転生人生ごっちゃまぜ~数多の世界に転生を繰り返す、とある旅人のお話~

キョウキョウ

文字の大きさ
上 下
111 / 310
7周目(SF:パイロット)

第106話 甘えん坊の時期

しおりを挟む
 俺は子供たちの世話をする。ここに居る子たちは、アナトテック研究所で生まれた俺とは違って、他所から集められてきた身寄りのない者たちだそう。

 食べ物と住む場所、生きていくための環境を与える代わりに、実験に利用しているという。敵を倒すために、様々な研究と実験が行われている。その被験者として。

 それが正しい事なのかどうか、善し悪しについての判断は置いておく。とりあえず彼らが人らしく生きられるように、俺が世話する。それが自分の役目だと感じていたから。



「フェリス、離してくれない?」
「んーん」

 俺の腰に腕を回して、ギュッと抱きついてくるフェリス。離れてくれとお願いするが、密着したまま離してくれない。俺のお腹に顔をうずめて、グリグリしてくる。

「わかった。もうしばらく、そのままね」
「うん」

 頭を押し付けたまま、頷いた彼女。仕方がないので、そのまま。彼女の頭を優しく撫でながら、俺は目の前に居る他の子たちに話しかけた。

「このお姉さんは、甘えん坊だから。このままね」
「僕は良いよ!」
「私も!」

 フェリスよりも遥かに年下の子たちは、元気よく返事をした。とても良い子たち。

「偉いね」

 他の子たちが、俺に抱きつこうとするとフェリスが嫌がってしまう。独占しようとしているのかな。他の子たちも、ふれあいたい気持ちがあるようだが我慢していた。その子たちは、後でケアしてあげないと。

「今度は、何を教えてくれるの?」
「早く遊びたい! 教えて」
「ねぇねぇ、レイラお姉ちゃん!」

 こんな見た目だから、子どもたちからはお姉ちゃんと呼ばれるようになっていた。本当は、お兄さんなのだが仕方ない。その呼び方を受け入れて、彼らと接する。

「それじゃあ、今度はねぇ」

 フェリスに抱きつかれたまま、他の子たちを世話した。色々なお話をしてみたり、簡単な遊びを教えたりして楽しい時間を過ごす。



 子どもの世話をしている最中はもちろん、布団の中や風呂、トイレまで一緒についてこようとするフェリス。俺の今の見た目は女だけど、一部分が男だから。流石に、そこまでは一緒に入れない。

 それでより一層、フェリスは寂しがってしまう。仕方なく俺の体について、彼女に説明した。だけど、理解してくれているのか不安になるほど、彼女は変わらずいつもくっついてくる。

 もしも今の俺が完全な男だったなら、こんなにも長時間を一緒に過ごして体を密着させることは無理だっただろう。今の状態でも、セクハラになってしまうかも。でもフェリスは、離してくれない。

 男としての意識が強いから、体が女だったとしてもセクハラになってしまうのか。いや俺は、彼女に対して性的な興奮を覚えていないからギリギリセーフなはず。

 フェリスの体は18歳で大人だが、精神がまだ幼い子どもでしかない。そんな彼女に、性欲を感じるような事はない。長年の経験があるからこそ。

 フェリスを思う存分、甘やかせる。その方が、すぐに自立してくれるはずだから。これも、今までの経験から得た知識である。

 まずは彼女から。他の子たちにも注意を向けつつ、世話をし続けて人間らしい心を取り戻させる。それぞれ順番に、焦らずゆっくりと。



 研究員たちが最近の子どもたちの変化について驚いていた。実験の記録も良い方へと、劇的に伸びているようだ。

 今までは、「はい」か「いいえ」でしかコミュニケーションが取れなかった子が、少しずつ会話が通じるようになって実験をスムーズに進められるようになった。

 これまで何もわからないまま、言われた通りに動くだけだった子どもたち。それが意見や感想が出るようになって、研究が進展するように。

 やっぱり、実験や試験に協力的になるような環境を作るべきだよ。それがお互いのためにもなる。本当はもっと、急いで改善していきたい部分も有る。だけど、1人で何十人も面倒を見るのには限度があるから。無理をしすぎないように、少しずつ変化させていこう。



 研究員であるソフィアのラボ。そこで俺はソフィアと、子どもたちの世話について話していた。

「その子、いつも貴女に抱きついてるわね」
「そうだね」
「……」

 実は、フェリスもいる。指摘されたフェリスは、いつものように俺に抱きつきながら、目の前に座るラボの主であるソフィアにジッと視線を向けている。まるで、俺を取られないように警戒して、自分のものだとアピールしているようだ。

「まだまだ、思い切って甘えることが必要な時期だからね。たっぷり甘やかしたら、すぐに彼女も自立するよ」
「私は逆だと思ってたわ。子どもは、甘やかしちゃ駄目だって」

 ソフィアが、子どもとの接し方についての持論を語る。

「子どもって、本来はみんな自立したがるんだ。自立するために、甘えとわがままを繰り返すんだよね。その時の甘えを受け入れてあげれば、自信を持てるようになる。そして、それが自立を促す力になる」
「へぇ、そうなのね」

 子どもの自立について、俺の知識を彼女に説明する。子によって違う場合もある。そこが難しいんだけど。

 俺の話を聞きながらソフィアが興味深そうに、今も俺に抱きついているフェリスを見返した。

「ところでレイラは、そんな知識をどこで覚えたのかしら?」
「……さて、どこだろう?」

 前世の記憶がある、という話は彼女にしてこなかった。だから、どこで学んだ知識なのか説明できない。今後も多分、転生について明かしたりはしないと思う。なので知らないフリをする。

「まぁでも、貴女が子どもたちを世話してくれるようになってから実験もスムーズに進められているし。本当に良かったわ。これからも、よろしくね」
「俺の他にも、ちゃんと子どもの世話をできるような大人を寄越してほしいけどね」

 1人では限界がある。時間が足りない。それで、お願いしているんだが。

「一応、何度か要請は出しているんだけど却下されてるわ。子守なんてのが研究所に必要あるのか疑問に思われていて、こっちの状況を理解されてないみたい」
「なら、しばらくは俺が世話を続けるしかないか」

 子どもたちの現状を見過ごせなくて、世話を始めたのは俺だから。途中で放棄するわけにもいかず、引き続き彼らの面倒を見ることに。

「んー!」

 そして、この娘も。抱きつき甘えてくるフェリスを、そのまま彼女の好きなようにさせる。もうちょっとすれば、自立して俺の体から離れてくれるようになるだろう。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...