8 / 26
救援
しおりを挟む
「戦うつもりの無い奴は地面に伏せろ! 襲われていた者たちも!」
「クソッ! 誰だ! 出てこいッ!」
姿を見せない何者か、若い男の声が森の中に響き渡る。私は、その声の指示に従い地面に伏せた。誰か分からないが、指示に従ったほうが良いだろうと瞬時に感じて。
盗賊の男たちは必死に、声の正体を探ろうとあちこちに視線を向けて探し出そうとする。森の中、木々の間から聞こえてくる声。正体は、まだ分からない。
そしてまた、聞こえてくる正体不明の若い男性の声。
「斉射!」
「ぐあっ!?」
「ぎゃっ!?」
「うげっ!?」
「ひっ!?」
頭上を、ヒュンヒュンと音を鳴らして弓矢が飛んでいく。そして、私たちを襲った盗賊たちの悲鳴とうめき声。バタバタと地面に倒れていく男たち。私は恐怖で身体を縮こませて地面の上で丸くなった。私の口からも、小さな悲鳴が漏れる。
「うぅぅぅ」
「いたい、いたいぃぃ」
「い、一体、だれだぁ……」
どれくらい時間が経ったのだろうか。ほんの数秒なのか、それとも数分は経ったのだろうか。私の時間感覚は、恐怖によって狂ってしまっていた。
「大丈夫か?」
身動き取れずに頭を抱えて丸まったままの状態で居ると、先ほど地面に伏せるように言ってきた若い男の声が間近に聞こえてきた。顔を上げる。
「あっ……」
「ん?」
視線の先に、褐色肌で黒髪の青年が立っていた。ひと目見てすぐに、この国の人間ではないことが分かる見た目。
スラリとした長身。精悍でありながら高貴そうで優美な顔付き。そんな彼の金色の目が、私の顔をジッと見つめてくる。カーっと、顔が熱くなるのを感じた。
しばらく、彼の顔に見惚れてしまった。なんて綺麗な顔をした男の人なのだろうかと思って。
「あっ! だ、大丈夫です」
気を取り直した時、慌てて返事をする。変な声が出てしまった。怪しく思われたのではないか。
「手を」
「あぅ。ありがとう、ございます」
地面に倒れていた私の目の前に、美しい青年が手を差し伸べてくれた。私は感謝の言葉を口にしながら、彼の手を握る。
「きゃっ!?」
「おっと、すまない」
「ご、ごめんなさい」
繋いだ手を力強く引っ張り、地面の上に立たせてくれた。勢い余って、彼の身体にもたれ掛かってしまった。慌てて彼の近くから離れた私は、謝りながら顔を伏せる。
「怪我は無いかい?」
「多分、大丈夫、です」
「それは良かった」
先ほどとは違った緊張で、彼との会話がおぼつかない。絶対、変に思われている。だけど緊張して、普通に会話することが出来ない。
「俺の名は、ヴァルタル」
「あ。私は、ルエラです」
「ルエラか。美しい君によく似合った、良い名前だ」
「そ、そんなことはないと思いますが。……ありがとうございます」
青年に名前を褒めてもらった。嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちが混ざりあって、どう反応するべきなのか分からない。とりあえず、感謝だけ伝えて黙ってしまった。
「クソッ! 誰だ! 出てこいッ!」
姿を見せない何者か、若い男の声が森の中に響き渡る。私は、その声の指示に従い地面に伏せた。誰か分からないが、指示に従ったほうが良いだろうと瞬時に感じて。
盗賊の男たちは必死に、声の正体を探ろうとあちこちに視線を向けて探し出そうとする。森の中、木々の間から聞こえてくる声。正体は、まだ分からない。
そしてまた、聞こえてくる正体不明の若い男性の声。
「斉射!」
「ぐあっ!?」
「ぎゃっ!?」
「うげっ!?」
「ひっ!?」
頭上を、ヒュンヒュンと音を鳴らして弓矢が飛んでいく。そして、私たちを襲った盗賊たちの悲鳴とうめき声。バタバタと地面に倒れていく男たち。私は恐怖で身体を縮こませて地面の上で丸くなった。私の口からも、小さな悲鳴が漏れる。
「うぅぅぅ」
「いたい、いたいぃぃ」
「い、一体、だれだぁ……」
どれくらい時間が経ったのだろうか。ほんの数秒なのか、それとも数分は経ったのだろうか。私の時間感覚は、恐怖によって狂ってしまっていた。
「大丈夫か?」
身動き取れずに頭を抱えて丸まったままの状態で居ると、先ほど地面に伏せるように言ってきた若い男の声が間近に聞こえてきた。顔を上げる。
「あっ……」
「ん?」
視線の先に、褐色肌で黒髪の青年が立っていた。ひと目見てすぐに、この国の人間ではないことが分かる見た目。
スラリとした長身。精悍でありながら高貴そうで優美な顔付き。そんな彼の金色の目が、私の顔をジッと見つめてくる。カーっと、顔が熱くなるのを感じた。
しばらく、彼の顔に見惚れてしまった。なんて綺麗な顔をした男の人なのだろうかと思って。
「あっ! だ、大丈夫です」
気を取り直した時、慌てて返事をする。変な声が出てしまった。怪しく思われたのではないか。
「手を」
「あぅ。ありがとう、ございます」
地面に倒れていた私の目の前に、美しい青年が手を差し伸べてくれた。私は感謝の言葉を口にしながら、彼の手を握る。
「きゃっ!?」
「おっと、すまない」
「ご、ごめんなさい」
繋いだ手を力強く引っ張り、地面の上に立たせてくれた。勢い余って、彼の身体にもたれ掛かってしまった。慌てて彼の近くから離れた私は、謝りながら顔を伏せる。
「怪我は無いかい?」
「多分、大丈夫、です」
「それは良かった」
先ほどとは違った緊張で、彼との会話がおぼつかない。絶対、変に思われている。だけど緊張して、普通に会話することが出来ない。
「俺の名は、ヴァルタル」
「あ。私は、ルエラです」
「ルエラか。美しい君によく似合った、良い名前だ」
「そ、そんなことはないと思いますが。……ありがとうございます」
青年に名前を褒めてもらった。嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちが混ざりあって、どう反応するべきなのか分からない。とりあえず、感謝だけ伝えて黙ってしまった。
25
お気に入りに追加
1,891
あなたにおすすめの小説
こんなに馬鹿な王子って本当に居るんですね。 ~馬鹿な王子は、聖女の私と婚約破棄するようです~
狼狼3
恋愛
次期王様として、ちやほやされながら育ってきた婚約者であるロラン王子。そんなロラン王子は、聖女であり婚約者である私を「顔がタイプじゃないから」と言って、私との婚約を破棄する。
もう、こんな婚約者知らない。
私は、今まで一応は婚約者だった馬鹿王子を陰から支えていたが、支えるのを辞めた。
【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました
八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」
子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。
失意のどん底に突き落とされたソフィ。
しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに!
一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。
エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。
なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。
焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──
貧乏令嬢はお断りらしいので、豪商の愛人とよろしくやってください
今川幸乃
恋愛
貧乏令嬢のリッタ・アストリーにはバート・オレットという婚約者がいた。
しかしある日突然、バートは「こんな貧乏な家は我慢できない!」と一方的に婚約破棄を宣言する。
その裏には彼の領内の豪商シーモア商会と、そこの娘レベッカの姿があった。
どうやら彼はすでにレベッカと出来ていたと悟ったリッタは婚約破棄を受け入れる。
そしてバートはレベッカの言うがままに、彼女が「絶対儲かる」という先物投資に家財をつぎ込むが……
一方のリッタはひょんなことから幼いころの知り合いであったクリフトンと再会する。
当時はただの子供だと思っていたクリフトンは実は大貴族の跡取りだった。
妹は私の婚約者と駆け落ちしました
今川幸乃
恋愛
貧乏貴族ブレンダ男爵家の姉妹、カトリナとジェニーにはラインハルトとレオルという婚約者がいた。
姉カトリナの婚約者ラインハルトはイケメンで女性に優しく、レオルは醜く陰気な性格と評判だった。
そんな姉の婚約者をうらやんだジェニーはラインハルトと駆け落ちすることを選んでしまう。
が、レオルは陰気で不器用ではあるが真面目で有能な人物であった。
彼との協力によりブレンダ男爵家は次第に繁栄していく。
一方ラインハルトと結ばれたことを喜ぶジェニーだったが、彼は好みの女性には節操なく手を出す軽薄な男であることが分かっていくのだった。
婚約者をないがしろにする人はいりません
にいるず
恋愛
公爵令嬢ナリス・レリフォルは、侯爵子息であるカリロン・サクストンと婚約している。カリロンは社交界でも有名な美男子だ。それに引き換えナリスは平凡でとりえは高い身分だけ。カリロンは、社交界で浮名を流しまくっていたものの今では、唯一の女性を見つけたらしい。子爵令嬢のライザ・フュームだ。
ナリスは今日の王家主催のパーティーで決意した。婚約破棄することを。侯爵家でもないがしろにされ婚約者からも冷たい仕打ちしか受けない。もう我慢できない。今でもカリロンとライザは誰はばかることなくいっしょにいる。そのせいで自分は周りに格好の話題を提供して、今日の陰の主役になってしまったというのに。
そう思っていると、昔からの幼馴染であるこの国の次期国王となるジョイナス王子が、ナリスのもとにやってきた。どうやらダンスを一緒に踊ってくれるようだ。この好奇の視線から助けてくれるらしい。彼には隣国に婚約者がいる。昔は彼と婚約するものだと思っていたのに。
子爵令息だからと馬鹿にした元婚約者は最低です。私の新しい婚約者は彼ではありませんよ?
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のカミーユ・シャスカは婚約者であり、侯爵のクロッセ・エンブリオに婚約破棄されてしまう。
カミーユには幼馴染で王子殿下であるマークス・トルドイが居た。彼女は彼と婚約することになる。
マークスは子爵令息のゼラン・コルカストを常に付き人として同行させていた。それだけ信頼のある人物だということだ。
カミーユはマークスと出会う為の日時調整などで、ゼランと一緒に居ることが増えていき……
現場を目撃したクロッセは新しい婚約者はゼランであると勘違いするのだった。
乳だけ立派なバカ女に婚約者の王太子を奪われました。別にそんなバカ男はいらないから復讐するつもりは無かったけど……
三葉 空
恋愛
「ごめん、シアラ。婚約破棄ってことで良いかな?」
ヘラヘラと情けない顔で言われる私は、公爵令嬢のシアラ・マークレイと申します。そして、私に婚約破棄を言い渡すのはこの国の王太子、ホリミック・ストラティス様です。
何でも話を聞く所によると、伯爵令嬢のマミ・ミューズレイに首ったけになってしまったそうな。お気持ちは分かります。あの女の乳のデカさは有名ですから。
えっ? もう既に男女の事を終えて、子供も出来てしまったと? 本当は後で国王と王妃が直々に詫びに来てくれるのだけど、手っ取り早く自分の口から伝えてしまいたかったですって? 本当に、自分勝手、ワガママなお方ですね。
正直、そちらから頼んで来ておいて、そんな一方的に婚約破棄を言い渡されたこと自体は腹が立ちますが、あなたという男に一切の未練はありません。なぜなら、あまりにもバカだから。
どうぞ、バカ同士でせいぜい幸せになって下さい。私は特に復讐するつもりはありませんから……と思っていたら、元王太子で、そのバカ王太子よりも有能なお兄様がご帰還されて、私を気に入って下さって……何だか、復讐できちゃいそうなんですけど?
聖人な婚約者は、困っている女性達を側室にするようです。人助けは結構ですが、私は嫌なので婚約破棄してください
香木あかり
恋愛
私の婚約者であるフィリップ・シルゲンは、聖人と称されるほど優しく親切で慈悲深いお方です。
ある日、フィリップは五人の女性を引き連れてこう言いました。
「彼女達は、様々な理由で自分の家で暮らせなくなった娘達でね。落ち着くまで僕の家で居候しているんだ」
「でも、もうすぐ僕は君と結婚するだろう?だから、彼女達を正式に側室として迎え入れようと思うんだ。君にも伝えておこうと思ってね」
いくら聖人のように優しいからって、困っている女性を側室に置きまくるのは……どう考えてもおかしいでしょう?
え?おかしいって思っているのは、私だけなのですか?
周囲の人が彼の行動を絶賛しても、私には受け入れられません。
何としても逃げ出さなくては。
入籍まであと一ヶ月。それまでに婚約破棄してみせましょう!
※ゆる設定、コメディ色強めです
※複数サイトで掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる