帰還勇者の盲愛生活〜異世界で失った仲間たちが現代で蘇り、俺を甘やかしてくる~

キョウキョウ

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仲間たち再集結

第05話 状況の把握

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 ハヤトはリリアと名乗る少女を抱きしめながら、混乱する思考を必死に整理しようとしていた。温かな体温と、かすかに香るシャンプーの匂いが現実感を伴って伝わってくる。ここにいるリリアは、幻でもなんでもない実体だ。

 あの時、リリアは確かに最期を迎えたはずだ。目の当たりにしたので間違いない。ハヤトは今でも鮮明に覚えている。敵の大軍に囲まれ、仲間たちを逃がすための時間稼ぎとして、最強の魔法を詠唱し続けたリリア。敵の攻撃を全身に浴びながら、最後まで詠唱を途切れさせなかった彼女の姿は、勇者であるハヤトの心に深く刻まれていた。

 それなのに、なぜ彼女はここにいるのだろうか。しかも、あの頃よりも若々しい姿で。

 金色に輝く長い髪、澄んだ碧眼。制服姿が似合う、あどけなさの残る少女。異世界では成人していたリリアが、なぜ女子校生として目の前にいるのか。懐かしい感覚は間違いようがないけれど、同じ人物とも思えない。

 しばらく抱き合っていて、ふと我に返るハヤト。周囲の状況に目を向ける。ここはアパートの2階の玄関先。道路からも見えてしまう場所。大人の男性が女子校生を抱きしめている光景など見られたら、誤解を招くに決まっている。

「リリア、とりあえず一旦離れてくれないか。話というのを聞かせてくれ」

 慌てて、抱きついている少女に声をかけるハヤト。彼女は顔を上げ、涙で潤んだ目でハヤトを見つめた。

「嫌です。まだ、足りません。もっと触れ合いたいです。離れたくないです。話は、後でします。なので、ハヤト様の部屋に入れてください」
「えーっと」

 リリアの声には切実な思いが込められ、むしろ抱擁の力が増した。これは困った。震える肩を見ると、彼女にとって今の瞬間がどれほど大切なものか、痛いほどに伝わってくる。

 世間体を考えれば即座に引き離すべきだが、この再会の喜びを無下にはできない。ハヤト自身も、失われたと思っていた大切な人との再会に、胸が痛いほど熱くなっていた。結局、部屋の中で話を聞くしかないだろう。部屋の中に招き入れたなんて知られれば、更なる誤解を招きかねない。だが、彼女から真相を聞かずにはいられない。

「わかった。部屋に入ろう。だけど、ちゃんと話を聞かせてほしい」
「はい!」

 元気よく返事をするリリアは、笑顔を見せた。その純粋な喜びに、ハヤトも思わず微笑み返す。

 ハヤトは女子校生に抱きつかれたまま、部屋の中へと後ずさる。ドアを閉めると、そのまま部屋の中央へ移動して床に腰を下ろした。その間もリリアは離れようとせず、まるで子供のように彼の膝の上に座り込んで、真摯な眼差しで見つめてくる。

 あまりにも近い距離に、ハヤトは戸惑いを隠せない。異世界のリリアは、常に一定の距離感と礼儀を保っていた偉大な賢者だったのに。目の前の少女は明らかに違う。同じ魂を持つとしても、性格や振る舞いまで同一とは限らないのだろうか。

「ハヤト様、若くなっています。異世界では、凛々しい大人の顔だったのに。今は、とてもお若いですね」
「リリア、近い」

 リリアは触れ合いそうになるほどの近距離に顔を近づけると、まるで貴重な宝石を観察するかのように、じっとハヤトの表情を見つめる。その視線の熱に、思わず顔を背けそうになる。

「というか、そういう君も随分と若くなっている。それに、性格も少し違うような」

 思わず口をついて出た言葉に、リリアは微笑んだ。その笑顔には、どこか誇らしげな色が混じっていた。

「はい。私が、この世界に生まれ変わったのは16年前です。あの世界と、この世界では時間の流れ方や法則が色々と違うようですね」
「16年前? 生まれ変わった?」

 その言葉に、ハヤトは眉をひそめる。状況を理解しようとするけれど、頭が追いつかない。さすがに現実離れした話。そもそも、異世界がどうとかいうのが非現実的だけど。

「そう。この世界で高橋たかはし莉々りりという人物に生まれ変わりました」
「『りり』と『リリア』か。名前も、どことなく近いな」
「そうですね」

 彼女はくすりと笑う。

「ちょっと待って、記憶があったのか? 最初から?」

 色々と疑問が生じる。時系列がおかしいんじゃないかとハヤトは思った。異世界に行ったのは、1ヶ月前のこと。そして、こちらに戻ってきたのも同じ1ヶ月前のこと。その前に、彼女は異世界のことを知っていたのだろうか。リリアは、首を横に振った。

「いいえ。私たちの世界、ハヤト様にとっては異世界での記憶は思い出せなくて、普通の人間として生まれ育ってきました。でも、いつも何か胸の奥に感じるものが残っていたのです。思い出せないけれど、大事な何かを抱えているという意識が常にありました」
「大事な何か?」

 ハヤトの問いかけに、リリアの表情が柔らかくなる。

「はい。その大事なものが何なのか判明したのは、約一ヶ月ほど前」
「一ヶ月前……、俺が異世界に行って、戻ってきた日」
「やはり、ハヤト様が異世界から戻ってこられた日だったのですね。おそらく、それがキッカケとなって、私たちは記憶を取り戻しました」

 彼女の言葉に、ハヤトは息を呑んだ。タイミングが一致している。

「あの日突然、頭に激痛が走って、それまでの人生とは明らかに違う記憶を一気に思い出したんです。異世界での戦い、仲間たちとの絆、ハヤト様との大切な約束。すべてを思い出しました。そして私たちは、記憶を取り戻しました。勇者様と一緒に旅をして、魔王を倒すために命を懸けたことを。ハヤト様の最期の戦いまで見守り続けていたことも」

 リリアは驚くべき事実を語った。彼女は最期を迎えた後も、魂となってハヤトの側にいたのだと。セレスティア、ガレット、ジョンたちと共に、魔王との最後の戦いを見守ってくれていた。

「私たちは皆、命を落としても、ハヤト様の側を離れませんでした。だって、約束したじゃないですか。どんなことがあっても、最後まで共に戦うと」

 その言葉に、ハヤトの記憶がよみがえる。確かに、旅の途中、全員で交わした約束があった。どんな犠牲を払っても、世界を救うという誓い。それぞれが命を落としても、魂だけでも勇者の側にいると。当時は単なる気休めの言葉だと思っていた。でも彼女たちは、それを本当にしてくれた。約束を守ってくれた。

「そして、戦いに勝利したが力尽きたハヤト様が光に包まれて元の世界へ戻される時、私たち仲間の魂も共にこの世界へと渡ってきたようです。気付いた時には、すでにそれぞれが別の人生を生きていました。生まれ変わったのです」

 リリアの説明は、あまりにも荒唐無稽に聞こえる。しかし、彼女の真摯な表情と、目の前の現実を目の当たりにして、否定することもできない。

「ということは、他の仲間たちも」

 期待と不安が入り混じった声で、ハヤトは問いかける。

「はい。セレスティアにガレット、ジョンも、この世界にいますよ。みんな記憶を取り戻して、ハヤト様との再会を待ち望んでいます」

 リリアの答えに、ハヤトの胸が熱くなる。死んだと思っていた仲間たちが、この世界で生きていて、しかも自分のことを覚えているなんて。

「彼らも、君と同じように記憶を取り戻したのか?」
「はい。みんな同じタイミングで記憶が蘇りました」
「……そうか、みんなが生きている。良かった」

 心からの安堵の声。失ったと思っていた仲間たちが生まれ変わったとはいえ、今も生きている。その事実は、何よりも大きな慰めだった。



「ということで、私は高橋莉々であり、リリアだった者です。理解しましたか?」

 真摯な眼差しで問いかけてくる彼女。その瞳の奥には、かつての賢者リリアの知性と強さが宿っている。それでいて、現代の少女としての素直さと純粋さも備えている。不思議な二重性を感じさせる存在だった。

「ああ、わかった。全てを理解したとは言えないが……。君が本当にリリアだということは確かだと思う」

 完全には理解し切れていないが、ハヤトは頷いた。この平和な現代に、大切な仲間たちが生きているという事実が、何よりも大きな喜びとなって胸に広がっていた。

 失ったはずの絆が、世界を超えて奇跡的に繋ぎ直された。魔王を倒して世界を救うという難題を成し遂げた後に、こんな形で仲間と再会できるなんてハヤトは予想もしていなかった。
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