転生人生ごっちゃまぜ~数多の世界に転生を繰り返す、とある旅人のお話~

キョウキョウ

文字の大きさ
上 下
81 / 310
6周目(異世界ファンタジー:勇者)

第77話 助けられた、その後

しおりを挟む
「よい、しょっと」

 男は倒した獣を右手で掴み、肩の上に乗せる。空いている左腕に俺の体を抱えた。それぞれの腕に荷物を持って、雪の森を黙々と歩き進む。

 合流する仲間は居ない。彼は、1人で行動していたようだ。

 俺は、死にかけていたところを助けてくれた男の顔を見た。一体、何者だろうか。まぁ、顔を見ても分からないか。鍛えているのが分かる、全身黒服の中年の男性。

 先ほど見た魔法は、何だろう。俺の知っている方法とは違っていた。

 俺の知っている方法とは、魔力を体の外に放出して魔法を発動させる。しかし彼が見せた方法は、体の中で魔法を発動させてから放出した。似ているようで、ちょっと違うやり方。そんな方法もあるのかと、俺は感心した。

 そして、回復魔法について。体を回復させる魔法。あると便利だなと考えたことはあったけれど、今まで方法が思いつかなった。俺が望んでいた魔法を使いこなす男。

 どれぐらい、男は歩いてきただろうか。森の中を真っすぐ進んできて、大きな壁がある場所が見えてきた。壁の一箇所に開かれた門がある。その門をくぐって進むと、中は街だった。人が多くて、賑わっている。

 街の中を歩いていると、俺を抱えている男を見かけた街の人たちが声をかけた。

「ブルーノさん、今日もお疲れさま!」
「危険な魔物を狩ってくれたのね」
「これで、ようやく安全に街の外へ出られるのか」

 ブルーノと呼ばれた男は、この街で有名人のようだった。みんなが笑顔を浮かべて彼を、褒め称えている。慕われているな。

「とりあえず、大物のコイツは倒してきた。ひとまず、安心だぞ」

 俺を助けてくれた男が、肩の上に乗せて運んできた獣を大きく掲げると、ワーッと街の人たちの歓声が沸き起こった。

「ありがとう、ブルーノ! そいつは、俺が処理するよ」
「あぁ、頼んだ」
「いつも、ロントルガの街を守ってくれて感謝する! 君が居てくれるお陰で、街が本当に安全だ」
「俺は、自分の仕事をしただけだ。気にしないでいい」
「それでも、助かっているんだよ」

 親しそうに会話をしながら、森の中から運んできた獣の死体を誰かに渡していた。そして、ブルーノは袋を受け取る。仕事の報酬かな。

 街人たちの歓声を背中に受けつつ、ブルーノは街の中を歩いた。彼が向かった先にあったのは、大きな屋敷。その屋敷に近づいていくと小さな何かが沢山、ブルーノに迫ってくる。

 何十人もの子供たちの集団だった。ブルーノの元に殺到した。

「みんな、いい子にしてたか」
「「「はい!」」」
「良い返事だ」

 ブルーノの呼びかけに、子供たちは元気よく返事をしていた。彼の子供だろうか。しかし、数が多いような。

 子供たちがブルーノの元から散っていった後、また誰かが近づいてきた。男と同じぐらいの年齢に見える、中年の女性だ。そして彼女も、ブルーノと同じように全身が黒の格好をしていた。何か、宗教的な服装のように見える格好だな。

 彼女の視線が、ブルーノの腕に抱えられている俺に注目していた。

「ブルーノ様、その子は?」
「森の中で拾った。こんな雪の中に、捨てられていたんだ」

 俺を指さし、女性が尋ねた。眉をひそめて不愉快そうな表情で答える、ブルーノ。その表情は目の前の彼女に対してではなく、俺を捨てた者に対する不満のようだ。

「酷い。また、ですか」
「あぁ。後で一応、両親を探してみる。名乗り出ないだろうがな。だから、この子の世話も頼めるだろうか?」
「もちろん、大丈夫ですよ。赤ん坊のために、急いで母乳を用意しないと」
「頼んだ」

 俺の体が、女性に手渡された。慣れた手付きで抱き上げる女性。彼女は、赤ん坊の扱いに慣れているようだった。

 女性の腕に抱えられて、あやされながら俺は、2人が交わす会話の続きについて、聞いていた。

「また、お金が」
「これで、なんとか用意してくれ。足りなくなったら、また、外で魔物を狩ってきて稼ぐよ」

 ブルーノは、持っていた袋を女性に渡した。先ほど街で、獣の死体と交換して受け取った袋。おそらく袋の中には、お金が入っているのかな。

「いつもすみません。また、よろしくお願いします」

 そんな言葉が交わされて、それから俺は屋敷で暮らすことになった。



 しばらくの間、赤ん坊の俺は世話をされて生活していた。その最中に観察していると、そこが孤児院のような場所らしい、ということが判明した。俺と同じように、親から捨てられた子が集められて、暮らしている場所だった。

 何人かの大人に、何十人もの子供たちが世話されて生活している。その子供たちの中の1人として、俺も新たに加わった。

 どうやら、俺を死の淵から助けてくれたブルーノという男は、この施設の院長なのかな。時々、街の外に獣を狩りに行って、お金を稼いでいるようだった。そのお金で子供たちの生活に必要な物や、食事を用意してくれる。

 孤児院の大人たちに甲斐甲斐しく世話されて、俺は生き残ることが出来た。

 ただ、死にかけていた時に、助けを呼ぼうと必死で無理しすぎたせいなのか、喉がやられてしまったようだ。これは、回復魔法でも治らなかった。ただ、全く喋れないというわけでもない。

「あ、う。……」

 喋れないことはないが言葉を発するのが辛く、続けて一言二言ぐらいしか話せないようになっていた。

 まぁ、生き残るための軽い犠牲だった。コミュニケーションを取るのに少し不便なぐらいで、それ以外は特に困ることもなかった。魔法を使うのに呪文を唱えることが必須じゃなくて、よかった。無詠唱の魔法を習得しているので、問題なく使える。



 どうやら転生人生に終わりはなく、まだまだ続くようだった。

 今回は、新しい人生が始まっていきなり、死の危険を感じることになった。そして俺は、必死に生きたいと願った。転生の繰り返しを終わらせたい気持ちもあるけど、それ以上に俺の本心は生きたいようだ。

 だから、転生が終わるその日まで、必死に生きていこうと改めて思った。

 転生の謎については、一旦置いておく。どうやって終わらせるのかは考えないで、今を全力で生きてみる。

 とりあえず今回の人生では、俺を助けてくれたブルーノと孤児院に、恩を返すことを目標にしようかな。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

処理中です...