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第33話 当然
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「君に酷いことをしてしまった。本当にすまないと思っている。本当に、心の底から反省している。何度でも君に謝る! だから、俺をことを許してくれ。俺のもとに、戻ってきてくれッ!」
ウォルトン様と御者の二人に捕まった状態で、そんな事を言いながら彼は無理やり手を伸ばして、私の腕を掴もうとしてくる。気味が悪くて、なるべく後ろに下がって距離を取った。絶対に、目の前で喚いている男に触れられたくない。
「ぐっ! ベリンダ! 危ないから、もっと下がって」
「は、はい! ウォルトン様」
「く、くそっ! 邪魔をするなッ!」
暴れ続ける彼を、なんとか取り押さえようと必死の二人。ウォルトン様は私のことも気遣いながら、どうにか頑張っている。でも、二人だけじゃ抑えきれそうにない。助けが必要だった。
「何度でも頼む! 戻ってきてくれ、ベリンダ! 君の助けが必要なんだよ」
「……」
どうしましょう。懇願してくる彼の言葉など無視して、私は考える。この近くに、知り合いの貴族が暮らしている屋敷があった。そこまで私が走り、助けを求めに行くか。それとも、近くに衛兵が待機している場所があったはずだ。そこに向かって走るべきか。
でも、どちらにしても時間がかかるだろう。それまで、二人が取り押さえてられるかどうか……。それよりも先に、馬車から降りないと。扉で暴れている彼を避けて、無事に馬車から降りることが出来るのか。
どう対処するか考えていると、誰かが駆け寄ってきた。
「いたぞ! こっちだ!!」
力強い男性の声だった。立派な装備を身に着けた数人の男達が、馬車の周りを取り囲んだ。彼らは一体。
「我々は王国騎士団です。その男を追っていました。後は、我々にお任せ下さい」
騎士団の紋章を掲げて、本物であることを証明しながら男性は言った。それから、暴れていた男を代わりに取り押さえる。ガッチリ拘束されて、暴れまわっていた男は身動きが取れなくなった。
それで、ようやくウォルトン様と御者の二人は落ち着くことが出来た。良かった、誰も怪我をしていないみたい。ホッとして、力が抜ける。
「大変、ご迷惑をおかけしました」
「いいえ、大丈夫ですよ」
頭を下げて謝る王国騎士団の方に、少し疲れ気味のウォルトン様が対応していた。
「詳しい内容は言えないのですが、この男はとある事件を起こした容疑者として事情を聴取している最中でした。まさか、逃亡するとは予想しておらず。こんな場所まで逃げ出してくるなんて」
「そうだったのですか」
とある事件とはなんだろう? 王国騎士団が関わっているなんて、相当な大事件。興味はあるけれど、あまり関わりたくないから詳しくは聞かないでおいたほうが良さそう。ウォルトン様も、私と同じように思ったのか追求しようとはしなかった。
「とにかく、今回の件は容疑者を逃してしまった我々の責任でもあります。後ほど、正式な謝罪と補償をさせて頂きます」
丁寧な口調で、王国騎士団の方は説明してくれた。これで一件落着かと安心していると、拘束されている彼が口を開いた。
「ベリンダ、戻ってきてくれ。君の助けが必要なんだ。以前のように、俺を助けてくれ!」
往生際の悪い男が、まだ諦めずに喚いている。
「こいつめ! 大人しくしろ!」
「離せっ! 俺は、ベリンダと話しをしているんだ! 婚約者のベリンダと!」
「黙っていろ。お前は、犯罪者なんだ」
王国騎士団の人に抑えられながらも、彼は私に助けを求めて必死だった。それだけ懇願したら、私が助けると思っているのか。馬鹿らしい。もう二度と関わるつもりはない。それに、私は彼の婚約者ではない。
「私はナハティガル男爵家の娘で、婚約相手はウォルトン様です。貴方とは一切関係ありません」
「な……!?」
私の答えを聞いて、唖然とした表情で固まった彼。そして、そのまま王国騎士団に連れて行かれた。ようやく、静かになった。騒がしい人がいなくなって、落ち着くことが出来る。
「大変だったな、ベリンダ。……どうする? 今日は、屋敷に戻って休もうか?」
「私は大丈夫です。ウォルトン様こそ、大丈夫ですか?」
私よりも、ウォルトン様の方が大変だった。あんなに暴れる男を取り押さえようと頑張っていたのだから。
「僕も大丈夫だよ。久しぶりに体を動かして、ちょっと疲れた。けれど、何の問題もないよ」
そう答える彼の表情に嘘はなさそうだ。心配をかけないように、無理をして笑っているわけでは無さそう。本当に、無事で良かった。
「それなら、屋敷に戻る必要はありません。ちゃんと仕事をしましょう」
面倒な出来事だったけれど、それほど気にすることでもないわ。それよりも今は、任された仕事をきちんとこなすことを考えよう。それが大事だ。ウォルトン様が私の顔をじっくり確認してから、判断を下した。
「わかった。それじゃあ、今日も頑張ろうか」
「えぇ、頑張りましょう」
そして私達は、当初の予定通りにパーティー会場の下見へ向かった。
ウォルトン様と御者の二人に捕まった状態で、そんな事を言いながら彼は無理やり手を伸ばして、私の腕を掴もうとしてくる。気味が悪くて、なるべく後ろに下がって距離を取った。絶対に、目の前で喚いている男に触れられたくない。
「ぐっ! ベリンダ! 危ないから、もっと下がって」
「は、はい! ウォルトン様」
「く、くそっ! 邪魔をするなッ!」
暴れ続ける彼を、なんとか取り押さえようと必死の二人。ウォルトン様は私のことも気遣いながら、どうにか頑張っている。でも、二人だけじゃ抑えきれそうにない。助けが必要だった。
「何度でも頼む! 戻ってきてくれ、ベリンダ! 君の助けが必要なんだよ」
「……」
どうしましょう。懇願してくる彼の言葉など無視して、私は考える。この近くに、知り合いの貴族が暮らしている屋敷があった。そこまで私が走り、助けを求めに行くか。それとも、近くに衛兵が待機している場所があったはずだ。そこに向かって走るべきか。
でも、どちらにしても時間がかかるだろう。それまで、二人が取り押さえてられるかどうか……。それよりも先に、馬車から降りないと。扉で暴れている彼を避けて、無事に馬車から降りることが出来るのか。
どう対処するか考えていると、誰かが駆け寄ってきた。
「いたぞ! こっちだ!!」
力強い男性の声だった。立派な装備を身に着けた数人の男達が、馬車の周りを取り囲んだ。彼らは一体。
「我々は王国騎士団です。その男を追っていました。後は、我々にお任せ下さい」
騎士団の紋章を掲げて、本物であることを証明しながら男性は言った。それから、暴れていた男を代わりに取り押さえる。ガッチリ拘束されて、暴れまわっていた男は身動きが取れなくなった。
それで、ようやくウォルトン様と御者の二人は落ち着くことが出来た。良かった、誰も怪我をしていないみたい。ホッとして、力が抜ける。
「大変、ご迷惑をおかけしました」
「いいえ、大丈夫ですよ」
頭を下げて謝る王国騎士団の方に、少し疲れ気味のウォルトン様が対応していた。
「詳しい内容は言えないのですが、この男はとある事件を起こした容疑者として事情を聴取している最中でした。まさか、逃亡するとは予想しておらず。こんな場所まで逃げ出してくるなんて」
「そうだったのですか」
とある事件とはなんだろう? 王国騎士団が関わっているなんて、相当な大事件。興味はあるけれど、あまり関わりたくないから詳しくは聞かないでおいたほうが良さそう。ウォルトン様も、私と同じように思ったのか追求しようとはしなかった。
「とにかく、今回の件は容疑者を逃してしまった我々の責任でもあります。後ほど、正式な謝罪と補償をさせて頂きます」
丁寧な口調で、王国騎士団の方は説明してくれた。これで一件落着かと安心していると、拘束されている彼が口を開いた。
「ベリンダ、戻ってきてくれ。君の助けが必要なんだ。以前のように、俺を助けてくれ!」
往生際の悪い男が、まだ諦めずに喚いている。
「こいつめ! 大人しくしろ!」
「離せっ! 俺は、ベリンダと話しをしているんだ! 婚約者のベリンダと!」
「黙っていろ。お前は、犯罪者なんだ」
王国騎士団の人に抑えられながらも、彼は私に助けを求めて必死だった。それだけ懇願したら、私が助けると思っているのか。馬鹿らしい。もう二度と関わるつもりはない。それに、私は彼の婚約者ではない。
「私はナハティガル男爵家の娘で、婚約相手はウォルトン様です。貴方とは一切関係ありません」
「な……!?」
私の答えを聞いて、唖然とした表情で固まった彼。そして、そのまま王国騎士団に連れて行かれた。ようやく、静かになった。騒がしい人がいなくなって、落ち着くことが出来る。
「大変だったな、ベリンダ。……どうする? 今日は、屋敷に戻って休もうか?」
「私は大丈夫です。ウォルトン様こそ、大丈夫ですか?」
私よりも、ウォルトン様の方が大変だった。あんなに暴れる男を取り押さえようと頑張っていたのだから。
「僕も大丈夫だよ。久しぶりに体を動かして、ちょっと疲れた。けれど、何の問題もないよ」
そう答える彼の表情に嘘はなさそうだ。心配をかけないように、無理をして笑っているわけでは無さそう。本当に、無事で良かった。
「それなら、屋敷に戻る必要はありません。ちゃんと仕事をしましょう」
面倒な出来事だったけれど、それほど気にすることでもないわ。それよりも今は、任された仕事をきちんとこなすことを考えよう。それが大事だ。ウォルトン様が私の顔をじっくり確認してから、判断を下した。
「わかった。それじゃあ、今日も頑張ろうか」
「えぇ、頑張りましょう」
そして私達は、当初の予定通りにパーティー会場の下見へ向かった。
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