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9周目(現代ファンタジー:ダンジョン)

第144話 ダンジョンと迷宮探索士

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「車に気をつけて。あと、危ないところには近づいちゃダメよ。何かあったら、すぐ連絡するように」
「わかった。行ってくるね」
「気をつけるのよ!」

 俺は幼児から成長して、小学生になっていた。心配そうな表情を浮かべる母親の静葉《しずは》に見送られながら、家を出る。毎朝同じような注意の言葉をかけられ、これから1人で学校に向かう。

 今回はクラスメートのイジメはなくて、男女仲良く普通の友達関係を築けていると思う。学校の先生も普通で、快適な学生生活を送ることが出来ていた。

 この年齢になるまでに、俺の身の回りでは特筆するような出来事は起きなかった。両親からは、もの凄く愛情を向けられ育てられてきた。危険なことに一切関わらないように配慮されて、全てのリスクを避けて生活をしてきたのが大きい。

 俺も心配性な両親の言うことをしっかりと聞き、何の事件も起きない、落ち着いた生活を送ってきた。

 このまま何事もなく、今回の人生を終えるのも良いかもしれない、とも思った。親を心配させたくないという気持ちもある。

 けれど俺は、やっぱりダンジョンに興味を持っていた。両親にはバレないように、こっそりダンジョンに関すること、迷宮探索士という職業について調べていた。



 ダンジョンと呼ばれている場所は、世界中に全部で869箇所もあるという。

 そのダンジョンの中には大量のモンスターが生息していて、中から溢れ出て市民に危険が及ばないよう厳重に管理されている。そして、中に潜るためには特別な資格が必要だそうだ。

 その資格というのが、探索士資格というもの。

 まず専門の学校を卒業すると受験資格を得ることが出来て、迷宮試験というものに合格しないと探索士資格を取得できない。

 取得するだけでも多大な労力と時間を要するような資格を持った人たちのことを、迷宮探索士と呼ぶ。



 迷宮探索士だけが立ち入ることの出来るダンジョンの中には、アイテムと呼ばれる様々な効果を発揮するモノが落ちている。

 大怪我でも一瞬で回復する薬、アダマンタイトと呼ばれる超硬度金属に、使用するだけで筋力や知力がアップする強化アイテムなどが存在しているらしい。それによりエネルギーや食糧問題などが解決済みで、前の世界と比べたら様々な技術が何世代も早く進歩している。そのおかげで、今も快適な生活が提供されている。ダンジョンのアイテムが世界を支えている状況だった。

 そして、ダンジョンの最下層に到達した者だけが入手できるという、何でも願いを叶えてくれるという夢のアイテム。

 過去には、ダンジョンの最下層に到達して入手したアイテムを使って、歴史に名を残すほどの富と名声を手に入れたという記録が残っている。

 残念ながら、そのアイテムの詳しい効果や使い方については閲覧禁止されている。本やネットで調べてみても、言い伝えや噂程度の内容しか見つけることが出来なかった。これも、迷宮探索士の資格がないと知ることが出来ないようだ。

 使用者の夢や願望を叶えてくれるアイテム、という情報だけが伝わっている状態。そのアイテムを入手するために迷宮探索士を目指す人も多いようだ。



 夢を叶えてくれるアイテムには、どれほどの効力が有るのだろうか。

 例えば、そのアイテムを使えば俺が生きた過去の人生に戻ることは可能なのかな。今までに愛して別れを告げてきた女性たちを、この世に生き返らせることは可能なのだろうか。それが出来るのであれば、転生の謎を解明する以外にも使って見る価値があるかも。

 願いを叶えてもらったとして、得られるのは富とか名声とかだけなのかな。

 調べて分かったのは、一番最近でダンジョン最下層に到達した人物について記録が残っているのは、230年前だそう。彼は、アイテムを使って巨万の富を得たという記録が残っている。だが、ダンジョン最下層への到達者に関する情報は古く、参考になるのかどうか怪しい。

 過去にダンジョン最下層に到達した者の多くが、地上へ戻ってきたときに大怪我を負っていたらしい。願いを叶えてもらえるアイテムを入手して以降は、負った怪我が原因で二度とダンジョンに立ち入ることが出来なくなったようだ。そこに到達しても大きな代償を支払っている。

 ダンジョン最下層を目指すのは非常に大変そうだった。けれども、過去に最下層に到達した人がいる、という記憶が残っているようだし俺でも行けるだろうという自信があった。今まで、繰り返してきた多くの人生で習得してきた技術や能力を使えば、ダンジョンを攻略できないことはないだろう。

 もちろん、事前に攻略の準備をしっかり整えてから、計画を立てて挑戦すれば怪我もなく行けると思う。困難かもしれないが、必ず成し遂げられると思っている。それぐらいの自信があった。

 まだ俺にはダンジョンの内部に入る資格もないし、自分の目で確かめたこともないので、どうなのかわからないけれど。



 とにかく、ダンジョンに潜って最下層に到達をした者だけが手にすることが出来るアイテムをゲットしたい。

 ダンジョンに潜るためには、迷宮探索士という資格が必要。これを取得するのに、専門の学校に通う必要があるので、いつまでも両親に黙っておくわけにはいかなかった。進路を決める時に相談する必要がある。



 ある時、思い切って迷宮探索士を目指したいと告白してみた時のこと。

「お母さん。俺、迷宮探索士に」
「危ないから、ダメ!」

 俺が全てを言い終わる前に、ダメだと言われてしまった。これは、許可してもらうのは難しそうだった。母親から、父親の草平《そうへい》にターゲットを変えてみる。

「お父さん。俺、迷宮探索士に」
「世の中には、他にも沢山の職業があるぞ。まだ理人は小さいから、ゆっくり将来を考えるんだぞ」

 父親は俺を諭して、将来は他の道を探すように言ってくる。やはり父親と母親は、俺が迷宮探索士を目指す道を反対してきたか。心配してくれるのは嬉しいけれども、これではやりたいことが出来ない。黙ってやるわけにもいかない。でもなぁ。

 両親にダメだと言われてしまったが、俺は諦めない。迷宮探索士のことについて、詳しく調べることにした。図書館で書籍を借りてきて、読み込む。

 迷宮探索士に関する情報を集めて、まとめていく。両親に許可を貰えるように説得するため、色々と情報を集める。



 どうやら、迷宮探索士には大きく分けて2つの役割があるということを知った。

 1つは、モンスターと戦う戦闘職。そしてもう1つは、ダンジョン内でメンバーをサポートをする支援職。

 この2つ、どちらも危険な仕事に変わりはない。だが、戦闘職よりも支援職の方が安全らしい。図書館で集めてきたデータを確認してみると、支援職は戦闘職と比べて死亡率が10分の1ぐらい、らしい。

 前線でモンスターと戦うような戦闘職の方が、死亡率が高いというのは納得できるデータだと思う。この情報は、両親を説得するのに使えそうだ。

 俺の目的はダンジョンの完全攻略ではなく、最奥で手に入るというアイテムを入手出来れば良いだけなので、モンスターとの戦闘を極力避ける方向で準備を進める。

 なので俺は、迷宮探索士を目指すことを両親に許可してもらうため、戦闘が出来るけれど支援職を目指すことにした。これで、危険は少ないから大丈夫なんだと説明をして、迷宮探索士の支援職を目指すことを両親から許可してもらえるかな。
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