転生人生ごっちゃまぜ~数多の世界に転生を繰り返す、とある旅人のお話~

キョウキョウ

文字の大きさ
上 下
67 / 310
5周目(異世界ファンタジー:魔法教師)

第64話 村を訪れる者

しおりを挟む
 魔法の先生として慣れてきた、今日この頃。次の授業に向けて準備をしている最中に、誰かが研究室の小屋を訪れた。この時間に珍しいな。生徒なら、そのまま教室へ向かうだろうし。準備する手を止めて、対応する。

 扉がノックされたので返事をしながら開けると、そこには見知った顔があった。

「すみません、リヒト先生」
「あれ? どうしたんですか? 授業内容で、何か質問がありましたか?」

 小屋にやって来たのは、この村で魔法を教えていたもう1人の先生だった。今は、俺の授業を熱心に受けていて、魔法について学んでいる最中。小屋にやって来たのも何か質問しに来たのかな、と思って聞いてみると彼は首を横に振って否定した。違う用事らしい。

「実は、リヒト先生にお客さんが」
「俺に?」

 一体、誰だろうか。それになぜ、わざわざ彼が俺の元に連れてきたのだろう。村の人であれば顔見知りだし、お客さんなんて言い方はしないはずだ。そう疑問に思っていると、彼の横に1人、先生とは別の男性が立っているのが見えた。

 顔を見るが、俺の知らない人だった。黒髪で、シワの入った老人のようにも見える男の顔。男は紺色のローブを、その身にまとっていた。

 村の人ではないようだ。つまり、外から来た人。商人には見えないが、そんな彼が俺を訪ねてきたという、お客さんなのだろうか。誰かと会う約束もしていないはずだし、思い当たる節がないんだけど。

 訪ねてきた人物を見ていると、見知らぬ誰かも、俺を正面からジッと見つめ返してきた。向こうも何やら、俺のことを観察している。

 しばらく観察を続けてから、見知らぬ男性が口を開く。

「貴方が、リヒトさん、で間違いないですか?」

 名を呼ばれて、確認される。向こうは俺のことを知っているのか。わざわざ訪ねてきたらしいから、当然なのか。もしかして、知り合いなのかも。いや、違うか。

 いくら考えても、やはり知り合いではない。なので本人に直接、貴方は誰なんだと問いかけてみた。

「えぇ。まぁ、俺の名前はリヒトですが。そう言う貴方は、誰ですか?」

 しかし男性は、こちらの質問を無視して答えなかった。

「魔法に関する知識が豊富で、この村の者たちにも魔法を教える教師をしている、と聞いたのですが」
「確かに、俺は村の人たちに魔法の使い方を教えていますが」

 俺の質問には答えようとせず、ローブ姿の男だけが次の質問をしてくる。

 誰から聞いたのかは知らないけど、魔法の先生をしているのは事実なので、頷いて肯定した。それで、お前は一体誰なんだ。こちらが聞こうとするけれども、すかさず次の質問が飛んできた。

「あの伝説の魔女しか使えなかったと言われている、無詠唱魔法を使えると聞いたのですが本当ですか?」

 質問しているうちにヒートアップしていくローブ姿の男性の圧に、俺は戸惑った。何なんだ、この男は。というか、伝説の魔女? 無詠唱魔法が?

「その無詠唱魔法をぜひ、使って見せて頂けないでしょうか?」

 男の口調は丁寧だけれど、拒否は許さないというような強い目を向けてきていた。流石に、ちょっと頭にきた。いきなりやって来て、誰なのかも分からないのに魔法を見せろだなんて。

「ちょっと待て」
「はい?」

 俺が手のひらを男の顔に向けて会話を止めると、男は疑問の表情を浮かべていた。なぜ止めるんだ、という表情。だけど、ようやく人の話を聞く姿勢になったのかな。とりあえず、俺の話を聞いてくれ。

「いきなり、名乗りもせずに失礼じゃないんですか?」
「も、申し訳ありません」

 ようやく、こちらの話を聞いてくれた。それから、不機嫌になっている俺の態度に気が付いたのだろう、慌てて男が頭を下げて謝ってくる。失礼ではあるけれど、謝る気持ちがあるなら良いか。

 でも、謝罪はそれだけでいいから。早く事情を説明していほしいのだけど。そんな俺の気持ちを込めて視線を向けていると、ようやくローブ姿の男は名乗った。

「私の名前は、コルネリウス。王都ロウノトア魔法学校で、教師を務めています」
「はぁ……、そうですか」

 王都にある魔法学校で、俺と同じように魔法の教師ををしている人らしい。まぁ、小さな村で先生をしている俺と比べて、王都で教師をしている彼のほうが身分は高いだろうけど。比べるのも失礼なぐらい。

 そんな人がなぜ、わざわざ俺を訪ねて来たのだろうか。どうやって、王都の教師に俺の存在が伝わったのか疑問だった。そんな俺の疑問を察したのか、コルネリウスがこの村に来た経緯について説明してくれた。

「貴方が、この村で魔法を教えていたというアルノルトから、話を聞いたんですよ」
「なるほど。彼から」

 それだけ聞いて、経緯は分かった。1年前に村から旅立っていったアルノルトか。どうやら、無事に王都には辿り着いたようだし、今は魔法学校に在籍しているのか。ちゃんと生活できているようで良かった。

 しかし、王都に居るというアルノルトが俺の事を話したのか。

 それを聞いて、こんな辺境の村まで見に来たという魔法学校の教師ね。

 一体、どんな風に俺のことを聞いたのだろうか。王都の魔法教師だという男は目をキラキラと輝かさながら、興味津々という様子で見てくる。

「アルノルトは、非常に優秀な生徒ですよ。王都ロウノトア魔法学校始まって以来の歴史に残るような魔法使いかもしれないです。そんな彼を育てたという魔法教師が、こんな辺境の村に居るとは夢にも思いもしませんでしたよ」
「はぁ」

 アルノルトが、王都の魔法学校というところで活躍をしている話を聞けて、嬉しい気持ちはある。けれども、それ以上に、なんで俺の事を話したんだアイツは、という責める気持ちが大きかった。言わなくてもいいのに。

「さらに彼から話を聞いてみると、あの歴史に残る伝説の魔女マリアにだけしか使えなかったという無詠唱魔法が使える、と言うじゃありませんか! その技を、私にも見せて下さい、ぜひ!」
「……」

 1人で白熱して喋っているコルネリウスを、俺は黙って眺めている。

 何だか、面倒なことに巻き込まれそうな予感があった。アルノルトが村を旅立ってから1年、こんな事になるとは予想できなかったが、彼に口止めしておくべきだったかな。

 今になって気付いても、もう遅いか。俺はアルノルトに何も言わず、村から旅立つ彼を見送ったことを、少しだけ後悔するのだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

処理中です...