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9周目(現代ファンタジー:ダンジョン)
第178話 ダンジョン・マスターの最期
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俺たちは、迷宮探索士の試験に合格して資格を取得した16歳の頃から、66歳になるまでの50年間、パーティー4人組でダンジョンの攻略を続けてきた。
この世界に存在しているダンジョンの数は、800箇所ぐらいだと言われている。現在も未発見のダンジョンや、新たに増えたダンジョン、消えてしまったものもあるけれど。
俺たちは、世界に現存しているダンジョン全て周ったと言っても過言ではないほど世界中のダンジョンを巡ってきた。世界各地で依頼を受けて、結果を出した。
ダンジョン・マスターとして世界中の人たちに知られていた。各国で迷宮探索士の歴史の教科書に載るほど、数々の功績を残したのである。
迷宮探索士として一生の誇りとなるような名誉が与えられる、アルゴスティック賞を受賞する。その後も何度か続けて受賞させてもらって、最後に殿堂入りを果たして有終の美を飾った。
リヒト、ネコ、クミ、ムネカズという俺たちの名前を世界中の人たちが覚えているそうだ。とても光栄なことだった。
日本のマスコミに叩かれたこともあったが、気が付いたときには周りの騒がしさは無くなっていた。俺たちを目の敵にしていた、とあるテレビ局と新聞社は潰れてなくなったらしい。いつの間にか居なくなっていて、最近見なくなったがどうしたのか、と気になって調べてみた。そこで、もう無くなっていたということを知った。
やっぱり面倒そうな相手からは、逃げるに限ると思った。
俺が30歳になった頃に自分の子供たちに向けて、迷宮探索士が腕を磨いて実力を上げるために必要だと思うことを一冊にまとめた教本を書いた。
とある経緯で、その本が出版されることになる。著者である俺の知名度が高くて、本の内容も評価されて評判となり、迷宮探索士の学校で授業に使われるようになる。出版してから30年以上経った今でも、ダンジョン攻略を学ぶために必読と言われるほどの本になっていた。まさか、そんなことになるなんて予想外だけど嬉しかった。
66歳になって、50年という区切りがいい年に俺たちは迷宮探索士を引退する。俺とネコは、まだまだ身体が動いた。迷宮探索士の活動を続けることは可能だった。だが、他の2人が限界に近かった。無理をしないためにもパーティーを解散させて、4人全員でスパッと現役を引退すると決めた。
世界中から惜しまれながら、迷宮探索士の現役を引退。
その後は、子供たちが代わりとなって世界各地を巡り活躍してくれた。子供たちはダンジョン・マスターの称号も引き継ぐほどの成果を挙げていた。3人ともが有名な迷宮探索士になって、数々の成功を収めている。そして田中家の子供たちも優秀で、様々な功績と結果を残していた。今もバリバリ活躍中で、迷宮探索士界をリードしている。本当に、頼もしいことだ。
両親の名声に胡座をかかず、周囲から向けられる期待という名のプレッシャーにも負けなかった。彼らは優秀で、とても良い子に育ってくれていた。それが嬉しい。
俺とネコの2人は迷宮探索士を引退した後も世界旅行で各地を一緒に巡り、楽しい旅行生活の日々を過ごした。かなり、充実した老後を送っている。
田中久美(旧姓、大内久美)と田中宗和の2人は引退後、日本に帰国すると田舎に家を買って、大きな畑を耕しながらのんびり生活していた。2人は、その畑で色々と育てる家庭菜園を楽しんでいるようだった。
この前も俺たちが日本へ帰った時に、収穫した野菜や果物を食べさせてもらった。かなり美味しかったので、手間ひまをかけて大事に育てているのだな、と思った。
彼らのような、ゆったりした暮らしも良さそうだ。彼らの生き方に魅力に感じた。いつか、あんな感じで生活してみよう。今は、妻のネコとの世界一周旅行が楽しくて充実しているから、今の生き方を変える必要性は感じないけれど。また、いつか。
月日は一気に過ぎ去って、遂にその日がやって来た。
俺は、何度も人生を繰り返し生きていくうちに、いつしか寿命による最期を感覚で悟れるようになっていた。今回の人生は、もう先は長くは無いようだ。妻との楽しい旅行の日々を終えて、死を迎える準備を始める。
故郷である日本に帰ってきて遺産を整理し、子供や孫、ひ孫たちとも最期の別れを済ませた。これで後は、死ぬだけだった。準備は万端。
意識はハッキリしているけれども、100歳を超えた身体は既に寿命を迎えていて限界に至っている。死期を悟った俺は、妻であるネコよりも先に逝くことになりそうだった。
「すまんな。お前だけを残して」
「大丈夫。ゆっくり休んで。絶対に後から、貴方に追いつく」
「わかった。先に逝って待ってるよ」
ベッドから身体を起き上がらせる力も無くなってしまった。それほど身体が弱った俺の側で、優しい笑顔で顔を覗き込んでくるネコ。最期まで俺を労ってくれている。
戦友だった田中久美と田中宗和も既に別れを済ませ、先にあの世へ見送っていた。俺が死ぬと、残るパーティーのメンバーは彼女1人だけになる。せめて、彼女よりも長生きしたいと思っていたが無理そう。残念だな。
ネコは、俺よりも魔力の扱いに長けていたから長生きみたい。まだもう少しだけ、彼女は生きていくことになりそう。後は、俺の代わりに多くの家族たちが面倒を見てくれるはずだから、心配や不安は少ない。
今回の人生は俺だけでなく、彼女もフェリスという人生から別世界に転生してきていることを知った。俺だけが特別じゃなかった。別の誰かも同じように転生している可能性がある。
遠い昔、俺が魔法教師をしていた頃に出会ったマリアのように。転生者は、俺以外にも居るらしい。俺が想像している以上に、多いのかもしれない。
ならば、この先も彼女と出会える機会が巡ってくるかもしれないと考えていた。
今よりもずっと先にある未来のような異世界で、過酷な宇宙を戦場にして生き残り続けたフェリス。あの人生で、俺はレイラという名前の女性だった。あの時も、俺はフェリスを残して先に逝ってしまった。これで、2度目だな。
あの世界では、機体に乗って戦うことしか許されなかった。今回の人生のように、レイラとフェリスが夫婦という関係になることも無かったし、満足するまで一緒に過ごす事もできなかった。
今回の人生では、それが果たせただろう。フェリスはネコという名前で転生して、幸せな人生を送れたと思う。リヒトになった俺が彼女を妻にして、少しぐらい彼女が満ち足りた人生を送るための手助けが出来たと思う。
今回の人生で妻は元気な子供を産んで、大人になるまで育て上げることが出来た。その子供たちも立派になって、親孝行してもらうまで俺たちは一緒に生きてきた。
沢山の人と幸せに巡り合うことが出来て、今回の人生は生きてきた甲斐があった。心の底から、そう感じられる。とても満足できる人生を送った。
「それじゃあ、また」
「うん。バイバイ」
ネコと別れの言葉を交わした。短い言葉で返事をしてくれたネコの、柔らかな声を耳にする。それが今回の人生で最期に聞いた、彼女の声だった。
寿命を迎えた身体に終わりが訪れる。水分を失いパサパサになった俺の髪の毛を、ネコの手が撫でてくれる感触を頭に感じながら、ゆっくりと瞳を閉じる。身体の中にある生命力が徐々に消えていくのを実感しながら、死を迎えた。
いつもよりも気楽に、人生の伴侶である者とのお別れを済ませることが出来たな。最期も、笑って逝けたと思う。
もしかすると次の人生で再び、会えるかもしれない。そう思えるから、死の別れに悲壮感はない。この先に、希望があるから。
いつもよりも大きな期待を持って、次の人生に進むことが出来た。さてと。次は、どんな人生を歩むことになるのかな。
この世界に存在しているダンジョンの数は、800箇所ぐらいだと言われている。現在も未発見のダンジョンや、新たに増えたダンジョン、消えてしまったものもあるけれど。
俺たちは、世界に現存しているダンジョン全て周ったと言っても過言ではないほど世界中のダンジョンを巡ってきた。世界各地で依頼を受けて、結果を出した。
ダンジョン・マスターとして世界中の人たちに知られていた。各国で迷宮探索士の歴史の教科書に載るほど、数々の功績を残したのである。
迷宮探索士として一生の誇りとなるような名誉が与えられる、アルゴスティック賞を受賞する。その後も何度か続けて受賞させてもらって、最後に殿堂入りを果たして有終の美を飾った。
リヒト、ネコ、クミ、ムネカズという俺たちの名前を世界中の人たちが覚えているそうだ。とても光栄なことだった。
日本のマスコミに叩かれたこともあったが、気が付いたときには周りの騒がしさは無くなっていた。俺たちを目の敵にしていた、とあるテレビ局と新聞社は潰れてなくなったらしい。いつの間にか居なくなっていて、最近見なくなったがどうしたのか、と気になって調べてみた。そこで、もう無くなっていたということを知った。
やっぱり面倒そうな相手からは、逃げるに限ると思った。
俺が30歳になった頃に自分の子供たちに向けて、迷宮探索士が腕を磨いて実力を上げるために必要だと思うことを一冊にまとめた教本を書いた。
とある経緯で、その本が出版されることになる。著者である俺の知名度が高くて、本の内容も評価されて評判となり、迷宮探索士の学校で授業に使われるようになる。出版してから30年以上経った今でも、ダンジョン攻略を学ぶために必読と言われるほどの本になっていた。まさか、そんなことになるなんて予想外だけど嬉しかった。
66歳になって、50年という区切りがいい年に俺たちは迷宮探索士を引退する。俺とネコは、まだまだ身体が動いた。迷宮探索士の活動を続けることは可能だった。だが、他の2人が限界に近かった。無理をしないためにもパーティーを解散させて、4人全員でスパッと現役を引退すると決めた。
世界中から惜しまれながら、迷宮探索士の現役を引退。
その後は、子供たちが代わりとなって世界各地を巡り活躍してくれた。子供たちはダンジョン・マスターの称号も引き継ぐほどの成果を挙げていた。3人ともが有名な迷宮探索士になって、数々の成功を収めている。そして田中家の子供たちも優秀で、様々な功績と結果を残していた。今もバリバリ活躍中で、迷宮探索士界をリードしている。本当に、頼もしいことだ。
両親の名声に胡座をかかず、周囲から向けられる期待という名のプレッシャーにも負けなかった。彼らは優秀で、とても良い子に育ってくれていた。それが嬉しい。
俺とネコの2人は迷宮探索士を引退した後も世界旅行で各地を一緒に巡り、楽しい旅行生活の日々を過ごした。かなり、充実した老後を送っている。
田中久美(旧姓、大内久美)と田中宗和の2人は引退後、日本に帰国すると田舎に家を買って、大きな畑を耕しながらのんびり生活していた。2人は、その畑で色々と育てる家庭菜園を楽しんでいるようだった。
この前も俺たちが日本へ帰った時に、収穫した野菜や果物を食べさせてもらった。かなり美味しかったので、手間ひまをかけて大事に育てているのだな、と思った。
彼らのような、ゆったりした暮らしも良さそうだ。彼らの生き方に魅力に感じた。いつか、あんな感じで生活してみよう。今は、妻のネコとの世界一周旅行が楽しくて充実しているから、今の生き方を変える必要性は感じないけれど。また、いつか。
月日は一気に過ぎ去って、遂にその日がやって来た。
俺は、何度も人生を繰り返し生きていくうちに、いつしか寿命による最期を感覚で悟れるようになっていた。今回の人生は、もう先は長くは無いようだ。妻との楽しい旅行の日々を終えて、死を迎える準備を始める。
故郷である日本に帰ってきて遺産を整理し、子供や孫、ひ孫たちとも最期の別れを済ませた。これで後は、死ぬだけだった。準備は万端。
意識はハッキリしているけれども、100歳を超えた身体は既に寿命を迎えていて限界に至っている。死期を悟った俺は、妻であるネコよりも先に逝くことになりそうだった。
「すまんな。お前だけを残して」
「大丈夫。ゆっくり休んで。絶対に後から、貴方に追いつく」
「わかった。先に逝って待ってるよ」
ベッドから身体を起き上がらせる力も無くなってしまった。それほど身体が弱った俺の側で、優しい笑顔で顔を覗き込んでくるネコ。最期まで俺を労ってくれている。
戦友だった田中久美と田中宗和も既に別れを済ませ、先にあの世へ見送っていた。俺が死ぬと、残るパーティーのメンバーは彼女1人だけになる。せめて、彼女よりも長生きしたいと思っていたが無理そう。残念だな。
ネコは、俺よりも魔力の扱いに長けていたから長生きみたい。まだもう少しだけ、彼女は生きていくことになりそう。後は、俺の代わりに多くの家族たちが面倒を見てくれるはずだから、心配や不安は少ない。
今回の人生は俺だけでなく、彼女もフェリスという人生から別世界に転生してきていることを知った。俺だけが特別じゃなかった。別の誰かも同じように転生している可能性がある。
遠い昔、俺が魔法教師をしていた頃に出会ったマリアのように。転生者は、俺以外にも居るらしい。俺が想像している以上に、多いのかもしれない。
ならば、この先も彼女と出会える機会が巡ってくるかもしれないと考えていた。
今よりもずっと先にある未来のような異世界で、過酷な宇宙を戦場にして生き残り続けたフェリス。あの人生で、俺はレイラという名前の女性だった。あの時も、俺はフェリスを残して先に逝ってしまった。これで、2度目だな。
あの世界では、機体に乗って戦うことしか許されなかった。今回の人生のように、レイラとフェリスが夫婦という関係になることも無かったし、満足するまで一緒に過ごす事もできなかった。
今回の人生では、それが果たせただろう。フェリスはネコという名前で転生して、幸せな人生を送れたと思う。リヒトになった俺が彼女を妻にして、少しぐらい彼女が満ち足りた人生を送るための手助けが出来たと思う。
今回の人生で妻は元気な子供を産んで、大人になるまで育て上げることが出来た。その子供たちも立派になって、親孝行してもらうまで俺たちは一緒に生きてきた。
沢山の人と幸せに巡り合うことが出来て、今回の人生は生きてきた甲斐があった。心の底から、そう感じられる。とても満足できる人生を送った。
「それじゃあ、また」
「うん。バイバイ」
ネコと別れの言葉を交わした。短い言葉で返事をしてくれたネコの、柔らかな声を耳にする。それが今回の人生で最期に聞いた、彼女の声だった。
寿命を迎えた身体に終わりが訪れる。水分を失いパサパサになった俺の髪の毛を、ネコの手が撫でてくれる感触を頭に感じながら、ゆっくりと瞳を閉じる。身体の中にある生命力が徐々に消えていくのを実感しながら、死を迎えた。
いつもよりも気楽に、人生の伴侶である者とのお別れを済ませることが出来たな。最期も、笑って逝けたと思う。
もしかすると次の人生で再び、会えるかもしれない。そう思えるから、死の別れに悲壮感はない。この先に、希望があるから。
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