上 下
156 / 310
9周目(現代ファンタジー:ダンジョン)

第149話 4人組パーティーでトレーニング

しおりを挟む
 放課後。新しく組んだ4人組パーティーのメンバーで学校にある訓練場で集まり、ダンジョン内での動きをシミュレーションして、みんなで確認しておくことにした。話し合いだけでなく、実際に体を動かして準備する。

 これは学校から指示されたわけじゃないけれど、俺がパーティーのリーダーとしてみんなに提案したこと。俺が両親と約束した、怪我しないようにするための準備だ。そして、メンバーのみんなも怪我しないようにするための準備でもある。

 訓練場には、他にトレーニングしている生徒たちが居た。彼らは上級生のようだ。こちらをチラッと確認したが、特に何も言わずにトレーニングを続けている。邪魔をしなければ大丈夫そうだな。そんな中で待っていると、パーティーメンバーの1人である女子生徒の大内さんがやって来た。

「こんにちは」
「ごめん、ごめん。待った?」

 慌てて来たのか、息を切らせている。戦闘科と支援科の授業が終わる時間が違ったので、俺のほうが早く到着していた。だが、約束していた時間よりも早い。

「いいや。約束した時間の5分前だよ」
「そっか。よかった」

 そんな風に挨拶を済ませた。すると彼女はいきなり、グイッと体を近づけてきた。若い女の子がこんなに近づいてきて、一体何だ。

「ところで」
「ん?」

 そして、俺の耳に口を近づけると小声で俺に話しかけてきた。何やら、他の人には聞かれたくない秘密の話なのか。

「白砂さんも来るんだよね。彼女、どうやって呼んだの?」
「え? ダンジョンに潜る備えをしておこうって、今回のトレーニングに誘ったら、普通に来てくれたよ」

 パーティーのみんなで一度、動きを確認しておきたいからシミュレーションしようと言うと、わかった、という返事で彼女も訓練場に来てくれることになった。

「ええっ!? へぇ、そうなんだ」

 そう言うと、驚いた表情で俺の顔を見てくる大内さん。そんなに驚くことなのか。俺は、首をひねった。驚かせるようなことを言ったつもりはないのだが。

 そして、何かを納得するようにうなずくと、彼女は元の体勢に戻った。

「戦闘科のクラスで、白砂さんが誰かと会話しているのを見たことがなかったから。理人くんは、白砂さんと普通に話せるんだね」
「彼女の態度や返事はそっけないけど、臆せずに話せばとちゃんと聞いてくれるよ。自然体で接すれば、普通に会話してくれるし」

 人を近寄らせないオーラを発していた白砂さんだけど、話してみると意外と反応してくれる。ただ、あまり親しく話しかけすぎると、一気に距離を置かれる気配があった。そこは、注意したほうが良さそうな気がする。

「そっか。なるほどね。あんまり遠慮し過ぎるのもダメ、ってことね」

 2人でそんな話していると、話題になっていた白砂が大剣を肩に背負って、やって来た。約束の時間キッチリに、ちゃんと戦う準備までして来てくれたらしい。

「こんにちは!」
「……うん」

 早速、明るく元気に話しかけに行った大内さん。無表情のままだけど、ちゃんと返事をしてくれる白砂さん。大内さんは、積極的に接していくことを決めたようだ。

「ご、ごめん。遅れた」

 それから最後に少しだけ遅れて、男子生徒の田中くんがやって来た。これで全員が集まり、パーティーの動きについて実際に動いて確かめるトレーニングを開始する。

「それじゃあ、まずはダンジョンの上層によく居る、ゴブリンとの戦いを想定して。やってみよう」
「わかった!」
「「……」」

 大内さんだけが返事をしてくれた。他の2人は黙ったまま。返事はせずに無表情。だけど、指示した位置についてくれる白砂さん。田中くんは、少し面倒そうだけど。指示を聞いて動いてくれるのなら、それでいいか。

「ああ、いたぞー。前方に、ゴブリンが一匹」
「了解。他には?」

 まず最初に、田中くんが敵を発見した状況の設定で。棒読みの声で、敵を発見したことをみんなに報告する。俺は、他に敵が居ないのか田中くんに確認した。

「えっと。他には居ない、ってことで良いんだよな」
「うん、それでいいよ。白砂さんは、前に出て敵と当たって。大内さんと、田中くんは迎撃体制で待機」

 事前に説明したシミュレーションの設定もあやふやなままで、田中は報告をした。初めてだから仕方ないかな。もうちょっと、緊張感をもってやってほしいと思うが。そんな状況の中、3人に指示を出す。

「……わかった」

 装備している大剣を振り、仮想のモンスターと戦う動きを見せてくれる白砂さん。彼女はちゃんと、俺の指示を聞いてくれるらしい。

 しかし、彼女の動きは凄いな。どうやら、学年の中で最優秀の戦闘職だと言われているようだ。その評価も納得できる動きだった。

 白砂猫さんは、魔力を自在に操っていた。おそらく、魔力を理解して使いこなしている様子。あんなに自分の魔力を自由自在に操っている人を、俺は自分以外で初めて見た。俺が見たプロの迷宮探索士でも、あんなに魔力を使いこなしている人は居ないと思う。彼女は自力で魔力操作の技術を編み出し、習得したのだろうか。

 そうなんだとしたら、ものすごい天才なんだろうと思う。俺も、過去に魔力操作について研究し編み出して、習得するまでにかなりの時間を要した。今ではもう、魔力操作の技術には慣れているから、生まれ変わってすぐ再習得することが出来るようになったけれど。

 彼女は、生まれてから16歳になるまでに、あれだけの技術を自分で磨き上げたというのだろうか。

「……倒せた」

 白砂が仮想のモンスターを倒したという報告を聞いて、俺は次の指示を出す。

 その間、俺をモンスターの攻撃から守る態勢を維持し続ける大内さん。自分の役割を理解して、俺の近くに陣取ってくれた。彼女も、とても良い働きをしてくれる。

「田中くん。もう一度、周りの警戒を」
「敵は居ない、かな」

 一応、キョロキョロと周りを見るフリをしたあとに、報告をしてくれた。これが、ダンジョン内でモンスターと遭遇した時の動き方だ。

「と、パーティーの動き方はこんな感じだね」
「こんな、おままごとみたいな練習、本当に必要なのか?」

 田中くんはそう言って、疑うような目を向けてくる。彼は、トレーニングに不満があるようだ。

「もちろん必要だよ。みんなでどう動くのか確認しておかないと、いざという時には動けなくなるから」
「そうかなぁ」
「そうだよ」
「……」

 そう言って俺は、真正面から田中くんに視線を合わせて堂々と告げた。もちろん、必要だと。すると、こんな訓練なんて必要ないと思っているらしい彼の方から視線を外した。

 立ち去らないということは、一応納得して訓練に付き合ってくれるらしい。最初の出会いから、少しだけメンバーにも慣れてきた様子の田中くん。こうやって、不満を言ってくれるのもありがたい、と思っておこう。

 その後、複数の敵と戦う場合、前線がピンチになった場合、奇襲された場合などの動きをシミュレーションして、みんなで動き方を確認しておいた。

 これで、ダンジョン内の実習も大丈夫だろう。準備は万端だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。

克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

覇者となった少年 ~ありがちな異世界のありがちなお話~

中村月彦
ファンタジー
よくある剣と魔法の異世界でのお話…… 雷鳴轟く嵐の日、一人の赤子が老人によって救われた。 その老人と古代龍を親代わりに成長した子供は、 やがて人外の能力を持つに至った。 父と慕う老人の死後、世界を初めて感じたその子供は、 運命の人と出会い、生涯の友と出会う。 予言にいう「覇者」となり、 世界に安寧をもたらしたその子の人生は……。 転生要素は後半からです。 あまり詳細にこだわらず軽く書いてみました。 ------------------  最初に……。  とりあえず考えてみたのは、ありがちな異世界での王道的なお話でした。  まぁ出尽くしているだろうけど一度書いてみたいなと思い気楽に書き始めました。  作者はタイトルも決めないまま一気に書き続け、気がつけば完結させておりました。  汗顔の至りであります。  ですが、折角書いたので公開してみることに致しました。  全108話、約31万字くらいです。    ほんの少しでも楽しんで頂ければ幸いです。  よろしくお願いいたします。

処理中です...