妹が自ら手放した騎士の価値~家を出たいと願った令嬢との運命の出会い~

キョウキョウ

文字の大きさ
17 / 22

第17話 処理※エドモンド視点

しおりを挟む
「計画通りに行動するように」

 エドモンドの低い声が、夜の静けさの中で響いた。

「突入したら、すぐに出入り口を塞いで。誰一人として逃がすな。特に、あの人物には注意しろ」

 出入り口の位置や配置についてもう一度細かくチェックする。部下たちが頷くのを確認して、エドモンドは剣の柄に手をかけた。

「作戦、開始」

 彼の言葉とともに、騎士たちが一斉に動き出した。鍵師が素早く玄関の鍵を開け、前衛部隊が静かに館内に忍び込む。エドモンド自身も剣を抜き、建物内に突入した。

 薄暗い廊下を進むと、奥の部屋から声が漏れ聞こえてきた。ドアの前で立ち止まり、内側の様子に耳を澄ます。

「いいわね。明日の夜に決行する。ウィンターフェイド家が結婚式を行う前に、あの女を……」

 聞き覚えのある女の声だった。エドモンドは目配せし、部下たちに合図を送った。

「全員、捕らえろ! 誰も逃がすなよ!」
「なっ!?」

 エドモンドの一声で、騎士たちがドアを蹴破り、部屋に飛び込んだ。中にいた男たちは驚きの声を上げたが、反応する間もなく次々と取り押さえられていく。

 混乱の中、エドモンドは部屋の様子を素早く把握した。ヴィヴィアンを含め、十数名の男女がいた。集まっていたのは、ならず者たち。どうやら警戒もしていなかったようだ。

 わずか数分で、部屋の中は制圧された。全員が武装解除され、後ろ手に縛られていく。ここは任せて大丈夫だろうと、エドモンドは他の部屋も確認して回る。誰も逃がしていないだろうか。一人も逃さないように、目を光らせる。



「隊長、全ての容疑者を確保しました」
「よくやった」

 戻ってくると、部下の一人が報告に来た。無事に全員を確保できたらしい。だが、その表情には何か引っかかるものがあった。苦虫を噛み潰したような顔で、言葉を続けるのに躊躇しているようだった。

「どうかしたのか?」

 エドモンドが問いかけようとした瞬間、騒々しい声が聞こえてきた。

「ちょっと、離しなさいよ! 私を、誰だと思っているの!?」
「なるほど、あれか」

 部下の表情の理由を察したエドモンド。たしかに、あれは厄介そうだ。

「アンタたち、誰よ! 後で酷い目にあうわよ! そうならないうちに、早く離しなさい!」

 キンキンとした声が響き渡る。

「それの言葉は無視していい。さっさと連れて行け」

 冷淡な声で命じると、部下たちは頷いた。廊下を引きずられてきたヴィヴィアンは、エドモンドを見つけて目を見開く。

「エドモンド様……?」

 一瞬の驚きの後、彼女の表情は媚びるような愛想の良さに変わった。

「助けて、エドモンド様!コレは何かの間違いで——」

 エドモンドは彼女を完全に無視し、部下に向かって尋ねた。

「それで、何人捕まえた?」
「はい。今のところ——」
「ちょっと!私の話を聞いて!」

 ヴィヴィアンは引きずられながらも必死に前に出ようとして、エドモンドの注意を引こうとした。

「それを黙らせろ」

 エドモンドの冷たい指示に、部下が素早く動いた。

「んっ!」

 布を噛まされたヴィヴィアンの声が途切れ、暴れる彼女を二人がかりで押さえつける。彼女は最後までエドモンドに視線を向け、助けを求めていたが、彼は二度と彼女の方を見ることはなかった。

「んっー! んんっー!」



 牢に全員を送り込んだ後、エドモンドは報告書をまとめていた。

 ウィンターフェイド家の報告により王宮から叱責を受けたヴァンローゼ家。それに不満を持った彼らが、何か問題を起こす兆候があることは、彼の情報網がすでに察知していた。

 首謀者はヴィヴィアン。彼女が婚約関係を元に戻したいと考えていたらしい。そのためには邪魔なエレノアを排除する必要があった。ならず者を集めて、ウィンターフェイド家で間もなく行われる予定の結婚式を襲撃し、混乱に乗じてエレノアを誘拐するという計画だったようだ。

「まさか、騎士系の貴族であるウィンターフェイド家に襲撃をかけようなんて……」

 エドモンドは溜息をつきながら呟いた。あまりの愚かさに呆れていた。彼らは自分たちの計画が事前に察知されているとは夢にも思っていなかったのだろう。決起集会のタイミングで部隊を整え、彼女たちが計画を実行する前に捕獲した。エドモンドの指示で全てが簡単に終わった。

 襲撃が成功したところで、その後どうするつもりだったのか。エレノアを誘拐して、どう交渉するつもりだったのか。どうやっても、エドモンドには上手くいく方法が思いつかない。

 そもそも、第一段階の襲撃で失敗している時点で、その後の計画など意味がないが。

「彼女は、いったい何を考えていたのだろうか」

 理解できない。報告書の最後に、エドモンドは自分の意見を加えた。

「ヴァンローゼ家、およびヴィヴィアン・ヴァンローゼの今後の処遇については、王宮の判断に委ねるが、彼らの行動はもはや貴族としての資格を疑わせるものである」

 彼らの未来は絶望的になるだろう。それだけは明らかだった。

 報告書を完成させて、最後に署名し、エドモンドは立ち上がった。窓の外を見れば、朝日が昇り始めていた。新たな一日の始まりと、彼とエレノアの新しい人生の始まり。

 エドモンドの口元に、小さな微笑みが浮かんだ。面倒なことを、結婚式の前に処理できてよかった。結婚式まであと数日。今回の事件は、彼らの幸せを邪魔することはできなかった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

(完)人柱にされそうになった聖女は喜んで死にました。

青空一夏
恋愛
ショートショート。早い展開で前編後編で終了。バッドエンド的な展開で暗いです。後味、悪いかも。

[完結]だってあなたが望んだことでしょう?

青空一夏
恋愛
マールバラ王国には王家の血をひくオルグレーン公爵家の二人の姉妹がいる。幼いころから、妹マデリーンは姉アンジェリーナのドレスにわざとジュースをこぼして汚したり、意地悪をされたと嘘をついて両親に小言を言わせて楽しんでいた。 アンジェリーナの生真面目な性格をけなし、勤勉で努力家な姉を本の虫とからかう。妹は金髪碧眼の愛らしい容姿。天使のような無邪気な微笑みで親を味方につけるのが得意だった。姉は栗色の髪と緑の瞳で一見すると妹よりは派手ではないが清楚で繊細な美しさをもち、知性あふれる美貌だ。 やがて、マールバラ王国の王太子妃に二人が候補にあがり、天使のような愛らしい自分がふさわしいと、妹は自分がなると主張。しかし、膨大な王太子妃教育に我慢ができず、姉に代わってと頼むのだがーー

婚約者を奪っていった彼女は私が羨ましいそうです。こちらはあなたのことなど記憶の片隅にもございませんが。

松ノ木るな
恋愛
 ハルネス侯爵家令嬢シルヴィアは、将来を嘱望された魔道の研究員。  不運なことに、親に決められた婚約者は無類の女好きであった。  研究で忙しい彼女は、女遊びもほどほどであれば目をつむるつもりであったが……  挙式一月前というのに、婚約者が口の軽い彼女を作ってしまった。 「これは三人で、あくまで平和的に、話し合いですね。修羅場は私が制してみせます」   ※7千字の短いお話です。

(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。 チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。 しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは…… これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦) それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。

(完結)お姉様、私を捨てるの?

青空一夏
恋愛
大好きなお姉様の為に貴族学園に行かず奉公に出た私。なのに、お姉様は・・・・・・ 中世ヨーロッパ風の異世界ですがここは貴族学園の上に上級学園があり、そこに行かなければ女官や文官になれない世界です。現代で言うところの大学のようなもので、文官や女官は○○省で働くキャリア官僚のようなものと考えてください。日本的な価値観も混ざった異世界の姉妹のお話。番の話も混じったショートショート。※獣人の貴族もいますがどちらかというと人間より下に見られている世界観です。

(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・エメリーン編

青空一夏
恋愛
「元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・」の続編。エメリーンの物語です。 以前の☆小説で活躍したガマちゃんズ(☆「お姉様を選んだ婚約者に乾杯」に出演)が出てきます。おとぎ話風かもしれません。 ※ガマちゃんズのご説明 ガマガエル王様は、その昔ロセ伯爵家当主から命を助けてもらったことがあります。それを大変感謝したガマガエル王様は、一族にロセ伯爵家を守ることを命じます。それ以来、ガマガエルは何代にもわたりロセ伯爵家を守ってきました。 このお話しの時点では、前の☆小説のヒロイン、アドリアーナの次男エアルヴァンがロセ伯爵になり、失恋による傷心を癒やす為に、バディド王国の別荘にやって来たという設定になります。長男クロディウスは母方のロセ侯爵を継ぎ、長女クラウディアはムーンフェア国の王太子妃になっていますが、この物語では出てきません(多分) 前の作品を知っていらっしゃる方は是非、読んでいない方もこの機会に是非、お読み頂けると嬉しいです。 国の名前は新たに設定し直します。ロセ伯爵家の国をムーンフェア王国。リトラー侯爵家の国をバディド王国とします。 ムーンフェア国のエアルヴァン・ロセ伯爵がエメリーンの恋のお相手になります。 ※現代的言葉遣いです。時代考証ありません。異世界ヨーロッパ風です。

(完結)無能なふりを強要された公爵令嬢の私、その訳は?(全3話)

青空一夏
恋愛
私は公爵家の長女で幼い頃から優秀だった。けれどもお母様はそんな私をいつも窘めた。 「いいですか? フローレンス。男性より優れたところを見せてはなりませんよ。女性は一歩、いいえ三歩後ろを下がって男性の背中を見て歩きなさい」 ですって!! そんなのこれからの時代にはそぐわないと思う。だから、お母様のおっしゃることは貴族学園では無視していた。そうしたら家柄と才覚を見込まれて王太子妃になることに決まってしまい・・・・・・ これは、男勝りの公爵令嬢が、愚か者と有名な王太子と愛?を育む話です。(多分、あまり甘々ではない) 前編・中編・後編の3話。お話の長さは均一ではありません。異世界のお話で、言葉遣いやところどころ現代的部分あり。コメディー調。

処理中です...