10 / 310
2周目(異世界ファンタジー:魔法使い)
第10話 両親の死
しおりを挟む
それは俺が、12歳の頃に起こった出来事。
母親のマティルデが亡くなった。とても急な事だった。彼女が亡くなる1週間ほど前から体調が悪くなり、ベッドで安静にしていた。それから病状が一気に悪化して、そのまま帰らぬ人となってしまった。
「ママっ!」
もう二度と目を覚まさない母親の体に抱きついて、大粒の涙をポロポロと落として大声で泣く妹のマリア。彼女の悲痛な声を聞いて、俺の胸が痛む。まだ、幼い子供だというのに。
この世界の人間は、こんなにもあっさりと死んでしまうのか。
「ッ……、マティルデ……。っく……」
呆然としている父親のニクラスが、小声で妻の名を呟いているのが聞こえてくる。大切な伴侶を亡くして、ショック状態に陥っている父親にどんな対応をするべきか、俺は分からない。
「……」
黙り込んだまま、ジーッと母親のマティルデを見つめ続ける兄のダグマル。とても悲しそうな表情だった。普段あまり感情を見せない彼でも、そんな状態に陥るのかと驚いた。もしかすると俺の知らない彼は、思っていたよりも身内のことを大事にする人だったのかもしれない。
俺は、どんな顔をして母親を見ればいいのか分からず、困惑していた。自分の感情が、よく分からなかった。母親の死を、ちゃんと受け入れることが出来なかった。
突然の不幸に、皆が悲しんだ。俺も、思ったよりショックを受けていた。しばらく時間が経過してから、じわじわと実感した。母が死んだ。身近に死を感じた。
人は死ぬ。俺も、いつかは。
転生して二度目の人生を送っていた俺は、無意識のうちに死についてを軽く感じていたのかもしれない。しかし、身内である母親が亡くなって、俺もいつか死ぬんだと思うと、死をリアルに感じて急に怖くなった。そして、悲しくなった。
前世に記憶はあるが、死ぬ瞬間の記憶はなかった。気が付いたら俺は、この世界に居たから。忘れているのか、それとも意識がない時に死んでしまったのか。
転生なんて、ファンタジーな世界だと思っていた。創作の世界だと。異世界には、魔法があって、物語の中に居るような感覚。非日常な世界なんだと、気付かぬうちにそう思っていた。きっと楽しい世界だと。だから、死も遠い存在だと無意識のうちに感じていた。
俺にとって、この世界は現実なんだと母親の死によって思い知らされた。
母親の死に大きなショックを受けた俺だったが、なんとか悲しみから立ち直った。俺なんかよりも、妹のマリアのショックが大きいようだから。兄として、しっかりしないといけない。そう思えたから。
賢い彼女は、10歳にして死というものをちゃんと理解していた。母の死を知り、もう二度と帰ってこないことを、とても悲しんでいた。悲しみに打ちひしがれている彼女のケアを、しなければならないと思った。そうしないと、彼女が壊れてしまう。
頼れる大人であった父親のニクラスは、伴侶の死という悲しみから逃れるためだろうか、あれから仕事に熱中して家庭を顧みない人になってしまった。彼と会う機会は、極端に減った。
俺の目から見て、とても妻を大切にしていた父。今は仕方がないのかもしれない。彼が立ち直るのは、時間が解決してくれることを待つしかなかった。まだ子供でしかない俺には、見守ることぐらいしか出来ない。俺が大きくなって、彼の仕事を手伝えるようになったら、父親を支えることも出来るのかな。
兄のダグマルは、父親と同じように日々の教育にのめり込んでいったようだ。以前よりもさらに、関わる機会が減った。
一緒の屋敷で暮らしているはずなのに1ヶ月以上、彼と会わない時があるぐらい。もちろん会話も一切なし。
次期当主としての責任を果たすため、今は必死に勉強している様子。早く父親から当主の座を受け継ぐために。必死だけど、ちゃんと食事と睡眠をとって生活を送っているようなので、父親に比べると心配は少ない。冷静さはあるようだ。
「……ママ、うぅっ」
妹のマリアは、毎晩のように部屋で泣いていた。
やはり、ショックが大きいようだった。
出来る限り妹のマリアから目を離さないように注意して、彼女のそばで余計なことは言わずに黙ったまま寄り添い、支えた。
いつも通り彼女が、人として基本的な生活を送れるように食事や睡眠をとらせて、マリアに普段の生活を取り戻させようと努力した。
時間が経過していくと、次第にマリアも立ち直っていった。魔法のトレーニングをしたりして、日常的な活動にも興味が戻っていった。
時間を掛けて、ちゃんと母親の死を受け入れて、乗り越えられる。とても賢くて、強い娘だった。
しかし、不幸は続く。
母親のマティルデが亡くなってから2年後、今度は父親のニクラスが過労によって亡くなった。彼は、仕事に熱中するあまり体調を悪くしたようだ。それを隠したまま領主として必死に働き、無理が祟って死に至ってしまった。
彼にとって妻のマティルデが亡くなったのは、立ち直れないほどにショックが大きすぎたらしい。なんとか忘れようと仕事に熱中して、無理してしまった。
父親のニクラスに何度か仕事の量を減らすか、辞めさせようと説得してみたけど、聞き入れてもらえなかった。もっと強く言うべきだった。対処が遅すぎた。
この世界では、病気や過労であっさりと人は亡くなってしまう。両親の死を受け入れて、自分たちは必死に生きていかなければならないと、改めて思った。
妹のマリアは、ようやく母親の死から立ち直ろうとしていた寸前の出来事だった。今度は父親も亡くなってしまい、再びショック状態に陥り、塞ぎ込んでしまった。
「ママも、パパも居なくなった……。どうしよう……?」
「大丈夫。俺が居るから」
父親のニクラスが亡くなったことで、次期当主であったダグマルが、領主としての地位を受け継いだ。領主の引き継ぎなどで兄はとても忙しそうだったので、俺や妹に意識が及ばず。今度も主に俺が、家族として妹のマリアを支え続けていた。
ここ数年で、俺の周りの状況は大きく変わっていった。
ロールシトルト領内にも、不安が広がっているようだった。
慕われていた領主ニクラスから、その息子のダグマルに領主の立場が受け継がれてどう変わっていくのか、領民は非常に注目していた。
俺は、妹のマリアを支える他にも何か、ロールシトルト家のために働きたかった。だが兄を助けるにも、どうやって手助けするべきかを悩んでしまう。今までの微妙な関係があって、手を出しあぐねている状況。
まずは、兄との関係の改善が必要だろう。しばらく会っていなけれど、今の状況を変えるためには、覚悟を決めて会いに行くべきだろう。
母親のマティルデが亡くなった。とても急な事だった。彼女が亡くなる1週間ほど前から体調が悪くなり、ベッドで安静にしていた。それから病状が一気に悪化して、そのまま帰らぬ人となってしまった。
「ママっ!」
もう二度と目を覚まさない母親の体に抱きついて、大粒の涙をポロポロと落として大声で泣く妹のマリア。彼女の悲痛な声を聞いて、俺の胸が痛む。まだ、幼い子供だというのに。
この世界の人間は、こんなにもあっさりと死んでしまうのか。
「ッ……、マティルデ……。っく……」
呆然としている父親のニクラスが、小声で妻の名を呟いているのが聞こえてくる。大切な伴侶を亡くして、ショック状態に陥っている父親にどんな対応をするべきか、俺は分からない。
「……」
黙り込んだまま、ジーッと母親のマティルデを見つめ続ける兄のダグマル。とても悲しそうな表情だった。普段あまり感情を見せない彼でも、そんな状態に陥るのかと驚いた。もしかすると俺の知らない彼は、思っていたよりも身内のことを大事にする人だったのかもしれない。
俺は、どんな顔をして母親を見ればいいのか分からず、困惑していた。自分の感情が、よく分からなかった。母親の死を、ちゃんと受け入れることが出来なかった。
突然の不幸に、皆が悲しんだ。俺も、思ったよりショックを受けていた。しばらく時間が経過してから、じわじわと実感した。母が死んだ。身近に死を感じた。
人は死ぬ。俺も、いつかは。
転生して二度目の人生を送っていた俺は、無意識のうちに死についてを軽く感じていたのかもしれない。しかし、身内である母親が亡くなって、俺もいつか死ぬんだと思うと、死をリアルに感じて急に怖くなった。そして、悲しくなった。
前世に記憶はあるが、死ぬ瞬間の記憶はなかった。気が付いたら俺は、この世界に居たから。忘れているのか、それとも意識がない時に死んでしまったのか。
転生なんて、ファンタジーな世界だと思っていた。創作の世界だと。異世界には、魔法があって、物語の中に居るような感覚。非日常な世界なんだと、気付かぬうちにそう思っていた。きっと楽しい世界だと。だから、死も遠い存在だと無意識のうちに感じていた。
俺にとって、この世界は現実なんだと母親の死によって思い知らされた。
母親の死に大きなショックを受けた俺だったが、なんとか悲しみから立ち直った。俺なんかよりも、妹のマリアのショックが大きいようだから。兄として、しっかりしないといけない。そう思えたから。
賢い彼女は、10歳にして死というものをちゃんと理解していた。母の死を知り、もう二度と帰ってこないことを、とても悲しんでいた。悲しみに打ちひしがれている彼女のケアを、しなければならないと思った。そうしないと、彼女が壊れてしまう。
頼れる大人であった父親のニクラスは、伴侶の死という悲しみから逃れるためだろうか、あれから仕事に熱中して家庭を顧みない人になってしまった。彼と会う機会は、極端に減った。
俺の目から見て、とても妻を大切にしていた父。今は仕方がないのかもしれない。彼が立ち直るのは、時間が解決してくれることを待つしかなかった。まだ子供でしかない俺には、見守ることぐらいしか出来ない。俺が大きくなって、彼の仕事を手伝えるようになったら、父親を支えることも出来るのかな。
兄のダグマルは、父親と同じように日々の教育にのめり込んでいったようだ。以前よりもさらに、関わる機会が減った。
一緒の屋敷で暮らしているはずなのに1ヶ月以上、彼と会わない時があるぐらい。もちろん会話も一切なし。
次期当主としての責任を果たすため、今は必死に勉強している様子。早く父親から当主の座を受け継ぐために。必死だけど、ちゃんと食事と睡眠をとって生活を送っているようなので、父親に比べると心配は少ない。冷静さはあるようだ。
「……ママ、うぅっ」
妹のマリアは、毎晩のように部屋で泣いていた。
やはり、ショックが大きいようだった。
出来る限り妹のマリアから目を離さないように注意して、彼女のそばで余計なことは言わずに黙ったまま寄り添い、支えた。
いつも通り彼女が、人として基本的な生活を送れるように食事や睡眠をとらせて、マリアに普段の生活を取り戻させようと努力した。
時間が経過していくと、次第にマリアも立ち直っていった。魔法のトレーニングをしたりして、日常的な活動にも興味が戻っていった。
時間を掛けて、ちゃんと母親の死を受け入れて、乗り越えられる。とても賢くて、強い娘だった。
しかし、不幸は続く。
母親のマティルデが亡くなってから2年後、今度は父親のニクラスが過労によって亡くなった。彼は、仕事に熱中するあまり体調を悪くしたようだ。それを隠したまま領主として必死に働き、無理が祟って死に至ってしまった。
彼にとって妻のマティルデが亡くなったのは、立ち直れないほどにショックが大きすぎたらしい。なんとか忘れようと仕事に熱中して、無理してしまった。
父親のニクラスに何度か仕事の量を減らすか、辞めさせようと説得してみたけど、聞き入れてもらえなかった。もっと強く言うべきだった。対処が遅すぎた。
この世界では、病気や過労であっさりと人は亡くなってしまう。両親の死を受け入れて、自分たちは必死に生きていかなければならないと、改めて思った。
妹のマリアは、ようやく母親の死から立ち直ろうとしていた寸前の出来事だった。今度は父親も亡くなってしまい、再びショック状態に陥り、塞ぎ込んでしまった。
「ママも、パパも居なくなった……。どうしよう……?」
「大丈夫。俺が居るから」
父親のニクラスが亡くなったことで、次期当主であったダグマルが、領主としての地位を受け継いだ。領主の引き継ぎなどで兄はとても忙しそうだったので、俺や妹に意識が及ばず。今度も主に俺が、家族として妹のマリアを支え続けていた。
ここ数年で、俺の周りの状況は大きく変わっていった。
ロールシトルト領内にも、不安が広がっているようだった。
慕われていた領主ニクラスから、その息子のダグマルに領主の立場が受け継がれてどう変わっていくのか、領民は非常に注目していた。
俺は、妹のマリアを支える他にも何か、ロールシトルト家のために働きたかった。だが兄を助けるにも、どうやって手助けするべきかを悩んでしまう。今までの微妙な関係があって、手を出しあぐねている状況。
まずは、兄との関係の改善が必要だろう。しばらく会っていなけれど、今の状況を変えるためには、覚悟を決めて会いに行くべきだろう。
11
お気に入りに追加
225
あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる