上 下
106 / 310
7周目(SF:パイロット)

第101話 戦うために生み出された

しおりを挟む
 先ほど、意識が覚醒した部屋から出てきて、俺は女性と2人で廊下を歩いていた。人工的な、金属で出来た壁や天井がある。なんだか、見慣れない光景だった。

「ちゃんと、歩けるかしら?」
「はい。大丈夫です」

 周りを観察しながら進んでいると、前を歩いていた白衣の女性に問いかけられた。何度も振り返って俺の動きを常に確認しながら、動向を見守られている。彼女から、すごく意識を向けられていた。一体、何を見られているのか。

 歩くのは問題ないが、自分の体なのにすごく違和感がある。それで、いつもの動きにズレが生じていた。

 今までは赤ん坊の体からスタートして、成長する過程で動き方を調整していった。いきなり大人の体で動き始めることになり、前の体とサイズも違うので、慣れるまでには少し時間が必要かもしれない。

 もう一つ大きな問題がある。この体に変わってから魔力が一切感じられなかった。意識を集中してみるが、今まで体の奥底に感じていたはずの力が失われている。

 体の中に魔力はあるのに、感じられないだけなのか。そもそも、存在しないのか。それも、分からない。

 意識が覚醒したばかりで、まだ体に慣れていないから魔力を感じることが出来ないのかもしれない。でも前は、赤ん坊の時でも魔力を感じることは出来たから。それが原因とは思えない。

 この新たな体が原因なのだろうか。それとも、この世界に原因があるのか。魔力を感じられなくなった理由については、まだ何も分かっていない。

 廊下の様子や自分の体に意識を向けながら、ゆっくりと平らな床を歩いていく。

 ペタペタと足音が鳴った。

「あら、しまったわ! 貴方の履く靴を用意するのを忘れてたわね。ごめんなさい」
「問題ないです」

 裸足で廊下を歩いている俺に気が付いて、申し訳無さそうに女性は謝ってくる。

 今までは落ち着いた雰囲気でスムーズに対応してくれたし、濡れた体を拭くためのタオルや着替えを事前に用意していた。配慮してくれているのは、十分に伝わっている。

 俺の体を無遠慮に見てくる男たちもバシッと叱ったりして、完璧そうな印象のある女性だった。けれど意外と失敗もするようだ。彼女に対するイメージが変わった。

 彼女のキレイな顔を見た第一印象では、冷たそうな人だと思った。白衣を着ていたので、余計にそんな印象があった。でも、ちゃんと廊下を歩けるか心配してくれたり意外と気を配ってくれているようだし、人間味があって親しみやすい人なのかも。



「さぁ、ここが私のラボ。中に入って」
「お邪魔します」

 沢山の本に囲まれている部屋。その中央には数々の機械が置かれていた。部屋の中に入る時に彼女がスリッパを用意してくれて、それを履いた。裸足ではなくなった。

「ここに座って」
「どうも」

 指定された、ひとり掛けソファーに腰を下ろす。すっぽりと収まって落ち着いた。目の前のテーブルに、黒い液体の入った容器が置かれる。飲み物なのかな。

「これは」
「私特製のコーヒーよ」

 コーヒーか。そう言えば、今までの人生で意外と出会わなかった飲み物だ。もう、何百年も飲んでいないから、どんな味なのかも忘れてしまった。苦い飲み物だという記憶はあるが。ちょっと飲んでみる。

「うー、にがっ」

 口に含んだ瞬間、もの凄い苦味が口の中に広がった。こんな味だったかな。これは苦すぎるんじゃないか。白衣の女性は、俺の反応を見ておかしそうに笑っていた。

「この苦味が美味しいのに。しかも、この本物の味を飲めるのはここだけなのよ」

 俺とは違って、白衣の女性はじっくりと味わいながらコーヒーを飲み込んでいく。とても美味しそうだ。本当に好きなんだろうな。

 女性が対面の席に座って、ようやく話を聞けるのかな。そう思っていたら逆に俺が質問攻めされていた。

「どこまで、覚えてるのかしら?」
「どういうことですか?」

 いきなり聞かれた。彼女は、俺が転生者であることを知っているのか。

 どこまで、とは何だろうか。俺の前世について彼女は聞いているのか。けれども、まだ正体の掴めない女性に話すべきかどうか迷った。少し考えてから、俺は知らないフリをして答えることにした。

「自分の年齢は?」
「いえ」

 この体は、何歳なのか。生まれたばかりで、意識としては0才児なのだが。転生を繰り返してきた俺は、数百歳と答える選択肢もあるよな。

 とりあえず、知らないと答えておく。

「好きなものとか、嫌いなものとか」
「わからない」

 この体では、まだ食事もしていないので、好きも嫌いも分からないかな。だけど、さっき飲んだコーヒーの味は苦手だったかも。

「目を覚ます直前の記憶は? 何かある?」
「いえ、何も覚えていません」

 小屋で眠るように死んだのを覚えている。あれが、前の世界での最期だった。その後に、今の状況となった。その間の記憶は、何もない。だから、何も覚えていないと答えておく。

「そうなのね。記憶の定着が上手く出来ていないのかしら。これは、ちょっとマズイかも……」

 俺の答えを聞いた白衣の女性は、何か小声でつぶやきながら顎に手を当てて、考え込んでいる。答えられないとマズかったかな。

 しばらく考えた後に彼女は話を再開して、今いる場所がどこなのか教えてくれた。

「ここはアナトテック研究所。それは、覚えている?」
「いいえ」

 首を横に振って、知らないと答える。初めて聞く名称である。研究所だったのか。そんな場所に俺が居る理由とは。

「そっか」

 また彼女は、ぶつぶつと独り言を漏らしながら考え込んでしまった。

「学習は進んでいるようだけど、一部の知識だけが消えているのか。会話をするのに問題は無いし、常識的な知識はあるみたい。これは検証が必要かしら……」

 そんな事を喋りながら彼女は、手元に持った板状の機械を指でタッチして操作していた。俺は黙ったまま静かに、彼女の動きを眺めていた。



「私の名は、ソフィア。貴女を生み出す計画の責任者を務めている」
「生み出す?」

 白衣の女性から自己紹介された。俺が気になった言葉を繰り返して言うと、彼女は頷いて答えた。

「そう。貴方は人類を救うために、敵と戦うために生まれてきた」

 この世界では戦争が起きているという。敵は、人間ではなく自動化された機械。

 実験計画番号00RA。

 リア・アドミラルという、機械の敵に対抗するため強化された能力を持った人間を生み出す実験のプロトタイプ。

 遺伝子を組み換えて色々と調節して、人工的に強化した人間を生み出した。それは機械を倒すための兵器として作られた存在。それが、俺だった。

 ソフィアの説明を聞いてわからないことも多かったけれど、なんとなく理解した。どうやら俺は、とんでもない世界に生まれてきたという事を。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...