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6周目(異世界ファンタジー:勇者)
第91話 勇者の仕事探し
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「ウチの街は、他の勇者の方にお任せしているので、その、だ、大丈夫です」
「そう」
向かいに座る男性は、額から流れる汗を拭きながら視線をそらして、気まずそうな表情を浮かべて答えた。この街の責任者である彼の話を聞いて、断る理由に納得したので、俺は頷いた。
この街には、もう既に他の勇者がいると言う。それなら仕方ないかな。話し合いが終わったので、座っていた椅子から立ち上がる。
街を守ってくれる勇者が居なくて困っているという話を聞いてやって来たのだが、断られてしまったな。余計なお世話だったようだ。
どうやら最弱の勇者という噂が、この地方にまで流れてきているらしい。だから、どこの街も俺に守護を任せてはくれない。
「えっと、その、本当に申し訳ありません……」
「大丈夫」
部屋から出る直前、街の責任者である男から謝られた。本当に、申し訳なさそうな声だった。
断られても、苛立ちはなかった。おそらくは断られるだろうと予測して、お願いをしに来ていたから。最弱の勇者と噂を聞いているのなら、魔物の襲撃から街の守護を任せるのは不安だろうな。街の責任者である彼も、そう思っているみたい。それは、所属を断られても仕方がない事だろう。
他の街だと名乗るだけでも、心の底から馬鹿にしたような言葉で追い払われたり、会ってくれない所もあったから。今日の所は、話をして誠実な対応をしてくれていたので、良い人だった。まぁ、雇ってはくれないんだけど。
とりあえず、部屋から出ていこう。仲間が待っている宿の方へと戻ろうか。彼らに報告する。今日も駄目だったと。
「どうでしたか?」
「ダメ」
「そうですか……」
宿に戻ってくると、カテリーナが待ち構えていた。開口一番に結果を聞いてくる。俺が首を横に振って、今回もダメだったと伝える。すると彼女は肩を落として、残念残念そうに俯いてしまった。これまで、何度も繰り返してきたやり取りだ。
「……」
「……」
2人の間に沈黙が続く。もう、街を巡って何十箇所目になるか分からないぐらい。所属させてくれるような街と、未だに出会えていなかった。
勇者として働ける場所は、まだ見つからない。
「やっぱ、ダメだったみたいですねぇ!」
「もう、無理じゃないですかぁ?」
パーティーメンバーである、クリスとウェーズリーの2人が顔を赤らめて酔っ払いながら宿に戻ってきた。俺が交渉している間、今まで酒を飲んでいたらしい。
陽気になった2人が肩を組んで、今回もダメだった事を容赦なく指摘してくる。
「お前達、仕事の最中に酒を飲みに行くとは!」
昼間からのんきに酒を飲んでいた2人を、カテリーナが怒って注意する。しかし、全く気にしていない様子でケラケラと笑った。
「でも、勇者の仕事は無いじゃないかぁ」
「やることが無いのに、待機させられているだけだなんて、時間の無駄ですよ」
クリスたちは、注意されても聞く耳を持たない。それどころか自分たちの正当性を主張している。どうせ仕事が見つからないのだから、何をしたって自由だろう、と。
「しかし……。リヒト様も、言ってやって下さいよ!」
「別に、いい」
仕事があるなら、ちゃんと働いてもらう。しかし今はまだ、仕事が無いのが現状。それまでは、別に各々で自由に過ごして良いだろう。それに、彼らを頼ったとしても何の役にも立ちそうにないと思った。だから、放置していた。
そう思って答えたら、カテリーナは絶望の顔を浮かべて、クリスとウェーズリーの2人は満面の笑みだ。
「ほぉら。勇者様がこう言っているんです。俺たちの行動は制限できないですよぉ」
「また仕事が無いんじゃ、この街もすぐに出ることになるのかぁ。その前に、さっと飲み直しておこうぜぇ!」
自分たちが正しいと、勝ち誇った顔で笑う2人。そんな様子に呆れたカテリーナは頭を抱えて溜め息を吐く。
「それは、いいですねぇ!」
「じゃあ俺たちは、出発するまでには戻ってくるから、そちらもご自由にどうぞぉ」
そう言ってクリスたちは、戻ってきてからすぐ回れ右をして、宿から出て行った。再び酒場に、酒を飲みに行ったのだろう。
「あ、おい! 待て、2人ともッ!」
カテリーナが呼び止めようとするが、止まらない2人。そのまま行ってしまった。彼女は呆然として、クリスたちが去っていった方向を見つめ続ける。
「リヒト様、なぜですか? なぜ2人に、あんな勝手を許すのですか」
「仕事、ない」
働ける場所を見つけられないから仕方ない。実力行使で言うことを聞かせることは出来るだろうけど、面倒だから何も言わない。
「確かに、そうなんですが……」
カテリーナが、悔しそうに呟いていた。ずっと拠点が決まらずに、街を巡って旅を続けるだけの毎日を過ごしている。彼女は早く俺に、勇者としての仕事をしてほしいようだが、仕事する場所が見つからない。
「リヒト様も、もう少し努力して守護を任せてもらえるように交渉をしてください。必ず、どこかの街が勇者の守護を求めているはずです!」
カテリーナは前向きに、勇者の仕事を探そうと頑張っている。それに比べて俺は、実のところ、そこまで必死に勇者の仕事を探しているわけではなかった。無理なら、孤児院に戻ろうと考えていたから。
むしろ、仕事が見つからないという理由でロントルガの街に戻ろうと思っていた。俺を求めるような街が見つからなくても、別にいいのかなと。
勇者の称号は得たけれど、働ける場所が見つからなかった。だから俺は、孤児院に戻ってきたとブルーノに言ったら、迎えてくれるのだろうか。不甲斐ないと言って、悲しむかもしれない。それは、ちょっと嫌だな。
もうちょっとだけ街を巡ってみて、勇者として働ける場所が見つからなかったならロントルガの街に戻ろう。それなりに努力したと、それで言い訳できるはず。俺は、そう考えていた。
地元に帰って、前と同じような暮らしをしよう。子供たちの面倒を見ながら、畑を耕し、獣を狩って素材を売る。そんな生活で十分だろう。
「そう」
向かいに座る男性は、額から流れる汗を拭きながら視線をそらして、気まずそうな表情を浮かべて答えた。この街の責任者である彼の話を聞いて、断る理由に納得したので、俺は頷いた。
この街には、もう既に他の勇者がいると言う。それなら仕方ないかな。話し合いが終わったので、座っていた椅子から立ち上がる。
街を守ってくれる勇者が居なくて困っているという話を聞いてやって来たのだが、断られてしまったな。余計なお世話だったようだ。
どうやら最弱の勇者という噂が、この地方にまで流れてきているらしい。だから、どこの街も俺に守護を任せてはくれない。
「えっと、その、本当に申し訳ありません……」
「大丈夫」
部屋から出る直前、街の責任者である男から謝られた。本当に、申し訳なさそうな声だった。
断られても、苛立ちはなかった。おそらくは断られるだろうと予測して、お願いをしに来ていたから。最弱の勇者と噂を聞いているのなら、魔物の襲撃から街の守護を任せるのは不安だろうな。街の責任者である彼も、そう思っているみたい。それは、所属を断られても仕方がない事だろう。
他の街だと名乗るだけでも、心の底から馬鹿にしたような言葉で追い払われたり、会ってくれない所もあったから。今日の所は、話をして誠実な対応をしてくれていたので、良い人だった。まぁ、雇ってはくれないんだけど。
とりあえず、部屋から出ていこう。仲間が待っている宿の方へと戻ろうか。彼らに報告する。今日も駄目だったと。
「どうでしたか?」
「ダメ」
「そうですか……」
宿に戻ってくると、カテリーナが待ち構えていた。開口一番に結果を聞いてくる。俺が首を横に振って、今回もダメだったと伝える。すると彼女は肩を落として、残念残念そうに俯いてしまった。これまで、何度も繰り返してきたやり取りだ。
「……」
「……」
2人の間に沈黙が続く。もう、街を巡って何十箇所目になるか分からないぐらい。所属させてくれるような街と、未だに出会えていなかった。
勇者として働ける場所は、まだ見つからない。
「やっぱ、ダメだったみたいですねぇ!」
「もう、無理じゃないですかぁ?」
パーティーメンバーである、クリスとウェーズリーの2人が顔を赤らめて酔っ払いながら宿に戻ってきた。俺が交渉している間、今まで酒を飲んでいたらしい。
陽気になった2人が肩を組んで、今回もダメだった事を容赦なく指摘してくる。
「お前達、仕事の最中に酒を飲みに行くとは!」
昼間からのんきに酒を飲んでいた2人を、カテリーナが怒って注意する。しかし、全く気にしていない様子でケラケラと笑った。
「でも、勇者の仕事は無いじゃないかぁ」
「やることが無いのに、待機させられているだけだなんて、時間の無駄ですよ」
クリスたちは、注意されても聞く耳を持たない。それどころか自分たちの正当性を主張している。どうせ仕事が見つからないのだから、何をしたって自由だろう、と。
「しかし……。リヒト様も、言ってやって下さいよ!」
「別に、いい」
仕事があるなら、ちゃんと働いてもらう。しかし今はまだ、仕事が無いのが現状。それまでは、別に各々で自由に過ごして良いだろう。それに、彼らを頼ったとしても何の役にも立ちそうにないと思った。だから、放置していた。
そう思って答えたら、カテリーナは絶望の顔を浮かべて、クリスとウェーズリーの2人は満面の笑みだ。
「ほぉら。勇者様がこう言っているんです。俺たちの行動は制限できないですよぉ」
「また仕事が無いんじゃ、この街もすぐに出ることになるのかぁ。その前に、さっと飲み直しておこうぜぇ!」
自分たちが正しいと、勝ち誇った顔で笑う2人。そんな様子に呆れたカテリーナは頭を抱えて溜め息を吐く。
「それは、いいですねぇ!」
「じゃあ俺たちは、出発するまでには戻ってくるから、そちらもご自由にどうぞぉ」
そう言ってクリスたちは、戻ってきてからすぐ回れ右をして、宿から出て行った。再び酒場に、酒を飲みに行ったのだろう。
「あ、おい! 待て、2人ともッ!」
カテリーナが呼び止めようとするが、止まらない2人。そのまま行ってしまった。彼女は呆然として、クリスたちが去っていった方向を見つめ続ける。
「リヒト様、なぜですか? なぜ2人に、あんな勝手を許すのですか」
「仕事、ない」
働ける場所を見つけられないから仕方ない。実力行使で言うことを聞かせることは出来るだろうけど、面倒だから何も言わない。
「確かに、そうなんですが……」
カテリーナが、悔しそうに呟いていた。ずっと拠点が決まらずに、街を巡って旅を続けるだけの毎日を過ごしている。彼女は早く俺に、勇者としての仕事をしてほしいようだが、仕事する場所が見つからない。
「リヒト様も、もう少し努力して守護を任せてもらえるように交渉をしてください。必ず、どこかの街が勇者の守護を求めているはずです!」
カテリーナは前向きに、勇者の仕事を探そうと頑張っている。それに比べて俺は、実のところ、そこまで必死に勇者の仕事を探しているわけではなかった。無理なら、孤児院に戻ろうと考えていたから。
むしろ、仕事が見つからないという理由でロントルガの街に戻ろうと思っていた。俺を求めるような街が見つからなくても、別にいいのかなと。
勇者の称号は得たけれど、働ける場所が見つからなかった。だから俺は、孤児院に戻ってきたとブルーノに言ったら、迎えてくれるのだろうか。不甲斐ないと言って、悲しむかもしれない。それは、ちょっと嫌だな。
もうちょっとだけ街を巡ってみて、勇者として働ける場所が見つからなかったならロントルガの街に戻ろう。それなりに努力したと、それで言い訳できるはず。俺は、そう考えていた。
地元に帰って、前と同じような暮らしをしよう。子供たちの面倒を見ながら、畑を耕し、獣を狩って素材を売る。そんな生活で十分だろう。
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