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6周目(異世界ファンタジー:勇者)
第84話 交渉と賄賂
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手紙で呼び出された場所へ向かった。そこにあったのは、何の変哲もない一軒家。平民が住んでいるような家だ。そして両隣の家には、普通に人が生活しているような様子がある。今から入ろうとしている家も、人が生活しているようだが。
指定された場所は、ここで合っているのか。心配になって、手紙を確認してみる。ココで間違いないようだ。わざわざ今回、密談を行うために借りたのかな。それとも普段から用意している家なのだろうか。家の外観を見ただけでは、判断は出来ない。
とりあえず、入ってみようか。扉を叩くと、中から返事があった。扉が開き、中年男性が現れて顔を確認される。男は武装している。腰に剣を差していて、体つきから鍛えられていることが分かる。
「入れ」
「……」
そう言って、こちらの返事も待たずに男は家の中に入っていく。彼の後について、俺も家の中に。やはり、普通の家だな。貴族が利用するような家じゃないようだが。ここに住んでいる、というワケではないはず。
部屋に入ってみると、見覚えのある男性が座って待っていた。次の対戦相手である貴族だな。まさか、本人が直々に来るとは思っていなかった。別の誰かを寄越して、話し合いが行われるのかと予想していたけれど、俺の予想は外れたな。
貴族の男はテーブルの前で腕を組み、余裕を持った表情を浮かべている。
「座ってくれ」
「……」
向かい側にある席に座れと指示されたので、俺は素直に従う。一緒に部屋まで来た男は、立っていた。この部屋に居るのは3人で、座っているのは俺と貴族の男だけ。そして、向かい合う。
さり気なく、家の中を観察する。どうやら、この部屋に居る者たち以外にも、家の中に何人も隠れているな。隣の部屋、今入ってきた部屋の扉の外、廊下側に上の階も複数の気配を感じる。かなり多くの人間が潜んでいるようだ。
俺は、武器を持ってこなかった。貴族と会うのに武装していると、相手を刺激してしまうかもしれないから。丸腰だが、無手でも戦える。魔法も使える。だから戦いになっても、特に問題はなかったりする。
「君をここに呼んだのは、他でもない。次の試合、僕と真剣に戦っているフリをして負けてほしい」
「……」
やっぱりな、という感想。この男の前の試合を見て思ったのは、明らかに勝負する相手が手を抜いて戦っている、ということだ。それでトーナメントを勝ち上がって、5回戦まで来た俺にも、同じことをやらせるつもりなのだろう。
さて、どう答えれば面倒を回避して、何事もなく終わらせることが出来るかな。
「ここに、300万用意してある」
貴族の男が言うと、横に立っている男が机の上にドンと金貨袋を置いた。その音の重量感から、確かに300万ぐらいは入っているだろうと分かる。
「ご覧の通り」
テーブルの上に置いた袋の口を空けて、中身を確認させてくれた。中にぎっしりと金貨が入っている様子を見せつけられる。そしてすぐ、袋の口は閉じられた。
300万か。それだけの金があったら、孤児院にいる子供たち全員を3年間ぐらいお腹いっぱいになるまで食べさせていけるかな。
「これを貴方に贈るので、ぜひ受け取って欲しい」
「……」
300万を受け取って、トーナメントの5回戦で負けたフリをしてほしい、というお願い。一応、強引な交渉ではなくて、コチラにも金を受け取れるというメリットを提示してくれている。それだけで、まだマシかな。
そう思っていたら、貴族の男が動いた。
「もしも、断るというのなら」
「……」
人差し指をクイッと動かすと、家の中に隠れていた者たちが、一斉に姿を表した。まぁ、出てくる前に存在は気付いていたので、驚くことはなかったが。
手元に持つ武器をチラつかせながら、ジーッと睨みつけてくる男たち。見た感じ、戦っても負けはしないだろう、という自信はある。この多人数を相手にしても勝てると思うが、さて。
「痛い目を見ることになるが、どうする?」
貴族の男に問われて、考える。さて、どうしよう。ここで戦っても負けない。この家から逃げ出すのも、簡単そうだが。
俺は、トーナメントで優勝することに興味は無かった。優勝することが出来たなら嬉しいけれど、6位だとしても問題はないと思っている。
5回戦まで勝ち上がってきた。これで、おそらく勇者としての称号を得られるのが確定しているから。これから先は、トーナメントの試合で勝たなくても勇者になれるらしいので、無理に頑張る必要もない。
ここに来たのは、ブルーノに言われて勇者の称号を得るため。それ以外の名誉や、国一番の実力者という肩書は要らなかった。
ここで貴族の男の要求を断っても問題ないが、目の前の男の実家がしゃしゃり出てくるかも。貴族の家と揉めるなんて、面倒そうだよな。もしかすると、貴族であり、俺の弟子となったジョナスにも迷惑を掛けてしまう、という可能性も。
逆に、彼の要求を受けた場合には、どうなるかな。後でバレてしまうと、金を受け取ってわざと負けた俺まで罰を与えられる、ということがあるかな。勇者の称号は、剥奪されるかも。
まぁ、でも称号を取り消されたら、孤児院に帰ってダメだったとブルーノに報告をしよう。それで、孤児院での生活に戻れる。
よし。ここは、貴族様の言うことに大人しく従っておこうかな。そう考えて、俺は口を開いた。
「わかった」
「そうか! なら、次の試合では頼むぞ」
交渉が成立して、笑顔を浮かべる貴族の男。5回戦は、向こうが勝つという結果が確定した。八百長というやつだ。
契約書を交わし、俺は重量のある金袋を受け取る。交渉が終わると、すぐに家から出た。来た時と同じように、1人で王都の道を歩いて宿まで戻る。想像したよりも、あっさりとした話し合いで終わって良かった。
これを知ったら、ジョナスの奴は怒るかな。せっかく師匠として慕ってくれているのに、お金を受け取って勝敗を決めてしまったから。正義感が強そうだし、正々堂々とした真剣勝負が好みで、こういう事を嫌いそうな性格をしている気がする。
せっかくの弟子から、嫌われたくはないな。それだけが心配だった。俺としては、勝利を求めるよりも目的を果たせれば十分なんだけど。
弟子のジョナスに、今回の出来事について言おうか、言うまいか。
指定された場所は、ここで合っているのか。心配になって、手紙を確認してみる。ココで間違いないようだ。わざわざ今回、密談を行うために借りたのかな。それとも普段から用意している家なのだろうか。家の外観を見ただけでは、判断は出来ない。
とりあえず、入ってみようか。扉を叩くと、中から返事があった。扉が開き、中年男性が現れて顔を確認される。男は武装している。腰に剣を差していて、体つきから鍛えられていることが分かる。
「入れ」
「……」
そう言って、こちらの返事も待たずに男は家の中に入っていく。彼の後について、俺も家の中に。やはり、普通の家だな。貴族が利用するような家じゃないようだが。ここに住んでいる、というワケではないはず。
部屋に入ってみると、見覚えのある男性が座って待っていた。次の対戦相手である貴族だな。まさか、本人が直々に来るとは思っていなかった。別の誰かを寄越して、話し合いが行われるのかと予想していたけれど、俺の予想は外れたな。
貴族の男はテーブルの前で腕を組み、余裕を持った表情を浮かべている。
「座ってくれ」
「……」
向かい側にある席に座れと指示されたので、俺は素直に従う。一緒に部屋まで来た男は、立っていた。この部屋に居るのは3人で、座っているのは俺と貴族の男だけ。そして、向かい合う。
さり気なく、家の中を観察する。どうやら、この部屋に居る者たち以外にも、家の中に何人も隠れているな。隣の部屋、今入ってきた部屋の扉の外、廊下側に上の階も複数の気配を感じる。かなり多くの人間が潜んでいるようだ。
俺は、武器を持ってこなかった。貴族と会うのに武装していると、相手を刺激してしまうかもしれないから。丸腰だが、無手でも戦える。魔法も使える。だから戦いになっても、特に問題はなかったりする。
「君をここに呼んだのは、他でもない。次の試合、僕と真剣に戦っているフリをして負けてほしい」
「……」
やっぱりな、という感想。この男の前の試合を見て思ったのは、明らかに勝負する相手が手を抜いて戦っている、ということだ。それでトーナメントを勝ち上がって、5回戦まで来た俺にも、同じことをやらせるつもりなのだろう。
さて、どう答えれば面倒を回避して、何事もなく終わらせることが出来るかな。
「ここに、300万用意してある」
貴族の男が言うと、横に立っている男が机の上にドンと金貨袋を置いた。その音の重量感から、確かに300万ぐらいは入っているだろうと分かる。
「ご覧の通り」
テーブルの上に置いた袋の口を空けて、中身を確認させてくれた。中にぎっしりと金貨が入っている様子を見せつけられる。そしてすぐ、袋の口は閉じられた。
300万か。それだけの金があったら、孤児院にいる子供たち全員を3年間ぐらいお腹いっぱいになるまで食べさせていけるかな。
「これを貴方に贈るので、ぜひ受け取って欲しい」
「……」
300万を受け取って、トーナメントの5回戦で負けたフリをしてほしい、というお願い。一応、強引な交渉ではなくて、コチラにも金を受け取れるというメリットを提示してくれている。それだけで、まだマシかな。
そう思っていたら、貴族の男が動いた。
「もしも、断るというのなら」
「……」
人差し指をクイッと動かすと、家の中に隠れていた者たちが、一斉に姿を表した。まぁ、出てくる前に存在は気付いていたので、驚くことはなかったが。
手元に持つ武器をチラつかせながら、ジーッと睨みつけてくる男たち。見た感じ、戦っても負けはしないだろう、という自信はある。この多人数を相手にしても勝てると思うが、さて。
「痛い目を見ることになるが、どうする?」
貴族の男に問われて、考える。さて、どうしよう。ここで戦っても負けない。この家から逃げ出すのも、簡単そうだが。
俺は、トーナメントで優勝することに興味は無かった。優勝することが出来たなら嬉しいけれど、6位だとしても問題はないと思っている。
5回戦まで勝ち上がってきた。これで、おそらく勇者としての称号を得られるのが確定しているから。これから先は、トーナメントの試合で勝たなくても勇者になれるらしいので、無理に頑張る必要もない。
ここに来たのは、ブルーノに言われて勇者の称号を得るため。それ以外の名誉や、国一番の実力者という肩書は要らなかった。
ここで貴族の男の要求を断っても問題ないが、目の前の男の実家がしゃしゃり出てくるかも。貴族の家と揉めるなんて、面倒そうだよな。もしかすると、貴族であり、俺の弟子となったジョナスにも迷惑を掛けてしまう、という可能性も。
逆に、彼の要求を受けた場合には、どうなるかな。後でバレてしまうと、金を受け取ってわざと負けた俺まで罰を与えられる、ということがあるかな。勇者の称号は、剥奪されるかも。
まぁ、でも称号を取り消されたら、孤児院に帰ってダメだったとブルーノに報告をしよう。それで、孤児院での生活に戻れる。
よし。ここは、貴族様の言うことに大人しく従っておこうかな。そう考えて、俺は口を開いた。
「わかった」
「そうか! なら、次の試合では頼むぞ」
交渉が成立して、笑顔を浮かべる貴族の男。5回戦は、向こうが勝つという結果が確定した。八百長というやつだ。
契約書を交わし、俺は重量のある金袋を受け取る。交渉が終わると、すぐに家から出た。来た時と同じように、1人で王都の道を歩いて宿まで戻る。想像したよりも、あっさりとした話し合いで終わって良かった。
これを知ったら、ジョナスの奴は怒るかな。せっかく師匠として慕ってくれているのに、お金を受け取って勝敗を決めてしまったから。正義感が強そうだし、正々堂々とした真剣勝負が好みで、こういう事を嫌いそうな性格をしている気がする。
せっかくの弟子から、嫌われたくはないな。それだけが心配だった。俺としては、勝利を求めるよりも目的を果たせれば十分なんだけど。
弟子のジョナスに、今回の出来事について言おうか、言うまいか。
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