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10周目(異世界ファンタジー:女神転生)
第208話 静かに終える日
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さらに、時は流れて。
ある日、森の近くに人間の気配が近づいてくるのを察知した。その集団の中には、覚えのある気配があった。特に警戒することなく、リヴを連れて森の外側まで会いに行ってみる。
気配がある地点まで近寄ると、知っている人物の姿が見えたので挨拶をした。
「やぁ、シルヴィア。久しぶりだね」
「お久しぶりです、リヒトさん。リヴくんもね」
「ワウゥゥゥ!」
前回、ナディーヌの護衛として森にやって来た女戦士のシルヴィア。そんな彼女が俺とリヴに笑顔で挨拶を返す。今日は、ナディーヌと一緒じゃないらしい。代わりに、何十人も部下を引き連れている。気配の正体は、彼らだった。
「こんなに多くの人を連れて、どうしたんだい?」
「今日は、リヒトさんに色々と報告をしに来ました」
魔王を無事に討伐したという報告をするために、シルヴィアは来てくれたらしい。あれからどうなったのか、簡単に説明してくれた。それから手助けした報酬として、さまざまな食料品なども運んできてくれたそうだ。
「こちらが、報酬の目録です」
「こんなに? ありがとう、助かるよ」
感謝の言葉とともに、シルヴィアの部下たちが運んできた大量の木箱を渡される。馬車に乗せてここまで運んできたのだろう、かなりの量。
一瞬、こんなに受け取っても大丈夫なのだろうかと心配になった。だが、ここまでわざわざ運んできたんだ。ここで俺が受け取るのを拒否すると持ち帰る必要があり、そっちのほうが面倒をかけることになりそう。だから、素直に受け取ることにした。
木箱を一つ開けて中身を確認してみる。獣肉が塩漬けされて中に入っていた。他の木箱には、野菜や香辛料などが詰めてあるらしい。どれも長持ちするものだ。
とても助かる報酬だった。食べ物なんて、いくら受け取っても助かるから。俺は、アイテムボックスの中に保管しておけば食材を腐らせることなく持っておけるので。食べ物だけじゃなくて、金品なども報酬として渡してくれるらしい。こっちは、今のところ使い道はないかな。
「とても感謝していると、女王ナディーヌ様から御言葉を賜っております」
「ん? 女王?」
「はい! 先日、ナディーヌ様は王位を継承されてヴィシューパ国の新たな王となりました」
色々とあったらしい。遠く離れた場所で人と関わることなく、静かな日常を送っていた俺は知らなかったけれど。とりあえず、新たな王が誕生してナディーヌは女王になったようだ。
「それから、近々ナディーヌ様と勇者レオナルト様お2人の結婚式が行われる予定です。リヒト様は、どうされますか?」
「うーん」
そして今度、勇者レオナルトと盛大な結婚式が行われるという。アイツ、ちゃんと告白して成功したらしい。喜ばしいことだ。
シルヴィアは、俺に問いかけてくる。ナディーヌたちの結婚式に参加するかどうかを。少し考えてから、俺は答えた。
「すまないが、俺はこの森の拠点を離れることは出来ない。だから、結婚式には参加しない。ナディーヌとレオナルトにも、そう伝えてくれ」
「なるほど、了解しました。ナディーヌ様にお伝えします」
女神からの言葉を振り返って、俺は結婚式の参加を断った。すんなりシルヴィアは受け入れる。どうやら、俺が断ることを事前に予想していたようだ。ナディーヌが、何かしら教えていたのかな。俺が、あまり世間と関わらないよう静かに暮らしていることを。女神に、そうするように言われているから。
2人の結婚式は気になるけれど、関わらないようにすることを徹底する。
「俺が行けない代わりに、お祝いの品としてコレを渡してくれ」
「はい、必ず!」
結婚式に参加しない代わりに、お祝いの品としてアイテムボックスから取り出した剣を渡してほしいと頼んだ。
その剣は、俺が前世で使っていた武器の1つである。実戦用ではなく、儀礼用だ。昔、俺がダンジョンマスターだった頃、式典や特別なパーティーに参加する時などに使っていたもの。この先俺は使わないだろうから、彼女たちに結婚式のお祝いとしてプレゼントすることにした。ナディーヌが受け取ってくれたら、有効活用してくれるだろう。
託した剣を大事に抱えて、シルヴィアは気合いの入った返事をする。そして彼女は、部下と一緒に森から去っていった。
***
それから、あっという間に数十年が経った。
人との関わりを絶って生活していると、日付と曜日感覚が曖昧になる。時間の流れもぼんやりとした中で進んでいくので、気付いた時には月日が過ぎ去っていた。
俺はずっと、この森でリヴと一緒に静かに暮らしていた。時々、ナディーヌたちが遊びに来たりもした。俺が会う人間は、片手で数えるぐらい。そして頻度も、かなり少ない。死ぬ間際まで、なるべく人との関わりを断った生活を続けた。
魔王が消滅して、この近辺に生息しているモンスターも弱くなった。だけど誰も、この森に足を踏み入れようとしなかった。どうやら、この森には近寄らないようにと女王ナディーヌが一般民衆にお触れを出してくれていたようだ。女王としての職権を、俺たちのために行使してくれたらしい。
そのおかげで、これまで俺とリヴは騒ぎのない静かな暮らしを続けることが出来ていた。彼女には、本当に感謝しないといけない。
そんなナディーヌも、俺より先に逝ってしまった。勇者レオナルトも、亡くなった彼女の後を追うようにして、俺よりも先に逝った。
女王ナディーヌは勇者レオナルトとの子供を授かって、自分の子供に早めに王位を継承させて、老後の人生を楽しんでいたみたいだ。かなり自由に暮らしていた。だが俺とは違って、色々な出来事に巻き込まれたりしながら。この世界の主人公は彼ら。なかなか大変そうだった。騒動に巻き込まれるたびに、ナディーヌたちが色々と奔走している話を聞いた。それも楽しんでいたようだけど。
2人は最期まで、とても幸せな人生を送ったようだ。ナディーヌは、転生者ということを最期まで語らずに逝った。
俺も彼女と同じように、転生者であることは誰にも話していない。この事実を知る者は、もう俺以外には居ないだろう。そして近いうちに、誰も居なくなる。
「リヴ、俺も先に逝くよ」
「ワウ」
今回の俺の人生では、嫁を迎えることなく終わるようだ。リヴというパートナーが居てくれたおかげで、寂しさはなかった。
今も、俺とリヴの2人だけ。静かだけれど心地よい空間だった。こんなに穏やかな人生を送ったのは初めてのこと。
心配なのは、俺が死んでしまった後。リヴは、どうなってしまうのか。この世界に残して逝っても大丈夫なのだろうか。俺が居なくなっても、1頭だけで生きていけるぐらいの強さは十分にあると思う。だけど、寂しくさせてしまいそうだ。
神獣というのは、年を取らないようだから。昔の姿のまま変わらず、今までずっと一緒に居てくれた。この世界に留まるとなると、かなり長い時間を1頭だけで過ごすことになりそうだ。もしかしたら、永遠にこの世界に留まるのかも。
それとも俺が死んでしまったあとは、女神のもとに戻るのだろうか。リヴは、俺が転生特典の代わりとして受け取った神獣だった。だから、元通りに。そうなってくれたら嬉しいんだけど、答えはわからない。リヴの今後が気になる。
どうにかして俺の転生する先に、リヴを付いてこさせる方法はないか。考えてみたけれど、良い案は最後まで思い浮かばなかった。
とにかく、リヴ1頭だけを残していくことだけが心残りだった。
「一緒に生きれて楽しかったよ。ありがとう。それから、お前だけ残してゴメンな。俺が逝った後、お前は自由に生きてくれ」
「ワオゥゥゥ!」
枯れた俺の手でリヴの頭を撫でてやると、悲しそうに吠えていた。これがお別れの言葉となった。
あと少しで、俺の生命力はゼロになりそう。死期が近い。そして、俺はまた新たな死を迎える。
次は、どんな人生になるのだろうか。いつものように期待しながらゆっくりと目を閉じた。
ある日、森の近くに人間の気配が近づいてくるのを察知した。その集団の中には、覚えのある気配があった。特に警戒することなく、リヴを連れて森の外側まで会いに行ってみる。
気配がある地点まで近寄ると、知っている人物の姿が見えたので挨拶をした。
「やぁ、シルヴィア。久しぶりだね」
「お久しぶりです、リヒトさん。リヴくんもね」
「ワウゥゥゥ!」
前回、ナディーヌの護衛として森にやって来た女戦士のシルヴィア。そんな彼女が俺とリヴに笑顔で挨拶を返す。今日は、ナディーヌと一緒じゃないらしい。代わりに、何十人も部下を引き連れている。気配の正体は、彼らだった。
「こんなに多くの人を連れて、どうしたんだい?」
「今日は、リヒトさんに色々と報告をしに来ました」
魔王を無事に討伐したという報告をするために、シルヴィアは来てくれたらしい。あれからどうなったのか、簡単に説明してくれた。それから手助けした報酬として、さまざまな食料品なども運んできてくれたそうだ。
「こちらが、報酬の目録です」
「こんなに? ありがとう、助かるよ」
感謝の言葉とともに、シルヴィアの部下たちが運んできた大量の木箱を渡される。馬車に乗せてここまで運んできたのだろう、かなりの量。
一瞬、こんなに受け取っても大丈夫なのだろうかと心配になった。だが、ここまでわざわざ運んできたんだ。ここで俺が受け取るのを拒否すると持ち帰る必要があり、そっちのほうが面倒をかけることになりそう。だから、素直に受け取ることにした。
木箱を一つ開けて中身を確認してみる。獣肉が塩漬けされて中に入っていた。他の木箱には、野菜や香辛料などが詰めてあるらしい。どれも長持ちするものだ。
とても助かる報酬だった。食べ物なんて、いくら受け取っても助かるから。俺は、アイテムボックスの中に保管しておけば食材を腐らせることなく持っておけるので。食べ物だけじゃなくて、金品なども報酬として渡してくれるらしい。こっちは、今のところ使い道はないかな。
「とても感謝していると、女王ナディーヌ様から御言葉を賜っております」
「ん? 女王?」
「はい! 先日、ナディーヌ様は王位を継承されてヴィシューパ国の新たな王となりました」
色々とあったらしい。遠く離れた場所で人と関わることなく、静かな日常を送っていた俺は知らなかったけれど。とりあえず、新たな王が誕生してナディーヌは女王になったようだ。
「それから、近々ナディーヌ様と勇者レオナルト様お2人の結婚式が行われる予定です。リヒト様は、どうされますか?」
「うーん」
そして今度、勇者レオナルトと盛大な結婚式が行われるという。アイツ、ちゃんと告白して成功したらしい。喜ばしいことだ。
シルヴィアは、俺に問いかけてくる。ナディーヌたちの結婚式に参加するかどうかを。少し考えてから、俺は答えた。
「すまないが、俺はこの森の拠点を離れることは出来ない。だから、結婚式には参加しない。ナディーヌとレオナルトにも、そう伝えてくれ」
「なるほど、了解しました。ナディーヌ様にお伝えします」
女神からの言葉を振り返って、俺は結婚式の参加を断った。すんなりシルヴィアは受け入れる。どうやら、俺が断ることを事前に予想していたようだ。ナディーヌが、何かしら教えていたのかな。俺が、あまり世間と関わらないよう静かに暮らしていることを。女神に、そうするように言われているから。
2人の結婚式は気になるけれど、関わらないようにすることを徹底する。
「俺が行けない代わりに、お祝いの品としてコレを渡してくれ」
「はい、必ず!」
結婚式に参加しない代わりに、お祝いの品としてアイテムボックスから取り出した剣を渡してほしいと頼んだ。
その剣は、俺が前世で使っていた武器の1つである。実戦用ではなく、儀礼用だ。昔、俺がダンジョンマスターだった頃、式典や特別なパーティーに参加する時などに使っていたもの。この先俺は使わないだろうから、彼女たちに結婚式のお祝いとしてプレゼントすることにした。ナディーヌが受け取ってくれたら、有効活用してくれるだろう。
託した剣を大事に抱えて、シルヴィアは気合いの入った返事をする。そして彼女は、部下と一緒に森から去っていった。
***
それから、あっという間に数十年が経った。
人との関わりを絶って生活していると、日付と曜日感覚が曖昧になる。時間の流れもぼんやりとした中で進んでいくので、気付いた時には月日が過ぎ去っていた。
俺はずっと、この森でリヴと一緒に静かに暮らしていた。時々、ナディーヌたちが遊びに来たりもした。俺が会う人間は、片手で数えるぐらい。そして頻度も、かなり少ない。死ぬ間際まで、なるべく人との関わりを断った生活を続けた。
魔王が消滅して、この近辺に生息しているモンスターも弱くなった。だけど誰も、この森に足を踏み入れようとしなかった。どうやら、この森には近寄らないようにと女王ナディーヌが一般民衆にお触れを出してくれていたようだ。女王としての職権を、俺たちのために行使してくれたらしい。
そのおかげで、これまで俺とリヴは騒ぎのない静かな暮らしを続けることが出来ていた。彼女には、本当に感謝しないといけない。
そんなナディーヌも、俺より先に逝ってしまった。勇者レオナルトも、亡くなった彼女の後を追うようにして、俺よりも先に逝った。
女王ナディーヌは勇者レオナルトとの子供を授かって、自分の子供に早めに王位を継承させて、老後の人生を楽しんでいたみたいだ。かなり自由に暮らしていた。だが俺とは違って、色々な出来事に巻き込まれたりしながら。この世界の主人公は彼ら。なかなか大変そうだった。騒動に巻き込まれるたびに、ナディーヌたちが色々と奔走している話を聞いた。それも楽しんでいたようだけど。
2人は最期まで、とても幸せな人生を送ったようだ。ナディーヌは、転生者ということを最期まで語らずに逝った。
俺も彼女と同じように、転生者であることは誰にも話していない。この事実を知る者は、もう俺以外には居ないだろう。そして近いうちに、誰も居なくなる。
「リヴ、俺も先に逝くよ」
「ワウ」
今回の俺の人生では、嫁を迎えることなく終わるようだ。リヴというパートナーが居てくれたおかげで、寂しさはなかった。
今も、俺とリヴの2人だけ。静かだけれど心地よい空間だった。こんなに穏やかな人生を送ったのは初めてのこと。
心配なのは、俺が死んでしまった後。リヴは、どうなってしまうのか。この世界に残して逝っても大丈夫なのだろうか。俺が居なくなっても、1頭だけで生きていけるぐらいの強さは十分にあると思う。だけど、寂しくさせてしまいそうだ。
神獣というのは、年を取らないようだから。昔の姿のまま変わらず、今までずっと一緒に居てくれた。この世界に留まるとなると、かなり長い時間を1頭だけで過ごすことになりそうだ。もしかしたら、永遠にこの世界に留まるのかも。
それとも俺が死んでしまったあとは、女神のもとに戻るのだろうか。リヴは、俺が転生特典の代わりとして受け取った神獣だった。だから、元通りに。そうなってくれたら嬉しいんだけど、答えはわからない。リヴの今後が気になる。
どうにかして俺の転生する先に、リヴを付いてこさせる方法はないか。考えてみたけれど、良い案は最後まで思い浮かばなかった。
とにかく、リヴ1頭だけを残していくことだけが心残りだった。
「一緒に生きれて楽しかったよ。ありがとう。それから、お前だけ残してゴメンな。俺が逝った後、お前は自由に生きてくれ」
「ワオゥゥゥ!」
枯れた俺の手でリヴの頭を撫でてやると、悲しそうに吠えていた。これがお別れの言葉となった。
あと少しで、俺の生命力はゼロになりそう。死期が近い。そして、俺はまた新たな死を迎える。
次は、どんな人生になるのだろうか。いつものように期待しながらゆっくりと目を閉じた。
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