帰還勇者の盲愛生活〜異世界で失った仲間たちが現代で蘇り、俺を甘やかしてくる~

キョウキョウ

文字の大きさ
21 / 53
ハヤトの新しい仕事

第21話 新しい職場へ

しおりを挟む
「早速だけど、その警備会社に行ってもらう。そこまで彼が案内してくれるだろう」

 剛はそう言って、これまで黙って控えていた男性に視線を向けた。扉付近で静かに立っていた男性が一歩前に進み、ハヤトに向けて深々と頭を下げた。

「シールド・エージェント警備保障株式会社の社長を務めております、安元やすもと圭吾けいごと申します。以後、お見知りおきを」

 低く、しかし通る声で男性は名乗った。身長180センチはあろうかという体格に、トレーニングで鍛えられた体躯。年の頃は40代前半だろうか。短く刈り上げた髪と引き締まった顔には、厳しい経験を乗り越えてきた風格が漂っていた。

 まさか、社長だったなんて。しかも、こんなに丁寧な挨拶をされるとは。ハヤトは慌てて席から立ち上がり、頭を下げて丁寧に返した。

「佐藤隼人です。これから、よろしくお願いします」
「では、詳細は移動中にお話しします。お車をご用意しておりますので」

 安元社長の言葉に、ハヤトは頷き、剛に向き直った。

「行ってくる」
「うん。頼んだぞ、ハヤト」

 剛は彼の肩を軽く叩いた。その仕草には、友情と信頼が込められていた。二人の間に流れる空気は、長年の絆を物語っていた。

 ハヤトは安元社長に続いて会議室から出た。

「こちらです」

 廊下を進みながら、安元社長は紳士的にハヤトを案内した。

「あ、はい」

 社長に、こんなに丁寧に案内されるなんて。ハヤトは、ソワソワした気持ちで彼についていく。

 エレベーターを降り、ビルの地下駐車場へと向かうと、黒塗りの高級セダンが待機していた。運転手が車の横で直立不動で待っており、彼らが近づくと素早くドアを開けた。

「お先にどうぞ」

 安元社長に譲られて、ハヤトは後部座席に乗り込む。続いて安元社長も乗り込み、彼の隣に座った。運転手がドアを閉め、すぐに運転席へと回り込んだ。

 車が都心を走り始めると、安元社長は警備会社の状況を説明し始めた。

「我が社は身辺警護を専門としており、主に鉄村グループや関連会社から依頼を受けています」

 元警察官や元自衛官、元格闘家などを中心に構成されており、特に要人警護の分野では高い評価を得ているという。

「これまで重大な事故は一度もなく、クライアントからの信頼も厚いのですが……」

 安元社長の表情が曇った。

「先日の海外での事件は、我々にとって初めての大きな失態でした。内部から裏切り者が出たことは、会社にとって致命的な問題です」

 剛からも聞いた話を、より詳しく聞いていくハヤト。安元社長は事件の詳細、その後の対応、そして現在進行中の組織改革についても包み隠さず話した。

「そこまで俺に話しても大丈夫なのですか?」

 就職することを決めたとはいえ、聞いても大丈夫な話なのか。ハヤトが不審に思って尋ねると、安元社長は穏やかに微笑んだ。

「貴方のことは、剛様が信頼しているお仲間だと伺っています。それだけで、話しても大丈夫だと判断しました」

 彼の目には、真摯な光が宿っていた。

「それに、これからやっていただく人員の教育にも、それらの情報を知っておいてもらったほうが良いでしょう」
「なるほど」

 話を聞いて、ハヤトは頷く。安元社長の言葉には誠実さが感じられ、彼自身も会社の改革に本気で取り組もうとしていることが伝わってきた。

 そんな会話を交わしながら、車は東京の中心部から少し離れた地域へと向かい、やがて別の立派なビルの前に到着した。そのビルは高さこそ鉄村グループの本社ほどではなかったが、洗練されたデザインと堅牢な作りが印象的だった。

「ここが、シールド・エージェント警備保障株式会社のオフィスです」

 安元社長に案内され、ハヤトはビルの中へと足を踏み入れた。エントランスは質素ながらも無駄のない機能的な空間で、訪問者を迎える受付カウンターとセキュリティゲートが設置されていた。

「佐藤さんのIDカードは後ほど発行します。今日は私の権限で中に入りましょう」

 安元社長は専用のカードをかざし、セキュリティゲートを開けた。エレベーターで数階上がり、廊下を進んでいくと、大きなガラス窓のある部屋の前に到着した。

 「こちらが、我が社のトレーニングルームです」

 安元社長はドアを開け、ハヤトを中へと招き入れた。

 そこは警備会社の社員たちがトレーニングに励む、広々とした空間だった。体育館ほどの広さがあり、マット敷きの格闘技エリア、ウェイトトレーニングのセクション、そして奥には射撃訓練用のシミュレーションエリアまで設置されていた。

 鍛え上げられた肉体を持つ男たちが、黙々と汗を流している。静かな空間に、時折聞こえる重りの音や、マットに倒れる音だけが響いていた。

 その場にいた数人が、安元社長の姿に気づき、トレーニングを中断して近づいてきた。

「ここにいるのは、我が社でもトップクラスの実績を持つ者たちです」

 安元社長が誇らしげに紹介する。彼らは会釈をして、静かに並んだ。

「鈴木は警視庁特殊部隊の元隊員。佐々木は、元プロ格闘家で全日本チャンピオンの経験もある。田中は元自衛隊で精鋭部隊に所属していました」

 安元社長は一人一人を紹介していった。元警察官、元格闘家、元スポーツ選手など、荒事に対処した経験や卓越した身体能力を持つ者ばかりだった。その中でも特に実力が認められた、精鋭中の精鋭だという。

 彼らのハヤトを見る目に、好奇心と共に、わずかな疑念も浮かべていた。社長が連れてきた男は、一体何者なのか。

 安元社長は、そんな彼らの表情を察したのか、にっこりと微笑んだ。

「皆さん、こちらは佐藤隼人さんです。本日から我が社の一員として、特に皆さんと一緒に再教育対象者の指導を担当していただく方です」

 その言葉に、男たちの間に小さなざわめきが広がった。彼らの顔には明らかな戸惑いが浮かんでいる。自分たちよりも若く、特別な経歴も持たないように見える男が、自分たちと一緒に対象者を指導していくのだと聞かされたから。

「安元社長、すみません」

 元格闘家の佐々木と紹介された男が手を上げて、問いかける。彼の声は丁寧だったが、その目には明らかな疑問が浮かんでいた。佐藤隼人という人物の名前など聞いたことがなくて、実力も未知数。どういう人物なのか。

「佐藤さんのご経歴を、少しお聞かせいただけませんか?」

 そう問われて、安元社長どう話そうかと困ってしまう。彼も、詳しいことはあまり知らないから。ただ、剛から実力は確かだと。そして、安元社長はハヤトに視線を向けた。

「まずは彼らに、佐藤さんの実力を見せてもらえないでしょうか」

 その提案に、ハヤトは一瞬戸惑いを見せた。しかし、すぐに彼の表情は落ち着きを取り戻した。それが一番、手っ取り早いか。

「わかりました」

 紹介してもらった者たちの体つきや雰囲気を観察して、多分大丈夫だと思ったからハヤトは静かに頷き、ジャケットを脱ぎながら一歩前に出た。

「できることをお見せします。お相手、よろしくお願いします」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。

烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。 その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。 「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。 あなたの思うように過ごしていいのよ」 真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。 その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。

焔の幽閉者!自由を求めて最強への道を歩む!!

雷覇
ファンタジー
とある出来事で自身も所属する焔木一族から幽閉された男「焔木海人」。 その幽閉生活も一人の少女の来訪により終わりを迎える。 主人公は一族に自身の力を認めさせるため最強の力を求め続ける。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...