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第8話 自分の役目
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扉が開き、数人の侍女たちが料理を運び込んできた。テーブルの上に次々と並べられていく料理の数々に、私は思わず息を呑んだ。昼食にしては、立派すぎる料理。
香りに誘われ、私のお腹が小さく鳴った。恥ずかしさで頬が熱くなる。少し前まで緊張のあまり食欲など感じていなかったのに、目の前に並べられた料理を見れば、急に空腹感が押し寄せてきた。
侍女たちは手際よく配膳を終えると、最後にナプキンとカトラリーを丁寧に配置した。
「エドモンド様、エレノア様、お食事の準備ができました」
侍女の一人が丁寧に告げた。
私が礼を言おうとした瞬間、ベッドの上のエドモンド様が動き出した。包帯に覆われた体を起こし、端に腰掛けようとする。
「エドモンド様、お手伝いをします」
私は反射的に席から立ち上がった。父の言葉が脳裏をよぎる。「エドモンド様のお世話をしなさい」そう言われて、私はここにいるのだから。
「必要ない」
彼の声は冷たく、ピシャリと私の申し出を断った。
突然の拒絶に、私は一瞬固まった。余計なことを言ってしまったのだろうか。彼の誇りを傷つけてしまったのだろうか。不安がよぎる。
「体は問題なく動く」
エドモンド様は淡々と言った。そして、その言葉通り、包帯で巻かれた足をスムーズに動かし、テーブルの椅子に移動した。確かに動きに不自由さはなく、自力で食事するのも問題なさそうだった。
彼は私に一瞥をくれると、そのまま食事を始めた。包帯の巻かれた腕を動かして、口元に料理を運んでいく。
私は立ったまま、どうすべきか迷っていた。結局、何の役にも立てないようだ。
「君も、遠慮せずに食べるがいい」
彼は食事の手を止めず、そう言った。
「は、はい……」
椅子に座り、料理を見つめた。確かにお腹は空いている。でも、何も役に立っていないのに、こんなに豪華な食事をいただいていいのだろうか。
ためらいながらもフォークを手に取り、サラダを一口。
「美味しい!」
思わず声が漏れた。一口食べた瞬間、新鮮な野菜の甘みが口の中に広がる。これまで我慢していた空腹感が一気に押し寄せてきた。
「そうか。口に合って良かった」
「あ」
エドモンド様の声に、私は我に返った。思わず声を出してしまったことに恥ずかしさを覚え、頬が熱くなる。
しかし、少し顔を上げると、彼の目が柔らかく微笑んでいるように見えた。包帯の隙間から覗く琥珀色の瞳に、優しさが宿っている。
そんな彼の反応に、私も少しずつ緊張がほぐれ、料理を楽しむことができた。長い間、十分な食事ができなかった体が、一つ一つの味に喜びを覚える。
気がつけば、私の皿はすっかり空になっていた。
「いい食いっぷりだな」
エドモンド様の声に、私はハッとした。夢中で食べていたことに気づき、再び恥ずかしさで顔が燃えるようだった。
「ご、ごめんなさい。食べすぎました」
慌てて謝る私に、彼は首を横に振った。
「いいや。俺が君に、遠慮せずに食ってくれと言ったからな。全く気にしていない」
その声には、本当に気にしていない雰囲気があった。むしろ、私が食べたことを喜んでいるようにさえ感じた。
「は、はい。ありがとうございます」
久しぶりに最後まで食べきった満腹感が心地よかった。ヴァンローゼ家での食事はいつも妹に邪魔されて、最後まで食事を終えられたことなど稀だったから。
それでも、淑女として育てられた身として、会ったばかりの人の前でこんなに食べてしまったことが恥ずかしく、内心で反省していた。
食事が終わり、侍女たちが静かに片付けを始めた。エドモンド様は一杯の紅茶を前に、窓の外を見つめている。日差しが彼の白い包帯を照らしていた。その姿が、とても優雅だった。見惚れてしまうほど。
静けさの中で、私は勇気を出して尋ねた。
「私はこれから、どうやってエドモンド様のお世話をすればよろしいでしょうか?」
彼は紅茶から目を離し、私を見た。
「いや、世話は必要ない」
「っ!」
拒否されてしまった。やはり役に立たないと思われているのだろうか。だとしたら、私がここに来た意味は何なのか。絶望感が胸を締め付けた。
彼は続けて言った。
「しばらく仕事に集中する。こうやって顔を合わせる時間もないだろう」
「そう、なのですか」
エドモンド様から、会えないと言われる。絶望は続く。やっぱり、彼は怒っているのか。妹の代わりなんかで、私のような女が来たから。関わるのを嫌がって、遠ざけようとしているのか。
「君には、ウィンターフェイド家で自由に過ごしてほしい。要望があれば聞く。何かないか?」
「えっと」
いきなりの質問に、私は言葉に詰まった。
「なんでも良い。言ってくれ」
彼の眼差しは真剣で、本当に私の希望を聞きたいと思っているようだった。なにか答えないと。
「そ、それじゃあ……。本を」
「本?」
「読書が、好き、なので……」
ぱっと思いついたことを言ってみる。か細い声になってしまったが、彼は満足そうに頷いた。
「わかった。用意させよう」
不思議な気持ちが私を包んだ。エドモンド様は私を嫌っているわけではない。むしろ、とても配慮してくれている。どうして?
「仕事が落ち着いたら、会いに行く」
そう言われて、彼との初めての対面は終わった。自分の立場や役目、どうするべきかを理解できないまま。
香りに誘われ、私のお腹が小さく鳴った。恥ずかしさで頬が熱くなる。少し前まで緊張のあまり食欲など感じていなかったのに、目の前に並べられた料理を見れば、急に空腹感が押し寄せてきた。
侍女たちは手際よく配膳を終えると、最後にナプキンとカトラリーを丁寧に配置した。
「エドモンド様、エレノア様、お食事の準備ができました」
侍女の一人が丁寧に告げた。
私が礼を言おうとした瞬間、ベッドの上のエドモンド様が動き出した。包帯に覆われた体を起こし、端に腰掛けようとする。
「エドモンド様、お手伝いをします」
私は反射的に席から立ち上がった。父の言葉が脳裏をよぎる。「エドモンド様のお世話をしなさい」そう言われて、私はここにいるのだから。
「必要ない」
彼の声は冷たく、ピシャリと私の申し出を断った。
突然の拒絶に、私は一瞬固まった。余計なことを言ってしまったのだろうか。彼の誇りを傷つけてしまったのだろうか。不安がよぎる。
「体は問題なく動く」
エドモンド様は淡々と言った。そして、その言葉通り、包帯で巻かれた足をスムーズに動かし、テーブルの椅子に移動した。確かに動きに不自由さはなく、自力で食事するのも問題なさそうだった。
彼は私に一瞥をくれると、そのまま食事を始めた。包帯の巻かれた腕を動かして、口元に料理を運んでいく。
私は立ったまま、どうすべきか迷っていた。結局、何の役にも立てないようだ。
「君も、遠慮せずに食べるがいい」
彼は食事の手を止めず、そう言った。
「は、はい……」
椅子に座り、料理を見つめた。確かにお腹は空いている。でも、何も役に立っていないのに、こんなに豪華な食事をいただいていいのだろうか。
ためらいながらもフォークを手に取り、サラダを一口。
「美味しい!」
思わず声が漏れた。一口食べた瞬間、新鮮な野菜の甘みが口の中に広がる。これまで我慢していた空腹感が一気に押し寄せてきた。
「そうか。口に合って良かった」
「あ」
エドモンド様の声に、私は我に返った。思わず声を出してしまったことに恥ずかしさを覚え、頬が熱くなる。
しかし、少し顔を上げると、彼の目が柔らかく微笑んでいるように見えた。包帯の隙間から覗く琥珀色の瞳に、優しさが宿っている。
そんな彼の反応に、私も少しずつ緊張がほぐれ、料理を楽しむことができた。長い間、十分な食事ができなかった体が、一つ一つの味に喜びを覚える。
気がつけば、私の皿はすっかり空になっていた。
「いい食いっぷりだな」
エドモンド様の声に、私はハッとした。夢中で食べていたことに気づき、再び恥ずかしさで顔が燃えるようだった。
「ご、ごめんなさい。食べすぎました」
慌てて謝る私に、彼は首を横に振った。
「いいや。俺が君に、遠慮せずに食ってくれと言ったからな。全く気にしていない」
その声には、本当に気にしていない雰囲気があった。むしろ、私が食べたことを喜んでいるようにさえ感じた。
「は、はい。ありがとうございます」
久しぶりに最後まで食べきった満腹感が心地よかった。ヴァンローゼ家での食事はいつも妹に邪魔されて、最後まで食事を終えられたことなど稀だったから。
それでも、淑女として育てられた身として、会ったばかりの人の前でこんなに食べてしまったことが恥ずかしく、内心で反省していた。
食事が終わり、侍女たちが静かに片付けを始めた。エドモンド様は一杯の紅茶を前に、窓の外を見つめている。日差しが彼の白い包帯を照らしていた。その姿が、とても優雅だった。見惚れてしまうほど。
静けさの中で、私は勇気を出して尋ねた。
「私はこれから、どうやってエドモンド様のお世話をすればよろしいでしょうか?」
彼は紅茶から目を離し、私を見た。
「いや、世話は必要ない」
「っ!」
拒否されてしまった。やはり役に立たないと思われているのだろうか。だとしたら、私がここに来た意味は何なのか。絶望感が胸を締め付けた。
彼は続けて言った。
「しばらく仕事に集中する。こうやって顔を合わせる時間もないだろう」
「そう、なのですか」
エドモンド様から、会えないと言われる。絶望は続く。やっぱり、彼は怒っているのか。妹の代わりなんかで、私のような女が来たから。関わるのを嫌がって、遠ざけようとしているのか。
「君には、ウィンターフェイド家で自由に過ごしてほしい。要望があれば聞く。何かないか?」
「えっと」
いきなりの質問に、私は言葉に詰まった。
「なんでも良い。言ってくれ」
彼の眼差しは真剣で、本当に私の希望を聞きたいと思っているようだった。なにか答えないと。
「そ、それじゃあ……。本を」
「本?」
「読書が、好き、なので……」
ぱっと思いついたことを言ってみる。か細い声になってしまったが、彼は満足そうに頷いた。
「わかった。用意させよう」
不思議な気持ちが私を包んだ。エドモンド様は私を嫌っているわけではない。むしろ、とても配慮してくれている。どうして?
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