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10周目(異世界ファンタジー:女神転生)

第207話 そして、日常へ

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 ナディーヌたちが拠点から旅立ち、俺とリヴだけの生活が再開した。4人が居なくなって、拠点は一気に静かになった。1人と1頭だけ。これが、いつもの風景だな。前のように戻っただけである。

「よぉし、やるか」
「ワウ!」

 気持ちを切り替えて、アイテムボックスから取り出したお手製のクワで畑を耕す。リヴに話しかけてから、作業を開始する。

 最近、戦闘訓練ばかりだった。なので今日は思う存分に、農業したい気分だった。また新しく育てる作物を増やしてみようかと地面にクワを入れて、固まった土をほぐしていく。天候も良くて、作業がどんどん捗る。

 他人のいる生活もそれなりに良かったけれど、やっぱり俺は静かに暮らせる生活が良いかな。今回の人生は、静かに生きることを目標にしていた。だから、初志貫徹の意思で人との交流をなるべく避けて、孤独も楽しみながら好きなように生きていく。

 気分によって畑を耕したり新しい家を建ててみたり、その日の朝にその日の行動を決める。また試行錯誤を繰り返す日々を過ごしていた。これが俺たちの日常。


*********



 ナディーヌたちが旅立ってから、数週間が過ぎていた。特に、特筆すべき出来事もなく日々が過ぎていた。いつものように今日は、山から切り出して運んできた木材を建築に利用できるよう加工しようとしていた。そんなタイミングのことだった。

「ん?」
「グルゥゥゥ!」

 突然、遠くの方に現れた邪悪に染まった魔力を察知した。それはまだ薄くて、復活したばかりなのがわかる。予言の通り、この世界に魔王が復活したようだ。

「始まったのか」
「グルァ、グルゥ!」

 作業の手を止めて、魔力を感じる方に集中してみる。人との交流を避けて、自然の中で生活していると様々な察知能力が敏感になり、感覚も鋭くなっているような気がする。

 神獣であるリヴも、俺と同じく鋭い魔力感知の能力を持ち合わせていた。悪意とか邪悪などを察知する能力も高く、今の状況を正しく理解しているだろう。そんなリヴが、吠えて教えてくれた。

「あっちかな?」
「ワウワウ!」
「お前も、感じたか」

 察知した魔力は、かなり遠方のようだ。前までの俺ならば見逃してしまうような弱々しさ。だけど、少しずつ増えていっているような。そしてリヴも、同じ方向から魔力を感じるようだった。

 そのすぐ近く、強力な魔力を放出している者たちも感じ取った。この感覚は覚えている。勇者レオナルトと王女ナディーヌの2人だろう。その他に魔力の気配が何人かある。仲間もいる。この方角で間違いない。彼らだ。

「予言の通り、魔王が復活したみたいだね。けれどナディーヌたちは予言に従って、事前に備えていたから問題無いようだな」
「ワウゥゥゥ!」

 徐々に、魔王の魔力が増えて大きくなっているようだ。このまま放置し続ければ、とんでもないことになるだろう。だけど、近くに勇者たちが居るから対処することは可能だろう。気付かないうちに完全復活していた、という展開ではなくてよかった。

 今の所、魔力は圧倒的に勇者たちが上。後は、どのような戦いを繰り広げて相手を倒すのかにかかっている。慢心して油断すれば、負けることもあり得るだろう。そうならないように、鍛えておいた。

 予言で、手に入れるはずだった魔王を倒すための武器が見つからなかった。それで問題ないのか。もしかすると、倒し切ることは出来ないかも。それは、杞憂かな。

 とにかく絶対に、油断をするんじゃないぞ勇者よ。そうすれば倒せるはずだから。なんだか、フラグになるような言葉が頭に思い浮かんだな。でも、本当に大丈夫だと思う。想像していたよりも脅威は少ないから。

「……」
「……」

 俺もリヴも気配を感じ取りながら口を閉じて、黙って彼らの様子を観察し続ける。

「うん。これは、大丈夫そうだな」
「ワウッ、ワウッ」
「そうだね。勇者たちには、怪我なく勝ってもらいたい」

 俺は切り株に腰掛けて脇にリヴを付き従えながら、目を閉じる。ここから、はるか遠くで行われている戦いの様子について、集中して気配を察知しながら戦いの状況を見守った。

 遠くにいる俺には、彼らと魔王の戦いを全てを知ることは出来ない。だけど、勇者たちが優勢だということはハッキリと分かった。戦闘訓練を繰り返して、彼を鍛えた俺は知っている。彼が強くなった、ということを。

 勇者である彼だけじゃなくて、ナディーヌという優秀な仲間も居る。協力して戦えば、魔王を倒すのも余裕そうだった。



 夕日の光を受け、まわりの物が美しく輝いて見える。日が沈み切る直前に、全てが終わったようだ。魔王の気配は消滅して、おそらく勇者たちは全員無事に生き残ったようなので、安心していた。

「無事、終わったようだな」
「ワウ」
「そうだな。夕飯は、何を作ろうかな」

 腰掛けていた切り株から立ち上がる。遠くから彼らの戦いを見届けて、人類滅亡は免れたことを理解した。俺は傍観者として、これ以上は彼らの物語に介入する必要はないだろう。あっさりとだが全て順調に終わって、本当に良かったと思っている。

 そして俺たちは再び、日常生活に戻った。こっちが俺の日常の風景。

「おめでとう」
「ワウッ」

 その日の夕食はいつもより少しだけ豪華にして、リヴと一緒に彼らの勝利と無事を静かに祝った。
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