転生人生ごっちゃまぜ~数多の世界に転生を繰り返す、とある旅人のお話~

キョウキョウ

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10周目(異世界ファンタジー:女神転生)

第190話 夜の旅立ち

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 1週間前に勇者一行が人知れず、村から立ち去った。そして今夜、俺も同じように村から出て行くことにした。自宅に置いていた荷物を纏めてアイテムボックスの中に収納すると、すぐに出て行く準備は完了する。生まれてからしばらく生活を続けた、この家ともお別れだ。あまり良い思い出がない場所だったので、未練はないけれど。むしろ、別れが惜しいのは森の中にある畑の方だな。あっちは村人たちに荒らされてしまって、ダメになってしまったが。

「……」

 家の中に父親と兄弟たちが寝ている気配を感じながら、彼らには気付かれないよう気配を消して静かに家を出る。とても簡単なことだった。

 真っ暗闇の中、月明かりが頼りになる。ひんやりとした冷たい風を、肌に感じた。村が寝静まっているところを、土の地面を歩く音を立てないように注意して進む。

 この時間帯ならば、誰にも見つからないだろうと思う。だが、万が一にも見られないように。影に隠れながら村の外を目指した。村の外に出たら、まずは森の中で待機しているリヴを迎えに行かなければ。



 村から出る直前、暗闇の中に人が居るのがわかる。先程から気配を察知していた。そこから動く様子が一切なく、1人だけで誰か来るのを待ち構えている。おそらく、待っているのは俺だろう。

 慎重に近付いていく。月明かりに照らされて、彼の顔が徐々に見えてきた。村長の息子であるヘルミンだった。空を見上げていた彼は、暗闇の中の気配を察したのか、俺が立っている方へ視線を向けてくる。

「やぁ、こんばんは」
「こんばんは、ヘルミン。こんな夜遅くに、どうしたんだ」

 ごくごく自然に挨拶してくる彼に、俺も自然な返事をする。彼は、悲しそうな表情を浮かべた。

「リヒトくんは、やっぱり村から出ていくのか?」

 今夜、俺が村から出ていくことを予想していたような口ぶり。やはり、俺が来るのを待っていたようだ。彼は、村から出ていくのを止めたり責めたりするような様子はない。

 純粋な疑問で、答えを知りたいから問いかけてきたようだ。そんな彼の質問に俺は正直に答える。

「あぁ。これから、出ていくつもりだよ」
「そうか。寂しくなるね」

 首を縦に振り、そうだと肯定した。すると、彼は悲しそうな表情を浮かべていた。俺が村から去ることを、心の底から残念がっているような顔だった。

「余計なお世話かもしれないけれど、リヒトくんに伝えておきたいことがある」
「何かな?」
「最近、村で起こっている騒動についてだよ。裏で扇動していたのは」
「俺の兄貴たち、だね」
「ッ!?」

 ヘルミンが教えてくれる前に、俺が答えを口に出した。悪い噂話を村中に広めて、俺の評価を下げようとしている村人たち。それを扇動しているのは、一体誰なのか。

「知っていたのか?」
「そりゃ、もちろん」

 俺が知っていたことに驚くヘルミン。最近、次男と三男の2人がコソコソと隠れて何かしているようだったので、ちょっと気配を消して尾行してみた。すると、すぐに尻尾を掴めてしまった。俺の悪い噂を流すように、仲間たちに指示をしている現場を目撃してしまったのだ。

 彼らが自立するまで面倒を見るつもりだったが、もう十分だと思った。というか、そこまでされては、もう彼らの面倒なんて見きれないよ。それを許すほど、俺は情け深い人ではない。彼らに仕返しをしないだけ、マシな人間だと思うけど。

「君の兄弟たちと、父親については私に任せてくれ。なんとかする。間違っても君の後を追いかけたりしないように、3人とも監視しておくよ。リヒトくんは村のことを気にせず、自由に旅立ってくれ」

 ヘルミンは、俺が村から出ていくのを後押ししてくれた。そして、俺の面倒な父や兄弟をどうにかしてくれると言ってくれた。そこまで言われると、申し訳なく思えてくる。

 次期村長である彼には、他にも色々と面倒なことがたくさんあるはずだ。そこに、俺の家族の問題まで背負わせるのは気が引けた。

「ヘルミン。君に、そんな迷惑を押し付けるわけには」
「それぐらい、大丈夫だよ。気にしないで。君には村の戦士たちを、森に住む凶暴なモンスターを倒せるまで鍛えてくれた、多大な恩があるから。こうして君に少しでも恩返しをさせてくれ」
「ありがとう。俺たち家族の問題だというのに、ヘルミンに面倒事なんか押し付けてしまって、本当に申し訳ない」

 俺たち家族の後始末を請け負ってくれるというヘルミン。正直、とてもありがたい申し出だった。俺が村を出て行った後も、家族は村に残るわけで。俺が居なくなった後に、彼らが村人たちに迷惑を掛けてしまうのが一番困る。何か問題を起こせば俺のせいではないが、多少の責任を感じてしまう。だけどヘルミンが引き受けてくれた。それなら、安心できる。

 ついでに、もう一つ気になっていたことがある。

「俺には婚約者が居たみたいなんだけど……?」
「そっちも、気にしなくて大丈夫。任せておいて。こっちでなんとか処理しておく」
「何から何まで本当に、ありがとう」
「全然、問題ないさ。後は任せておいて」

 村長と父親たちが勝手に進めていた婚約話。あれから、特に進展していない。俺は婚約者と数回会って話をしただけで、それ以降も関係は薄いまま。婚約が今も続いているのかさえわからないまま、今日に至る。

 とはいえ、そんな彼女に何も言わないまま村に残していくのも申し訳ないかもなと少しだけ思っていた。婚約相手とは、そこまで深い関係を築いてこなかったのは幸いだけど。

 彼女に関しても、ヘルミンが処理してくれるようだ。彼なら、悪いようにはしないだろうと思うから、後を任せることに。彼が居てくれて、本当に良かったと思う。

「リヒト。あと、これを受け取ってくれ」
「これは」

 持っていた袋を渡される。握りこぶしより、少し大きめのサイズ。中身を確認すると、金貨が入っていた。

「少ないけれど、それだけあれば1年ぐらいは街で暮らしていけるはず」
「これは、受け取れないよ」

 ヘルミンから受け取った袋を、俺は彼に押し返した。そこまでしてくれた、気持ちだけ受け取る。俺は別に、金に困っているわけじゃないから不必要だ。

「そのお金は、自分のため、村のために使ってくれ」
「いや、しかし」

 返した袋を受け取るのをためらうヘルミン。何も気にせず、受け取って欲しいな。そう思いながら、俺は言葉を続けた。

「こう見えて、俺には戦う力はあるからさ。モンスターを倒して素材を売ったりしてどうにかするさ。他にも色々と、稼ぐ方法はある。だから、心配しないでよ」
「なるほど。実力者である君なら、それぐらい簡単に出来るだろうね」

 そう言うと、押し返された袋をヘルミンは納得して受け取ってくれた。

「それじゃあ、俺はそろそろ村を出ていくよ」
「うん。元気で」
「ヘルミンも。頑張って」
「あぁ」

 この村に生まれてよかったことは、彼と出会えたことだ。友人との別れ。最後は、お互い笑顔で。

 俺は唯一、ヘルミンにだけ別れを告げると村を出た。向かう先は、森。そこにいるリヴを迎えて、ようやく自由になったから何も気にせず、一緒に暮らせるかな。
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