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命を懸けて

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「オイ! こいつら逃げ出さないように縛り付けろ。男は殺してもいいぞ」
「「「りょうかい!」」」

 盗賊たちのリーダーらしい男が、部下に指示を出した。このままでは、私のことを助けてくれた優しい使用人たちが殺されてしまう。メイドたちも悲惨な目に遭う未来しか想像できない。

 どうにかしなければ。

 こんな状況に陥ってしまったのは、私のせいだった。せめて最期は、助けてくれた彼らをどうにかして逃さないと。命を懸けて、使用人たちを助けたい。

 そう思った私は、足元に偶然転がっていた弓矢を拾う。おそらく、馬車を引いていた馬を狙って放ったけれど外れた弓矢だろう。矢の先には尖った金属が付いていた。これが刺さったら、人も死ぬ。

「待ちなさい!」
「なんだぁ?」
「彼らに手を出したら、これで自害します」
「おいおい」
「お、お嬢様!」

 使用人たちの前に立って、自分の首元には拾った弓矢を向ける。このまま、首元に刺せば命を断つことが出来るだろう。自分の命を取引の材料として使う。

「私はロウワルノール家の娘です。私の身に何かあれば、我が家が黙っていないはずです。兵が出てきて、貴方達を滅ぼすでしょう」
「ロ、ロウワルノール家だって!?」
「大貴族じゃねぇか!?」

 ロウワルノール家という名前に、恐れをなす盗賊たち。

「彼らを見逃してくれるのなら、私は貴方達の言うことを聞きます。断るのならば、ここで命を絶ちます!」
「ちょ、ちょっと待て……!」

 リーダーらしい男が手のひらを前に出し、私の行動を必死で止めようとしてきた。交渉の余地がありそうだ。

「彼らを解放するの? しないの? どうするの!」

 恐怖で身体が震える。だけど、それを必死に押し殺して盗賊たちに判断を迫る。

「お嬢様、我々は、戦います……!」
「盗賊なんかに負けませんッ!」
「ルエラお嬢様だけでも、逃げてください」
「ダメ! 私の命よりも、貴方達が優先なの。お願い、逃げて……」

 まだ私のことを助けてくれようとする使用人たち。だけど彼らは、戦うことなんて出来ないだろう。武装している盗賊に勝てそうにない。だから、逃げてくれとお願いする。悔しそうに表情を歪める使用人の男たち。泣きそうな表情のメイドたち。

 彼らには感謝している。だから、なんとしても助かって欲しいと思った。

「くっ! わかった。そいつらは解放してやる。お前だけ、こっちの来い」
「わかりました」

 リーダーの男が交渉を受け入れた。使用人やメイドたちを助けることが出来そうだ。

「テメェら! 絶対に手ぇ出すんじゃねぇぞ」
「だけど、兄貴。見逃して良いのかよ」
「馬鹿! ロウワルノール家の娘だぞ。そいつの身代金だけで俺たちは、一生遊んで暮らせるぜ」

 おそらく、当主である私の父親は身代金を支払わないだろう。それがバレた時に、私は悲惨な運命を辿ることになる。だけど、私を助けようとしてくれた人たちを助けることは出来そうだ。ならば、満足だった。

「さっさと、こっちへ来い」
「はい」

 自分の首に突きつけていた弓矢を下ろして、リーダーの男の指示に従って盗賊たちの方へ近づく。身柄を拘束されるのだろう。盗賊の男たちに近寄り、奴らの手が私の身体に触れようとした瞬間だった。

「ぐあっ!?」
「な、何事だ?」

 盗賊の1人が、うめき声を上げて地面に倒れた。それに慌てる、リーダーの男。
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