転生人生ごっちゃまぜ~数多の世界に転生を繰り返す、とある旅人のお話~

キョウキョウ

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10周目(異世界ファンタジー:女神転生)

第200話 前世からの

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「お察しの通り、俺は転生者だ」

 はぐらかすかどうか一瞬考えたが、彼女は確信を持って問いかけてきたようなので素直に白状することにした。彼女の表情に、驚きはない。

「そういう君も、転生者なのかい?」
「はい、そうです」

 同じ質問をしてみると、彼女も素直に転生者であるということを明かした。しかしなぜ、俺が転生者であるということを確信していたのか。俺は彼女が転生者であるという確信は持てなかった。予感がしただけ。

 彼女と出会ってから今までの自分の行動を思い返してみたが、間違いないだろうと確信を持てるほどの行動や言動があったとは思えないのだが。どこで判明したのか、気になる。

 そんなことを考えていると、彼女が再び問いかけてきた。

「もうひとつ、聞いてもいいですか?」
「うん? どうぞ」

 ものすごく真剣な表情を浮かべて、何かを覚悟したような様子で問いかけてくる。転生者であるということ以外にも、まだ何か聞きたいことがあるようだが。

「貴方は、ダンジョンマスターの青柳理人さんではありませんか?」
「……うん。前世で、そう呼ばれていたこともあるよ」
「キャー!! や、やっぱり! うそっ、こんなことってある!?」

 彼女の口から出てきたのは、懐かしい称号だった。その通りだと首を縦に振ると、ナディーヌは席から立ち上がって黄色い声を上げる。というか、ものすごく興奮状態だった。

「どうしたナディ!?」
「まだ、お話している途中です。控えていなさい、レオナルト!」
「うっ! は、はい……」

 彼女の声が外まで聞こえていたのだろう、レオナルトが心配した様子で部屋の中に飛び込んできたけれど、すぐに追い返されてしまった。すごすごと引き下がっていく彼の背中を見ていると、少しかわいそうでもある。そんなことないか。

 ダンジョンマスターと呼ばれていたこと、前世の名前まで知っているということは俺と同じ世界から転生してきたようだが。

 知り合いなのだろうか。改めて彼女の顔を確認してみたけれども、やはり見覚えはない。生まれ変わって顔は変わっているだろう。だけど性格や仕草でも、思い当たるような人物が居ないしなぁ。

「あ、あのぉ……」
「ん?」

 再び、部屋には2人だけ。ナディーヌは両手を自分の頬に当て、目をキラキラさせて、ソワソワとした態度。落ち着きがない。さっきまでとは、別人のようだ。そんな状態で、彼女はこんなことを言ってきた。

「握手、してもらえますか?」
「握手?」
「はい! 私、あの、前世から貴方の大ファンなんです! 貴方を知ってから私も、迷宮探索士を目指して、学校でダンジョン攻略を学んでいました。青柳さんのことはもちろん、白砂さんや大内さん、田中さんも憧れの存在なんです!」
「あぁ。なるほど」

 ナディーヌは、かつて俺がパーティーを組んでいた仲間たちの名前を挙げていく。懐かしいな。しかし、彼女が前世からのファンだったとは。

「どうぞ」
「あ! ありがとうございます! やったぁ!」

 握手をしただけなのに、ものすごく喜ばれた。満面の笑みを浮かべて、小躍りしている。それほどなのか。



「つまり、俺がリヒトと名乗ったから転生者だとわかった、ということか?」
「あ、はい。それもあります」

 しばらくして平常心を取り戻してから向かい合う席に座り直し、話し合いを再開。まだ彼女は、こぼれんばかりの笑顔を浮かべている。落ち着きを取り戻せていないが、会話は進められそう。

「リヒトさんの声には聞き覚えがあって、動き方や話し方にも特徴がありました」
「なるほど」

 生まれ変わって、身体も違っているはずだ。転生して別人に生まれ変わったから、自分ではあまり似ていると思えない。けれど彼女の目から見てみると、同一人物だとわかるような特徴があるらしい。

「その他にも、森の中で私たちを救ってくれたときに出す指示とかも青柳さんらしい癖がありました。戦っている姿とかもです。私、ダンジョンマスターを密着している取材の記事やテレビ番組で、青柳さんたちのパーティーがダンジョンを攻略している様子を見たことがあるんです! それで、ピンときました。もしかして……、って」
「そ、そうなのか」

 話している最中に、どんどんヒートーアップしていくナディーヌ。本当に、前世の俺たちのことを好きでいてくれているようだ。だから、一方的に知られていたということなのか。彼女からの熱心すぎる支持に、俺は圧倒されていた。

 しかし、そういう経緯で転生者だとバレるなんて予想外だな。有名人になったら、そういうことも起こり得るんだな。俺は学んだ。

「私も、白砂さんのような戦闘が得意な迷宮探索士になれるようにと学校で戦い方を勉強していました。リヒトさんが執筆した、ダンジョン攻略の教本も読みましたよ。けれど前世の私は、迷宮探索士の資格を得る前に交通事故で死んでしまったみたいで……」
「それは残念だな」

 今度は話しているうちに、どんどん落ち込んでいくナディーヌ。彼女が悲しそうに語る様子を見ていると、本当に残念だという気持ちが伝わってくる。

 迷宮探索士になりたかったのに不運にも死んでしまい、この世界に転生してきたということらしい。

「それなら、これを君にプレゼントするよ」
「え? これって……」

 アイテムボックスから本を取り出し、彼女に渡す。ファンだと言ってくれる彼女を喜ばせたいと思ったから。

「え!? い、いいんですか!? この本って、大事なものなんじゃ」
「まだ何冊か予備を持っているから、気にしないで受け取ってくれ。喜んでくれたら俺も嬉しい」

 本を受け取った彼女は、手元にある本の表紙を見て驚き、バッと勢いよく顔を上げた。そして、俺の顔と本を交互に視線を行き来させる。転生したのなら、彼女はこの本を持っていないと思う。だから、プレゼントした。

 ナディーヌの喜ぶ姿を見て、ファンサービスが成功したことを確信する。彼女は、嬉しそうに顔をほころばせた。

「は、はい! とっても嬉しいです! この本は、家宝にします!」
「か、家宝」
「はい! 絶対に、大切にしますね」

 ヴィシューパ王国の第二王女であるという彼女が家宝にするということはつまり、ヴィシューパの国宝ということになるのだろうか。そんな大層なものじゃないが。

 ズラッと並ぶ立派な本棚に収められた書籍の数々、その中にポツンと自分の書いた本が保管されているような場面を想像して恥ずかしくなった。彼女には、別のものをプレゼントするべきだったかな。

 でも今さら、やっぱり本を返してくれとは言えないぞ。
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