言葉を話そうとしても、コントロールして音を発することが出来ない。
それから、肺のダメージも治癒は望めないとのこと。もっと身体が育ってきたら、身体の状態などと相談しながら鍛えたりすることは可能かもしれない。だけど現状は、激しい運動など極力控えるようにと言われた。運動もダメなのか。
「……そうですか」
母親が悲しそうな表情を浮かべ、医者の話をメモを取りながら聞き逃さないように耳を傾けている。
身体に障害があったとしても、俺はそれほど気にしなかった。生き残れただけで、ありがたいと思っていたから。
けれど、周りの人たちを心配させてしまうのは非常に申し訳ないと感じていた。
もしも、魔力を察知して操ることが出来たなら、回復魔法など使って自分の身体を治せたかもしれないのに。残念ながら、この世界には魔力が存在していない。魔法を使うことは出来ない。
魔力は存在しないが、アイテムボックスは使えるようだった。しかし、この能力も今回は不調のようである。
何回か前の人生で行った、勇者の儀式というもので習得した特殊能力だ。頭の中でアイテムボックスと念じてみると、どこかの空間に繋がって物を出し入れすることが出来る。
今まで繰り返してきた人生。その最中に手に入れたアイテムの数々を、中に入れることで転生した先にまでアイテムを持ち越すことが出来る能力だった。一度死んだとしても、空間の中に収納していたアイテムはリセットされない。
何度も転生を繰り返している俺にとって、とてつもなく便利な能力だった。
だが今回の人生では、この能力が使えないみたい。異空間に繋がることは出来る。異空間に保管していたアイテムも残っている、という感覚がある。しかし、中の物を取り出すことが出来なかった。
たくさんの食料や調味料、冒険で愛用していた武器や防具、アクセサリー、様々な場所で集めた貴金属類などなど。全て、取り出すことが不可能。
アイテムボックスの中には収納されているようだけれども、それを取り出せない。こうなった原因は不明。何故か、収納することは可能だった。物に触れ、収納すると念じればアイテムボックスの中に入る。
「……」
試しに、おもちゃの1つを収納してみた。手元にあったおもちゃがパッと消えて、異空間に入った感覚があった。
「……? ……!」
ちゃんと、アイテムボックスの中に物を入れることが出来るのを確認する。だが、中に入れると二度と取り出せなくなってしまった。何度か取り出そうと試してみたが、不可能だった。
アイテムボックスの能力を習得してから、初めての出来事。これは、どういうことなのか。
この世界に魔力が存在していないからなのか。俺の身体が不調だから、特殊能力も上手く発動させることが出来ないのか。それとも他に、なにか原因があるのか。
まぁでも今の所、アイテムボックスの能力を使えなくても困るようなことはない。両親にも恵まれて、裕福に生活することが出来ているから心配なかった。
将来、ちょっとだけ職業選択するのに困るぐらいかな。
激しい運動が出来ないとなると、スポーツ選手を目指すのは無理だろう。話せないとなると、接客業とかは難しいだろうし。他にも色々と制限がありそうだ。
料理の知識と腕には自信がある。けれども、何回か前の人生で料理人として生きたことがあったから、同じように生きるのは飽きてしまいそう。なるべくなら、新たな世界に飛び込んで経験したい。せっかく転生して、新しい人生を歩んでいるから。
とはいえ、他の人に負けないぐらい自信のある能力が既にあるのなら、上手く活用していきたい。
いつか、横大路家を出されることになるらしい。だけどそれは、まだまだ先のことのようなので、悩む時間は十分にある。
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